Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

●第25回「クロスカルチャー・マネジメント理論と社会/ビジネスへの応用(その二)」

2008-03-21 08:56:32 | ■カルチャからの解放

●第25回「クロスカルチャー・マネジメント理論と社会/ビジネスへの応用(その二)」


前回は、米エドワード・T・ホール、米クルックホーン&シュトゥロットベック、オランダのホフステードの文化理論を概略し、クロスカルチャー・マネジメントの古典的理論を垣間見た。

今回は、より生活やビジネスに関連付けられる、オランダのトロンペナーズの「7次元文化モデル」を扱う。

実証的分析に基づいた、彼の7次元文化モデルとは、こうだ。

1「普遍主義か個別主義か」
2「個人主義か共同体主義か」
3「感情表出か感情隠蔽(中立)か」
4「プライベート(私)重視か権威追従か」
5「ステイタス(社会的地位)について、獲得するものか与えられるものか」
6「時間感覚について、過去、現在、未来は、連続的か不連続か」
7「自然/環境に対する人間の見方について、自然/環境をコントロールできるかできないか」

一つずつ解説していこう。


1「普遍主義か個別主義か」

これは、重要な価値判断がどちらになるか、というものだ。
普遍主義では、矛盾がないこと、システム・スタンダード・ルール、統一された手順、要求の明確さが重視される。一方、個別主義とは、柔軟性、プラグマティック(実用的)、例外が許容され、状況によって判断する、あいまいさは普通、という価値基準だ。つまり、ルールよりも、特定な関係が重要になるということだ。

普遍主義的な国を上から順番にあげると、
1位スイス(97%)、2位カナダ・アメリカ(93%)、3位スウェーデン(92%)、4位イギリス・オーストラリア(91%)、5位オランダ(90%)となり、日本は10位の68%、インドが11位で54%、中国が12位の47%、13位ロシア(44%)、14位韓国(37%)と続く。

アメリカのグローバルスタンダードを受け入れるのか、現地化を積極的に進めていくのかが1つの課題となるかもしれない。


2「個人主義か共同体主義か」

これは、ものごとを進める上において、グループが大きな役割を占めるのか、個人が重要な役割を占めるのか、ということだ。

可能なかぎり個人の自由を尊重して、最大限の彼(女)自身の発展の機会を与えれば、人の生活の質は、結果として改善するだろう、という考えが「個人主義」の基本だ。

別の人は、こう言う。
個人が絶えず、彼(女)の仲間の世話をすれば、たとえ個人の自由や発展を阻害したとしても、私たちすべての生活の質が改善するでしょう、と考える。これが、トロンペナーズのいう「共同体主義」だ。

個人主義的傾向の強い国は、彼の調査によると、以下の順番になる。
1位イスラエル(89%)、2位カナダ(71%)、3位アメリカ(69%)、4位デンマーク(67%)、5位オランダ(65%)、14位が中国とフランス(41%)、15位日本(39%)、16位インド(37%)、17位メキシコ(32%)。

個人のモチベーションを優先するのか、チームとしてのモチベーションを重視するかが、リーダーシップの工夫のしどころである。


3「感情表出か感情隠蔽(中立)か」

これは、感情表現について、社会的にどう思われているかだ。つまり、自己の感情/情緒を世間に隠し立てしないことが、感情をコントロールできない未熟な人間と見られているかどうかである。

感情を表に出さない比率が高い国(地域)の順位は、
1位エチオピア(81%)、2位日本(74%)、3位香港(64%)、4位中国(55%)、5位インド(51%)となっている。

頭で感情をコントロールするのか、喜怒哀楽を素直に表すのか、絶えず自身の心をチェックし、たまには、感情を解放することも必要だ。感情的であることは、時には、クールなことだ。

このディメンションは、現地での宣伝・広告のコンセプトにかなり影響するし、顧客の心に響く「表現のヒント」になるだろう。


4「プライベート(私)重視か権威追従か」

例えば、上司から、家の引越しの手伝いを頼まれたとしよう。同僚とこんな話をするだろう。

ある同僚は、「もし君が嫌だったら、引越しの手伝いなんかする必要はないと思うよ。会社を出たら、上司といっても、会社の外では権限ないんだから」。
もう一人のゴマスリ同僚はこう言う。「もし自分だったら、嫌だと思っても、手伝いに行くナ。仕事時間外だといっても、彼は上司だし、彼の依頼は断れないよ」

