少なくとも家族は皆、そう思っている。
それに元来姉は、隠しごとのできるタイプではない。 直裁な物言いは避けるが、かと言って言う
べきことは言う、伝えるべきことはしっかりと伝える。
要するに自分にも人にも正直だ。
その姉が一瞬ひるんだ様子で妹を見た。
それからはね返すように言った。
「まだ」
千恵はさすがに少こし後悔した。
短い白の前掛け姿のマスターが、笑顔で近付き清子を見る。
今日はいつもの若い娘はいないようだ。
清子も笑顔を返して、いつものコーヒーをオーダーする。
落ち着いたその姿に、またも大人の女を感じてしまう。
やはり姉にはかなわないし、生意気を言っても、自分はただの女子高生なのだと、思い知らされ
る。
「で、特に何かある」
姉がマスターに向けた笑顔を収めてたずねる。 これもいつもの待ち合わせの時の、きまり文句だ。
そこで千恵は今の今まで考えてもいなかったことを、すらすらと口から送り出す。
多くは学校のことや友人のことだ。
父や母のことは当然ながら、滅多に出てこない。 何せ毎日顔を合わせているのだから。
家族のことではやはり、嫁いだ姉のことやその子供達のことが多い。
父から聞いたことや、母の考えや物言いについて、二人で今一度反芻したり、自分達の考えを交
換し合ったりする。