Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

☆☆第39回「グローバル展開の定石と7つの落とし穴」★★

2008-10-24 22:30:02 | ■カルチャからの解放

☆☆第39回「グローバル展開の定石と7つの落とし穴」★★

☆グローバル展開の定石☆

ヒルは、米ミネソタ州本社の3Mの成功にヒントを得て、企業が海外展開に成功するときの7つの戦略を立てている。

① 新規参入の輸出業者は、まず、EMC(輸出マネジメント会社、日本では専門貿易会社に相当)か、経験のある輸出コンサルタントを活用すべし。輸出業務関連の雑多な書類や規定に振り回されず、進出のチャンスなど水先案内人になってくれるからだ。

② マーケットの選定については、当初、一つかごく数ヶ所のマーケットに集中することが必要だ。これは、成功に必要とされるものを学習するためである。努々、一度に多数のマーケットへ進出してはいけない。ショットガン・アプローチと言われるこの進出方法は、失敗例が多い。

③ 海外へ進出するときの規模は、適正な小さなサイズで始める。より重要なことは、小規模進出が、そのマーケットへの重大な資本的関与をなす前に、その企業に現地のマーケットについて学習するための時間とチャンスを与えることだ。

④ グローバル進出業者は、現地での販売活動に関する時間と経営的コミットメント(関与)を認識する必要があること。更に、既存の経営が海外展開のために拡張し経営能力が手薄にならないように、現地の販売活動を監視できる要員を追加して採用すべきである。

⑤ ほとんどの国では、現地のディストリビュータや顧客との強く、末永い関係構築に力を注がねばならないことは、いうまでもないことであろう。

⑥ 海外のマーケットでは、現地子会社を設立する際、現地のスタッフを雇用することもまた、重要なことである。これまで、現地に足を踏み入れたことのない進出業者のマネージャーよりも、現地の人々の方が、現地でいかにビジネスを行ったらいいかをよく知っている。
【特にこの項は、日本企業にとって有益なアドバイスだ!】

⑦ グローバル進出業者が現地生産のオプションを考えておくこともまた、大切なことだ。コスト的に有利で、十分な生産量が見込めるなら、海外マーケットでの生産施設を考慮すべきだ。現地化のメリットは、現地国との関係をより良くし、より大きなマーケット受容を促すことができるからである。


★★グローバル展開で陥りやすい「7つの落とし穴」★★★

国際舞台へ(初めて)乗り出す企業にとって、共通して見られる陥穽がある。
それも7つの致命的な落とし穴だ。これらには、細心の注意をしていこう。

7つの致命的な落とし穴とは、

①「マーケットのサイズや需要の成長率だけで判断する」

自社の製品やサービスをどこ(国・地域)に提供するかを考えるとき、まず、進出先のマーケットサイズや需要の成長率に基づいて、判断することが多い。これは、国や地域のマクロデータから導き出される結論であり、世界(アメリカ)の大手調査会社、証券会社が推奨する進出国・地域として、宣伝される。

しかし、ちょっと立ち止まって考えてみよう。進出先のマーケットのサイズが大きく、需要の成長率が高いと言っても、既に、競合会社は存在するのだ。そのマーケットの魅力は、サイズではなくて、グローバル展開する自社の戦略によって、マーケットシェアを変えていくという「見込み」の中にある。競合会社は、彼らのポジション(地位)を防御するために最大限の努力をするため、それを打ち負かすためには、自社のグローバル戦略によって、どのくらいの浸透度(マーケットシェア)をとるのかが、重要になる。

②「現地の競合企業を過小評価してしまう」

進出先にいる既存の競合会社は、結局、困難を乗り越えてきた「生存企業」である。彼らの何社かは、過去の同業他社からの攻撃をうまくかわしてきたに違いない。これは、たぶん、現地顧客の購買動機をうまくつかみ、絶えずその戦略を調整し顧客対応してきたのだ。

仏ヨーグルト会社ダノンが中央ヨーロッパ市場へ参入したとき、現地のヨーグルト生産者は大打撃を被った。

しかしながら現地でのテレビコマーシャルを使った戦略は、高額なプロモーション費用に跳ね返り、価格の上昇をもたらした。こういうことがあって、古くからある現地ブランドのヨーグルトを販売し、現地の顧客購買行動を知っている販売店と組合せることにより、ダノンが初期に得た利益の大半を現地の生産者へ戻した事実がある。更に、現地の生産者たちは協調的で、農家も対抗したかたちで、ミルクを低価格で提供し続けた。彼らは、これら現地のヨーグルトをぜひとも生き残れさせることが義務のように頑張り続けた。現地の競合企業だけでなく、外資系競合会社でさえ、他社からの攻撃を予知し、反撃にでることを忘れてはならない。

③「海外のマーケットでも、顧客の購買行動は同じようなものだ」

現地顧客の購買動機に目を閉じている企業は、本国でのマーケティング原理を現地でも適用しようとする。世界はフラット化しているのだから、なんらの現地対応もしないで、本国のマーケティング原理に従わせるように、現地消費者を変えようと努力するかもしれない。

