Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

第54回「『毛遂自薦』と『出る杭』~世界のマインド、日本人のマインド」

2012-05-05 23:33:53 | ■ことばの背景(英語、中国語、日本語の備
第54回「『毛遂自薦』と『出る杭』~世界のマインド、日本人のマインド」☆◇

最近ビジネスの傍ら、中華系の人と話す機会が多く、故事成語に触れることがある。
今回特に感心したのは、毛遂自薦(マオスイズジエン)という成語です。

なぜこの成語に感心したのかと言えば、
メルボルンで、大学院入学への英語勉強に励んでいた当時、
担当の英語教師から、最初から何度もなんども、
「voluntary, voluntary!」と叫ばれた記憶があるからです。
voluntaryとは、ご存じのように、
「自ら進んで、もっと積極的に話しなさい」
ということです。

その後大学院でのクラスでも、欧米のビジネスでも、
このvoluntaryという言葉は、西洋の至極当たり前のマインドだと
知ることができました。

さて、
毛遂自薦(maosuizijian マオスイズジエン)とは、
「(困難な問題の解決を)自ら買って出る(自薦する)」(愛知大学中日大辭典)
という意味で、このような行為は、中華圏では高く評価されています。

毛遂自薦の故事は、戦国七雄時代(秦・楚・斉・燕・趙・魏・韓)に、秦に攻め込まれ
た趙の王平原君が、楚に救いを求めに行った折り、趙の食客(特別な技術・才能をもち、
客として召し抱えられた人)の毛遂が自ら名乗り出て、楚王との交渉を成功させ、秦と
の戦いに勝利をおさめたという話です。(『史記』平原君虞卿列伝)

一方、日本では、
自薦という行為はマイナスイメージが強く、もし自己アピールをし過ぎると、「出る杭
は打たれる」ということになり、
そうならば、静かに、
「打たれないように目立たないようにしよう」という社会的態度が一般的になります。
また、「能ある鷹は爪を隠す」といった沈黙礼賛の文化となる訳です。

英語ではどうか?
「出る杭は打たれる」の英訳を調べると、

Great winds blow on high hills.(高い山の頂上は風が強い)
The highest branch is not the safest roost.
(最も高い所にある枝が、巣をかけるのに最も安全とは限らない)

というのがあります。
至極当然な諺で、日本人が抱くような特別な意味ではない。

そこで
Voluntaryの精神や毛遂自薦の評価を考えると、
欧米や中国などの社会では、
自ら進んでものごとを実行することが推奨される。

一方、
日本文化では、まだまだ、周りの空気を読むことに専心し、
積極的に自ら進んでものごとをやることには
プラスよりもマイナスのイメージがあり、社会的な評価も高くない。

グローバルな時代に、
この世界のマインドと
日本人のマインドの差が
ますます乖離していくならば、
未来に対して、楽観的な思いが少しずつ消えて行きそうな気がする日々です。

※「出る杭は打たれる」との新解釈として、terzoさんは、喜多川歌麿の『出る杭の打たるる事をさとりなば ふらふらもせず 後くひもせず』(「巴波川杭打ちの図」)から、「本来の意味は、『不正に対して、正義を貫く』ことを勧めること」だと述べています。

※※
「毛遂自薦」 は、阳光地帯 から、「巴波川杭打ちの図」は、とちぎの歌麿を追うから引用した。



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◇★第53回「イノベーションと競争優位~ソフトテクノロジー戦略」★◇

2012-05-05 18:36:12 | ■日本人はどこへ往く?
◇★第53回「イノベーションと競争優位~ソフトテクノロジー戦略」★◇

 これまでグローバル化、競争優位とイノベーションを考え続けてきましたが、土曜日のテレビ番組
(4月28日NHKBS2のGlobal Debate Wisdom)を見ながら、メディアのグローバルな視点も
やっと出てきたのかな、と感じられました。
ここで言うグローバルな視点とは、海外と双方向で議論を進めるということです。
ただ、NHKの海外報道番組を見ていると、伝統的に情報輸入の素晴らしい仕組みはさすがだと
思います(ワールドWave Tonightなど)。
しかし、情報輸出(発信)の貧しさは昔と同じようです。

 さて今回は、隣の大国中国のイノベーション戦略です。

 知り合いのコンサルタントから勧められたのは、金周英(ジン・ジョウイン)教授著
の「グローバル技術変革~ハード・テクノロジーからソフト・テクノロジーへ」でした。

 彼女は、中国社会科学アカデミー(CASS)教授で、テクノロジーイノベーション戦略
研究所(CTISS)所長という肩書を持っています。
 技術というと、現在ではハード技術が中心に語られますが、彼女は、Technologyの歴史
から紐解き、Technologyの真の意味を、ハードとソフトの両面へと回帰させ、
『本来のTechnology』(ソフト技術+ハード技術)による統合的イノベーションを主張
されています。

 354ページの大著を私なりに掻いつまんで説明すると、
「競争優位」を確保するには、以下の三次元要素を同時に実施しなければならない。

1.『本来のTechnology』ソース、
2. イノベーションの手段、
3.イノベーションの環境。

 言いかえれば、
総合的な競争優位の核になるものは、
1.ハード技術+ソフト技術によるイノベーション(問題解決)の設計能力、
2.イノベーション(問題解決)を実現する能力
(ソフト技術分野のイノベーション能力)と
3.イノベーション(問題解決)の実施環境(組織内環境のイノベーション能力)
ということになります。
 
