木村長人(きむらながと)。皆さんとつくる地域の政治。

1964年(昭和39年)千葉生まれ。元江戸川区議(4期)。無所属。

がん対策推進条例(愛媛県)

2011-08-31 23:55:55 | 地方自治
 今日の夜、3日間の視察日程を終え、無事に帰宅いたしました。順次、ご報告してまいりたいと思います。

 その前に、関係ありませんが、視察先の松山市に到着するやいなや、私の靴が両足とも靴底からはがれだしてしまいました。靴底のゴムが劣化していたのでしょう。歩くたびに、まるでチャップリンの喜劇のように、両方の靴底がぺったんこ、ぺったんこ。急きょ、コンビニでビニールテープを購入し、靴を補修しました。この靴を履いて一人で旅をしろ、と言われれば、かなり恥ずかしいのですが、私のほかに13人の同行者がいる視察でしたので、皆さんに恥を共有してもらい、この靴で3日間辛抱し、江戸川区まで帰ってきました(笑)。

 さて、昨晩、二つ目の視察項目の報告をしようと思ったら、夜からGooブログのサーバが翌朝までメンテナンスになってしまい、新規投稿も閲覧もできない状態になってしまいました。迅速にご報告できず、すいませんでした。

 では、愛媛県が進めるがん対策推進条例の視察についてご報告いたします。

 愛媛県庁および愛媛県議会は松山市の中心部にあります。

 愛媛県がん対策推進条例の特徴の第一は、知事提案による条例ではなく、議会提案による条例だという点にあります。それゆえ、私たちが視察に行った際に、この条例について最初に説明をしてくれたのは、県の担当部局の職員ではなく、県議会議員の方でした。

 通常は担当部局の職員の方から事業説明を受けることが多い中、議員が説明をするというのは議員提案条例に基づいて実施されている事業ならでは、であり、まれなケースであると言えます。


 愛媛県において亡くなられる方の四分の一以上ががんによって死亡しているという状況や、20パーセントに満たないがん検診受診率などの改善を進めるため、3年ほど前に議員の間でがん対策の話が持ち上がり、議員連盟を作ることになったそうです。

 そして、1年から数カ月ほど前に超党派のプロジェクトチームを立ち上げ、政策立案を得手とする議員を中心に、具体的な条例づくりを進めていったといいます。そして、最終的には県議会において全会一致で条例案が可決され、成立しました。

 その条例案づくりから可決・成立に至るまでには、いくつかのステップがありました。

 最初に、がん患者やその家族の思いを共有するため、多くの方の考えや意見を、がん対策推進議員連盟の議員を中心に聞き取りに行ったといいます。そうした幾多の取材を経、県(県議会)として、がん対策の先進県になるべく決意を固めたそうです。これが3年ほど前のことでしょうか。

 そして、予防・罹患(りかん)・治療・再発防止などを柱とした条例のコンセプトを整えました。それから、コンセプトについて、幅広く県民にヒアリングを重ねました。このヒアリング作業は事実上、パブリックコメント募集に相当する作業であり、条文を議会内で練り上げてしまう前に、県民の声を条例案に反映させようという試みでした。(実際、それゆえパブリックコメントは実施されていません。)

 がん患者の家族の方が議会で参考人として発言する場面もあったといいます。パブコメとしてではなく、事前のヒアリング作業として住民の声を吸い上げるというのは、一考に値する作業手順です。

 さらに、作業は続き、がん議連の議員を中心に、全国のがん対策先進自治体の事例を視察しに行きました。そして、それらを参考に最終的な条例案を作成し、議会に発議案を提出。全会一致で可決され、愛媛県がん対策推進条例が成立しました。

 普段は県内マスコミから批判的にしか報じられることのない県議会の動きが、この時ばかりは、県内全メディアからたたえられたそうです。

 同条例の内容的な特徴は3つあります。第一に、がん対策に向けて患者、家族、医療機関、行政、議会、経済界、メディアなどが協力するという「県民総ぐるみ」のコンセプトです。

 第二に、他県にみられる同趣旨の条例とは異なり、県民の要望に基づいて取り入れた愛媛県ならではの独自の条文が9つもあるということです。

 第三に、条例の運用のために、今後も継続的に条例の検証と改善を行っていくための委員会を設置し、PDCAサイクルを確保しているという点です。

 がん対策の推進に向けた具体的事業としては、例えば、がん診療拠点病院への補助金支給、緩和ケア普及、相談・在宅緩和支援、がん対策普及啓発、地域連携強化などがあります。

 愛媛県においてもがん検診の受診率は決して高くはなく、また県内の地域によっては対応医療機関の所在地にバラつきがあるという課題を抱えているようです。また、条例の内容においては、例えば、予後、つまり病後の見通しという視点が欠けていたかもしれないという指摘もあるようです。

 江戸川区においては、ちょうど明日、9月1日からがん予防推進月間が始まります。区で亡くなる方の33パーセントが、がんが原因で死亡しています。それにもかかわらず、がん検診の受診率は10パーセントほどと低い状況です。がん対策の推進が必要であるという状況は江戸川区でも愛媛県同様、いえ、愛媛県以上かもしれません。

 都道府県という広域自治体の役割と区市町村という基礎的自治体との役割とはもちろん異なってまいります。しかし、愛媛県の推進するがん対策の事例は私たち区議会にとっても、その議会提案型、県民からのヒアリング作業といった立法手続きの特徴という点一つをとっても、大変有意な事例であると思いました。


※掲載している画像の中には、議会事務局より了解を得、お借りしているものがあります。




江戸川区議会議員 木村ながと
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知的障がい児通園施設「ひまわり園」(松山市)

2011-08-29 23:53:06 | 地方自治
 今日の視察報告の前にお詫びが一つございます。昨日、今日の視察項目として、①「愛媛県松山市 知的障がい児通園施設」と②「愛媛県松山市 認定子ども園」と書いていたのですが、②「認定子ども園」のほうが施設との日程調子がつかず中止になっておりました。しかも、最後の協議会の席でその報告があったというのに、私が、②が中止になったことを、すっかり失念しておりました。申し訳ございません。お詫びいたします。

 ということで、今日の視察項目は松山市での知的障がい児通園施設のみでした。加えて、松山空港への到着も、昼食の終了も予定より早く、はからずも時間的に余裕のある日程となりました。

 しかし、まったくの余談ですが、道後温泉に家族旅行にいらしたという、西葛西のご近所の方に空港やバス内でお会いしたのにはびっくりしました(笑)。

 さて、福祉健康委員会として今日、お邪魔したのは、知的障がい児通園施設「ひまわり園」という施設です。いわゆる小学校に通う前で、しかし、障害があって、地域の普通の幼稚園や保育園に通うのには課題があるという子どもたちの療育を目指す施設です。

 江戸川区でいうところの育成室に相当するものと言えば、イメージが近いのかもしれません。区内には現在、葛西育成室、小岩育成室、そして新設の中央育成室という3つの療育施設がございます。

 ひまわり園の施設名には「知的障がい」というくくりがついているものの、平成6年の開設来、知的障害児のみならず、重度心身障害児や難聴、言語に障害のある子どもの受け入れなども広く行ってきたということでした。施設の定員は元来50名ということですが、弾力的対応により60人の受け入れを実際には行っているそうです。

