★☆★第52回「グローバル化(グローバリゼーション)~文化面とドラッカーのとらえ方~」★☆★
さて、グローバル化(グローバリゼーション)について違った角度から検討したい。
グローバリゼーションとは、
「世界の経済や社会の発展的統合」(世界銀行)との定義があるが、
文化人類学者アルジュン・アパデュライの文化次元でのグローバリゼーションの捉え方と、
P.F.ドラッカーの経済・経営面での着眼点をレビューする。
◆ドラッカーのグローバル・エコノミーの捉え方
ドラッカーは、グローバル・エコノミーと国際経済(インターナショナル・エコノミー)を区別して考えている。
「国際経済」のセグメントでは、外国貿易(商品=モノの貿易に着目して、貿易収支が大事)および海外直接投資(FDI)を重視せよという。
一方、
「グローバルエコノミー」では、「グローバルな資金と情報の供給(フロー)」と「貿易や投資」に着目せよと説く。
この場合の貿易は、モノの貿易ではなくて、「サービス収支」のことである。さらに、投資は、戦略的提携のことを指している。
グローバルな資金フローの例は、こちら(「第1-1-1-9図:主要地域間の資金の流れの変化」<通商白書2010年版>)。
情報の供給とは、情報(コンテンツ)製造業/供給会社/供給者とその伝達機器のことで、
実例としては、会合、ソフトウェア、雑誌・本、映画・ビデオ、インターネットなどが挙げられ、
現代の知識情報化社会では、これらで構成される情報(生産)供給が、お金の供給を超えているとされる。
彼は、工業化社会では、国際経済の指標(貿易収支やFDI)が重要で、現代の脱工業化社会(知識情報化社会)では、
グローバル・エコノミーの指標(サービス収支や戦略的提携)に着眼点を置くことを強調したものである。
サービス収支とは、輸送、旅行、通信、建設、保険、金融、情報、特許の使用料などのサービスについて、
「海外へのサービス提供(輸出)」から「サービス購入(輸入)」を引いたもの。
*国際収支=経常収支+資本収支+外貨準備増減
*経常収支=貿易収支+サービス収支+所得収支+経常移転収支
*資本収支=投資収支+その他資本収支
そこで、
現在世界の国々の中で元気のある国々がどこかを、
ドラッカーの分析に基づいて検証してみた。
サービス収支が黒字の国々は、
【アジア地域】
台湾(2001年を除いて、1999年から2009年)
シンガポール(2005年以降)
インド(2002年以降)
タイ(2009年を除いて、2005年以降)
インドネシア(2007年を除いて、2004年以降)
【北米・中南米・大洋州】
カナダ(2002年以降)
メキシコ(2001年以降)
ブラジル(2000年以降)
【欧州】
ドイツ(2007年以降)
英国(2005年以降)
オランダ(2002年を除く、1998年以降)
ベルギー(2005年以降)
などとなっている。
もちろん、
日本と米国は、サービス収支はずっと赤字である。
日本(1996年6兆5311億円赤字、2010年1兆3897億円赤字)
米国(1996年2兆3457億円赤字、2009年5764億円赤字)
(日銀の1996年から2009年(日本は2010年)までの統計資料→国際収支の指標グラフによる)
ドラッカーの洞察力は、国の発展形態や盛衰が統計結果によって裏付けられているようだ。
◆グローバルな文化の5次元(フロー)(人類学者アルジュン・アパデュライ)
インド出身の人類学者アパデュライは、グローバリゼーションを以下の5つの次元(フロー)として捉えている。
1. エスノスケープ(ethnoscapes)
2. メディアスケープ(mediascapes)
3. テクノスケープ(technoscapes)
4. ファイナンススケープ(financescapes)
5. イデオスケープ(ideoscapes)
彼の-scapesは、造語であるが、ポスト国家社会の姿(ボーダレス国家とかトランスナショナル国家<国家を超越した国家>とも言う)を想像した世界として提示したもの。
エスノスケープ(ethnoscapes)は、難民から旅行者までを含む絶えず移動する民族(の世界)のことで、
メディアスケープ(mediascapes)とは、マスメディア的なシステムや商品(新聞、雑誌、映画など)によって生み出される世界で、グローバルレベルで情報配信がなされる。
テクノスケープ(technoscapes)とは、工業技術や情報技術の拡散によって支配される世界のことである。