手伝いを断る国の順位は、
1位スウェーデンとオランダ(91%)、2位デンマーク(89%)、3位イギリス(88%)、4位カナダ(87%)、5位アメリカ(82%)、日本は71%で7位、オーストラリア(78%)の次だ。ちなみに、中国は17位(32%)、韓国は65%で12位である。

これは、仕事が能力/業績中心か、人間/信頼関係維持重視(付き合い重視)かの判断に関連するものだ。マネージャーを選ぶ場合、業績志向なのか人間関係に強い資質なのかで、現地企業の業績がかわってくる。


5「ステイタス(社会的地位)について、獲得するものか与えられるものか」

この項目は、仕事に対する価値観や信念のようなものだ。自分にとってのステイタス(社会的地位)が何なのか。

人生で最重要なことは、たとえその仕事が与えられたものであっても、自分に本当に合っているふりをして仕事をすることだ、との質問が立てられる。

この意見に同意しない国の順番は、
1位オーストラリア(69%)、2位カナダ(65%)、3位イギリス(56%)、4位スウェーデン(54%)、5位デンマーク(49%)、日本は13位の26%だ。

これは、社員の隠された本音をつかむきっかけにもなるし、社員自身にとっては、自分が信じるところを実践する価値観を、国ごとにどれほど持っているかの判断材料にもなる。


6「時間感覚について、過去、現在、未来は、連続的か不連続か」

これは、過去、現在、未来の時間が、それぞれ、どのような関係性をもっているのかを問うたものだ。

冒頭の図を見れば分かるように、アメリカ、フランス、日本、スペイン、イギリス、ドイツの時間感覚が如実に現れており、非常に興味深い文化のデメンションだ。

特に、アメリカの過去と現在/未来が分離していること、スペインでの過去/現在と未来が分裂していることは、特徴的だ。

日本の時間感覚は、過去・現在・未来がかなり重なり合い、ドイツは、円の大きさを考慮すると、過去・現在・未来の重みがそれぞれ同じようになっているのも、発見である。これだけ、時間への各国の感覚が違うと、仕事への取り組み方もまた、相当相違がでてくるだろう。

日本的な時間感覚が、世界のどこにでも通用するわけではない。文化はダイバーシティ(多様性)に富んだものであるから、国別の各スタッフのキャリア・デベロップメントの計画を考えるヒントになるだろうし、転職の動機も理解できるかもしれない。


7「自然/環境に対する人間の見方について、自然/環境をコントロールできるかできないか」

自然/環境への人間の見方は大別すると2つある。

有機体としての自然、つまり、自然への尊敬、畏怖や服従と、
機械としての自然、つまり征服の対象としての自然である。

質問はこう立てられる。

「自分に降りかかっていることは、自分自身のなせるわざである」、
「自分の人生が進んでいる方向を、時々、自分自身で十分コントロールできない気がする」

自分自身のなせる技であると考える国の順番は、
1位イスラエル(88%)、2位ノルウェイ(86%)、3位アメリカ(82%)、4位イギリス(77%)、5位フランス(76%)、日本は9位(63%)でインドと同じ、韓国とイタリアは7位で72%、ロシアは13位の49%、中国は14位で39%となっている。

自然に対する感覚については、日本や他のアジア諸国は、西欧社会と違った意味を持っている。

西欧的な考え方は、自然は征服すべきものとの信念がある。
一方、日本では、自然との「共生」が普通である。

ここから、リーダーシップの使い分けが明確になる。
強いリーダーシップが有効な場合(国)と個人を鼓舞した方が有効な場合である。

トロンペナーズの7次元文化モデルに、ダイバーシティ・マネジメント(多様性マネジメント、他文化下でのマネジメント)の網をかぶせてみると、グローバル・ビジネスを進めていく上での、効果的・効率的な近未来マネジメントの姿が見えてくるようだ。

次回は、
1972年に白豪主義を撤廃し、今や、総人口(2074万人、2007年1月現在)の24%が移民からなり、このうちの61%は公用語の英語圏以外の国で生まれている、多民族・多文化国家オーストラリアの対応を見よう。
オーストラリア政府の移民・多文化省が行っている、「クロスカルチャー研修の最前線」を紹介する。


