Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

◆第32回「グローバルな競争優位を築くには~M・ポーター、RBVと両者の統合理論」

2008-08-31 08:53:18 | ■日本人はどこへ往く?

◆第32回「グローバルな競争優位を築くには~M・ポーター、RBVと両者の統合理論」

前回では、加速されるグローバル経済のただ中で、企業がどういう経営資源に注意をしなければならないか、について簡単に説明を加えた。

今回は、競争優位一般について、

-古典的なM・ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)とジェネリック(一般基本)理論
-ポーターを乗り越えようとするRBV(リソースベース理論)
-上記の統合理論

そしてこれら両理論の前提ともなっている
-シュムペーターの創造的破壊・イノベーション理論
を概説しよう。

まず、競争優位の定義を、P・コトラーの言葉を借りて述べておくと、

「競合企業が対抗できない、あるいは、対抗しようもない一つかそれ以上の方法で業績を上げる能力のこと」

コトラーによれば、持続可能な競争優位は、それほど多くはなく、どんな競争優位も顧客にとっては、顧客優位性として捉えられている。例えば、企業が顧客に対して、競合企業より早く、何かを顧客に提供したとしても、顧客がスピードに価値を置かないとすれば、それは、顧客優位性とはならないであろう。企業は、この顧客優位性を構築することに集中しなければならない。その時に企業は、高い顧客価値と顧客満足を提供できる。このことが顧客の高い購買率につながり、結局、企業の高い収益性へと結びつく、と定義している。

まず、競争優位の内容で、古典的かつ有名な、M・ポーターの5フォーシズとジェネリック理論をしっかり掴んでおこう。

ポーターの5フォーシズ(5つの競争要因)モデルとは、ある産業内の潜在的な利益の極大化を決定する要因のことで、「既存企業間の継続的な競争」(中心になる一つ目のフォース=影響力や多大な力を持つ要因)に対して、その周りから影響を与える4つの要因を分析している。残り4つの要因とは、「新規参入の脅威」、「買い手の交渉力」、「売り手の交渉力」と「代替製品からの脅威」である。一つずつ見てみよう。

「既存企業間の継続的な競争」とは、
その競争の範囲(競合関係)のことを指し、もしこの競合関係が弱いならば、企業は価格を上昇させ多大な利益を享受できるし、もし、この競合関係が強いときは、価格競争に陥る可能性がある。このように、激しい競合関係がある場合、利益獲得に極めて強い脅威となる。

「新規参入の脅威」とは、参入するためのバリアが高ければ高いほど、新規参入の脅威が低くなるということだ。新規参入のバリア(障壁)とは、例えば、ブランドに対するロイヤルティ、絶対的なコストでの優位性と規模の経済性、スイッチング・コスト(ある製品/サービスから他の製品/サービスへ乗換えるコスト)、政府の規制などが考えられる。

「買い手の交渉力」の買い手とは、
消費者であったり、卸売業者であったり、小売業者だったりする。買い手が強い立場にあるとき(買い手の交渉力が強い場合)、仕入れ価格を下げさせたり、もっとよいサービスを要求したりできる。これは、競争上の脅威になる。他方、買い手の立場が弱いときは、供給業者は、納入価格を上げて利益を確保することができる。従って、買い手が納入業者に要求ができるかどうかは、かれらの力関係にかかっている。

つまり、買い手が極めて少なく、大量に発注するときは、価格を下げることが可能である。また、その業界が多くの、比較的小さな販売業者から成り立つ場合、その販売業者は買い手に圧力をかけることができない。その代わり、買い手はたぶん、仕入れの会社間を容易く渡り合い、販売競争は激しくなるだろう。