一方、
ファイナンススケープ(financescapes)は、増加する金融資本によってもたらされる、国家を超越した経済関係を創りあげる世界のことで、
最後のイデオスケープとは、自由や民主主義、人権などの言説、政治的イデオロギーや社会運動の伝播に関連する世界(側面)を指す。
一市民の立場から観察すると、アパデュライのいう5次元文化の中では、エスノスケープとファイナンススケープが、文化のグローバリゼーション面で今後ますます注目されると思われる。
前者では、終身旅行者(PT: perpetual /permanent travelers)がすでに話題になったし、後者では、グローバル金融での個人資産の確保が必須事項となるためである。
日本の産業と言う観点から考えると、これまで培ってきた「テクノスケープ」による、新興国や先進国向けの工業技術のグローバル化などは、今後有力な競争優位になると思われる。
なお、現在北アフリカや中東での激しい民衆抗議行動は、イデオスケープとメディアスケープの世界が重なりあった、文化次元でのグローバリゼーションの一側面といえる。
ドラッカーの写真(右上)は、世界四季報から、
北アフリカ(リビア)の写真は、Live Blog - Lybia Feb 22 of Al Jazeera Englishから使用した。
【参考】
P.F. Drucker (1994) Trade Lessons from the World Economy, Foreign Affairs Vol 73, No 1, pp.99-108
P.F. Drucker (2005) Trading Places, The National Interest, Spring (Business & Economics) pp.101-107
Peter. F. ドラッカー(1995)「未来への決断-大転換期のサバイバル・マニュアル」pp.163-193 ダイヤモンド社
Appadurai, Arjun (1996) Modernity at Large: Cultural Dimensions of Globalization, Minneapolis and London: University of Minneapolis Press
さて、グローバル化(グローバリゼーション)について違った角度から検討したい。
グローバリゼーションとは、
「世界の経済や社会の発展的統合」(世界銀行)との定義があるが、
文化人類学者アルジュン・アパデュライの文化次元でのグローバリゼーションの捉え方と、
P.F.ドラッカーの経済・経営面での着眼点をレビューする。
◆ドラッカーのグローバル・エコノミーの捉え方
ドラッカーは、グローバル・エコノミーと国際経済(インターナショナル・エコノミー)を区別して考えている。
「国際経済」のセグメントでは、外国貿易(商品=モノの貿易に着目して、貿易収支が大事)および海外直接投資(FDI)を重視せよという。
一方、
「グローバルエコノミー」では、「グローバルな資金と情報の供給(フロー)」と「貿易や投資」に着目せよと説く。
この場合の貿易は、モノの貿易ではなくて、「サービス収支」のことである。さらに、投資は、戦略的提携のことを指している。
グローバルな資金フローの例は、こちら(「第1-1-1-9図:主要地域間の資金の流れの変化」<通商白書2010年版>)。
情報の供給とは、情報(コンテンツ)製造業/供給会社/供給者とその伝達機器のことで、
実例としては、会合、ソフトウェア、雑誌・本、映画・ビデオ、インターネットなどが挙げられ、
現代の知識情報化社会では、これらで構成される情報(生産)供給が、お金の供給を超えているとされる。
彼は、工業化社会では、国際経済の指標(貿易収支やFDI)が重要で、現代の脱工業化社会(知識情報化社会)では、
グローバル・エコノミーの指標(サービス収支や戦略的提携)に着眼点を置くことを強調したものである。
サービス収支とは、輸送、旅行、通信、建設、保険、金融、情報、特許の使用料などのサービスについて、
「海外へのサービス提供(輸出)」から「サービス購入(輸入)」を引いたもの。
*国際収支=経常収支+資本収支+外貨準備増減
*経常収支=貿易収支+サービス収支+所得収支+経常移転収支
*資本収支=投資収支+その他資本収支
そこで、
現在世界の国々の中で元気のある国々がどこかを、
ドラッカーの分析に基づいて検証してみた。
