Think Globally, Act Regionally:『言葉の背景、カルチャーからの解放、日本人はどこへ往く』

身のまわりに見受けられるようになった「グローバル化」と生きる上での大事な「こころの健康」。さまざまな観点から考えます。

☆☆第77回「自信をなくした人へ~心理療法で実際に回復したお話(その1)」★☆

2020-12-29 16:35:58 | メンタルヘルス

☆☆第77回「自信をなくした人へ~心理療法で実際に回復したお話(その1)」★☆

これまで自信があったのに、「あること」がきっかけで、自信がなくなってしまい、どうしたらここから抜け出したらいいんだろう、とお悩みの人のためのお話です。

きっかけになる「あること」(ライフイベント)とは、たとえば、試験に不合格になった、仕事で業績が悪くなった、昇進した、家庭内での不和や職場での対人関係でうまく行かなくなった、病気になった、近親者の死亡、引越しなどなどです。

自分が知らない間に、自信がなくなっていると気づくと、ゆううつな気分になり、自分の能力を疑い、活動する意欲がなくなり、将来に対する不安も出てきます。気がつくと、言葉や笑いも少なくなり、人によっては、食欲がなくなったり、眠りも浅くなったり、からだも重く感じられることもあります。

今まで自信をもって、生活、仕事をやってきたのに、なぜ、こんなにゆううつな気分になり、自信喪失になり、自分に対する価値がなくなり、もともとあった自尊心が崩されてなくなっているんだろう、と考えてしまいます。

自信の積み重ねで、自尊心が育まれ、自分にはこのようなことがうまくできるといった自己効力感が出てきます。ところが、ゆううつな状態になると、つぎのときにも、またうまくいかないのではないのか、また失敗するのではないか、といった漠然とした将来への不安がつきまといます。そうすると、今までの積極的な取り組みがなくなって、悪循環に陥ってしまいます。

この悪循環の鎖を断ち切る方法に「心理療法」とよばれるものがあります。

心理療法とは、特定の心理/精神理論を作った創始者や学派に基づいて、セラピスト(心理療法の実践者)とクライエント(サポートを受ける人)が一緒にこころの不安や不調を和らげたりして、クライエントの問題を解決していく方法です。現在では、一つの理論や技法を用いるというよりも、複数の理論や技法を組みあわせて、多元的に活用する統合アプローチやクライエントに最適の技法選択を導き出す折衷アプローチが一般的になっています。

とくに、近年では、科学的に検証され、効果が上がっている心理療法が、エビデンスベーストアプローチ(EBA)としてあげられており、CBT(認知行動療法)やIPT(対人関係療法)などが代表的です。

EBAで効果があるという心理療法をどのように進めるのか、これから見ていきましょう。

1つ目の方法は、自分のものごとへの考え方、受け取り方、意味づけに焦点をおくやり方です。このものごとへの考え方/受け取り方や意味づけのことを「ビリーフBelief」と呼んでいます。

自信がなくなって、不安になっている状況を考えてみましょう。なんらかの「きっかけ」を思い起こします。たとえば、試験に不合格になった、仕事で業績が悪くなった、という出来事がありました。

この出来事が、直接、自信喪失や不安に直結する、つまり、原因(きっかけ)があって、結果(自信喪失や不安)が起きた、と考えないわけです。これはどういうことかというと、

きっかけと結果の間に、自分の受け取り方/考え方(意味づけ)があって、「きっかけ」⇒「ビリーフ」⇒「結果」と考えるわけです。

このビリーフには、合理的なものと不合理的なものがある、と考えます。

不合理的な考え方に染まっていると、仕事の業績が悪くなった(きっかけ)⇒自分の立場では、業績を達成しなければならない、もちろん仕事はチームでやっているけれども、責任は自分にあり、その責任をとるべきである。業績を達成できなかった自分は、無能であり、価値がない(不合理なビリーフ)⇒自信喪失や不安(結果)、となります。

では、反対に、合理的な考え方では、どうなるでしょうか。このような考え方もできそうです。

仕事の業績が悪くなった(きっかけ)⇒自分の立場では、業績目標があるけれども、当社を取り巻く環境(マーケット)の落ち込みもあるし、自分としてはチームの中で精いっぱい業績向上に努めてきた。その努力は、上司も認めてくれるだろう。だから、達成できない自分が、即無能とばかりは言えないだろう。業績が達成されなくても、会社がつぶれることはないだろうし、心機一転、上司に相談しながら、来期に向けて目標を設定しよう。(合理的なビリーフ)⇒業績未達成は悔しいけれども、反省をしながら、今後も前向きに仕事に取り組もう(結果)、となります。