「売り手の交渉力」とは、
売り手が強い立場にあるときは、売り手が価格を上げたり、品質を下げたりすることにより、買い手の利益を圧縮することができる。そのような脅威だ。他方、売り手が弱い立場にあるとき、価格を下げられたり、品質の向上を求められたりする。売り手が強い立場にある(売り手の交渉力が強い場合)とは例えばこういうことだ。売り手が寡占のとき、これら売り手の競争関係は低下する。もし売り手が競合しないなら、マーケットシェアを増加させるために、価格競争に陥ろうとはしない。これは、例えば、携帯電話の基本ソフトを考えれば理解しやすいだろう。マイクロソフトと英Psion社がこのソフトウェアの主要開発会社だ。

「代替製品からの脅威」とは、
同じ産業内とは限らず、既存の製品/サービスと同じ機能を持つ製品/サービスがあるとするならば、それらが現実的な代替品になる可能性があるということだ。現実的な代替品が存在するとき、それら代替品は、既存の産業が値付けする価格に上限を設定することができる。何故なら、ある価格を超えると消費者は、その代替品/サービスを考えるからである。ビジネスでの移動手段としての、新幹線と航空機利用を考えてみれば分かりやすい。

更に、ポーターは、これら5フォーシズ分析を活用し、基本的な事業戦略の枠組み(ジェネリック理論)を開発した。ポーターのジェネリック理論は別名、ポジションアプローチと呼ばれている。業界を一単位として分析をスタート。コスト・リーダーシップ、差別化、集中(コスト集中および差別化集中)の基本3戦略を使って、自社が排他的利益を得ることのできる位置「ポジション」の確立を目指すという考え方だ。このポーターの理論は、メイソンやベインの理論を発展、集大成したもので、日本企業に全面的に支持され、特に、1980年代の日本企業の成功要因の一つになったと考えられる。

このポーターの考え方に対して、イノベーションの役割が看過されている。ゼロサム・ゲームが前提となっている(供給業者、買い手、ライバルとの協力によるパイの拡大が見落とされている)。業界構造の特徴よりも、個々の企業の利益が重視されている。業界の定義が困難である、などの弱点の指摘がなされた。

一方、RBV(リソースベース)理論は、ポーターのポジショニングアプローチと違ったアプローチを取る。

つまり、ポーターの言うことは理解できる、しかし、現実問題として、一般の企業では、既存のリソース(資源。ブランド、パテント、顧客や従業員の信頼など)や能力に制限があり、その選択は自ら制約される。また、新しいリソースや能力を構築する速度にも制約がある。企業は、それぞれ異なった性格をもち、リソースの流動性は制限されており、多くのリソースや能力は、即座に構築できないし、マーケットに投入できるものではない。この前提から、自社内のリソースや能力開発に集中することが、競争優位の源泉になる、との考え方へと展開する。かれらは、このリソースや能力のことを、ディスティンクティブ・リソース/能力(他から区別される独自の資源/能力のこと)と呼ぶ。競争優位の幅を広げるためには、これらリソース/能力が「価値あるものか」と、「稀(他の企業にないもの)」とを問うことが必要であり、競争優位の持続性を保つには、これらリソース/能力が「たやすく真似されないものか」、そして「簡単に代替されるものか」との疑問を発することが、ディスティンクティブ・リソース/能力の発見/維持につながっていく。

このRBV理論は、チェンバレンの流れを汲み、J・バーニーになどにより、実際のエクセレント企業の業績からも実証がなされ、プラハラードとハメルのコア・コンピタンス(自企業が独自にもつ能力。例えば、ソニーのウォークマンなどに見られる「小型化技術」、ボルボの自動車安全技術、ホンダのエンジン技術など)へと展開し、競争優位の大きな意味を持つものへと受け継がれている。現代マーケティングの大御所と言われている、P・コトラーもどちらかと言うと、RBV理論を重視している。

ジェネリック理論とRBV理論の統合理論も登場している。この統合理論は、大別するとハンフリーのSWOT分析(強み・弱み・機会・脅威のマトリックスによる分析)と、プロセス毎により両理論を適用しようという、2つがある。前者は、コンサルティングの際、頻繁に利用される分析手法であるが、もちろん限界もある。SWOT分析の限界とは、いかに競争優位を獲得するかを示すことができないことだ。後者は、主に企業内部向けのリソース・能力から企業の活動(プロセス)までRBV理論を活用し、その後の製品属性の分野にポーターのジェネリック理論を応用し、顧客価値(WTP:顧客がよろこんで支払う価格のこと)の満足を得ようとの理論である。