例えば、ブロックバスターのドイツ進出を見よう。1995年に店舗を構えたが、2年後の1997年に撤退した。ドイツは世界第4位のビデオ市場であるのに。その原因は、ドイツのビデオレンタルの3分の1を占めるアダルトビデオの扱いを拒否したことと、他のレンタルビデオ店が住居地周辺に立地したのに対し、繁華街のショッピングエリアに固執したことが上げられる。これは、本国のマーケティング原理に忠実だったためである。

しかし、もう一度振り返ってみよう。地球村では、一つの原理が機能するかもしれない、でも、現実の社会は地球村ではなく、それぞれの国の消費行動は違っているものだ。その違いを認識し、理解し、我がものとしなければならないのだ。
 
④「誤ったプライシング(値づけ)の決定を行う」

成功する企業は、本国では、マーケットが成熟していくのに合わせて、次第に価格を下げていくだろう。新しいマーケットでは、本国でやってきた初期のステージに戻る必要がありそうだ。つまり、初心に帰れ、ということだ。新市場へ進出する企業は、その製品/サービスの価格が異常に高かったり、低かったりする、という過ちを犯しやすい。しばしば、本国の価格を基準に単純なプライシング(値づけ)が行われる。

更に、進出時には、自社製品を売り込むためのプロモーションに高い費用がつくため、低価格では、そのプロモーション費用さえままならない。高価格進出で、低い出荷量で浸透度も低いままという、ジレンマが生じてくる。これは、米国企業の海外進出時によく見られることだ。

一方、(適正な)低価格で、現地国の浸透に成功した企業も多い。日本車のアメリカ市場の席巻が歴史的に有名だ。途上国マーケットにおける、韓国企業(LGやサムソン)の価格戦略は、ソニーが採用した本国市場価格のスキ間をついて、途上国でのマーケットシェア獲得に高い貢献をしている。

また、エナジードリンクで世界最大のシェアを持つレッドブルの価格戦略は、製品の形状などグローバル・マーケティングミックス戦略とあいまって、国内浸透度の弱さが指摘されている。ここで明らかなのは、「本国での価格は、自動的に、進出先での効果的なプライシングの指標にならない」ということだ。

⑤「次のステップを考えないで、進出するときのことだけを考える」

これは、新市場への浸透は、進出時の「はじめの一歩」だけを考えておけばよい、訳ではない、ということだ。もし、進出企業が次の、そしてその次のステップといった将来の調整段階を考えていないとしたら、それはもう、ある段階での調整プロセスを制限するポジションを既に取ってしまっていることを意味する。

これは、ディストリビュータや販売経路が一時的なものであるという、ちょっとでは変えられないコミットメント(関与)からくるものだからだ。
 
⑥「能力のない現地パートナーを選択してしまう」

現地でしなければならないことや誰にやってもらうか、といったことを決定できる現地パートナーが必要になる。将来のパートナー候補が、なすべきことを知っているかどうかをチェックすることも大切な決定だ。戦略的提携が一般的になりつつある今、戦略的誤提携のことも十分注意しなければいけない。能力のない現地パートナーを見分ける方法がある。以下の4種の現地ディストリビュータを選択してはならない。「死に体ディストリビュータ」、「現地生産パートナー」、「ラインでの競合ディストリビュータ」と「注文取りディストリビュータ」の4つだ。

「死に体ディストリビュータ」は、積極的なマーケティングをやろうと思わないものだ。マーケティング計画の提出を求めれば、死に体かそうでないかがすぐに分かる。コカコーラなどは、現地のディストリビュータとの契約に年間のマーケティング計画を入れさせている。

「現地生産パートナー」も前者に等しく、致命的だ。というのは、自社の目的が現地生産会社を使っての低コスト生産でありながら、ディストリビューションのコントロールを求めるものならば、現地生産会社はディストリビューションも生産についても、積極的にやらないものだからだ。つまり、ディストリビューションへの貢献もないし、生産コスト低減へのインセンティブもないからだ。

「ラインでの競合ディストリビュータ」も問題が多い。進出企業は、それぞれの海外マーケットでの生産についての望まれる位置づけについて明確な考えをもたなければならない。その位置づけを達成できるディストリビュータを選ぶべきで、その位置づけで他の生産にコミットしている業者を選ぶべきではない。

「注文取りディストリビュータ」も避けるべきだ。この業者は、取扱製品の知識はあるかもしれないが、進出企業のビジネスそのものについては知らないため、その企業の顧客ニーズが把握できず、顧客に十分な説得ができないためである。

⑦「自社のブランドイメージが失われてもよしとする」

企業が国際舞台に立とうとするとき、自社のブランドイメージを保持することが非常に大事だということを、最後に言っておきたい。もちろん、会社名、製品名やロゴの法的保護の必要性は自明だ。しかし、海外に舞台を移すと、多くの企業が自社のブランドイメージの保持に甘くなるものだ。

