木村長人(きむらながと)。皆さんとつくる地域の政治。

1964年(昭和39年)千葉生まれ。元江戸川区議(4期)。無所属。

医療ツーリズム(徳島県)

2011-09-23 01:28:56 | 地方自治
 こんばんは、木村ながとです。

 すっかりご報告が遅くなりましたが、徳島県の取り組む医療ツーリズムに関する視察のご報告です。今年度の福祉健康委員会所管事務調査の最後の視察項目です。

 「医療ツーリズム」という言葉を最近、皆さんも新聞やテレビで時々見聞きするのではないかと思います。では、医療ツーリズムって、何でしょうか? 実は非常に簡単です。「医療観光」とも呼ばれます。でも、これではツーリズムを翻訳しただけみたいで、あまり説明になっていませんね。

 「医療ツーリズム」にしろ「医療観光」にしろ、おおむね、そのままの意味で理解していただいて間違いはないはずです。

 具体的に説明しましょう。例えば、自国よりも先進的な医療を提供している国へ治療や手術に行ったり、自国では対応していない臓器移植が容易な国へ手術に行ったりするなど、医療サービスを受けることを目的とした他国や他地域へ渡航や旅行のこと。それを医療ツーリズムといいます。

 「医療ツーリズム」「医療観光」とどちらの表現も使われているようですが、ただ「観光」という語には、例えば、景勝地を見て回るなどのニュアンスが含まれているため、個人的には「医療ツーリズム」のほうがしっくりとくるような気がします。英語では medical tourism といいます。tour は旅行、遠征の意であって、観光の意は含まれません。

 さて、私たちがお邪魔した徳島県においては、医療ツーリズムは県の商工労働部観光戦略局が担当していました。私たちの視察の際には、同局の観光企画課長が説明をしてくれました。

 ところで、徳島県と言えば、皆さんもご存じのとおり、阿波踊りがとても有名です。それは同県にとって夏季の大きな観光資源の一つです。他にも、徳島県には鳴門の渦潮やおいしい海の幸など、たくさんの観光資源があります。そんな中で、いま県は医療ツーリズムを新たな観光資源として育てようとしているわけです。

 しかし、徳島県は残念ながら、糖尿病による死亡率が全国ワースト1位というネガティブな一面を持っているらしいのです。さらにひどいことにそのワースト1位が平成5年から18年まで14年連続を記録してきたといいます(加えて、平成20年、21年にもワースト1位へ返り咲き!?)。県は平成17年に「糖尿病緊急事態宣言」を出すまでに至りました。

 原因はもちろん県民の総体的な食べ過ぎと運動不足にあるということでしょう。県は「緊急宣言」後、根本的対策の必要性を認識し、徳島大学病院との協力で同病院内に糖尿病対策センターを設置したり(平成19年)、世界的な糖尿病研究開発・臨床拠点とすべく国の承認を得て「徳島健康・医療クラスター構想」というものを推進したりし始めました(平成21年)。

 一方で、県は、県内企業支援の経済産業振興策として、平成22年に中国の上海に県事務所を開設しました。そして、それを契機に、発展著しい中国の富裕層の観光客を徳島へ誘致することももくろむようになりました。

 そんな中で、中国人観光客誘致と県の糖尿病対策を合体させて生み出されたのが、糖尿病治療に力を入れた観光ツーリズムだったのです。観光収入を上げると同時に、糖尿病対策推進県として患者数を減らそうという一石二鳥の計画です。(この、県内企業支援、観光プロモーション、医療観光推進の三位一体計画は「とくしま・中国グローバル戦略」と呼ばれています。)

 県は医療ツーリズムにおいて、医療観光モデルコースというものを準備し、観光宣伝を行っています。そのコースでは、関西国際空港に到着した観光客はまず初日に鳴門の渦潮を観光します。二日目に、徳島大学病院で検査を受けます。もちろん医療専門の通訳が付き添います。検診の結果は夕方までには分かるようになっています。また、もし家族連れの観光客である場合には、この二日目に検診を受けない家族のために、美術館めぐり、藍染め体験、ダイビングなどの観光メニューが用意されています。三日目は家族で観光です。そして四日目に再び関西国際空港から帰国、というようになっています。

 県の医療プランでは、糖尿病検診ばかりではなく、内臓脂肪CT検査、血管内皮機能検査、心電図検査、メタボ診断などのメニューも用意されています。さらに、糖尿病には欠かせない食事療法として、和食、洋食、中華、それぞれのカロリーを抑えたヘルシーメニューの提案などがなされ、なかなかの評判を得ているということです。

 こうした具体的な医療観光メニューは、JTBなどの観光会社との契約によって提供されています。県は医療観光客1人あたり2万円の補助を旅行会社に支払っているという仕組みだそうです。


 しかし、課題もあります。それは医療設備や人材などの量的制限から、通常の観光客誘致のような大規模な誘致は一度に行えないということです。22年度の実績で、医療観光客は約20人ということです。利益率は高いのかもしれませんが(よく分かりません!)、県全体として年間20~30人の医療観光客というのが続くとしたら、なかなか地味な観光事業だなあ、という印象です。もっとも、糖尿病死亡率低下の面で大きな成果があげられるようになるとしたら、それはそれで十分有効な施策ということになりましょうが。今後の推移に注目したいところです。

 今や、経済産業省や観光庁も医療ツーリズムには注目をしているようです。近年、経済産業省は「サービス・ツーリズム(高度健診医療分野)研究会」を、また、観光庁は「インバウンド医療観光に関する研究会」「医療観光プロモーション推進連絡会」などを立て続けに設置してきています。

 ビザの面での工夫も必要でしょう。すでに外務省もビザの発給においては臨機応変な対応を実施しているそうですが、徳島県が実施しているような自治体の医療ツーリズムの推進のために、今後ますます国の各機関の連携と法の制度整備が必須であることは言うまでもありません。




江戸川区議会議員 木村ながと
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