更に、自社のリソースや能力不足に対処する方法としては、他社のリソース/能力を積極的に確保するための、M&A、戦略的提携が有効であり、内部リソース開発、ダイナミック能力開発などの方法が推奨されている。

※写真は、マイケル・ポーターのCompetitive strategy: techniques for analyzing industries and competitorsと5フォーシズから。


【参考】

●M・ポーターの5フォーシズとジェネリック(一般基本)理論:
Porter, M.E. (1980), Competitive strategy: techniques for analyzing industries and competitors, Free Press
マイケル・ポーター(1995)「[新訂]競争の戦略」土岐坤、中辻萬治、服部照夫/訳、ダイヤモンド社 "

Porter, M.E. (1983), Industrial Organization and the Evolution of Concepts for Strategic Planning: The New Learning, Managerial and Decision Economics, Vol. 4, No. 3, Sep., Corporate Strategy

Porter, M.E. (1985), Competitive advantage: creating and sustaining superior performance, FreePress
マイケル・ポーター(1985)「競争優位の戦略:いかに高業績を持続させるか」土岐坤、中辻萬治、小野寺武夫/訳、ダイヤモンド社

●コトラーの競争優位の定義:
Kotler, P. and Keller, K.L. (2006), Marketing management, 12 ed., Pearson Prentice Hall, p.150

●RBV(リソースベース理論)
Barney, J.B. (1986), Types of Competition and the Theory of Strategy: Toward an Integrative

Framework, Academy of Management Review, 11(4), pp.791-800

Barney, J.B. and Zajac, E.J. (1994), Competitive Organizational Behavior: Toward an Organizationally-Based Theory of Competitive Advantage, Strategic Management Journal, Vol. 15,

Special Issue: Competitive Organizational Behavior, Winter, pp. 5-9.

●プラハラードとハメルのコア・コンピタンス
Prahalad, C.K. and Hamel, G. (1990), The Core Competence of the Corporation, Harvard Business Review, May-June, pp.79-91

●SWOT分析の限界
Dess, G.G., Lumpkin, G.T. and Eisner, A.B. (2007), Strategic Management: creating competitive advantages, 3rd Version, McGrow-Hill/Irwin, p. 78

●ダイナミック能力開発
Eisenhardt, K.M. and Maratin, J.A. (2000), Dynamic Capabilities: What are They?, Strategic Management Journal, 21, pp. 1105-1121
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●第31回「加速されるグローバリゼーションのモードと情報の国籍」

2008-08-25 05:20:26 | ■カルチャからの解放

●第31回「加速されるグローバリゼーションのモード(形)と情報の国籍」


企業の経営資源の5要素(国内)は、ひと、モノ、カネ、情報、そして技術と言われています。

ひとは、人的資源管理(古くは人事労務管理)を指し、モノは、商品やサービスそのもの、カネは財務管理のことで、情報は、情報の流れやそのための手段となるコンピュータ/ネットワークの管理を意味し、技術は商品やサービスを生み出すシステムを示します。

さて、グローバリズムの経営資源の要素になるものを、この経営資源の5要素に当てはめて見ますと、

グローバル企業経営の要素は、

ひと=国際人的資源管理
モノ=商品自体や商品の売り方(グローバル・マーケティング)
カネ=国際会計
情報=取引情報の輸出入とインフラとしてのコンピュータ/ネットワーク
技術=グローバル商品開発や経営のオペーレーティング・システム

と言えるでしょう。

以下に各項目を簡単に説明しましょう。

◆ひと:
国際人的資源管理では、組織文化(組織風土)を以下の4つに分類する。エスノセントリック(EC:自国中心主義)、ポリセントリック(PC:ホスト=現地中心主義)、レジオセントリック(RC:地域中心主義)、そしてジオセントリック(GC:地球主義)の4つだ。