あるブランドがある国で一定のイメージをもっていたとしよう。ところが別の国で低いイメージがもたれたとしたら、世界のマーケット全体でのブランドイメージは、低い方へ沈んでしまうものだ。あるマーケットで大量販売を望むと、他のマーケットでブランドのプレミアム(特別の評価)を望むことはできなくなる。

仏企業のラコステを思い起こしてほしい。自社のクロコダイル(ワニ)のブランドをアメリカの企業とライセンス契約した。アメリカのライセンシー(契約先)は、その製品の人気を出し、マーケットに溢れさせようと、大量生産に踏み切った。そのため、クロコダイルのロゴが入ったポロシャツの価格が急激に落ちた。ブランド価値の喪失が表れた2年後に、ラコステ本社は、そのライセンスを買い戻し、アメリカから撤退することを余儀なくされた。その後、高級ブティックでの高品質で高価格の販売に戻ったことが知られている。

ルイヴィトンやグッチ、シャネルなどのブランドは、世界的規模で、自社のブランドイメージを保持している。

今回は、グローバル展開の定石と落とし穴をチェックした。

次は、いよいよ国際舞台に立つその具体的な方法を考えてみよう。
いかにグローバル展開すべきかについて、である。


※上記のロゴは、(c)3M(http://www.3m.com/)と(c)ラコステ(http://www.lacoste.co.jp/jpn/main.html)のHPより使用した。


【参考】
☆グローバル展開の定石

-Hill, C.W.L.. (1997), International Business: Competing in the Global Marketplace, pp. 442-452, Irwin

-Bartlett, C.A. and Ghoshal, S. (2000), Going Global: Lessons from Late Movers, Harvard Business Review, March-April, pp.132-142

-Kotler, P. and Keller, K.L. (2006), Marketing management, 12 ed., Pearson Prentice Hall

-Pacek, N. and Thorniley, D. (2004), Market Entry Preparation,
in Emerging Markets: Lessons for Business Success and the Outlook for Different Markets, Ch.3, pp.18-27, Profile Books


★7つの落とし穴
-Simmonds, K. (1999), International Marketing - Avoiding the Seven Deadly Traps, Journal of International Marketting, 7(2), pp.51-62

-Arnold, D. (2004), Assessing Market Potential: Estimating Market Size and Timing of Entry, in The Mirage of Global Markets: How Globalizing Companies Can Succeed as Markets Localize, Ch. 2, pp.27-51, FT Prentice Hall

★☆第38回「グローバル・ジャパンという方法」☆★

2008-10-20 02:30:39 | ■カルチャからの解放

★☆第38回「グローバル・ジャパンという方法」☆★


◆グローバル・ビジネスのモード(かたち)

グローバルに展開するジャパンを考えるために、グローバル・ビジネスのモード(かたち)をまず、考えてみよう。

グローバル・ジャパンの展開方法を考えるに当たっては、市場(マーケット)と顧客(カスタマー)のマトリックスが有効だ。

市場は、日本国内と海外市場、顧客は日本人と非日本人(海外国籍人)だ。

冒頭の図の市場―顧客のマトリックスに見られるように、グローバル・ビジネスには、4つのジェネリック(一般基本)戦略がある。

第1に、
日本がこれまで得意としてきた、モノの輸出入など貿易によるグローバル・ジャパン展開、これを「貿易型グローバル・ジャパン」と名づけよう。

次に、主に海外在住の日本人向けに、日本食などを提供したり、親企業の海外進出に伴いグループ企業が海外展開する「自国本位グローバル・ジャパン」。

3番目が日本国内に在住あるいは滞在する日本人以外の外国人向けにクール・ジャパンなどを提供する「国内グローバル・ジャパン」がある。

最後に、海外では一般的な、海外の市場で、海外の顧客を対象とする「本格的グローバル・ジャパン」の4基本戦略である。

日本企業の場合、「貿易型グローバル・ジャパン」の展開、モノやサービスの輸出入が主であり、法の未整備の影響もあり、人の輸入、つまり、外国人観光客への戦略的な対応や、ましてや、外国人労働者への開国は未だになされていない。この三番目の「日本グローバル・ジャパン」展開という新しいかたち、つまり、国内を市場として、外国人観光客を相手とするビジネスや介護など日本の高齢化社会へ向けた外国人働き手ビジネスは、今後の大きな市場になると思われる。