サービス収支が黒字の国々は、
【アジア地域】
台湾(2001年を除いて、1999年から2009年)
シンガポール(2005年以降)
インド(2002年以降)
タイ(2009年を除いて、2005年以降)
インドネシア(2007年を除いて、2004年以降)
【北米・中南米・大洋州】
カナダ(2002年以降)
メキシコ(2001年以降)
ブラジル(2000年以降)
【欧州】
ドイツ(2007年以降)
英国(2005年以降)
オランダ(2002年を除く、1998年以降)
ベルギー(2005年以降)
などとなっている。
もちろん、
日本と米国は、サービス収支はずっと赤字である。
日本(1996年6兆5311億円赤字、2010年1兆3897億円赤字)
米国(1996年2兆3457億円赤字、2009年5764億円赤字)
(日銀の1996年から2009年(日本は2010年)までの統計資料→国際収支の指標グラフによる)
ドラッカーの洞察力は、国の発展形態や盛衰が統計結果によって裏付けられているようだ。
◆グローバルな文化の5次元(フロー)(人類学者アルジュン・アパデュライ)
インド出身の人類学者アパデュライは、グローバリゼーションを以下の5つの次元(フロー)として捉えている。
1. エスノスケープ(ethnoscapes)
2. メディアスケープ(mediascapes)
3. テクノスケープ(technoscapes)
4. ファイナンススケープ(financescapes)
5. イデオスケープ(ideoscapes)
彼の-scapesは、造語であるが、ポスト国家社会の姿(ボーダレス国家とかトランスナショナル国家<国家を超越した国家>とも言う)を想像した世界として提示したもの。
エスノスケープ(ethnoscapes)は、難民から旅行者までを含む絶えず移動する民族(の世界)のことで、
メディアスケープ(mediascapes)とは、マスメディア的なシステムや商品(新聞、雑誌、映画など)によって生み出される世界で、グローバルレベルで情報配信がなされる。
テクノスケープ(technoscapes)とは、工業技術や情報技術の拡散によって支配される世界のことである。
一方、
ファイナンススケープ(financescapes)は、増加する金融資本によってもたらされる、国家を超越した経済関係を創りあげる世界のことで、
最後のイデオスケープとは、自由や民主主義、人権などの言説、政治的イデオロギーや社会運動の伝播に関連する世界(側面)を指す。
一市民の立場から観察すると、アパデュライのいう5次元文化の中では、エスノスケープとファイナンススケープが、文化のグローバリゼーション面で今後ますます注目されると思われる。
前者では、終身旅行者(PT: perpetual /permanent travelers)がすでに話題になったし、後者では、グローバル金融での個人資産の確保が必須事項となるためである。
日本の産業と言う観点から考えると、これまで培ってきた「テクノスケープ」による、新興国や先進国向けの工業技術のグローバル化などは、今後有力な競争優位になると思われる。
なお、現在北アフリカや中東での激しい民衆抗議行動は、イデオスケープとメディアスケープの世界が重なりあった、文化次元でのグローバリゼーションの一側面といえる。
ドラッカーの写真(右上)は、世界四季報から、
北アフリカ(リビア)の写真は、Live Blog - Lybia Feb 22 of Al Jazeera Englishから使用した。
【参考】
P.F. Drucker (1994) Trade Lessons from the World Economy, Foreign Affairs Vol 73, No 1, pp.99-108
P.F. Drucker (2005) Trading Places, The National Interest, Spring (Business & Economics) pp.101-107
Peter. F. ドラッカー(1995)「未来への決断-大転換期のサバイバル・マニュアル」pp.163-193 ダイヤモンド社
Appadurai, Arjun (1996) Modernity at Large: Cultural Dimensions of Globalization, Minneapolis and London: University of Minneapolis Press