●第25回「クロスカルチャー・マネジメント理論と社会/ビジネスへの応用(その二)」
前回は、米エドワード・T・ホール、米クルックホーン&シュトゥロットベック、オランダのホフステードの文化理論を概略し、クロスカルチャー・マネジメントの古典的理論を垣間見た。
今回は、より生活やビジネスに関連付けられる、オランダのトロンペナーズの「7次元文化モデル」を扱う。
実証的分析に基づいた、彼の7次元文化モデルとは、こうだ。
1「普遍主義か個別主義か」
2「個人主義か共同体主義か」
3「感情表出か感情隠蔽(中立)か」
4「プライベート(私)重視か権威追従か」
5「ステイタス(社会的地位)について、獲得するものか与えられるものか」
6「時間感覚について、過去、現在、未来は、連続的か不連続か」
7「自然/環境に対する人間の見方について、自然/環境をコントロールできるかできないか」
一つずつ解説していこう。
1「普遍主義か個別主義か」
これは、重要な価値判断がどちらになるか、というものだ。
普遍主義では、矛盾がないこと、システム・スタンダード・ルール、統一された手順、要求の明確さが重視される。一方、個別主義とは、柔軟性、プラグマティック(実用的)、例外が許容され、状況によって判断する、あいまいさは普通、という価値基準だ。つまり、ルールよりも、特定な関係が重要になるということだ。
普遍主義的な国を上から順番にあげると、
1位スイス(97%)、2位カナダ・アメリカ(93%)、3位スウェーデン(92%)、4位イギリス・オーストラリア(91%)、5位オランダ(90%)となり、日本は10位の68%、インドが11位で54%、中国が12位の47%、13位ロシア(44%)、14位韓国(37%)と続く。
アメリカのグローバルスタンダードを受け入れるのか、現地化を積極的に進めていくのかが1つの課題となるかもしれない。
2「個人主義か共同体主義か」
これは、ものごとを進める上において、グループが大きな役割を占めるのか、個人が重要な役割を占めるのか、ということだ。
可能なかぎり個人の自由を尊重して、最大限の彼(女)自身の発展の機会を与えれば、人の生活の質は、結果として改善するだろう、という考えが「個人主義」の基本だ。
別の人は、こう言う。
個人が絶えず、彼(女)の仲間の世話をすれば、たとえ個人の自由や発展を阻害したとしても、私たちすべての生活の質が改善するでしょう、と考える。これが、トロンペナーズのいう「共同体主義」だ。
個人主義的傾向の強い国は、彼の調査によると、以下の順番になる。
1位イスラエル(89%)、2位カナダ(71%)、3位アメリカ(69%)、4位デンマーク(67%)、5位オランダ(65%)、14位が中国とフランス(41%)、15位日本(39%)、16位インド(37%)、17位メキシコ(32%)。
個人のモチベーションを優先するのか、チームとしてのモチベーションを重視するかが、リーダーシップの工夫のしどころである。
3「感情表出か感情隠蔽(中立)か」
これは、感情表現について、社会的にどう思われているかだ。つまり、自己の感情/情緒を世間に隠し立てしないことが、感情をコントロールできない未熟な人間と見られているかどうかである。
感情を表に出さない比率が高い国(地域)の順位は、
1位エチオピア(81%)、2位日本(74%)、3位香港(64%)、4位中国(55%)、5位インド(51%)となっている。
頭で感情をコントロールするのか、喜怒哀楽を素直に表すのか、絶えず自身の心をチェックし、たまには、感情を解放することも必要だ。感情的であることは、時には、クールなことだ。
このディメンションは、現地での宣伝・広告のコンセプトにかなり影響するし、顧客の心に響く「表現のヒント」になるだろう。
4「プライベート(私)重視か権威追従か」
例えば、上司から、家の引越しの手伝いを頼まれたとしよう。同僚とこんな話をするだろう。
ある同僚は、「もし君が嫌だったら、引越しの手伝いなんかする必要はないと思うよ。会社を出たら、上司といっても、会社の外では権限ないんだから」。
もう一人のゴマスリ同僚はこう言う。「もし自分だったら、嫌だと思っても、手伝いに行くナ。仕事時間外だといっても、彼は上司だし、彼の依頼は断れないよ」
手伝いを断る国の順位は、
1位スウェーデンとオランダ(91%)、2位デンマーク(89%)、3位イギリス(88%)、4位カナダ(87%)、5位アメリカ(82%)、日本は71%で7位、オーストラリア(78%)の次だ。ちなみに、中国は17位(32%)、韓国は65%で12位である。