これは、経済的側面から見ると、必然的な流れになると考えられる。理由はこういうことだ。アメリカ経済の衰退に伴い、円高が加速することになろう。そうなると、伝統的に日本が強かった輸出産業は打撃を受け、一層衰退していくだろう。円高によって利益を享受するのは、海外から日本への輸出である。となると、海外に子会社をもち、日本へ輸出した方が得になることも多い。一部の日本のエクセレント・カンパニーでは既にその方式が取られている。例えば、世界3本社制(日米欧)などの形である。また、外資の投資先としての魅力ある日本が対象となるだろう。ただ、その対象が問題になる。これまでの製造業界や食品業界などへの株式投資は、国内法や司法のグローバル対応が未熟なため、海外からの投資意欲は減退している。ただ、2007年5月に会社法が改正され、三角合併のみ解禁されたこともあり、魅力ある国内市場つまり、業種的に言うと、日本的イメージをもつ観光業や高齢化社会向けのビジネスへの投資は、価値あるものとの判断が下されるだろう。

「自国本位グローバル・ジャパン」ビジネスは、以前は、ヤオハンなど現地駐在員のための日本食の流通など、アジア地域で展開が見られたが、バブル以降は、中国など一部の地域を除いて衰退傾向にある。

現在は、先進国の健康志向ブームに助けられ、海外市場での和食、とくに、巻き寿司や寿司店など日本食文化の特徴的なものは、「本格的グローバル・ジャパン」の展開段階へ来ており、日本人だけでなく、多くの外国人が顧客となっている。もちろん、クルマや嗜好製品など、ソニーやトヨタなどほんの一部のエクセレント・カンパニーがこういった形のグローバル展開を果たしている。

さて、
結論的に言えば、グローバル・ジャパンの展開には、

3番目の日本国内に在住あるいは滞在する日本人以外の外国人向けにクール・ジャパンなどを提供する「国内グローバル・ジャパン」と
4番目の、海外の市場で、海外の顧客を対象とする「本格的グローバル・ジャパン」の展開をどちらかに絞るのではなく、どちらも戦略的に積極的に進めるべきである。


◆ 産構審の知識組替えの衝撃

経済産業省は、旧通産省の時代から産業構造の転換戦略を提示してきた。1960年代の「重化学工業化」、1970年代の「知識集約化」がそれだが、2008年7月末に、約30年の沈黙を破り、「日本型イノベーションの開発戦略」を提示している。これは、「知識組替えの衝撃」と銘打った報告書でなされているが、グローバル・ジャパンを考える上に、とても大事なリポートだ。
(遺伝子組替えなど、マイナス・イメージを持つ「組替え」の言語選択のセンスを疑うことは、別にして)

彼らの論理を要約してみよう。

日本の産業は、「中小企業を含めたものづくりの現場力+クールなデザイン+豊かな地域資源」等、競争力の基礎になる要素がある。しかし、それらが十分に活かされていないために、いわば『宝の持ち腐れ』の状況になっている。つまり日本に足りないのは個別の技術やノウハウ、デザインそのものではなく、これらを組み合わせて活かす力。

これは、シュンペーターの言う、イノベーションの定義、「新しい組み合わせ(新結合、生産的結合)」(当ブログ:第31回「加速されるグローバリゼーションのモードと情報の国籍」参照)のことを言っているようだ。

そこで、
日本のこれら競争優位の知識を、アジアを中心とするグローバル市場のなかで適用し、富を獲得することが不可欠であり、グローバルに稼ぐには、個々の技術の良さだけでは不十分となり、大企業と中小企業、業種、ものづくりとサービスといった従来の枠を超えて技術、ノウハウを組み替える大胆なイノベーション(=知識組替え)が必要、と展開している。

そして、産業政策として、以下5つの提言を出している:
1:中小企業もグローバルに稼ぐ (⇒筆者、『日本中小企業のグローバル化』。以下同様)
2:異なる業種、企業に分散している技術を集約化して稼ぐ 
(⇒『脱業種による技術の集約化』)
3:ジャパン・クールをトレンドにして稼ぐ (⇒『ジャパン・クールのビジネス化』)
4:環境技術をソリューションにして稼ぐ (⇒『環境技術のグローバル・ビジネス化』)
5:医療機関を統合して地域医療を再生する (⇒『地域医療の広域連携』、なぜか突然オープン化の文脈で、医療産業が出現する?)

さて、上記「知識組替え」産業戦略に欠けているものを、行政面とクロスカルチャー・マネジメントの観点から見ると、こうなる。

産業政策のプロバイダー(供給者)である行政、この場合は、経済産業省だが、総務省などとの、例えば、通信と放送の所轄問題を含めて、インターネット時代に合った、行政レベルでの「脱業種」がないままに、実行者である企業への一元的サポートが可能か、ということだ。まずは順番として、行政内部の組替えと新結合をおこすことが先決ではなかろうか。

グローバル化を考えるのに不可欠な、クロスカルチャーの視点からは、

アジアを新産業政策のパイロットプロジェクト・サイトと位置づけているが、日本側の「儲け」だけの論理で、他のアジア諸国へのリーダーシップが有効に作用することになるのだろうか疑問だ。現代は、企業にはCSR(企業の社会的責任)があるように、国家にも地域への国家的責任も存在するだろう。ここでは、他のアジア諸国との日本的な『共生』の視点が非常に大事になってくると思われる。リーダーシップ論で言っても、アジアとの共生、つまり、アジア諸国のメリットを共に考えていかなければ、従来の米国型unilateralism(単独主義)との相違が見えてこない。