エスノセントリック(EC)は、日本企業に特に顕著に見られるもので、自国民(日本人)を中心に、海外子会社を組織化する企業組織だ。ポリセントリック(PC)とは、現地の従業員を中心に組織を形成する企業で、海外展開に成功している韓国企業の雇用戦略に見られるものだ。レジオセントリック(RC)は、社員がそれぞれの国を離れて、ある特定地域に移動する形だ。最後のジオセントリック(GC)は、多国籍企業に見られるように、世界規模で展開されるもので、社員の能力が中心で、国籍はあまり問題にされない。

また、国際企業の社員は、大別すると3種類ある。現地(ホスト)国社員(HCN)、本国出身社員(PCN)、そして第3国社員(TCN)だ。ホスト国社員とは、現地出身の社員のことで、第3国社員とは、ホスト国でも本国出身でもない第3国出身の社員のことだ。


◆モノ:
商品自体や商品の売り方、つまりグローバル・マーケティングのことで、世界を同じ商品で売る方法(コカコーラなど)や、国や文化によって商品のパッケージやイメージなどを変える「ローカリゼーション・マーケティング」(現地化、例えばカリフォルニアすしなど)の方法が、よく言われます。

また、日本発祥の文化/スポーツ(例えば、マンガやJudo)もグローバル商品と言えるでしょうし、その普及形態は、グローバル・マーケティングの対象となるでしょう。

◆カネ:
これは、円が海外での輸出入の基軸通貨になればいいのですが、今のところ、ドルやユーロなどがその位置を掴んでいるようです。従って、グローバルなカネの管理については、為替レート管理や現地国の税金、英文会計制度が中心になるでしょう。

税金関連では、法人税、知的財産権課税および移転価格(トランスファー・プライシング)の問題がある。

法人税については、企業の性格として、低い法人税率の国へとシフトしていくのは自然の流れだ。但し、タックスへイブン(軽課税国または地域、租税回避地)については、日本の租税特別措置法や法人税法では、法人税率が25%以下の海外の国・地域をタックスヘイブンとして、4つの適用除外基準を満足しない限り、タックスヘイブンにある子会社の利益を日本の親会社の利益と合算して課税することになっている。従って、相手国の法人税が低ければ低いほど良いというわけではなく、この点注意が必要だ。


◆情報:
情報の流れから言うと、情報の輸入と輸出、特に情報輸出時での表現方法が大事で、これは、日本語的なあいまいな表現ではなく、明示的な英語的表現、つまり、ホールの言う「ロー・コンテキスト社会」でのコミュニケーション方法に移行する必要がある。ロー・コンテキスト社会とは、アメリカ、ドイツ、スイス、北欧(アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド)が典型的な国で、大量の情報を、はっきりとした言葉で表現しようというものだ。
(参照:当ブログの第24回「クロスカルチャー・マネジメント理論と社会/ビジネスへの応用(その一)」)

更に、情報面で大事なのは、「情報の国籍」あるいは「情報のID」だ。これは、情報ソースを確認することで、その情報の信頼度(確実度)、鮮度、拠って立つところのバイアスを知っておくことが必要なためだ。特に、政治、経済、外交面での情報スクリーニング(情報選別)は、的確な意思決定を行うためには、大切な活動だ。

◆技術/システム:
経営のオペーレーティング・システムのことで、工業化社会においての企業戦略は、3S、つまり、規模の経済性(Economy of Scale)、範囲の経済性(Economy of Scope)、そしてスピードの経済性(Economy of Speed)などが言われている。実行の事業戦略レベルでは、それら経済性を実現するシステムとしての、例えばJIT(ジャストインタイム)などが含まれる。

メガトレンド面では、知識情報化社会の次に来る第4の波、「コンセプチュアル社会」(ダニエル・ピンク)では、活動の中心が、「組織」から「個人」へシフトするために、組織管理から個人のコンピテンシー(知識+スキル+態度)管理が主流になる。コンピテンシー管理では、以下の6つの感覚開発が重要になる。