これは、仕事が能力/業績中心か、人間/信頼関係維持重視(付き合い重視)かの判断に関連するものだ。マネージャーを選ぶ場合、業績志向なのか人間関係に強い資質なのかで、現地企業の業績がかわってくる。
5「ステイタス(社会的地位)について、獲得するものか与えられるものか」
この項目は、仕事に対する価値観や信念のようなものだ。自分にとってのステイタス(社会的地位)が何なのか。
人生で最重要なことは、たとえその仕事が与えられたものであっても、自分に本当に合っているふりをして仕事をすることだ、との質問が立てられる。
この意見に同意しない国の順番は、
1位オーストラリア(69%)、2位カナダ(65%)、3位イギリス(56%)、4位スウェーデン(54%)、5位デンマーク(49%)、日本は13位の26%だ。
これは、社員の隠された本音をつかむきっかけにもなるし、社員自身にとっては、自分が信じるところを実践する価値観を、国ごとにどれほど持っているかの判断材料にもなる。
6「時間感覚について、過去、現在、未来は、連続的か不連続か」
これは、過去、現在、未来の時間が、それぞれ、どのような関係性をもっているのかを問うたものだ。
冒頭の図を見れば分かるように、アメリカ、フランス、日本、スペイン、イギリス、ドイツの時間感覚が如実に現れており、非常に興味深い文化のデメンションだ。
特に、アメリカの過去と現在/未来が分離していること、スペインでの過去/現在と未来が分裂していることは、特徴的だ。
日本の時間感覚は、過去・現在・未来がかなり重なり合い、ドイツは、円の大きさを考慮すると、過去・現在・未来の重みがそれぞれ同じようになっているのも、発見である。これだけ、時間への各国の感覚が違うと、仕事への取り組み方もまた、相当相違がでてくるだろう。
日本的な時間感覚が、世界のどこにでも通用するわけではない。文化はダイバーシティ(多様性)に富んだものであるから、国別の各スタッフのキャリア・デベロップメントの計画を考えるヒントになるだろうし、転職の動機も理解できるかもしれない。
7「自然/環境に対する人間の見方について、自然/環境をコントロールできるかできないか」
自然/環境への人間の見方は大別すると2つある。
有機体としての自然、つまり、自然への尊敬、畏怖や服従と、
機械としての自然、つまり征服の対象としての自然である。
質問はこう立てられる。
「自分に降りかかっていることは、自分自身のなせるわざである」、
「自分の人生が進んでいる方向を、時々、自分自身で十分コントロールできない気がする」
自分自身のなせる技であると考える国の順番は、
1位イスラエル(88%)、2位ノルウェイ(86%)、3位アメリカ(82%)、4位イギリス(77%)、5位フランス(76%)、日本は9位(63%)でインドと同じ、韓国とイタリアは7位で72%、ロシアは13位の49%、中国は14位で39%となっている。
自然に対する感覚については、日本や他のアジア諸国は、西欧社会と違った意味を持っている。
西欧的な考え方は、自然は征服すべきものとの信念がある。
一方、日本では、自然との「共生」が普通である。
ここから、リーダーシップの使い分けが明確になる。
強いリーダーシップが有効な場合(国)と個人を鼓舞した方が有効な場合である。
トロンペナーズの7次元文化モデルに、ダイバーシティ・マネジメント(多様性マネジメント、他文化下でのマネジメント)の網をかぶせてみると、グローバル・ビジネスを進めていく上での、効果的・効率的な近未来マネジメントの姿が見えてくるようだ。
次回は、
1972年に白豪主義を撤廃し、今や、総人口(2074万人、2007年1月現在)の24%が移民からなり、このうちの61%は公用語の英語圏以外の国で生まれている、多民族・多文化国家オーストラリアの対応を見よう。
オーストラリア政府の移民・多文化省が行っている、「クロスカルチャー研修の最前線」を紹介する。
【参考】
・Fons Trompenaars, F. and Hampden-Turner, C. (1998), Riding the waves of culture : understanding cultural diversity in global business, McGraw Hill
・http://www.thtconsulting.com/main/databases.php
※上の図は、トロンペナーズの6「時間感覚について、過去、現在、未来は、連続的か不連続か」を国別にあらわすもの。円は、左から過去、現在、未来。時間の関係性を示している。円の大きさも意味を持つ。
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