 ここで、ハード技術の定義とは、「自然科学の知識」であり、「物理世界で作用するもの」となり、
ソフト技術とは、「非自然科学、非伝統的科学の知識」で、
「人間の心理的行動や社会的態度に作用する」との定義がなされています。
従って、1のソフト技術のソースとなるものは、経済、社会、文化、人間、自然(エコや環境)、
生命・心理・身体、人工的なもの(ソフトウェア・ITなど)が含まれます。

 2のソフト技術分野のイノベーション能力に移りましょう。日本の視点からみると、
製造業(モノづくり)では、ハード技術のイノベーションを中心に議論がなされていますが、
そのハード技術のイノベーションを育むには、ハード技術以外のソフト技術
(設計・経営というソフト技術、生産分野のソフト技術(MOTを含む)、マーケット創造というソフト技術、組織変革のソフト技術など)が大事だということです。
日本は伝統的に、これらのソフト技術を米国からの輸入に頼ってきていました。
ですから、ソフト技術分野のイノベーションを実施する能力にはやや厳しい面があります。
しかし日本にも、生産分野のソフト技術としてトヨタのカンバン方式があり、暗黙知の共有・継承によるユニークな経営技術(野中郁次郎)があり、洞察力/直観力に富む企業・国家・グローバル経営戦略家としての大前研一の戦略設計技術などは世界に誇れるものでしょう。

 私が特に重要だと思ったのは、3.組織内環境のイノベーション能力という項目です。

 というのは、
第13回「イノベーションさもなければ死か~イノベーション競争力:日本、世界1位の中身」
で長い間疑問に思っていたことが、この項目3を考えた時に氷解したと思えたことです。
つまり、2007年5月14日付Economist Intelligence Unit (EIU)は、日本のイノベーション
競争力を世界一に位置づけた。

しかし、

イノベーション環境は先進国中、かなり低いレベルであった、ということです。
つまり、組織内環境のイノベーションに相当な怠りがあったゆえ、凋落が始まったのでは、
と考えています。
これは、組織内環境を変革するには、どうしても、伝統的な日本の企業文化(序列タテ社会、
和を尊ぶ風土、率直な意見の交換に不慣れなど)に縛られ、その組織変革は先送りにされが
ちだということです。グローバル化のスピードについていけず、イノベーションの機会損失
→競争優位の低下を齎したと言えるでしょう。

 さて話題を変えて、
中国の直近のソフト技術戦略に眼を向けてみましょう。
中国の伝統医学(中医)のグローバルスタンダード戦略が強力に進められています。
アジアの伝統医学では、日本独自に発展してきた「漢方」や韓国の伝統医学「韓医学(韓方)」
などがありますが、中医がISOで世界標準になれば、
先端的な生薬製造技術+西洋医学との併用による臨床面での優位性などで一日の長がある
日本の漢方もグローバリゼーションの芽がつまれるでしょう。
これまで日本は、電気通信/ITの分野では、グローバルスタンダードが取れず、
苦杯をなめてきましたが、将来性のある伝統医学分野での勝敗も目に見えてきそうです。
これも、ソフト技術分野(グローバル経済での戦略設計/立案)での認識不足や準備不足、
政府レベルでの組織環境のイノベーション欠如(そのための窓口がない!)が原因となっています。

 勿論、中医のソフト技術は、潜在的なソフト産業の一部で、同書の中でも、重要な競争優位戦略の
一分野と記されています。

 確かに、
インターネット以前には、日本というルール内での土俵で勝ち、その後海外へ出て、
そのソフト技術(日本的経営技術)で勝ち抜いた時期がありました。
けれども、現在のインターネットを通したグローバル経済の中では、
日本の土俵と世界の舞台での基盤の違いが色濃く現れることになります。

グローバル人材
(他文化に理解あり、他文化とコミュニケーションの取れる人財。
翻訳文化を通した知識の涵養ではスピードの差は歴然!)の養成と
イノベーションを孵化しやすい組織文化への脱皮が焦眉の急でしょう。

☆なお、「グローバル技術変革~ハード・テクノロジーからソフト・テクノロジーへ」
の目次は以下のようになってます。
1.技術とは何?(c ソフトテクノロジーって何?)
2.ソフトテクノロジーの歴史的前例
3.ソフトテクノロジーと技術的競争優位
4.ソフトテクノロジーとイノベーション
5.ソフト産業
6.ソフトテクノロジーと第4世代のテクノロジー展望

読む価値のある本です。

※金周英教授の写真(上中)は、
北京ソフトテクノロジー・アカデミーのHP
より、認知症に効果が実証されている「抑肝散」(右上)は、
ツムラのHP
より、NHKBS2のGlobal Debate Wisdom(右下)は、NHKのHPより拝借した。

[参考文献]

Zhouying Jin (2011):
"Global Technological Change -From Hard Technology to Soft Technology," Intellect Ltd.
 
Zhouying Jin (2005) "Globalization, technological competitiveness and the 'catch-up’challenge for developing countries:
some lessons of experience," International Journal of Technology Management and Susstainable Development Volume 4 Number 1
Zhouying Jin (2004) "Technological progress in history: a survey of evolution and shift of research emphasis from ‘hard-tech’to‘soft-tech’development," 
International Journal of Technology Management and Sustainable Development Volume 3 Number 2
Zhouying Jin (2003) "The Fourth Generation of Technology Forsight and Soft Technology," Futures Research Quarterly, Summer

<中医>
ISOのPaper on Traditional Chinese Medicine


ISO委員の中国訪問
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