気にしないでくれ。いいかげんに応えているのでも、悪気がある分けでもないんだ。
あまり人と話すことがないもので、言葉の使い方に自信がない。
だから千恵さんが分からなくなるのは当然なんだ。気にしないでくれ。
これからはできるだけちゃんと考えて話すようにするから」
「いいのよそんなに気にしないで。私だって子供じゃないから、言葉は分からなくても意味は感
じることはできるから。
それで漁師の話しは理解できました」
「よかった。私千恵がまた喧嘩始めるんじゃないかと心配した。この娘は本当に気が短くて、誰
にでも突っかかる癖があるから」
「大丈夫よ、全然そんな気分じゃないし、それに今日はとても楽しい日だし」
千恵はいつもなら噛みつく妹の言葉にも逆わない。
煎餅を食べ終わり、一服がいささか堅い気分になったところで、四人は腰を上げた。
最初に腰を上げた高志はのんびりと、確かめるように言った。
「今日はいい日だ」
二人の娘達も笑顔を交わしながら腰を上げた。
帰りの道は来た時よりも短く感じる。
景色は目まぐるしく変化をしながら過ぎていく。
目星を付けた蕨の場所では、皆で採る量を両手で掴める一束だけと決め、その後は一番入江の家
に近い蕗の場所に向かった。
木の間越しに入江を斜め、全方位に海原が開けるその場所は、急な斜面だった。
崖ではないが足を取られたら、途中の木にでも引っ掛からない限り、どこまで落ちるか分からない場所だ。