1.デザイン能力、
2.情緒を育む物語能力(物語傾聴と物語創作)、
3.シンフォニー能力、つまり一見無関係なものを結びつける総合化・統合化能力
  (分析や特定の回答を与えるのではなくて)、
4.エンパシー能力(他人の感情や問題への理解能力、共感。シンパシー「同情」
  とは違う、EQやCQの問題になる)
5.プレイ(遊び。冗談や笑いの効用を重視する)
6.人生の意味を問う。

である。
(参照:当ブログ●第18回「第4の波『コンセプチュアル社会』とハリウッドの世界戦略~”右脳流出の時代へ?”」)

左脳に基づく第3の波(知識情報化社会)は、直線的、論理的、分析的な意味づけ(理由付け)が中心になっており、それに続く第4の波と言われるコンセプチュアル社会は、創造力、エンパシー(他人の感情や問題への理解能力)、直観力(第3の波で重宝された事実分析能力よりもむしろ感情に基づいた理解力や認識力)といった、右脳による能力を中心としている。

ここで見落とされやすいが、
非常に重要なことは、

西欧社会、特に、アメリカ社会が第3の波を主導し、直線的、論理的、分析的な意味づけ(理由付け)を中心に、(伝統的な)人材開発を行ってきたのに対し、日本社会では、特に、論理的な思考方法に慣れ親しんで来ていない、ということだ。日本を取り巻く諸外国が、日本経済の拡大に伴って、日本的経営のよさを十分に研究し、うまく取り込んできた(チームプレイの重要性など)間に、日本の組織では、西欧的な思考方法のよいところ、特に、クリティカル・シンキングの効果を取り入れてこなかったことだ。グローバルに展開し、意思疎通を図るには、このクリティカル・シンキングは基本中の基本だと思われる。
(参照:当ブログ「第23回『人間関係能力重視社会と専門能力優先社会~日本企業の慣習と社員の価値判断~』と第4回『批判するって、どういうこと?(健全なる批判精神のかたち)』)

最後に、
これら企業経営の要素の牽引役として、

「グローバル競争優位」が言われている。

グローバル競争優位には、

1.伝統的なM・ポーターの「ダイヤモンド理論」

2.イノベーション(革新)
がある。

M・ポーターの「ダイヤモンド理論」は、今なお有名かつ有効だ。

国や特定地域、立地の競争優位のことだ。つまり、国際競争力に影響を与える要因を分析したものだ。(冒頭の図を参照のこと)

これは、ベースボール場でのダイヤモンドと同じように、グローバルな競争力(投手)をダイヤモンドの中心に、それを取り巻き挟むように、競争力に影響を及ぼす4要因を分析したものだ。このダイヤモンド理論は、ある特定の地域(例えば、国)に根ざした企業が、なぜ、ある特定の分野で、継続してイノベーションやアップグレードを達成できるのかを説明する手助けになるからだ。それら4要因は、「要素(インプット)条件」が一つ、「需要条件」が二つ目、「企業の戦略・構造・競合企業」がその三、そして「関連サポート産業(クラスター、ネットワーク)」だ。また、ダイヤモンドを取り囲む4要因の張力がその強固さを示すことも忘れないようにしよう。この4要因を強力にサポートする「政府(自由放任、財政的援助)」と「機会(歴史的な事件)」の2要因が示されている。

次に、グローバル競争優位の重要な源泉である、イノベーション(革新)について検討しよう。

イノベーションについては、シュンペーターが詳しい。日本の産業界では、イノベーションの重要性を早くから認識していたが、これは、経済発展の理論やビジネス・サイクル(景気循環)理論を唱えていたシュンペーターの影響が強く感じられる。

