『教育改革の幻想』苅谷剛彦より
大人たちは、子供のことでは、やはり熟達した園芸家でなければならぬ。
徒長した枝はドンドン切り落とし。季節季節には肥料を与え、張らすべき根は、十分張らせて置かねばならぬ。野放しのままの子供たちは、ちょうど、手入れのよくない果樹のように貧弱な実りしか出来ないか、まったく無収穫で終わってしまうものである。子供たちの生活が、まだ、直接経験の世界に踏みとどまっているうちはよいが、彼らにも、やがて、生活のかぎりない広がりと、複雑さの中に、その真の意味を探りださねばならぬ時が来る。そのとき、彼らのために未知との世界への架け橋となるもの、それは文字に他ならない。(中略)もし、それらの基礎知識が、しっかりとつかまれていないなら、新しい知識を吸い上げる機能は止まり、子供たちの生活を理解する力は、その成長をやめ、遂に、将来、社会に生きて行く力さえ、奪い去られる場合も出来てくる。
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