伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ210

2023-06-27 16:08:25 | ジャコシカ・・・小説

 彼は注いだコップの一つを高志の前に押しやり、今一度「ゆっくり読んでくれ」と言ってから、

 

残りの漬物で飲み始めた。

 

 彼の漬物を嚙む音だけが、部屋の中に響いた。

 

 あやは一枚読み終わるごとに、高志に渡し、全部読み終わると、再び高志から一枚目からの便箋

 

を求めて読み直した。

 

 鉄五郎は半ばうつ向いて、静かにコップを傾けている。

 

 ようやく二人が二度読み終わったのを見届けてから、彼は口を開いた。

 

 「野木和美はわしの子だ。24年前わしは妻と、3歳になる和美を捨てた。二人を置き去りに

 

して家を飛び出し、以来各地を転々と流れ歩いてきた。

 

 世間じゃ蒸発ということになっているだろう。実に都合のいい言葉だ。

 

 置き去りにされた者にも、姿をくらました者にも、そして世の中にとっても、都合のいい言葉だ。

 

 この言葉は人間の重大な行為を、ありふれた科学用語にすり変えている。

 

 物質の分子レベルの反応には、人間性の入りこむ余地はない。だから何となく納得し、安心して

 

しまう。

 

 しかし、わしの妻は死ぬまでその言葉に、何故と問いかけ、その子もまた問いかけ続ける。わし

 

が二人にしたことは罪深い。何重にも二人を傷つけた。わしは卑怯者だから、その罪から逃げ続け

 

てきたのだ

 

 しかし実際のところ、自分が何故そんな仕打ちを二人にしたのか、分からなくなっている」

 

 鉄五郎はコップを置き、その中の焼酎に答えを求めるように、茫として視線を落とした。

 

 彼は本当に、そこに答えを探しているかと思えるほど、長く沈黙を続けた。


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