 しかし、松山市の人口51万人に対して、療育支援を望む子どもたちをすべて現状の施設規模だけで受け入れが満たされているということではないようです。

 市内にはひまわり園(定員60人)のほかに、くるみ園(定員40人)とあゆみ学園(定員40人)とがあり、全体では140人の障害児の療育を支える体制がつくられているようです。しかし、実際には、松山市在住の障害児ばかりではなく、必要があれば、近隣市町の障害児も受け入れているといいます。結果的には、ひまわり園の利用希望者の間にも待機児が出ており、だいたい受け入れが可能となるころには子どもは3歳児になっているとうことでした。

 江戸川区内の育成室もそうですが、どこでも療育支援を望むお子さんが多く、体制の準備がなかなか追いつかない様子は共通のようです。

 ひまわり園の療育内容の主なものは、クラス活動、グループ活動、プール、個別支援、発達相談、交流保育などです。受託事業としてのプール開放事業も特徴があるようです。

 園の1日のスケジュールは、10時の登園・身支度・おトイレに始まり、10時30分から遊び・クラス活動・グループ活動、12時から給食・歯みがき・とトイレ、13時から再び遊び・クラス活動・グループ活動・おやつ、そして15時に降園(帰宅)ということになっています。

 最後に、ひまわり園の運営ですが、現在は指定管理者制度が採用されており、社会福祉法人・松山市社会福祉事業団が指定を受けて事業を運営しています。指定期間は5年です。

 いろいろな考え方があるのですが、福祉事業、なかでも園の先生との間に長い時間をかけて積み上げてきた信頼関係を必要とする療育支援事業という分野においては、もしかしたらもっと長い、例えば10年くらいの指定期間という考え方があってもよいのではないかとも思いました。松山市における事業者の選定基準は分かりませんが、かりに事業者が5年ごとに変わるとしたら、療育支援を受ける子どもたちは精神的に落ち着くことができないというケースもでてきそうです。あくまでも、仮定の話ですが・・・。

 区の育成室事業における課題などについても、あらためて考えてみたいと思いました。


※掲載している画像の中には、議会事務局より了解を得、お借りしているものがあります。




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明日から、福祉健康委員会の視察です(8月29日~8月31日)

2011-08-28 23:46:29 | 地方自治
 さて、今日は簡単なご連絡になります。

 議会をとりまく話題の中で、とかく「問題だ」として取り上げられがちなテーマの一つに視察があろうかと思います。国会でもそうですが、全国に1800も自治体(都道府県も含め)議会があれば、その運営はさまざまであろうと思います。視察の実施方法もその一つであろうと思います。また、同じ議会であっても、視察を実施する委員会ごとにも、その実施方法には微妙な差があるでしょう。

 私は、明日から実施される江戸川区議会福祉健康委員会の視察に、参加してまいります。

 視察の実施においては大事なことが二つあると思います。まず、どのようなことをテーマに委員会視察が実施されるのかということ。そして第二に、その視察の報告がどのように的確に行われるか、換言すれば、情報公開という点でしょう。以上の二点であろうと思います。

 最初の視察テーマについては、委員全員による2回にわたる協議会の場で決定されてきた事項です。正副委員長の取り計らいにより、だいたい各委員の提案したテーマは落とし込まれているようになっています。

 今回の場合、3日間で6つの視察項目が設定されました。個人的な経験で言えば、6つの視察項目というのは、議員になってから参加した視察としては一番多い項目数です。どうしても移動時間が必要となりますので、テーマが多ければいいというものでもないと思います。移動時間が長い場合には、テーマ数が多いと、かえって視察が慌ただしくなり、現場での質疑も十分にできなくなってしまいます。

 今回の視察項目は以下のとおりです。議会の視察とはどのようなものか、と気になる方も多いと思います。税金を財源として組まれている視察ですから! 宿泊先のリンクも貼っておきますので、宿泊料が気になる方はチェック!

8月29日(月)
08:15 羽田空港出発
13:30 愛媛県松山市着
14:00 視察①「愛媛県松山市 知的障がい児通園施設」
15:30 視察②「愛媛県松山市 認定子ども園」
17:00 視察終了、ホテル着(国際ホテル松山宿泊。1泊9000円)

8月30日(火)
09:20 愛媛県庁着
09:30 視察③「愛媛県 がん対策推進条例」
11:00 視察④「愛媛県松山市 周産期母子医療センター」
12:30 徳島県徳島市へ移動(昼食50分)
17:40 徳島県徳島市着、ホテル着(サンシャイン徳島アネックス宿泊。1泊6825円)

8月31日(水)
09:00 徳島市出発
10:10 視察⑤「徳島県上勝町 高齢者の生きがい事業」
12:40 上勝町から徳島県庁へ移動(昼食40分)
14:00 視察⑥「徳島県 医療ツーリズム」
15:30 徳島県庁出発
16:00 徳島阿波おどり空港着
18:40 羽田空港着

 日程的には、視察項目が多い分少し慌ただしくなるかもしれません。ですが、しばしば問題となるような日中からの観光まがいの「旅行」などでは問題ですから、これくらい、いえもっと盛りだくさんでもよいのかもしれません。(ただ、先述の通り、あまりに多いと視察が散漫になってしまいますが)

 また、上記にリンクを示しましたが、江戸川区の委員会視察で宿泊する際のホテルはまずビジネスホテルです。地方都市によって相場が異なりますが、概ね6000円から12000円幅くらいだと思います。だいたい8000円くらいが平均でしょうか。

 さて、第二の視察の報告(情報公開)については、もちろん明日の視察が始まってからとなります。視察先にはPCを携帯してまいりますので、夜遅くなると思いますが、簡単なご報告もしたいと思います。(ただ、モバイルPCのキーボードが小さくて打ちにくいので、長文は不可です。ご容赦下さい。)ご期待下さい。

 なお、福祉健康委員会の所管事務調査としての正式な視察となりますので、もちろん本会議を経た議会としての正式な報告書も提出されます。こちらは本会議の日程上、10月末となります。




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資源エネルギー庁はネット情報監視なんてしなくてよい!

2011-08-26 00:20:22 | 地方自治
 先月(7月)下旬からチラホラとネット上で見かけたりしていたのですが、今月初めには一般紙でも大きく報道された、資源エネルギー庁によるインターネット上の監視事業について、取り上げたいと思います。

 国の問題ですから、区議会議員としての投げかけというより、一国民としての意見になります。

 資源エネルギー庁は、放射能に関するインターネット上のさまざまな書き込みや情報を監視し、「不正確な情報」をモニタリングし、「『正確な情報』をQ&A方式でまとめ、ホームページで発信することを考えている」といいます。(注1)

 この事業は「平成23年度原子力安全規制情報広聴・広報事業(不正確情報対応)」と称されており、具体的内容が6月下旬に公告されています。その事業の提案の評価項目一覧も見ることができます。

 事業は8月にスタートし、来年の3月まで続く予定ということです。

 この事業ではネット情報の監視といっても、「不正確な情報」を書き込んだ人の特定や書き込みの削除依頼はしないということですが、資源エネルギー庁が監視するということそのものが、どうなのでしょう。

 記入者の特定はしない。削除依頼はしない。

 当り前です!