シュンペーターは、イノベーションを「新しい組み合わせ(新結合、生産的結合)」という言葉で定義しているが、以下の5つがそうだ。

-新製品の導入
-既存製品の生産に新技術の投入
-既存製品の新市場開拓
-原材料の新しい供給源の獲得
-産業の再編成の実行(イノベーターの独占的地位の構築や打破による)

これらのイノベーションによる絶え間ない「創造的破壊」の繰り返しが、資本主義経済発展の本質的なものと捉えられている。


※写真は、P.コトラー<Kotler, P. (2000), Marketing Management, Millennium ed., Prentice Hall>(左)とM.ポーター<Porter, M.E. (1990), The Competitive Advantage of Nations, New York: Free Press>の表紙、およびPorter, M.E.(2000), Location, competition, and economic development: Local clusters in a global economy, Economic Development Quarterly 14 (1): p.20の図より


【参考】

●シュンペーターのイノベーション理論

最初、シュンペーターのイノベーションを調べはじめたとき、日本語の翻訳が、

新結合(イノベーション)とは何か。
1. 新しい財貨、(あるいは新しい品質の財貨の生産)
2. 新しい生産方法の導入
3. 新しい販路の開拓
4. 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
5. 新しい組織の実現(たとえばトラストの形成や独占の打破)

となっていた。

ほとんどの引用が、どうも、岩波文庫版『経済発展の理論』塩野谷祐一, 中山伊知郎, 東畑精一訳, 1977(1912年ドイツ語原文からの翻訳)がソースになっているようだ。

しかし、財貨とは何か、新しい組織とは何か、がよく分からなかった。財貨とは、「貨幣または有価物、人間の欲望を満足させる物質(広辞苑第五版)」。
新しい組織とは、マトリックス組織やその他の組織構造を指すのかな、と想像しながら、シュンペーターの英訳本を調べたところ、上記のような翻訳に到達した。
下記の文献を参考にした。

Schumpeter, J.A. (1928), The Instability of Capitalism, The Economic Journal, 38(151), September, pp. 361-386

Schumpeter, J.A., Yntema, T.O., Chamberlin, E.H., Jaffé, W., Morrison, L.A. and Nichol A.J. (1934), Imperfect Competition, The American Economic Review, Vol. 24, No. 1, Supplement, Papers and Proceedings of the Forty-sixth Annual Meeting of the American Economic Association, March, pp. 21-32

Schumpeter, J.A. (1935), The Analysis of Economic Change, The Review of Economic Statistics, 17(4), May, pp. 2-10

Schumpeter, J.A. (1947), The Creative Response in Economic History, The Journal of Economic History, 7(2), Nov, pp. 149-159

Schumpeter, J.A. (2005), Development, Journal of Economic Literature, Vol. XLIII, March, pp. 108–120

Schumpeter, J.A. (1975), Creative Destruction, in Capitalism, Socialism and Democracy, New York: Harper, [orig. pub. 1942], pp. 82-85
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◆第30回「Samurai JAPAN と 情報の非対称性」

2008-08-11 04:25:03 | ■カルチャからの解放

◆第30回「Samurai JAPAN と 情報の非対称性」


久しぶりに、意欲的な番組を見た。

NHK Worldの Samurai Spirit(2008年8月9日放送)だ。

「青い目の太郎冠者(ドナルドキーン)」ならぬ、
blue eyed Samuraiこと、ニコラス・ぺタスが剣道のリポーターとなり、
東海大学での剣道初体験、剣道の歴史、ニュージーランド出身で在日20年の六段錬士のアレックス・ベネット氏とのインタビュー、そして、練馬剣友会で範士八段新堀強氏とのお手合わせなどが演出された。

デンマーク生まれのペタス氏は、極真空手の大山倍達最後の内弟子といわれ、K-1 JAPANの王者(2001年)だった格闘家だ。
日本の武道を、沈黙ではなく、明示的な英語で語ってくれることを期待したい。