更に、「市場、業種、組織等の壁を越えて知識が交流・共有される仕組みの創出」が第1の政策群に掲げられているが、これも国内だけで考えていてもダメで、海外在住で活躍しているグローバルな日本人財の活用を含めないと、従来の方法と相違がない。

また、提言1の「日本中小企業のグローバル化」については、グローバル・マインドの涵養が不可欠になる。

グローバル・マインドとは、世界の異なった社会・経済・政治環境の中でのビジネス知識、そして多様な文化を背負った仲間と一緒に仕事を行うときの心構え(マインドセット)のことである。

中小企業の場合、
国内企業からグローバル企業という一般的な方向だけではなく、最初から海外市場を狙う、グローバル企業というのも存在する。「ボーン・グローバル企業」がそれである。

ボーン・グローバル企業は、特に、先端技術を開発した企業に多く見られるもので、グローバル展開の段階的なモードを経ないで、じかに海外を対象とするかたちの企業である。

段階的なグローバル展開とは、アップサラ・ステージモデルとしてよく知られている。つまり、海外展開のモードには、進出国への投資・リスクの程度と現地企業に対するオーナーシップ・コントロール(所有・統制)の程度を考慮して、「輸出」、「契約」、「戦略的提携(ストラテジック・アライアンス)」、「海外直接投資(FDI)」の4種類の方式がある。

このグローバル展開のモード(アップサラ・ステージモデル)は、時間をかけて経験をつみ、上記4つの段階を経ながら、海外展開し成功に導こうというものである。ただ、現在のように、急激なグローバリゼーションの進展と激しい競争環境の下では、段階的展開は遅すぎるとの意見も存在することは確かであり、「ボーン・グローバル企業」のコンセプトも、特に日本の中小企業には、一つの有効なグローバル展開方法といえよう。

日本の将来を考えてみれば、
グローバル・ジャパンから、グローバル・アジア/オセアニア、グローバル・アフリカ、そしてグローバル・ヨーロッパなどのグローバル・ビジネス戦略が立案されるようになれば、実質的なグローバル国家へと生まれ変われるのでは、あるまいか。


次回は、グローバル展開に成功した企業の「定石」と、失敗した企業の「落とし穴」について、欧米での実証的な研究成果を基にチェックしよう。


【参考】
☆(追加)ボーングローバル企業:
Knight, G.A. and Cavusgil, T. (1996), The Born Global Firm: A Challenge to Traditional Internationalization Theory, Advances in International Marketing, 8, pp.11-26

◆「知識組替えの衝撃-現代産業構造の変化の本質-」
経済産業省産業構造審議会 新成長政策部会基本問題検討小委員会報告書(2008年7月28日)
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80728a02j.pdf

◆新経済成長戦略(2008年9月9日)
-「新経済成長戦略」の改訂 フォローアップと改訂(案)本文(経済財政諮問会議提出)
http://www.meti.go.jp/press/20080909005/20080917004-3.pdf
-経済産業大臣官房審議官 石黒憲彦氏の「志本主義のすすめ」第118回新経済成長戦略
http://dndi.jp/00-ishiguro/ishiguro_118.php

◆アップサラ・ステージモデル
スウェーデンのアプサラ大学(The University of Uppsala)のJohansonらが唱えた海外展開モード。
Johanson, J. and Vahlne, J-E. (1977), The Internationalization Process of the Firm - A Model of Knowledge Development and Increasing Foreign Market Commitments, Journal of International Business Studies, Vol. 18, pp.23-32

◆第37回「グローバル化のメリットとは?」

2008-10-11 05:46:09 | ■日本人はどこへ往く?

◆第37回「グローバル化のメリットとは?」


欧米での国際経営学のクラスで、まず一番目に学習するのが、

「なぜ、企業はグローバル化が必要なのか」、

「グローバル化してどんな得があるのか」

である。

最初に、グローバル化のメリットを見定め、
つぎに、グローバル展開できないのはなぜか、
そして、グローバル展開でのデメリット(リスク)を概観する。


1. なぜ、グローバル展開をするのか。その動機とメリットとは?