 私には表現の自由に委縮効果(チリング・イフェクト)をもたらしかねない、不適切な事業のようにしか思われません。

 論点は3つあります。

 まず、なぜこうした事業を行うのが資源エネルギー庁なのか、という点です。

 原発事故発生当初、まちの薬局からヨウ素入りうがい薬が次々と完売するというおかしな現象が見られました。放射性物質による外部被ばくや内部被ばくをヨウ素入りうがい薬が中和してくれる云々といった、まさに科学的にも「不正確な情報」がネット上で広まり、リアルな世界でのうがい薬買い占めとして具現化してしまったというケースです。

 確かに、デマによる不幸な現象です。この問題が私たちに投げかけた「衆愚」というテーマは、時を置いて、きちんと再整理する必要があります。

 しかし、こうした事例をもってして、お上の立場から資源エネルギー庁が、「民よ、これが『正確な情報』だ」とパターナリズムよろしく助言、指導するのはおこがましいというものです。

 そもそも経済産業省の外局たる資源エネルギー庁の使命は、第一に原発をはじめとしたエネルギー施策を推進することにあるはずです。彼らがちまたの風評被害を抑制したい、人の健康守りたいと主張したところで、それは風評被害や健康問題を抑制することでエネルギー施策を推進することにあります。人の健康問題に無関心とまでは言わずとも、それが二の次の関心事にすぎないことは言を俟たないといえます。

 もし今般の原発事故にからんだ「不正確情報対応」事業を国が行うというのなら、それは厚生労働省であるべきです。間違っても、経済産業省やその外局ではありません。事業意図の裏を読むなと言われても、無理です。みな、同庁の当該事業には疑心暗鬼になっています。

 次に、表現の自由に対する委縮効果(チリング・イフェクト)の問題です。当該事業はさしあたってネット上の「不正確な情報」のモニタリングだけということから、即「委縮効果」というのは少し言いすぎではないか、という論もないわけではないようです。

 しかし、逆に「委縮効果」がないとも言い切れません。国が個人の特定はしないと言ったところで、徹底して国家契約説の立場に立つ人や、政府というものを忌み嫌う自由尊重主義者(リバタリアン)の人にとっては、それをそもそも信用するかどうかは疑問だと思います。

なぜなら、考えてみて下さい。自分が直接関与できない権力構造のどこかで執行されている事業は、どこまでもナゾです。認識できないわけです。そんな中で、監視行為が行われれば、委縮交換がゼロだということはないはずです。

日本弁護士連合会が会長名で、委縮効果に対する危惧を表明したのも当然のことと言えます。

 最後に、「不正確な情報」云々と同庁は指摘していますが、自身が原発事故や環境への影響に対する十分な情報発信をしてきたとは言えないなか、何を言っているのか、という納得できない国民感情です。

 同庁がすべきは、こうしたネット上の言論の監視活動などではなく、自らの事業推進が招いた失敗(事故)に対する十分な説明、環境への影響、健康への影響などの情報発信をひたすら行うことです。予算を付けるにしても、方向性がトンチンカンすぎます。経済産業大臣および同副大臣には、こうしたことをきちんと指導してもらいたかったところです。


(注1)『朝日新聞』2011年8月8日、35面




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学校給食の課題と幸福追求権(後編)

2011-08-25 00:12:36 | 地方自治
 では、幸福追求権の一つである健康権の視点から、給食課題を問い直してみましょう。

 現在、明確なほころびが見られるようになった食品監視体制下で配色されている学校給食ですが、前半で指摘した通り、今なお、教育委員会は、サンプリング調査はしない、産地表示もしない、産地別排他主義も採用しない、弁当持参も認めないという、4ナイ対応を堅持しています。

 どうでしょう? 問題点は明らかです。

 放射性物質に汚染された食品を取り込むことによる低線量内部被ばくによる健康リスクに関しての、統計学的データは十分に存在せず、現時点で「安全」「危険」と断言することは不可能と言われています。一方で、子どもの低線量被ばくによる甲状腺ガンのリスクはチェルノブイリ事故の事例によって、統計学的裏付けがとられており、そのリスクは大人の2~3倍と言われています。

 「安全」「危険」の判断がつかないと言われているグレーゾーンの低線量被ばく(ここでは給食の問題ですので低線量内部被ばく)に関して、科学を超越した非論理的「安全」哲学を拡散する専門家の姿勢も問題ですが、ここは百歩譲って、思想信条の自由として一時的に譲りましょう。

 しかし、問題は、彼ら専門家の「安全」哲学というパターナリズムの信仰哲学が放射線学に必ずしも詳しくない一般人に広まることで、健康を害され続けているかもしれない(統計学的裏付けが乏しいから「かもしれない」なのです)一般人多数が生じうる可能性がある!ということです。ましてや、リスクの高い子どもたちが抱えるかもしれない健康リスクの可能性は、なおさら深刻だと言えます。

 20~30年後の健康状態がどのようになっているかどうかよく分からないというのに、自ら信じるところの解釈である<低線量内部被ばく「安全」哲学>を提唱する専門家がいる。また、こうした「安全」信仰の唱道者がいればいただけ、結果として、それを採用する教育委員会も増えてきてしまいます。低線量内部被ばく「安全」哲学を採用する教育委員会に司られている自治体の学校に通う子どもたちは、統計学的にも、将来的にもどうなるかよく分からない「安全な!」給食を食べ続けなければなりません。ここで、健康に生きる権利が侵害され始めている可能性があるのです。

 無論、都内は警戒区域のような線量レベルではありませんし、そこまでひどい汚染食材が流通していないことは一定のレベルでの食品監視体制がまだ機能している証拠と理解はしています。現在の低線量内部被ばくによって、今日、明日のうちに子どもたちの健康がどうなるものでもないでしょう。

 しかし、20~30年後の子どもたちの健康に対して誰が確証を与えられるでしょうか。そんなことは、誰にもできません! もしかしたら、何も起こらないのかもしれません。でも、誰にも確定的なことは言えないのです。

 現在、江戸川区の教育委員会がとっている、サンプリング調査はしない、産地表示もしない、産地別排他主義も採用しない、弁当持参も認めないという、4ナイ対応においては、彼らが意識しようがしまいが、子どもたちが健康に生きる権利を奪い始めている可能性があります。そのことを認識すべきです。

 言い換えましょう。現在の教育委員会の対応ですと、区教委は「すべての人が達成可能な最高状態の身体的および精神的な健康を享受する権利」を子どもたちから奪い、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」に抵触している可能性があるのです。

 今のところ、希望児童が弁当を持ち込む自由も認められていないわけですから、子どもたちには健康権を守るための自由選択の余地がありません。こうした状況では、子どもが健康に生きる権利、子どもの健康を守る親の権利がともにないがしろにされている状態下にあると言えます。

 この問題点に反応しないというのでは、江戸川区の子どもたちにとっては、憲法13条にいう「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」(幸福追求権)は具体的法権利を保障するものではないという大昔の解釈に逆戻りしたも同然です。

 教育委員会は子どもたちが健康に生きる権利について、緊張感を持って、再確認すべきです。あらためてその姿勢を問うものです。




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学校給食の課題と幸福追求権(中編)