日本の伝統的武道を見つめるのにいい番組が、国内で見られないというのは、
これまた、変な国だなあと思った。

なお、3年おきに開催されている世界剣道選手権大会では、2006年に男子団体選手権<16ケ国参加>で、日本はアメリカに初めて敗退している。東京オリンピック以後、柔道がJudoへ変わっていったように、剣道からKendoへ世界の流れもチェンジしている。世界のKendoへ歩むためには、適正なクロスカルチャー・マネジメントに着手しなければならない。
(参考:日本剣道連盟 http://www.kendo.or.jp/wkc/sokuho.html )


さて、
グローバリゼーションのスピードが加速されている中で、日本の文化や主張を世界へ発信することは、今後ますます必要になってくるが、現実は、全く、逆に推移している。馴染み深かった、日本発の英文雑誌が休刊、廃刊へと続く中で、日本と世界の「情報の非対称性」に思いを致さざるを得ない。

「情報の非対称性」とは、
『市場では売り手と買い手が対峙しているが、一般には売り手が保有する情報と買い手が保有する情報の間には大きな格差がある。例えばある商品を取引する状況を想定したとき、売り手は商品の品質に関する豊富な情報を所持している。他方、買い手は商品の品質に関する情報をほとんど所持しておらず、売り手からの説明に依存するしかない。買い手は、商品の品質に関する情報について、商品を購入するまで完全には知りえない。そのため、売り手の説明に、買い手が納得できないという状況もしばしば発生し得る。』(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)
例えば、商品取引の参加者間で保有情報が対等ではなく、あるグループが情報優位者に、他方が情報劣位者になっている状況のことを、「情報の非対称性」という。

日本には、情報の非対称性が数あるように思われる。
一つは、政策立案者やメディアと国民の間、
二つ目は、日本と日本以外の世界との間の情報格差だ。

一つ目の日本国内に関しては、
政策立案者/メディアが情報優位者の立場にあり、国民が情報劣位者ということになる。
情報開示法があっても、まだまだ、かなりの程度で情報優位者の立場は変わりない。

ただ、ゲイツ以前(1985年)には、TVや出版物を介してしか、知識人やオピニオンリーダーの意見に触れることが出来なかったが、今は違っている。ある分野では、既存の大手メディア(新聞やTV)よりも、ネットでの情報の方が量/質ともに高いことがあり、世界のどこにいても、国民自ら日本を考えるのに役立つソースだ。

例えば、
現在、議論がなされている移民策に対して、
・経済学で考えれば、 
『しかし、労働者を入れなくても、労働を輸入することはできる。様々な製品は技術と資本と労働で作られる。そして、労働をより多く含んだ製品とあまり含んでいない製品がある。労働をより多く含んだ製品を輸入すれば、それは労働を輸入しているのと同じことである。』
『日本で生産性を高めるという議論をするとき、既存の産業の生産性をいかに高めるかという議論になることが大部分である。しかし、アメリカの生産性の高さは、生産性の低い産業を輸入に置き換えることによってもたらされている面が大きい。』(大和総研 原田泰氏)
第64回「輸入拡大こそ人口減少対策の妙案」(2007/10/11)
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/harada.cfm?i=20070928c3000c3
第71回「円は安すぎるのか」(2008/05/12)
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/harada.cfm?i=20080508c3000c3&p=1

また、
・経済分野では、「アジアで最も豊かな国」から転落した日本」のことを、
「IMF(国際通貨基金)がまとめた調査によると、2007年のシンガポールの一人あたりのGDP(国内総生産)が日本を抜くことが明らかになった。シンガポールは3万5000ドルを超えたのに対して、日本は3万4300ドルにとどまっている。これまで半世紀にわたってアジアで1位をキープしていた我が日本だが、ついに2位に転落してしまったわけだ。」(『産業突然死』の時代の人生論:経営コンサルタント 大前 研一氏(2008年7月16日)第137回「アジアで最も豊かな国」から転落した日本
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/140/ )