 さて、企業がグローバル展開するのは、どういう理由か。これについては、次のような動機が知られている。

・いい製品や低価格で提供するグローバル企業が、日本の市場にアタックをかける。この競合会社に対して、かれらの母国で反撃したい。

・国内マーケットよりも、海外のマーケットの方が、より大きな利益が見込めることを発見する。

・規模の経済(大量生産によるコスト削減)を実現するため、より大きな顧客層のあるところへ向かいたい。

・特定のマーケット(たとえば、日本だけ)への依存率を低めたい。

・現在の顧客が海外へ行き、海外でのサービスを求めている。

・中国やASEAN諸国に対しては、グループの親会社の進出に伴い、必然的にメンバー企業が随伴するというケースは、日本企業の場合、顕著である。

・安い人件費を利用して製造コストの低減を図り、国際競争力を維持する。更に、ASEAN諸国を世界市場への輸出戦略的基地とするために海外展開する、
などである。

一般的には、企業が本格的にグローバル展開するときのメリットは以下の4つである。

☆本格的グローバル展開のメリットの

1つ目は、
・潜在的なマーケットサイズを拡大させることにより、規模の経済が達成でき、結果、コストの削減が実現する。

2つ目として、
運営コスト、R&D(研究開発)コストの削減が実現できる。これについては、たとえば、マクドナルドの場合、その海外展開によって、店舗数が増大し、設備・備品などの供給側の交渉力が増大する。つまり、コストを抑えて設備・備品などが調達できるということ。

3つ目が、
海外展開によって、自社製品のライフサイクル(導入期、成長期、成熟期、衰退期)を拡大させることができる。これは、自国のマーケットが飽和状態になったとしても、経済成長の段階が違う他国で、まだまだ自社製品の需要が見込めると判断するものだ。コカコーラ、ペプシなどの飲料だけでなく、デルやHPなどのパソコン産業は、そのために積極的に海外に進出している。

4つ目は、
バリューチェーンでの全活動のための物理的なロケーションを最適化する動きだ。バリューチェーンでの全活動とは、主要活動(内向けのロジスティックス、オペレーション、外向けのロジスティックス、マーケティング&販売およびサービス活動)と支援活動(調達、技術開発、人的資源開発および企業インフラストラクチャー)の活動を最適化しようというものだ。業績向上、コスト削減、リスク低減などを目的とする。

もちろん海外ビジネスには、光の部分であるメリットだけでなく、影の部分のリスクがつきまとう。このことは、3で扱う。


2.グローバル展開への心理的バイアスを取り除く

グローバル展開をしたいのにできない。なぜ、踏み切れないのか。先ず、その心理的なバイアス(心の傾向)を覗いてみよう。

海外の商習慣が分からない。
海外のビジネスマンの考え方が理解できない。
そもそも、海外の顧客嗜好・動向が分からない。
語学、特に、英語圏でのビジネスには英語が理解できなければ、商売にならない。
日本のマーケットだけで満足している。いまさら、別のリスクを負うことはない。

一方、世界はフラット化している。グローバルな消費者の嗜好は、一定の範囲で近づいている。
小売業を見ると、ソフトドリンク、SUSHI、ファーストフードは世界のどこにでもある。
世界の都市に、マクドナルドあり、コンビニエンス・ストアありである。
製品レベルでも、Gucciの財布、Chanelのスーツ、時計、ハンドバッグなどのブランド製品は世界をマーケットにしており、パソコン、家電のみならず、携帯、デジタルカメラ、iPod/iPadも、世界の人々に愛されている。
IT・情報化関連のビジネスも、Google、amazon.com を筆頭に、eビジネスはボーダレスの展開だ。
特に、サービス産業では、優劣が顕著である。
例えば、旅行関連、格安航空券の予約ビジネスでは、インターネットのオンライン予約が一般的になり、グローバルな対応に遅れを取る国、会社は、国際競争力を失っていく。この分野では、日本の出遅れが目立つ。


3.もちろん、グローバル展開のリスクも承知しなきゃならない。

最後にリスクについても、しっかりおさえておこう。

リスクの1つは、

・政治的・経済的リスクである。世界の国々では、日本のように、平和で安定した国ばかりであるとは限らない。世界銀行、BERI (Business Environment Risk Intelligence)などでは、カントリーリスクのランキングを見ることができる。

リスクの2つ目は、

・通貨のリスクである。
企業は、絶えず自国通貨とホスト国の通貨レートをモニターしておかねばならない。海外でビジネスをする際、わずかな為替レートの変化が、生産コストや純益に重要な影響をもたらすからである。これが、通貨リスクである。

リスクの3つ目は、

・マネジメント(経営)リスクである。
海外マーケットで経営者が遭遇する、経営上の課題とリスクのことである。つまり、文化、習慣、言語、顧客の好み、物流システムなど、ビジネスの前提が、日本国内と違ったことが海外では多い。

※写真は、Dess et al(2006), Strategic Management: creating competitive advantagesの表紙と世界地図を逆さにしたもの。


【参考文献】

グローバル展開の理由、メリットとリスク:
グローバル展開についての理由づけは、戦略マネジメント関連の書物に共通して書かれている。戦略マネジメントのテキストは、自社の競争優位や価値をいかに創っていくかがメインテーマで、企業戦略からスタートし、事業戦略の外部分析から内部分析へと進み、グローバル/国際戦略、組織論、リーダーシップ論、イノベーション論へと展開する。

☆Dess, G.G., Lumpkin, G.T. and Eisner, A.B. (2006), Strategic Management: creating competitive advantages, 3rd Version, McGrow-Hill/Irwin

☆Pitts, R.A. and Lei, D. (2006), Strategic Management: buiding and sustaining competitive advantage, 4th Edition, South-Western Pub. Co.
 