2011-08-24 20:39:27 | 地方自治
 気持ちをつづっても、放射性物質汚染に対する問題意識の落差があまりに大きいのか、教育委員会には通用しないようです。

 感情をぶつけても、かえって問題が解決しないことは、確かに少なくありません。私も少し頭を切り替えました。されば、解決の糸口になるという確信は必ずしも持てませんが、法の支配(注1)の原理を糧とする憲法をフィルターとして、教育委員会によって現在も続けられている給食のあり方の問題を探るという視点です。

 そんなことをしたって、教育委員会にとっては痛くもかゆくもないのかもしれません。教育委員会は行政府の一機関であり、司法の場ではありませんから。「不法行為だ!」と指摘しても、眉一つ動かすものではないのかもしれません。その意味では、法的課題を指摘しても、今すぐにどうなるという問題ではないのでしょう。しかし、理論武装をしておくことはいずれにしても必要な作業だと思います。

 ここで問題となるのは、人権規定としても一番知られた憲法13条の幸福追求権です。同条には次のようにあります。「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

 まず、13条の「生命、自由及び幸福追求」という文言はジョン・ロックの「生命、自由および財産(life, liberty, property)」に由来すると言われています。(注2) ロックの考えはさらに、アメリカ合衆国の独立宣言中の「生命、自由および幸福追求権(life, liberty, pursuit of happiness)」に反映されました。日本国憲法13条がこの思想を映し出していることは間違いありません。(注3)

 ちなみに、この13条について、伊藤真氏は「すべて皆、1人の個人として最大限尊重されるべきだというのが憲法の根本的な価値観」であり、「すべての国民は、個人として尊重される」と規定する同条は、「実は、日本国憲法全103条のうち(中略)最も重要な条文と考えてよい。」と明言しています。(注4)

 そうです、それほどまでに重要な規定なのです。

 その上で、幸福追求権の通説を整理しておきたいと思います。以前は、この幸福追求権は14条以下の具体的権利を総称したもので、そこから具体的法的権利が導き出されるというものではないと解されていたそうです。これでは、国民や個人の幸福を具体的に守ることができず、ちょっと頼りない解釈だと言われても仕方ないと思います。

 しかし、1960年代以降の高度成長や情報化の進展という社会情勢の変化はこの解釈に変更を迫りました。

 今では、13条の幸福追求権をめぐって、実に頼もしい解釈が通説となっており、いくつかの判例にも具体化されています。芦部信喜氏は「『自律的な個人が人格的に生存するために不可欠と考えられる基本的な権利・自由』として保護するに値すると考えられる法的利益は、『新しい人権』として、憲法上保障される人権の一つだと解するのが妥当であ」り、「その根拠となる規定が、憲法十三条の『生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利』(幸福追求権)である。」と述べています。(注5)

 つまり、平たく言えば、13条の幸福追求権は、時代の変化に伴って指摘されるようになった「新しい人権」を保障する根拠規定になりうるものである、ということです。13条は、憲法上に具体的記述がないさまざまな権利についても、それらが公共の福祉に反しないかぎり、私たち国民の一人一人の権利を守ってくれるものだよ、というのです。

 ちなみに、13条は個人に必要不可欠な権利・自由を保障してくれる包括的な権利であり、個別具体の権利とは一般法と特別法という関係にあると理解されます。ですから、個別の権利(=特別法)で適切な根拠が見つからないものについては、13条の幸福追求権(=一般法)が根拠規定として、補完的機能の本領を発揮してくれることになります。

 では、たびたび出てきた「新しい人権」とは何でしょうか。ここで少しずつ、幸福追求権と今般の給食問題との関係が見えてくると思います。

 新しい人権としてこれまで主張されてきた主なものには「プライバシーの権利、環境権、日照権、静穏権、眺望権、入浜権、嫌煙権、健康権、情報権、アクセス権、平和的生存権など」があります。(注6) これらのうち、最高裁判所による具体的判例として認められたものにはプライバシーの権利と肖像権とがあります。

 私たちがここで注目すべき新しい人権は健康権です。

 かつて健康権には宣言的な意味はあっても、法によって具体的に保護する権利とまではされていませんでした。しかし、国連創設後、世界人権宣言やWHO(世界保健機関または世界保健機構)憲章やさまざまな国際規約が採択されるにともない、人が健康に生きる権利(健康権、right to health)が国際的に理解されるようになったといいます。

 WHO(世界保健機関または世界保健機構)は1948年の憲章において、冒頭の健康の定義のあとに次のように記しています。「達成可能な最高状態の健康を享受することは、人種、宗教、政治信条、経済的社会状況の差異にかかわらず、すべての人の基本的権利の一つである。すべての人の健康は平和と安全の実現に欠かせないものであり、また個人と国家との十分な協力のうえに成り立つものである。健康の促進と保護があらゆる国家で達成されることは、万人にとって価値あることである。」

 また、1966年の国連総会で採択された「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」の12条1項に次のようにあります。「当規約締結国は、すべての人が達成可能な最高状態の身体的および精神的な健康を享受する権利を認める。」

 国際社会だけではありません。日本国内でも動きがあります。日本弁護士連合会は「『健康権』の確立に関する宣言」を1980年に決議しています。その宣言冒頭では次のように述べられています。「健康に生きる権利(『健康権』)は、憲法の基本的人権に由来し、すべての国民に等しく全面的に保障され、なにびともこれを侵害することができないものであり、本来、国・地方公共団体、さらには医師・医療機関等に対し積極的にその保障を主張することのできる権利である。(中略)われわれは、医療現場はもとより、立法・行政・司法の国政の各分野においても「健康権」が真に確立され、患者のための医療が実現されて国民の健康が確保されることを期待し、その実現に努力する。」

 これらの憲章や宣言が主張しているは、個人は身体的にも精神的にも健康に生きる権利を有しており、個人が身体的、精神的な被害をこうむってはならず、権力(国や地方公共団体)は個人の健康を守るため予防、治療、その他の施策を実施しなければならない、ということです。


(注1)「法の支配」とは権力の暴走を法によって拘束し、個人の自由や権利を守ることを目的とする原理のこと。法の合理的内容を問わない法治主義とは異なります。法の支配では正当な立法手続きを経ていても、法の内容が人権を侵害するような方であれば問題とされるのに対し、法治主義では正当な立法手続きを経て成立した法であれば、悪法も法となってしまいます。

(注2)ロックは、個人は自然な状態において固有の権利を有しており(自然権)、個人はその生命、自由、財産を保護してくれる目的においてのみ国家権力に権限を委ねている(社会契約説)、と説いています。絶対王政の時代にあって、自由主義、主権在民、立憲政治による国家観を唱えた、17世紀の偉大な思想家と言えます。

(注3)13条を持ち出すまでもなく、憲法前文の「ここに主権が国民に存することを宣言し」についても、ロックの思想が礎になっていると言えると思います。

(注4)伊藤真『憲法 第2版』弘文堂、2003年、13頁

(注5)芦部信喜『憲法』岩波書店、1993年、101頁

(注6)芦部信喜『憲法』岩波書店、1993年、103頁

学校給食の課題と幸福追求権(前編)

