木村長人(きむらながと)。皆さんとつくる地域の政治。

1964年(昭和39年)千葉生まれ。元江戸川区議(4期)。無所属。

「医学的実験装置」 武田邦彦氏の講演抄録 その2

2011-09-12 03:48:08 | 地方自治
 武田氏の話は多岐にわたり、次々に話されたので、完璧にメモを取ることはできませんでした。聞き漏らした部分も少なくありませんが、だいたい、上述のようなポイントが話として出ました。

 特定産地などに関わる話題も具体的に何度か飛び出しましたが(○○県は大丈夫。○○県はダメ。など)、不用意な風評に結び付いてもいけませんし、何より私のこの記述は正確な講義録ではありません。具体的地名の記述は伏せておきました。

 今回の講演を聞き、私が最も重要なポイントだと感じたのは次の2点です。第一点目は少し長い議論になります。

 一点目は、科学的結論を導き出せていない、低線量下の被ばくにある現在は、危険か安全かと議論している場面ではなく、万が一の危険に備えて予防原則を適用する期間である、という冷静な指摘です。

 統計学的裏付けが乏しい現状では、当たり前の主張だと思うのですが、この当たり前が放射線を専門とする研究者の間では必ずしも守られていません。おそらくそれは、放射線関係の専門家(研究者)ゆえの独自解釈の主張の世界の姿勢なのだろうと解されます。

 どの研究分野でもそうだと思うのですが、優秀な専門家(研究者)であればあるほど、単なる数値の公表だけでは能がなく、そこに自分なりの仮説とそれを証明する論理を付加する自己表現の欲求に駆られるものです。人命に影響のない分野の研究であれば、それでも構わないでしょう。

 しかし、それが人命に影響のある分野であった場合には、仮説や主張によっては、後々、とりかえしのつかない結果をもたらすことがありうるということを、専門家、特に医学系分野の専門家は認識すべきです。自己の仮説の主張が実験装置になってはいないでしょうか? もしなっているとしたら、恐ろしいことです。

 子どもたちはもちろん、私たちは、福島事故による20年後の人体への影響データを提供するための検体ではありません。一般人である私たちは今、専門家独自の解釈や仮説を知りたいのではありません。統計学的に分かっていることだけを説明してもらい、分からないことは分からないときちんと明示してほしいのです。それが、医学系分野に携わる研究者に求められる倫理ではないでしょうか。

 唐突な例えかもしれませんが、統計学的裏付けに乏しいことと低線量被ばくが哲学の領域であることを認めつつも、なお、放射性物質汚染をめぐる被ばくリスクについて「心配しなくてよい」と安全哲学を主張し続ける専門家の動きは、20世紀初頭のマルクス主義の動きに少し似ているような気がします。

 つまり、こういうことです。

 マルクス主義(共産主義)は、統計学的にも、社会現象としても何の実証的裏付けもない段階であるにもかかわらず、ブルジョアジー支配による資本主義の課題を克服できる唯一の思想であり体制なのだと、マルクス、エンゲルス、レーニンらによって主張し続けられました。結果として、ソビエトという巨大な実験国家ができ上がり、あっという間に各国に波及しました。

 しかし、マルクスの仮説に基づいていざ共産主義国家が出来上がり、運営を始めてみると、それは各地で労働者階級(プロレタリアート)の独裁政治へと導かれ、彼らが支配する全体主義国家では多くの人権侵害や粛清が行われることになりました。

 統計学的にも実証的にも裏付けのない仮説の主張とそれに基づく動きは、いったいどこへ向かって行くのでしょうか。誰にも分かりません。確証のない実験ですから。統計学的裏付けに欠けた、安全哲学という仮説の主張は、広域的なまちぐるみの医学的実験装置になっているのではないかと危惧されます。

 さて、武田講演の第二のポイントです。それは、チェルノブイリ事故後の経過観察によって、統計学的にも裏付けられているとおり、子どもたちが最も被ばくリスクを受けやすいという点です。子どもの被ばくリスクは大人のおよそ3倍といわれる話であり、特に真新しい指摘ではありませんが、各自治体の行政が最も重く受け止めねばならない重要点でもあります。

 加えて、3月の事故以来、<葉物→牛→魚>と変化する食物汚染の時系列的な指摘も、私たちには役立つ知見でした。

 放射性物質汚染と被ばくの問題をめぐっては、いまだに「安全」「危険」を指摘し続ける専門家もいるなか(統計学的優位性がないにもかかわらず!)、私たちはさまざまな情報を自分たちで集め、自己責任で判断していかなければならないのだということを、つくづく感じます。私も皆さんとともに勉強を続け、冷静に理論武装してまいりたいと思います。




江戸川区議会議員 木村ながと
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