修学旅行先らしい。朝目覚めるとみんなで床にごろ寝している。
横とか斜め上とか見ると同級生の女たちの太ももとかがある。
多分他の男子は羨ましがるんだろうがその時の俺は「今にも蹴り上げられそうだ」としか思わなかった。
一人起きてその体育館の様に大きな建物の端に移動した。
そこには俺のロッカーがある。
さて、ここ何年も服は買っていないから色が褪せていたり、ヨレヨレになっていたりで選びようがない。
唯一数年前に古着屋で買った黄色のアロハがまだ着られそうだ。
アロハと言えばグラサンだろう。
選んでいると後ろで畑(ハッ)ちゃんの声がした。
「て さんのロッカーですか?そのラケットは?」
言われてみるとテニスラケットが二本ある。
「ああ、これはアソくんとカンミンのやな」
と答えながら振り向くとそこには赤い振り袖を着た畑ちゃんがいた。
もちろん畑ちゃんは男である。年は俺より一学年下で昔々俺の勤め先にアルバイトに来ていた。
アソくんとカンミンとQちゃんと、数年に一度飲む程度だが、もう二十年来の友人だ。
けど、赤い振り袖を着ていた。うっすらと化粧もしている。背が高くないから何となく似合ってる。
どうも罰ゲームか何かでそんな格好をさせられたらしい。
別に落ち込んでいる様子も恥ずかしがってる風でもなく、自然だ。
後ろで寝ていたはずのクラスメイト達がいつの間にか外に移動していたので俺も彼と出て行くことにした。
大きな建物だ。
それがいつの間にか阪急三宮になっている。
畑ちゃんは何故俺の修学旅行に来てるんだろうと思ったが、三宮ならしょうがない。
俺が育った街だ。
彼らと飲み歩いた街だ。
後ろに彼女の気配がする。
彼女というのは小学校中学校と同じだった彼女。
夢の中ではいつも彼女の姿を捜している俺。
彼女は何か外人みたいな大人としゃべりながら同じ方向に歩いてる。
彼女も振り袖だ。
俺は畑ちゃんと話しながら急ぐこともなく外に向かっていたけど、後ろから見たら誰か他の女と歩いてる様に見られているんじゃないかと少しだけ心配した。
畑ちゃんの着物姿はそれだけ似合っていた。
駅の外に出て北に向かった。北野にでも行くのか、他の生徒はみんなそちらに向かって歩いていた。
もうすぐ信号が変わりそうだったので右手に渡ろうぜと言いかけた。
その時街には誰かの曲が流れていたんだけど、俺たちの前を歩いていた同じ学校の女の子が振り袖姿で軽く舞ながらその曲を口ずさんでいた。
畑ちゃんがいきなり歌に参加する。それも口ずさむとかではなく、シャウトなんだ。
そう、畑ちゃんは歌が上手い。
その女の子も楽しそうに答えてる。
畑ちゃん絶唱しながら信号前のベンチに座る。その横に俺も座り、向かいのベンチに女の子も座った。
俺はその曲は聴いたことがある程度でハミングくらいしか参加できない。
すると後ろを歩いていた彼女も微笑みながらそんなに大きな声ではないが歌いながら歩いてきた。
畑ちゃんの向こうに座る。
四人で結局最後まで歌った。
畑ちゃんが、「て さん、カラオケ行きましょ、四人で!」「この辺にカラオケありません?」
と提案する。
「うーん、もちろんあるやろけど、三宮離れて十何年経つからわからんなぁ」と困った顔をして
こたえながらも心の中では「畑ちゃん Good Job!Good Job!Good Job!」と叫びまくっていた。
畑ちゃんの言う『カラオケ』は『カラオケスナック』のことである。
なんという自然な誘い方!
赤い振り袖着てるのに!
で、目が覚めた。