2011-08-23 11:49:05 | 地方自治
 放射性物質の拡散による、牛肉をはじめとした食品の汚染が判明して以来、大人よりその健康リスクが2~3倍増加すると言われる子どもたちが食すことになる学校給食のあり方をめぐって、保護者から大きな不安の声とともに、システムの改善を求める声が日増しに強くなっています。その現象は、江戸川区でも例外ではありません。

 特に、放射性セシウムに汚染された稲わらを食べていないとみられる牛(福島県産)の肉からも、8月19日に放射性物質が検出されたことで、個体識別番号の確認だけで食品提供の安全性はコントロールできるとしてきた理屈も足下から崩壊したと言えます。

 このまま、産地制限や食材制限をしないまま、給食を提供して大丈夫なのか。消費者側(調理者側)でサンプリング調査をせずに給食を提供して大丈夫なのか。産地表示もしないけど、なぜなのか? 感じ方や表現方法に差はあるにしても、学校に子どもたちを通わせる保護者が不安を増大させたとしても無理はないと言えます。

 放射性物質による食品汚染と学校給食の安全性やその提供システムのあり方については、これまでも多くの方から課題が指摘されてきました。私自身も自分のブログで委員会発言の抄録として前回まとめました

 子どもたちの命を差し出すことはできないという保護者の立場を考えれば、理屈以前に、親としてごく自然な改善の欲求であると言えます。現在の江戸川区が提供している学校給食のあり方に対し、以下のような4点が指摘されている主な論点であると言えます。

①生産都道府県による検査という現行の国の食品検査体制にほころびが見られる状況下、消費者側である各学校が調理前に食材のサンプリング調査を行うべきである。

②食材の安全性および信頼性確保と保護者の心理的不安を軽減する意味でも、食材の産地表示を徹底し、詳細をホームページなどで提供する。

③出荷制限のかかる生産県の食材のみならず、場合によっては、いくつかの産地の特定食材については確定的な安全性が確認されるまで給食食材として利用しない。

④上記3つの対応が十分に実施されない間は、緊急措置として、希望する生徒の弁当や水筒の持参を許可すべき。

 以上の4点です。

 しかし、こうした区内の保護者からの高まる不安の声に対し、教育委員会は、水筒のわずかな持参許可の例外を除けば、ほとんどゼロ回答です。

 すなわち、サンプリング調査はしない、産地表示はしない、産地別排他主義はとらない、弁当の持ち込みは認めない。サンプリング調査などについては、議会のほぼ全会派から実施をすべきという催促の見解が福祉健康委員会の中で示されても、執行権を握る肝心の教育委員会だけが「給食は安全」「やらない」という頑なな態度の一点張り。

 先にも記したとおり、これらの要求は「親としてごく自然な改善の欲求」だと思います。子の健康を案ずるのは親の自然な気持ちです。①~④のことがらに対応していくことは多少なりとも事務や財政の増大には繋がるでしょう。しかし、できるところから段階的に手を付ければよいと思います。次代を担う子どもの安全に対する措置であり、法外な要求をしているとは思えません。

 しかし、それにもかかわらず、子どもたちの教育を司る教育委員会が、すでに汚染が広まっている現行の食品検査や給食システムに疑念を抱かず、半ば黙認し、子どもの健康保全に無頓着であるというのは、ある意味で、今の食品検査体制に勝るとも劣らないほどの問題だとも言えます。

江戸川区議会福祉健康委員会(8月18日)における議論の抄録(その2)

2011-08-19 17:32:05 | 地方自治
 委員会審議の最後に、委員長から次回9月16日の委員会の内容が示されました。

 すでに前回(8月9日)委員会の中でも予告されていたことですが、9月の福祉健康委員会では放射能に関する専門家による講演をその内容とするということでした。

 福祉健康委員会の委員が放射能関連陳情を審査するにあたり、あらためて放射性物質とその健康リスクについて学習することは決してムダにはならないので、講演の設置に賛意を示してきたものです。

 問題はどういった専門家を講師として招聘するか、という点です。8月9日の委員会時に講演会開催の提案が委員長から出された際、すぐに私は「どういった講師をお呼びするのかが重要。ぜひ講師の推薦をさせて頂きたい」と申し上げました。そして、迷うことなく一人の専門家に絞り、委員会終了後即、東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦氏を推薦しました。

 今や、7月27日の衆議院厚生労働委員会にて参考人として出席し、国の鈍い対応を厳しく批判した同氏の雄姿はあまりに有名。(16分にわたる児玉氏の参考人説明の発言をすべて文字起こしした「きーこ」さんのブログのページを貼り付けておきます。同ページには厚生労働委員会での動画も組み込まれています。)

 しかし、残念ながら、委員長から発表された9月16日に開催される福祉健康委員会講演会の講師は児玉氏ではありませんでした。

 確かに、講演開催日が最初から9月16日と決まってしまっていたことや、推薦提案するといってもこちらから児玉氏に日程の確認をとっていたわけではありません。一方的な、希望的推薦にすぎませんでした。また、委員会の設定についての最終調整は正副委員長に委ねざるを得ませんし、そのことには事前に同意もしておりました。仕方ないと言えば、仕方ないのですがね・・・。

 9月16日の委員会にて講演する講師は福祉政広氏だそうです。そうです、8月1日に区が開催した講演会「放射線・放射能を正しく理解しよう」の講師です。もう皆さんもご存じだと思いますので、あまり多くを申し上げませんが、基本的に福士氏は100ミリシーベルト以下の低線量は人の健康に影響なしとする安全宣言派でらっしゃるようです。

 ICRPの「しきい値なし直線仮説」に忠実な私の立場とは相入れるものではありません。統計学的に裏付けのない解釈を簡単に受け入れるわけにはいきませんから。

 まあ、それはそれとして、放射線学を専門とする同氏の知見について改めて予断を排して拝聴してみようとは思います。右も左も両者を知ることは有用でしょう。そうでなければ批判もできないし、それを乗り越えた発展も生まれませんから。

 しかし、あらためて思えば、江戸川区が招聘してきた放射線学の専門家にはある偏りが存在します。中川恵一氏にしても福士政広氏にしても、どちらも「安心して生活できるレベルです」「影響ない」と発言している安全宣言派です。

 こうした現象の下地は区長自身の立場にあります。区長自身が第二回定例会で「権威あるところに安全だと言ってほしい」「大丈夫です、これ以下なら大丈夫ですと言ってほしい」と明言していたので、その意向に基づき、識者が選択され、招聘されているのは間違いありません。(注2)

 しかし、福祉健康委員会は行政府の設置する委員会ではありません。区長を頂点とするヒエラルキーには属さない区議会の委員会です。行政とは別角度の講師を、ましてやまったく同じ講師ではない方を招聘してほしかったところです。

 そこで、私は委員会で、「次回9月16日講演会のみで終わりにするのではく、いろいろな立場の専門家がおられるので、安全宣言派とは別の方を講師に据え、ぜひ第二回目の講演会も調整してほしい」旨、申し入れました。他の議員からも同様の意見が出されました。