☆Begley, T.M. and Boyd, D.P. (2003), The Need for a Corporate Global Mind-Set, MIT Sloan Management Review, Winter, pp.25-32
 
☆Yip, G. (1992), Total Global Strategy: Managing for Worldwide Competitive Advantage, pp. 1-29, Prentice Hall
 
☆Yip, G.S. (1989), Global Strategy: In a World of Nations?, Sloan Management Review, Fall, 31(1), pp.29-40

☆Kim, W.C. and Mauborgne, R.A. (1993), Making Global Strategies Work, Sloan Management Review, Spring, pp.11-27

◎BERI (Business Environment Risk Intelligence):
http://www.beri.com/

Getting Started with Country Risk Analysis 4: The World Bank Database (


●第36回「日本文化のグローバル化のかたち」

2008-10-08 02:09:09 | ■日本人はどこへ往く?

●第36回「日本文化のグローバル化のかたち」
~Misako Rocks! さんとRiyo Moriさんと~


今回は、肩のこりない話題で。

最近、英語で日本文化(マンガや原宿の文化など)を伝えている2人の女性を知った。

Misako Rocks!さんは、日本人の英語少女manga家(graphic novelist)で30才。
Riyo Moriさんは、2007年に、Miss Universeというアメリカンドリームをつかんだ22才の日本女性だ。

Misakoさんは、埼玉の警察官一家(麻薬捜査官の父と青少年犯罪を手がける母と警察官の兄)に育ち、法政大学英文科入学後、ミズーリ州カークスビル大学への交換留学(2年間)に。大学卒業後、人形師の仕事探しで、渡米しニューヨークへ。人形師への思いは適わず、また国際結婚もままならず、離婚後、起死回生のため、2~3才から馴染んできたmangaの企画をNYの出版社に提案し、米国での少女マンガ家としてスタートしている。

3冊のManga Booksは、
BIKER GIRLとRock and Roll Loveが9-14歳向けで、
Detective Jermain (Vol.1)が若者向けと区分されている。
The New York Timesでは、”アメリカで最初のオリジナルマンガ・アーティスト”だと呼ばれているようだ。

一方、
Riyo Mori(森理世)さんは、静岡生まれで、お母さんは、元ミスインターナショナル静岡県代表で、森育子ダンススタジオを主催している。

CNN MyCity_MyLifeで放映された内容は、Riyo Moriさんの生い立ち、東京(原宿や銀座)の魅力、ダンスを通して忍耐と幸せを若い人たちへ教えること、などが日本人 理世さんの人柄そのまま、語られていた。(なかなかよかったですよ!)

この2人に共通しているのは、
英語を使って、
日本以外の国(特に、米国文化圏)に
じかに、
日本文化を紹介していることだ。

一人は、グラフィックを通して、
一人は、世界向けのテレビをとおしてだ。

マンガのグローバル化、特に日本漫画の中国やアジア地域への普及の経緯は、海賊版による廉価な翻訳本によることがよく知られている。
Misako Rocks! さんの場合、メジャーな米国出版社からの米国デビュー、ひいてはグローバルデビューということになり、過去のJポップの展開(日本語オリジナルから各国言語への翻訳本)と少々違ったかたちとなる。

Riyoさんの場合は、
ミスユニバースといった肩書きのおかげで、日本文化の伝統的なものから最先端なものまで、日本人以外の人たちへ、彼女の目線で、日常レベルの日本文化の紹介に貢献している。

ミスユニバース受賞に伴って出てきた、文化の「齟齬」、つまり、「美の基準の違い」論争は、興味がつきない。

西欧的な容姿とマインド(自立した女性)vs. 奥ゆかしさと日本的美の基準などなど。

しかし、「美の基準の相違」という文化的な視点だけでなく、
美のビジネス、Miss Universeという組織のグローバル・マーケティングという観点からとらえると、これまた面白い。

美の価値が、地域や文化によって異なることはよく知られている。
スポーツと違って、同じルールの元でたたかうことがたやすくない。

現在MLB(メジャーリーグベースボール)、NBA(全米プロバスケットボール協会)をはじめ、スポーツ・ビジネスのグローバル化、つまり、米国スポーツの中にその国出身の選手を取り込むことで、彼らのスポーツの活動をその出身国へと拡大しようという考え方とこの美の祭典は同じ手法を取っていると考えた方が、理解しやすい。

つまり、世界一になった女性(選手)を目指して、次から次へと、新しい人材を育てていく、新しい人材の供給源となるという、美の人材育成、美の人材供給システム・ビジネスというとらえ方だ。

不動産王や投資家で有名なドナルド・トランプ氏は、モデル育成のエージェンシなどのエンタテインメント界の帝王でもあり、Miss Universeを放映するNBCテレビのパートナーでもある。

