Crónica de los mudos

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クリスティアン・クルーサット『旅と砂漠についての短いまとめ』

2019-04-26 | スペイン

 私たちは本を開くとき、それがどういう本であるかをいちおう確認したうえで開いているはずだ。

 小説、ノンフィクション、自伝、自己啓発、宗教、科学。

 この本には文学という以外に特にジャンル分けの基準は記しておらず、いったいどういうことだろうと思いつつ手に取った。きっかけは作家の名前が気になっていたこと。1983年生まれで、名前からして移民の子っぽいなあ、と。

 作家の情報は調べずに読んだ。

 そして、挫折しかけた。

 本を読んで挫折するときのパタンはいくつかあって1)つまらなさすぎて(客観的に見てレベルが低い)、2)オヤジっぽすぎて(私の感性に合わない)、3)文が難しすぎて(文字通り)の三種類、1と2は縁がなかったと思って諦めるが、3だけは途中で放棄しないでお付き合いすることにしている。人間関係に直すと1)ガキはお断り、2)いっしょにいてシンドイ人は無理、3)ヤヤコシイ奴だがとりあえず話は聞かねば、という分類でしょうか。

 帯の文言ではノンジャンル。

 短編小説集ともエッセイともいえる。

 読んでみた感じはやはり短編集。

 そういう意味では期待外れかな。

 そこは蓋をして読み進めた。

 計6つの短編。

 いつものように、ひとつひとつの梗概くらいは説明したいところだが、やめておこう。梗概というものにそぐわない話ばかりなので。アメリカ南部を旅する男。環境問題に敏感な二人の女と奇妙な同居生活をしているが、その旅先で出会った女性と奇妙な会話をする。なんのおちもない。ミロラド・パヴィチの小説にインスパイアされたと思しき話はパヴィチの小説を読まないことにはどうしようもない。アリアンというデンマーク人の妻の父との関係を夫である語り手が語る話は、ある意味で、典型的な短編小説の結構を備えてはいるものの、それ以上、なにかがあるわけでもない。「深夜の月」と題された話では、おそらく北欧のどこかの島を舞台に、娼婦と寝た男の明け方を描いている感じなのはうすうすわかるのだが、それ以上でもそれ以下でもない。「地中海三ツ星ホテルの二分法」も同様である。最後の表題作「旅と砂漠についての短いまとめ」は、女性とアルメリアを旅する男がヒッチハイクでロシア人を拾った後にいろいろ気まずい思いをするのを綴っただけの話で、一体それが何か、と思わせる。

 私は文学に何を期待しているのか。

 文学をどう思っているのか。

 どう勘違いしているのか。

 私は実は、文学こうあるべし、みたいな妙な思いこみをそれなりに抱いているそれなりにアホなオヤジなのか。

 ということを我に問う機会って、年に数回あるんですけど、こういう本を読んだときがいちばん顕著でしょうか。一筋縄ではいかなそうな作者、他にも分類しがたいノンジャンル本を書いているようで、次の本でその真価を見極めてみたい。まだファーストコンタクトですから。


Cristian Crusat, Breve teoría del viaje y el desierto. 2010, PreTextos, pp.108.