 「安全」「危険」などの解釈や信仰を訴える専門家より、「計測と除染」といった自治体がとるべき具体策を示唆してくれる専門家の話をぜひ身近で聞いてみたいものです。

 皆さんからも「こんなお勧めの先生がいるよ」など、ご推薦やご示唆頂戴できれば、とても嬉しく思います。私の存じ上げない専門家の方々もたくさんいらっしゃると思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 なお、9月16日の委員会は講演会としての開催になるため、陳情審査は行われません。陳情審査の傍聴を目的として議会に足を運ばれる方がいらっしゃったら、無駄足にならぬようご注意ください。議会予定表の9月のページにも「陳情審査は行いません」と記されています。

 ただし、講演とはいえ、通常の委員会という位置づけであることには変わりありませんので、当日先着10名までの傍聴は可能となっております。

 それから、もう一点。9月16日の委員会は通常の10時開催ではなく、9時30分からの開催です。ここのところ、福祉健康委員会が毎回3時間半近くに及んでいることから、当面、開始時間を30分早めるという方向になりました。お間違えのないようお願いいたします。


(注2)「権威あるところに安全だと言ってほしい」「大丈夫です、これ以下なら大丈夫ですと言ってほしい」という区長の発言は、6月30日の瀬端議員の質問に対する答弁部分で述べられています。具体的には同議員の議会中継画像の37分30秒~40分20秒の間で発言されています。放射線の問題をめぐる区長の考えやスタンスが、ある意味、よく読み取れます。「なるほど、だから江戸川区の対応はこんななんだ」って感じです。




江戸川区議会議員 木村ながと
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江戸川区議会福祉健康委員会(8月18日)における議論の抄録(その1)

2011-08-18 23:55:13 | 地方自治
 本日(8月18日)10時から開催された福祉健康委員会の審査は放射能関係陳情7本(8号17号20号21号22号25号34号)の集中審査でした。

 今日の福祉健康委員会は、福祉部、健康部、子ども家庭部の部課長のみが出席する通常の福祉健康委員会とは異なり、委員長の計らいにより教育委員会、環境部、環境促進事業団の部課長も出席させる形式が採用されました。

 提出されている放射能関係陳情の内容の多くが、実際には、健康部のみならず、教育委員会や環境部の所管にまで範囲が及んでいるにもかかわらず、通常の委員会では教育委員会や環境部とやり取りができず、審査が不十分に終わり(例えば、教育現場における放射能の質問をしても、福祉健康委員会ではそれに対して答えられる職員がいない!)、委員の多くが消化不良を感じていました。(注1)

 しかし、今日の委員会では教育委員会、環境部、環境促進事業団の職員も答弁者として出席したことで、私たち委員も直接彼らと議論をすることができました。今回の部課横断的な福祉健康委員会の設置は、正副委員長の判断によるものであり、その的確な取り計らいに感謝しています。

 さて、今日の委員会において私が投げかけた論点と行政側とのやり取りについて簡単にご報告しておきたいと思います。●は私の発言抄録。→は江戸川区行政の答弁抄録。

 なお、他の委員が同趣旨の発言を私より先にしている場合ももちろんあります。行政側の答弁がそうした他の委員に向けられたものと重なっていることもありますので、お断りしておきます。

●あらためて第一に申し上げたいのは、区が行ってきている「安心して生活できるレベルです」といった「安全」を宣言するスタンスを改めること。なぜなら100ミリシーベルト以下の低線量下におけるリスクについては科学的に証明されていない。現在の放射線学の知恵でも分からない。統計学的裏付けには10年も20年もかかる。何をもって「安全」「危険」と評価できるのか? 国際放射線防護委員会(ICRP)勧告がぎりぎり述べているのは、低線量の被ばくでもガンになるリスクの増加はゼロとは言えず、リスクは被ばく線量に応じて直線的に増えるとみなすという仮説(しきい値なし直線仮説)まで。これを超えて「安全」と主張するのは、もはや「解釈」の世界。非科学的な態度だと考える。

●厚生労働省が暫定規制値に科学的根拠を求めようとしている姿勢自体が間違っている。放射性物質をめぐる許容限度額などないわけだし、被ばくは限りなくゼロに近い方がいい。これ以外にない。いま地方自治体が取り組むべきは「安全」「危険」の評価などではなく、測定と除染。測定により事実を常時明らかにし、除染により被ばくを減らす努力をすること。砂場500カ所の測定は大いに結構だ。しかし、子どもたちが頻繁に通うと想定される場所全般について、さらなる測定の拡充が望まれる。

→まだ砂場500カ所の測定が完了していない。まずこちらから取り組んでいきたい。

●他の委員とのやり取りの中で、「除染実施の可能性を否定するものではない」という教育長の答弁があった。除染の判断基準となる数値をここで出すことは困難だろうが、子どもたちが頻繁に通うと想定される場所については、ぜひ除染に取り組んでいくべきだと考える。子どもが受ける発がんリスクは大人の2~3倍であるということは、チェルノブイリ事故後の統計学的裏付けがすでにある。除染は優先課題だ。

●国の食品監視体制は破綻したと考える。少なくとも放射性物質汚染を見抜く部分に関する限り、その体制には瑕疵(かし)があることには疑いがない。それゆえ、全国で、自治体も(給食を採用する)教育委員会も混乱する状況に置かれてしまっている。いま国が生産都道府県で検査するという食品監視システムが機能していない以上、末端消費者を抱える各自治体が武装しなければならない。都道府県の検査が頼りにならないのだから、消費をする自治体および教育委員会がサンプル調査をする必要があるのではないか。

●江戸川区内の全小中学校で使用される一日の給食食材は約1000種類という。全部の食材を毎日すべて検査することは困難だろう。しかし、サンプリング調査なら可能だ。食材の放射性物質汚染を測定する簡易測定器はおよそ50万円程度ということが資料で示された。1台でも2台でもよいではないか。購入し、各学校を巡回しながら、給食食材を測定し、データを公表、そして共有すべき。

→教育委員会としてサンプリング調査は考えていない。

●国の食品検査体制に不備がある状況下、保護者は不安を募らせている。サンプリング調査は強く要望する。

●サンプリング調査をしないというなら、弁当や水筒の持ち込みは認めるべきではないか。給食が教育の一環として採用されていることも承知しているし、教育委員会が各校に命令を出す立場にないことも承知している。ただ、放射性物質汚染という緊急事態に地域全体が置かれている中で、子どもたちが自分の健康を守るための砦である自由選択権を奪ってよいものなのか。疑問を感じる。

●食品の産地表示についても取り組んでいくべきと考える。杉並区立三谷小学校では、先進的な食材の産地表示の取り組みを行っている。ネットでも確認できる。杉並区教育委員会の取り組みというよりは学校長の取り組みなのかもしれない。先進事例として参考にすべきと考える。(他の委員の同趣旨の意見に対し、教育委員会側が産地表示に消極的な答えであったことを受けての発言です。)

●食品検査のみならず、除染をめぐっても言えることであろうが、いま保育施設や小中学校に子どもを通わせている保護者は適切なデータも乏しく、不安を募らせ、施設や学校側の対応についてかたずをのんで見守っている。保護者と施設、学校側とでの意見交換会を開くべき。