【参考】
・Fons Trompenaars, F. and Hampden-Turner, C. (1998), Riding the waves of culture : understanding cultural diversity in global business, McGraw Hill
・http://www.thtconsulting.com/main/databases.php


※上の図は、トロンペナーズの6「時間感覚について、過去、現在、未来は、連続的か不連続か」を国別にあらわすもの。円は、左から過去、現在、未来。時間の関係性を示している。円の大きさも意味を持つ。


●第24回「クロスカルチャー・マネジメント理論と社会/ビジネスへの応用(その一)」

2008-03-19 19:23:02 | ■カルチャからの解放

●第24回「クロスカルチャー・マネジメント理論と社会/ビジネスへの応用(その一)」

今回と次回で、クロスカルチャー・マネジメントの中核に位置する、クロスカルチャー・コミュニケーションの古典的理論と現代ビジネス版の実証的研究成果を解説する。

今回は、エドワード・T・ホール、クルックホーン&シュトゥロットベック、そして有名なオランダのホフステードの文化理論だ。次回は、現代社会やビジネスに十分適用できる、トロンペナーズの7次元文化モデルだ。

さて、海外での、あるいは、日本人以外とのビジネスで最重要なことの一つが、自国とは別の文化をもった市場や顧客、企業とのビジネスをどう進めていくかである。

グローバル企業では、当初、自国の文化を現地企業へ押し付けていた時代があった。特に、日本企業の場合は、日本文化の独自性があり、日本的経営システムの現地化が最優先課題でもあった。しかし、最近では、グローバル化の流れの中で、ローカライゼーション(現地適応経営システム)の機運が高まり、他文化下でのマネジメントへの関心が増している。

英語では、クロス・カルチュラル・マネジメントとか、インターカルチュラル・マネジメントといわれる分野である。日本語では、異文化マネジメントと訳されているが、この日本語では、自国文化が同一文化で、他国文化が異文化となってしまい、ある文化とその他の文化がぶつかり合い、交じりあい(クロスする)、その2つ(それ以上もあり得るが)の文化が溶け合うというニュアンスがなくなることと、ある一方の文化が固定的で変化を伴わないことが言外に含まれるようで、正確な翻訳にはなっていないようだ。そこで、そのまま英語表記のカタカナ書き的(クロス・カルチャー・マネジメント)になることをご了解いただきたい。

クロスカルチャー・マネジメントの実証的研究は、1930年代に、文化人類学での研究から始まる。その後、第二次世界大戦後、ビジネス分野の海外進出や国の海外覇権などグローバリゼーションの流れに乗って、クロス・カルチャー・コミュニケーションの研究が米国を中心にスタートしている。

1959年米国のE.T.ホールの「沈黙の言語」、1961年米国のクルックホーン&シュトゥロットベックの「バリュー・オリエンテーション理論」、1980年オランダ人ホフステードの「多文化世界」、そして1986年に同じくオランダ人トロンペナーズの「7次元文化モデル」が有名だ。この分野は、文化人類学に、比較文化学、心理学やコミュニケーション学が融合されている。

ホールは、文化を「モノクロニック(一事主義)文化」か「ポリクロニック(多事主義)文化」か、また、「ハイ・コンテキスト(周りの状況に左右されやすい)文化」か「ロー・コンテキスト(周りの状況に左右されにくい)文化」かに分けた。

モノクロニック文化は、一時に一事を処理する、仕事に集中する、真面目に時間感覚(締切りやスケジュール)を遵守する、情報を必要とするロー・コンテキストな社会で、仕事に対して積極的に関与する、厳正に計画を固守すること、を特徴としている。

一方、ポリクロニック文化は、一時に多数のことを処理する、中断に左右されやすく注意散漫の傾向がある、もし可能なら時間遵守は達成目的となる、ハイ・コンテキストであり十分な情報をもっている、人や人間関係を重視する、計画はしばしば容易に変わるもの、との考えだ。ポリクロニックの国としては、メキシコが代表的らしい。

「ハイ・コンテキスト社会」でのコミュニケーションは、ほとんどの情報が既に人々に行き渡っており、はっきりと表に出したり、メッセージとして明確に表現したりすることが、非常に少ない。反対に、「ロー・コンテキスト社会」でのコミュニケーションでは、大量の情報が、はっきりとした言葉で表現される。