この考え方では、実際にどのように使っていくのでしょう。

最初の不合理な考え方に自分を直面させて、それを合理的(論理的、現実的かつ有効的=役立つかどうか)に問い詰めて、自分自身を納得させていきます。

たとえば、不合理なビリーフに対して、

・業績を達成しなければならない⇒できるなら、業績を達成出来ることになるといい。

・責任は自分にあり、その責任をとるべきである⇒責任は自分にあるが、その責任を全面的にとるということではなく、チームの一員としてしかるべき責任はあるので、今後にその回復のために尽力する。

・無能であり、価値がない⇒これまで実績を積んできたので、必ずしも自分は無能ではなく、価値がないとは思わない。

 

このように、悪循環に陥る不合理的な考え方に巻き込まれないように、合理的に考えることで、今までの自信を回復させ、生き抜いていけるようになります。

この方法ではまだまだ自信回復しないよ、という方のために、次回以降、2つ目、3つ目と、別の進化した心理療法を検討していきましょう。

[α]

【参考】論理療法―自己説得のサイコセラピイ(アルバート・エリス) 

    認知臨床心理学入門  (ウィンディ・ドライデン)

    ガイドブック心理療法  (ステファン・パルマー)

    カウンセリング/心理療法の4つの源流と比較 (ウィンディ・ドライデン、 ジル・ミットン) 他

 

Mental Health First Aider (メンタルヘルス=こころの健康実践援助家)より


☆★第76回「ヘロンHeronの援助アプローチ6つ~問題解決のための心理的援助(介入)」★☆

2020-12-29 16:03:15 | 心理・精神療法

☆★第76回「ヘロンHeronの援助アプローチ6つ~問題解決のための心理的援助(介入)」★☆

 

欧米でスタンダードとなっている、心理的援助(介入)の代表的アプローチを紹介しましょう。

ヘロン(John Heron, 1928- )の援助アプローチ(介入)は、大きく分けて2つ、合計6つになります。医療分野の実践的研究から生まれたもので、現在は、ビジネス分野(リーダーシップ論)でも幅広く活用されています。

【ヘロンの援助アプローチ】

  • 権威的介入 (Authoritative Intervention)

1 指示的介入:クライエントの行動を指示する。通常は、治療者-クライエント関係の外側での行動を指示すること。

2 情報提供的介入:クライエントに知識、情報、意味を伝える。

3 直面的介入:クライエントが比較的気づいていない、制限された態度や行動について、クライエントの意識を向上させる。

  • 促進的介入(Facilitative Intervention)

4  浄化作用的介入:クライエントのもっている苦痛のある感情、主に悲哀、恐怖、怒りを吐き出させ、解放する。

5 触媒的介入:クライエントの生活、学習、問題解決を自己で発見し、自分で指示できるように引き出す。

6 支持的介入:クライエントがもつ、人間性、才能、態度、行動の価値や重要性を支持する。

権威的介入と呼ばれるのは、上記3つの介入がより階層的になっているからです。治療家は、クライエントに代わって、あるいは彼らのために、責任を負っているわけです。だから、彼(女)の行動を導き、指示をして、彼らの意識を向上していくわけです。

促進的介入といわれているのは、それらがむしろ、より階層構造になっていないからです。つまり、治療家は、クライエントがより自律的になってほしいし、よりクライエントに責任をもってほしいからです。

権威的介入は、促進的介入よりも、有効で価値あるものである場合もあるし、ない場合もあります。それは、実践家の役割やクライエントの特別なニーズや介入の内容や焦点が何かによって変わってくるからです。

しかし、いくらかの幅広い文化的所見があります。伝統的な教育やトレーニングが、むしろ権威的介入によって過度に行われてきたときは、しばしば促進的介入が完全に省かれてきました。これは、多くの伝統的なセラピー(療法)でも同様です。でもこのことは、権威的介入それ自体が悪いということではなく、悪くみえるようだということです。促進的介入を排除しようとするときに、権威的介入は衰退するからです。

逆に、教育やセラピー分野では、革新的で現代的なアプローチが、権威的介入を除外した形で、促進的介入にあまりにも依存してきたこともあります。

権威的介入と促進的介入のバランスが、適切な力の行使のすべてだと言えるでしょう。つまり、クライエントへの実践家の力、実践家とクライエントとともに分担される力、そしてクライエント自身のなかにある自律的力の3つが、互いに必要とされ、健康を保つことに資することになるでしょう。

 

注1)Helping The Client A Creative Practical Guide Fifth Ed. by John Heron より

注2)John Heronのホームページ(英語)

 

Mental Health First Aider (メンタルヘルス=こころの健康実践援助家)より