→保護者の意見を聞きながら対応を考えていくということはしない。

●保護者の意見ですべての対応を考えろと申し上げているのではない。意見交換をしながらいっしょに考えていく場や機会を設定すべきと申し上げている。

●陳情17号の記書きにある「食材すべてについて関西圏、海外の物を使用」という部分については慎重に考えたい。関西圏以外でも、中国、九州、四国などの放射性物質汚染とは無関係の地域の産物まで排除するような姿勢でよいのかどうかは検証が必要。

21号の記書きにある「保育・教育関係者への啓発推進」に関連し、文科省が9月に小中高に配布することになっているという放射能に関する副読本などの教材資料について、情報が入り次第、頂きたい。

●放射性物質に関わる7本の陳情はいずれも、健康のリスクにかかわる喫緊の課題を提起している。極力、早期に採決し、結論を出していくべきである。具体的には第三回定例会で結論を出す必要があると考える。8号20号21号22号25号34号については前向きに採決の方向ですぐに結論を出したいと思う。17号については一部の記書きで気になるところがあるが、結論については同様に速やかに出す用意がある。

 以上が、陳情審査をめぐる私の議論の抄録です。

 なお、最後の陳情審査の日程や手順について「極力、早期に採決し」と提案したことに対し、今日の審議の中では、委員長からは「ご意見として賜っておきます」という一言しかもらえなかったので、今後どのようなスピード感で結論を出していくことになるのかはっきりとは分かりません。

 ただ、緊急事態における健康リスクの陳情です。迅速な結論が強く望まれます。逆に言えば、こうした緊急性が指摘されている陳情審査において、結論が迅速に出されないとすると(もちろん、採択不採択はそれぞれの考えがあるので、賛否の違いは尊重されるべきです)、「江戸川区議会はいったい何をしているの?」と区民からそっぽを向かれてしまうのではないかと危惧の念を持たざるを得ません。


(注1)江戸川区では通常、常任委員会が同日の同時刻から一斉に開催されます。ですから、福祉健康委員会が開催されている同じ日の同じ時間帯に、教育委員が出席する文教委員会も、環境部が出席する生活振興環境委員会も開催されています。会期中の日程を効率的に組み立てていくうえでは、常任委員会の一斉開催は確かに好都合かもしれません。しかし、半面で、今回のような所管横断的な陳情の審査が求められる場合、委員会の一斉開催形式を採用しているかぎり、部課長の横断的出席を適宜求めることが困難となります。常任委員会の開催方法のあり方については、議案審査の総務委員会一極集中の現状などとあわせ、いくつかの課題が指摘されています。現在、議会改革検討小委員会の討議すべきテーマの一つとして俎上に上がっています。

8月9日の福祉健康委員会における陳情審査について

2011-08-08 16:56:37 | 地方自治
 お伝えする他の適切な手段が見つからないので、こちらでお知らせさせて頂くことにしました。最近の江戸川区議会福祉健康委員会には多くの方が傍聴にいらしているようですので、老婆心ながら、お知らせさせて頂く次第です。明日までに、どれほどの関係者に行き渡るものかわかりませんが。

 それから、あくまでも、私、木村ながとという一委員からの非公式発表です(委員会としての正式発表ではありません)ので、予測的な記述をしております。委員会の最終的な運営権は委員長に委ねられています。

 さて、変更されるであろうという点は放射線関連の陳情8本の審査の方法についてです。

 まず、3号陳情についてですが、こちらは前回の審議でも明確に協議されたとおり、明日の委員会にて採択するか否かの結論を出す方向で通常通り審査されるはずです。ですので、3号陳情に関係される方は通常どおり傍聴にいらして頂くことに意味はあろうかと思います。

 審査方法が変則的になると予測されるのは、それ以外の7本の8号、17号、20号、21号、22号、25号、34号の各号の陳情です。

 放射線関係の陳情の中には教育委員会や環境部が所管する事項に関する記書きが少なくないことから、福祉部、健康部の職員だけしか出席していない委員会で審議していても、なかなか議論がかみ合わないという問題に直面していました。そこで、この際、教育委員会や環境部の職員にも出席を求める委員会を追加開催し、そこで放射線関連の7本の陳情を集中審議しようということになりました。その追加委員会の開催日は8月18日です。(江戸川区議会予定表

 この委員会の追加設定は委員長の的確な判断によるところで、大変よかったと思いました。放射線関連の陳情を審査していて、教育委員会に確認したい事項が少なくないのに、委員会には教育委員会が出席していないため議論がかみ合わないばかりか、委員の疑問がなかなか解決せずにおりました。追加された18日の委員会では、教育委員会と環境部との議論が可能となりますので、審議の少なからぬ進行が期待されます。

 18日の集中審議日の設定が決まったことで、おそらく次のようになったのだろうと推測しますが、9日の委員会では相変わらず教育委員会や環境部の出席が叶わないため(同日の同じ日程で文教委員会と生活振興環境委員会が開催されている)、3号以外の7本の放射線関連陳情に関しては内容に踏み込んだ審査は進みにくいということで、7本については今後の取り扱いや進め方についての審査に留めるという方向性になったようなのです。

 上記のような方向性で8月の委員会を2回開催していきたいという話を先々週でしたか、委員長から頂きました。私は、教育委員会出席の下での追加委員会の設定は大いに結構ですと述べました。ただ、同時にもう一つ、半面で心配されることがあったので、委員長に要望したことがありました。

 それは、9日の審議に関する多少急な変更であったため、7本の陳情の傍聴者が議会にきてちょっと無駄足になりはしないのか、という危惧に関してです。無論、不特定多数の一般区民向けにすべて知らせるということは不可能ですし、そこまでする必要性は感じません。私が気になったのは、7本の陳情を提出している代表者7名に対しての連絡です。

 私は個人的には3号の陳情者も含め、放射能関連陳情を提出された8名のどなたとも面識がないので、正確なことはわからないのですが、おそらくそのうちの何名かの方が委員会ごとに傍聴にいらしているのではないかと推測しているのです。毎回、傍聴席がいっぱいになっているようですし。

 傍聴にはわざわざ仕事の休みを取って来ている方もいらっしゃると聞きます。何百人にも連絡をしなければいけないとなれば、確かに考えものですが、数名への連絡ならば議会事務局の担当書記から連絡は十分可能ですし、そのほうが委員会の対応としても適切ではないでしょうか。実はこのようなことを委員長に要望しました。

 残念ながら、これまで陳情者7名への連絡はなされていないようなのですが、先に言及した議会の予定表には「※放射線関係の陳情審査」の文言が追加されたようです。

 区議会議員は何をしているのか分からないととかく言われがちです。ちょっとした配慮から区民との距離感を縮めていく努力が欠かせないと思います。

 陳情を提出した方も、傍聴に来て、「なんだ、内容審査しないの~?」ってことになれば無念でしょうし、こちらも申し訳ない思いをしなければなりません。

 ということで、老婆心ながら、私個人の判断で明日の委員会の陳情審査の見通しをお伝えした次第です。




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区民の抱く不安感を共有し、理解することが大切なのでは?