日本は、ホールの区分では、モノクロニック文化でありながら、コミュニケーション分野のみ、ハイ・コンテキスト社会であり、彼の分類には嵌まっていない。ハイ・コンテキスト社会は、情報ネットワークがかなり進んだ文化で、四方から自由に情報が流れ、すべての人があらゆることを知っている。あまりにも多くの情報が与えられると黙り込んでしまう社会だ。日本、アラブ・地中海諸国(含むフランス、イタリア、スペイン)がハイ・コンテキスト社会だ。

一方、ロー・コンテキスト社会では、トップ・エグゼクティブは、情報の内容や情報の流れの一部をコントロールできるスタッフに囲まれて仕事をしている。この社会では、十分な情報が与えられないと、仕事に支障が出る(例、ドイツ人)。アメリカ、ドイツ、スイス、北欧(アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド)がロー・コンテキスト社会だ。

また、文化によって、長いリードタイムがかかる仕事ほどより重要な仕事で、短いリードタイムのビジネスは、重要でないものと考えられることがある。更に、モノクロニックな社会では、時間の流れがゆっくりしており、ロー・コンテキスト(分類主義的)であり、ポリクロニック社会の時間は絶えず中断される。中近東諸国(例、イラン、インド他)は、過去志向の文化であり、アメリカは現在および近接未来志向、ドイツ、フランスおよび日本は、歴史に浸る文化だとも述べている。

ホールは更に、近接空間論を展開している。これは、権力と空間の関係や人と人との空間的距離の意味を分析したものである。例えば、アメリカやドイツの高官やCEOは、最上階にオフィスを構えたがり、一方、フランスの会社は、中央のスペースを重視する。国の文化や社会的な慣習によって、例えば、公共の場で隣に座る人と人との空間的距離に相違が見られ、その距離感が維持される、というものである。このことは、ビジネスの交渉時に、座席の配置や空間的距離の違いによって、お互いに与える心理的効果が違ってくることからも分かる。

クルックホーン&シュトゥロットベックは、6つの文化次元を分析している。

自然との関係(服従か調和か支配か)、人間関係(個人主義か集団主義か階層主義か)、行動(努力尊重か思考尊重か存在尊重か)、基本的人間性(美徳か中立か邪悪か)、時間感覚(過去重視か現在重視か未来志向か)、空間感覚(個人、公共、その混合か)である。

ホフステードは、世界50ヶ国3地域のIBM社員に、1967年から1973年の間、11万6千人分の質問表を渡し、大規模な調査を実施した。結果、文化の4次元(のち、23ヶ国調査で5次元へ)モデルを提示した。

文化の4次元モデルとは、PDI(パワーディスタンス:権威・格差主義か平等主義か)、IND(個人主義か集団主義か)、UAI(不確実なものに敏感で避ける傾向かどうか、つまり、不確実なものに対して苦手意識があるか平気か)、MAS(男性中心社会か女性尊重社会か)の4つで、5次元になると、LTO(長期的思考法か短期的思考法か)が加わる。

日本は、PDI(権威・格差主義)で平均よりちょっと下(1位マレーシア、2位パナマとガテマラ、3位フィリピン、4位ロシア、5位ベネズエラ)、IND(個人主義)で総合平均の真ん中くらい(1位アメリカ、2位オーストラリア、3位イギリス、4位オランダとカナダ、5位ニュージーランド)、UAI(不確実性の回避)で苦手意識は世界の7番目(1番から6番の順で、ギリシャ、ポルトガル、ガテマラ、ウルグアイ、ベルギー、エルサドバドル)、MAS(男性中心社会)でダントツの世界1位(2位オーストリア、3位ベネズエラ、4位イタリアとスイス、5位メキシコ)、LTOで3位(1位は香港、2位は台湾、4位韓国、5位ブラジル)の調査結果となっている。

ホフステードのモデルを活用した国際マーケティングも存在する。

※写真は、エドワード・ホールの「沈黙の言語」(1959)の原書の表紙

【参考】
・Edward T. Hall(1959), The silent language, Garden City, N.Y
・Florence Rockwood Kluckhohn and Fred L. Strodtbeck (1961), Variations in value orientations, Westport, Conn., Greenwood Press
・Hofstede, Geert(1980), Culture's Consequences, International Differences in Work-Related Values (Cross Cultural Research and Methodology) Newbury Park, CA: Sage
・http://www.geert-hofstede.com/