・社会・技術面では、
『2015年頃に国内消費縮小の危機をチャンスにかえる方法、さらにグローバル市場の拡大という好機を取り込む方法を提案します。』
日本企業のグローバル化は、いかにすれば成し遂げられるのだろうか?」
2015年の日本:「見えざる」大家族化と脱「ガラパゴス化現象」
野村総合研究所 吉川尚宏 (2008年3月)
http://www.nri.co.jp/souhatsu/research/2008/pdf/rd200804_01.pdf があり、

・世界のトレンド分野では、
『程近智は、5つのメガトレンドをこう説明する。1.新しい消費者の誕生,2.優秀な人材の獲得競争,3.新興イノベーション勢力の出現,4.資源と持続可能性を巡る争い,5.資本の新たな流れ、だ。』
(ITpro SPECIAL 『SaaSが透過する「日本IT界の脆弱性」見えてきた課題をいかに克服するか』第15回および第16回:多極化する世界のメガトレンドとは?(アクセンチュア社長 程近智インタビュー)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/as/saas/knowledge/15.shtml
http://itpro.nikkeibp.co.jp/as/saas/knowledge/16.shtml(後編)) などなど。

二つ目の、日本と世界との間の情報格差だ。
つまり、情報の流れ、特に輸入情報の質的評価と輸出情報量の拡大のことだ。
輸入情報の評価については、メディアの役割、日本の知識人の役割が大事になる。
その役割とは、単なる翻訳ではなくて、建設的な批判/評価を加えるところにある。
また、グローバル化への基礎教育、特に、クロスカルチャー教育や世界英語教育への遅れを自覚し、奮発しなければならないだろう。
日本発の情報量拡大については、現在、絶望的な状況かもしれない。

最後に、

NHK Worldのニュースについて、2言。

最近、海外特派員の基準が、PCN(日本人記者)から、HCN(現地国記者)に変わったようだ。やっと、NHKもエスノセントリック(自国中心主義)の組織文化から、ポリセントリック(現地中心主義)の文化へ脱皮したようだ。

しかし、2言目は、とても先進国の映像とは思えない、海外日本人を小ばかにした貧弱な国際放送のことだ。というのは、Newsの中で頻繁に映像が途絶えることがある。これは、放送権の都合で、海外で活躍する日本人のNews映像(スポーツ)が見られないのだ。まるで、開発途上の国の静止画広告や軍事独裁国のプロパガンダの静止画面を見るようで、これもまた、国際放送の貧しさを再認識させてくれる事実だ。

※上記写真は、ニコラス氏のブログ、NHK Worldから使用した。

◆NHK World:
http://www.nhk.or.jp/nhkworld/english/tv/genre/japaneseculture.html

◆Nicholas Pettas Blog:
NHK, Samurai Spirit ! (July 30, 2008)
http://nicholaspettas.blogspot.com/2008/07/nhk-samurai-spirit.html

one blue eyed samurai to another blue eyed samurai (July 20, 2008)
http://nicholaspettas.blogspot.com/2008/07/one-blue-eyed-samurai-to-another-blue.html

NHK で剣道。。。Kendo with NHK TV.(July 15, 2008)
http://nicholaspettas.blogspot.com/2008/07/nhk-kendo-with-nhk-tv.html

ニコラス・ペタス(出展:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B3%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%9A%E3%82%BF%E3%82%B9

◆練馬剣友会
「NHK国際放送 サムライ・スピリッツ 撮影収録」(2008年07月11日)
http://www.nerimakenyuukai.net/archives/003567.html#more

◆第13回世界剣道選手権大会 日本対米国 (2006年 Youtube)
日本では見られなくなった、二刀流との対決も興味深い。
Part1/5
http://www.youtube.com/watch?v=0HHYAlb1P-I&feature=related
Part2/5
http://www.youtube.com/watch?v=DV_1dj9JlbE&feature=related
Part3/5
http://www.youtube.com/watch?v=ocLl-cfTuCQ&feature=related
Part4/5
http://www.youtube.com/watch?v=Itks3p3ZcYc
Part5/5
http://www.youtube.com/watch?v=b1lX0IVglC8&feature=related
コメント
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