2011-08-05 02:52:34 | 地方自治
 決してすべてが誤った見解では必ずしもありませんし、被災畜産農家の追い詰められた現状を考えれば、むしろ思いやりのある言葉と言えるでしょう。また、区内で飲食業に従事している方々のことも考えてのことなのでしょう。しかし、想定される大多数の読者層を考えると、視点と掲載紙面が少しズレていないかと首をかしげた一言があります。

 一方的な見方はとりたくありませんので、前置きしておきますが、この記述が全くもって誤りだとは言い切るつもりはありません。無理やり数字で評価すれば、そうですね、3割程度は理解できます。でも7割くらいズレていると思います。

 何のことかと申し上げれば、2011年8月1日号の『広報えどがわ』1面右上の記事「放射性セシウムが検出された肉用牛肉対策」中の「~風評被害を広げないようにしましょう~」という副題についてです。(副題にはもう一つ、「健康への影響は?」というものも記されています。)

 被災地の農家や畜産農家が行政指導による出荷停止に加え、風評被害によって深刻な打撃を受けていることは周知の事実です。被災地では自殺者まで出ており、大変気の毒な話です。そう思えばこそ、私個人としては産地などこだわらず、今までどおりの食生活を変わらず続けています。焼肉も牛丼も今まで通り食べています。(自分としては年齢的にも、発ガンリスクはもはや相対的に低いだろうというたかをくくった開き直りもないではありませんが。あまり気にしない方かもしれません。)

 しかし、福島から200㎞以上離れた都内各所においても低線量ながら放射能が観測されているという事実と、セシウムで汚染された牛が何千頭も(7月26日の時点で2700頭とも)全国各地に流通し、一部販売もされてしまっていたという事実とで、子どもを持つ保護者世代を中心に、多くの国民が不安を抱えているという現実があります。

 また、チェルノブイリ原発事故の実証データから、子どもの受ける放射能リスクは大人より大きいということが明らかにされています。人々が不安に感じるのは自然なことで、その不安感を責めることは誰にもできません。

 なんとなれば、放射線量が高かろうが低かろうが、放射能が無害であるということはないからです。放射線防護学の安西育郎氏(立命館大学名誉教授)は次のように述べています。「放射線には、これ以下なら健康影響がないという安全な値はなく、被曝はできるだけしない方がよいというのが世界的な共通見解だ。」(注1)

 また、国際放射線防護委員会(ICRP)も100ミリシーベルト以下の低線量被ばくについて「安全だ」「安心してよい」といった評価はしていません。そうではなく、ICRPは、低線量(<100ミリシーベルト/年>以下)の被ばくでもガンになるリスクは被ばく線量に応じて直線的に増減するとみなす、という「閾値(しきいち)なし直線仮説」の立場をとっています。

 平たく言えば、低線量被ばくに関するリスク評価は非常にグレーな領域であり、現在の自然科学の力では明確な「安全」「危険」の評価いずれも下せないということです。これが正しい整理の仕方だと思います。

 さて、そうした中で、江戸川区でもセシウムに汚染され、暫定規制値を超過している恐れがある牛の食肉が流通していたことが明らかとなりました。区もホームページで次のように記しています。「8月3日現在、区内の飲食店5店舗、食肉卸売業6店舗、食肉販売業10店舗が当該食肉を仕入れ、すでに販売されていたことを確認しています。」(「放射性セシウムに汚染された稲わらを与えられた肉用牛の流通調査について」

 汚染された食材は市場に出回らないと言っていた国の食品検査体制に欠陥があることが明らかとなったわけです。

 先に記したとおり、子どもへの被ばくの影響は大人よりも大きいと言われています。学校給食のことなどを考えれば、江戸川区でも多くの区民が不安を口にしたとしても、きわめて自然なことです。セシウム汚染牛の問題により、私たちの不安はさらに増したと言えます。

 ここで、冒頭の『広報えどがわ』の記事にある「~風評被害を広げないようにしましょう~」の立脚点を再考したいと思います。

 『広報えどがわ』の読者は誰が想定されているのでしょうか。言うまでもなく、区民です。区民の100パーセントが放射能を不安視しているとは言えないかもしれません。中には神経の図太い人もいらっしゃるでしょう。しかし、心理的には大多数の方々が、口にするかしないかは別として、どこかで不安を感じているはずです。その明確な証拠は、3月下旬、金町浄水場の水から放射性ヨウ素が測定されたというニュースが流れたその日のうちに、区内の店頭からミネラルウォーターがたちまち売り切れてしまったというパニック現象に求めることができます。(「首都・東京“水パニック”の恐れ 金町浄水場から放射性ヨウ素」

 こうした不安を今まさに抱いている区民多数を読者として想定している広報に、「~風評被害を広げないようにしましょう~」と掲載するというのは、どうなのでしょう? 少し意地悪な行間読みをしてしまうと、まるで「不安を感じている区民のみなさん、あなた方が風評被害を広げていることになりかねないのですよ」と言われているみたいです。ひねくれた解釈でしょうか?

 この副題を目にし、行政の苛立ちをなんとなく感じました。「不安だ、不安だと、神経質にならないでくれ」といった雰囲気です。逆に、区民の中に潜在的にあるであろう不安感を理解してあげようという感受性はあまり感じませんでした。

 さて一方で、かく言う私も、冒頭で言及したとおり、被災地の畜産農家や区内飲食業に従事する方々にとっては、この副題は温かい言葉として響くであろうということを理解しないわけではありません。だから、3割の理解と申し上げたのです。(ちょっとズルいのかもしれませんが・・・。)

 しかし、広報の大多数の読者たる一般区民が求めていたであろうことは、風評被害を広げないでくれという記述ではなく、むしろセシウム汚染牛の食肉の区内流通の具体的説明の方であろうと推測します。ただし、生活衛生課も、この点については記事の前半にて汚染食肉の流通関連の内容として簡単ながら記述しています。この点については素直に評価しています。

 最後に、もう一つの副題「健康への影響は?」をめぐる区の記述について付言しておきたいと思います。記事の後段で述べられている部分です。

 基本的に私の立脚点は、先日の自身のブログ「「安全宣言」と「危険宣言」はともに慎むべき」で述べたとおりです。つまり、低線量の被ばく状況下では「閾値なし直線仮説」の採用が科学に一番忠実であり、そうであれば、低線量被ばくの状況を「安全である」とか「危険である」とか評価すること自体がそもそも間違っているというものです。

 記事には「年間放射線量は約3.274ミリシーベルトとなり」、「これは、原理力安全委員会が示す食品由来の放射性セシウムの基準である年間5ミリシーベルトを下回るものです。」とあり、国も「『健康への影響は心配ない』としています」と記述されています。

 ここでもう一度、放射線防護学の専門家・安西氏の言葉を繰り返します。「放射線には、これ以下なら健康影響がないという安全な値はなく、被曝はできるだけしない方がよいというのが世界的な共通見解」なのです!

 年間5ミリシーベルトを許容限度値のように理解してはいけません。「○○ミリシーベルトまでの被ばくなら安全」などという許容限度値はないのです。「閾値なし直線仮説」がICRPの見解であり、「健康への影響は心配ない」とは述べていません。「安全」とも「危険」とも評価できないのです。国はそれをパターナリズムでむりくり評価し、安全宣言しようとしているのです。

 こうした、科学的に証明しえない低線量被ばくの領域を知りつつ、「安全」という言説を振りまく区の対応にも違和感を覚えます。非科学的な「安全宣言」は「危険宣言」同様、慎むべきと考えます。


(注1)『朝日新聞』2011年7月26日夕刊、1面




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