ともあれ、
この2人をはじめとする、

International Japaneseの人たちを応援していくのが、

クロスカルチャー時代の新しい精神のような気がしている。


※上の写真は、Misako Rocks! さん(左)と彼女の最新作「Detective Jermain (Vol.1)」、右はRiyo Moriさん(CNN MyCity_MyLife "Riyo Mori: Mistress of the universe"より)。

◎参考資料◎

[Misako Rocks!]
☆Misako Rocks!さんのWeb Page
http://www.misakorocks.com/
☆MySpace.comのページ
http://profile.myspace.com/index.cfm?fuseaction=user.viewprofile&friendid=375331793
☆Misako Rocks!: The Japanese artist imports 2-D cuteness and sexiness to the Midwest (including interview)
https://venuszine.com/articles/art_and_culture/591/misako_rocks
☆ニューヨーク・イベント情報誌「よみタイム」
http://www.yomitime.com/who/97_misako.html
[Riyo Mori]
☆CNN MyCity_MyLife "Riyo Mori: Mistress of the universe"
Broadcast on Sunday October 5 (1430GMT)
Video:
http://edition.cnn.com/CNNI/Programs/mycity_mylife/
Full Story:
http://edition.cnn.com/2008/TRAVEL/09/29/riyo.interview/index.html
☆Donald Trump Web Site:
http://www.trump.com/default.asp?
☆Miss Universe Pageant:
http://www.missuniverse.com/history/index.html
☆「美の基準の相違」論争:
森理世さん批判に思うこと(sokの日記プログ)
http://sok-sok.seesaa.net/article/44968645.html
上記プログへのコメント
http://sok-sok.seesaa.net/article/44968645.html#comment

◆第35回「世の中の変化のポイントを見極める」

2008-10-06 06:50:15 | ■日本人はどこへ往く?


◆第35回「世の中の変化のポイントを見極める」


前回に続き、
イノベーティブな世の中の変化を眺めてみよう。

では、この破裂的技術を見極めることはできないのか?
破裂的技術だけでなく、世の中を変えてしまうような契機、つまり、産業構造の変化、顧客の需要の変化を見極めるポイントは存在する。変化の兆しが認識されているとしても、企業自体が、そうたやすく変化に対応できないようなポイントがあるのだ。

バーゲルマンとグローブは、その契機となるところを

SIP(ストラテジック・インフェクション・ポイント。戦略的伝染ポイント)

と呼んだ。


SIPは、諸力のバランスが変化するところ、つまり、古いビジネスや競合関係から、新しいものへと変わっていく潮の目のことだ。

このポイントは、カーブがそれ以降劇的に変化し、決して元へ戻らないポイントだ。このSIPを見落とすと、企業は、新しい競争環境に適応できず、死の谷へと脱落していく。

SIPを見極めるためには、その兆候を示すシグナルが<<2つ>>ある。

1つ目は、
ポーターの5フォーシズの秩序の重要な変化だ。

ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)とは、「既存企業間の継続的な競争」、「新規参入の脅威」、「買い手の交渉力」、「売り手の交渉力」と「代替製品からの脅威」の5つの要因に変化が現れ、今までの分析では説明がつかなくなる。
第32回「グローバルな競争優位を築くには~M・ポーター、RBVと両者の統合理論」参照)

2つ目は、
戦略的不一致(ストラテジック・ディソナンス)だ。

戦略的不一致とは、
経営計画と実際の行動計画の不一致、
競争の基盤や質が変化していると気がつくこと、
社内のリソースや能力(コアコンピタンスを含む)に今までとは異なったものが必要になってきた、
という3つの不一致だ。

これらのシグナルを見落とさないようにするのが、経営者の一番目の役割と言える。

次に、戦略的不一致やSIPを上手に管理する方法として、
「建設的な激しい社内での議論」と
「経営者による絶え間ない意思決定の必要性」が挙げられる。

前者は、中間管理職の社員と腹を割って話そうと言うことだ。
彼らには、懲罰や圧迫を与えず、価値観の相違を気にせずに、データに基づき、自由に思うところを議論してもらう、ということである。

後者は、新しい戦略、新しい組織作りを頭に描きながら、議論のみに終始せず、結論を出す、ということになる。
トップダウン型の企業の場合、知識を持っている社員の意見に耳を傾けることがないので、できるだけ耳を傾けること。

意思決定がボトムアップ中心の企業の場合、目的なしに場当たり的な戦略をとり、社内のリソースを拡散することが多いので、これにも注意を要すること、が経営者の役割ということになる。


※冒頭の写真と図は、
Burgelman, R.A. and Grove, A.S.(2001), Strategy Is Destiny: How Strategy-Making Shapes a Company's Future, Free Press の表紙と
Burgelman, R.A. and Grove, A.S.(1996), Strategic Dissonance, California Management Review, Vol.38, No.2, Winter, p.11より引用した。


【参考資料】
◆Burgelman, R. A.and Grove, A.S. (1996), Strategic Dissonance, California Management Review, 38 (2), Winter, pp.8-27