Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

◆第34回「イノベーション理論と破裂的技術のお話」

2008-09-29 06:52:04 | ■カルチャからの解放

◆第34回「イノベーション理論と破裂的技術のお話」

まず、第31回で触れたイノベーション理論について、シュンペーターとドラッカーのポイントを述べた後、現在の情報化社会で見極めが大切な、
破裂的技術(ディスラプティブ・テクノロジー)の話を進めよう。

資本主義経済発展の本質を説いたシュンペーターによれば、
イノベーション(革新)の形態は5つある:

1.新製品の導入
2.既存製品の生産に新技術の投入
3.既存製品の新市場開拓
4.原材料の新しい供給源の獲得
および
5.産業の再編成の実行
の5つである。

そのうち、
新製品の導入は、「プロダクト・イノベーション」と呼ばれ、既存製品の生産に新技術の投入は、別名「プロセス・イノベーション」と言われる。
[参考:当ブログ第31回「加速されるグローバリゼーションのモード(形)と情報の国籍」]

また、
イノベーションを起こすチャンスには、7つのソース(源流)がある、とドラッカーは言う。
7つの内、最初の4つが産業内で生起するものであり、あとの3つは社会環境において生れるものである。

イノベーションを起こす7つのチャンスとは、

1.予期しなかったこと:
予期せぬ成功、予期せぬ失敗や予期しなかった外部での出来事が、ユニークなイノベーション・チャンス(機会)の兆候を示す。

2.齟齬:
現実と誰もがそうありたいと考えていることとの相違/齟齬があるときや、モノ/ことの現実と理想との差があるとき、イノベーティブ(革新的)なチャンスが到来する。

3.プロセス上のニーズに基づくイノベーション:
ある特定のプロセスにつながりの弱さが見られるが、そのために、人々が何かをしようとするかわりに、それを避けている時、個人や会社にその弱いつながりを解決しようとするためのチャンス(機会)が現出する。

4.産業構造やマーケット構造の変化:
非常に基本的かつ重要だがたやすく目に見えない、産業やマーケットの土台が変化する時、イノベーティブな製品/サービス/ビジネスのアプローチのためのチャンス(機会)が出現する。

5.人口動態の変化:
人口のサイズ(大小)/年齢構造/構成/雇用/教育レベルや収入の変化がイノベーティブなチャンス(機会)を創造する。

6.認識、ムードや意味の変化:
社会一般の通念(共通前提)、態度、価値観が変化する時、イノベーティブなチャンス(機会)が出現する。

7.新しい知識:
科学的であれ、非科学的知識であれ、それらの進展が新製品や新しいマーケットを創造する。

従って、もしあなたが新しいビジネスのチャンス(機会)を探し求めているならば、上記7つのイノベーション・チャンス(機会)をモニターすることが、イノベーションのチャンスをあなた自身に与えることになる。

この「イノベーションを起こす7つのチャンス」に気づいた時、そのイノベーションをいかにマーケットに適用したらよいかについて、

以下5つの原理をドラッカーは提示している。

1.そのイノベーション・チャンス(機会)の分析からまず始めよ。

2.そのチャンス(機会)を分析するには、人々がそのイノベーションを適用することに興味をもつかどうかを理解しよう。

3.その分析を効果的にするには、そのイノベーションが単純で、かつある特定のニーズに明確にフォーカスしなければならない。

4.効果的なイノベーションは小さく始めよ。
小さく、限定されたマーケットに導入することによって、製品/サービスには少額を投資して、少ない人数が生産と販売に携わることが必要だ。マーケットが成長したら、会社はそのプロセスに微調整を加え、今後出てくる競争をうまく処理することが必要となる。

5.マーケット・リーダーシップを目指せ。
そのイノベーションによって、最初からマーケット・リーダーシップを目指すものでなかったら、そのイノベーション自体が成功に値するのに十分なイノベーションの資格をもたない。マーケット・リーダーシップとは、小さなニッチ・マーケットを支配することを意味する。


さて、
情報化社会の只中、

「破裂的技術(ディスラプティブ・テクノロジー)」

の発見法や開発の手段が話題になっている。

インターネットが商用として登場した1985年に、ポーターとミラーは、情報技術が、競争のルールや特質を、3つの方法で変えてしまうと述べた。

情報技術の進展が産業構造を変えつつあること、情報技術が企業の競争優位創造のために活用できる一層重要なレバーとなること、そして情報革命が、全く新しいビジネス(複数)を生み出すことによる。

しかし、2001年、ポーターは、インターネットを破裂的技術の一つとはみなさなかった。インターネットは、既存の競争状態の単に補完物としてしか捉えなかった。ポーターとタプスコットで交わされたインターネットについての議論が面白い。戦略経営学者のポーターにとって、インターネットは、従来の競争戦略を見直す契機とはならなかったようである。

破裂的技術の重要な2つの特徴について、バウワーとクリステンセンは、こう述べる。

これらの破裂的技術は、まず、既存の顧客に評価されない、これまでと異なった一くくりのパフォーマンス(性能・能力)属性を備えているものだ。この点で、破裂的技術は、持続的技術(既存の顧客に少しずつの改良を与える改良型技術のこと)と一線を画すものとなる。

2つ目の特徴は、
既存の顧客が本当に評価するパフォーマンス属性というものは改善されていくものだが、そのスピードは、新技術が後から既存のマーケットを侵害できるくらいの早いスピードだということだ。つまり、この点において、主要な顧客は新技術を欲っしているものだが、不幸にも、そのときまでに、既存のサプライヤーはしばしば、それに気がつくのが遅すぎるものだ。そのとき既に、新技術のパイオニアはマーケットを支配しているということだ。

それでは、この破裂的技術を見極めることはできないのか?

破裂的技術だけでなく、世の中を変えてしまうような契機、つまり、産業構造の変化、顧客の需要の変化を見極めるポイントは存在する。
変化の兆しが認識されているとしても、企業自体が、そうたやすく変化に対応できないようなポイントがあるのだ。

次回、

そのポイント(SIP=ストラテジック・インフェクション・ポイント。戦略的伝染ポイント)
の説明をしよう。


【参考】
・Drucker, Peter F.(1985), Innovation and Entrepreneurship, Practice and Principles. Harper & Row, Publishers, Inc.

・Porter, M.E. and Miller, V.E. (1985), How information gives you competitive advantage, Harvard Business Review, July-August, pp. 149-161

・Porter, M.E. (2001), Strategy and the Internet, Harvard Business Review, 68 (2), March, pp. 63-78

・Don Tapscott, Rethinking Strategy in a Networked World [or Why Michael Porter is Wrong about the Internet]
http://www.newparadigm.com/media/StrategyandBusiness2.pdf

・Bower, J.L. and Christensen, C.M. (1995), Disruptive Technologies: Catching the Wave, Harvard Business Review, January-February, pp. 43-53