Crónica de los mudos

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マティアス・セレドン『横糸と縦糸』、『支部』

2019-04-17 | コノスール

先週までチリのランダムハウスご一行と来日していたマティアス君、関西方面でよければ会おうと連絡を取っていたが、京都奈良数日観光の後に高野山直行、高野山一泊後に広島と宮島直行、そこから東京帰還ということで結局会えずじまいに。ハポンに初めての方々の観光ルート、世界遺産なんてひとつもないオサーカは必ず飛ばされるのですね。ウロウロしているのは買い物が目的の人たちと、ある程度名所を見つくしたリピーターのみ。スペインでいえばバレンシアみたいな位置づけか。大きい町だけど「別にいい」的な。スペイン初滞在で敢えてバレンシアには寄る人はいませんよね。

 彼に関しては去年出た『ブラニフ一族』を今度チリに行くまでに読む予定で、とりあえず2007年に出ているこの変わった小説を先に読んでみた。それがある種のコラージュとしか言いようのない不思議な構成。印象としては、いったん出来上がった(おそらく分量的には本書の20倍ほどの)物語をバラバラに解体し、複数の一人称の発話と、統合的な語りのうちのもっとも難解なパートだけを意図的に取り出して、ランダムに切り貼りした感じ。ページにつき多くて10行、短くて1行の断片しかない。

 裁縫教室で生計を立てている女、その息子で部屋に隠れ続ける青年、その青年に乱暴する父親、なにかの性的暴力をしかけてくる足の悪い男……と主要な人物はいるようだが、時系列はばらばら、有機的な関係は結ばないまま最後まで声だけが聞こえているような感じ。知らない家で盗聴された複数の声を聞かされているような気分になってくる。

 マティアス・セレドンは1981年生まれ。上のデビュー作は26歳のときと比較的早い。そして次に彼が発表した得体のしれない代物がこの本。私が持っているのは2016年の第三版だが初版は2012年、彼が31歳のときですね。どういう経緯かは知らないが、デビュー作はランダムハウス系だったのに第二作はまったくのインデペンデント。メジャーリーグでデビューした直後に台湾リーグに移籍したようなものかもしれません。

ここ近年の履歴を見ると『横糸と縦糸』も本書『支部』もいちおう小説と分類してあるが、この本、小説とは呼びにくいかも。いくらなんだってありのジャンルとはいえさ。なにしろこうなので。

ページごとにマティアス自身が作成したゴム印(そうとう時間がかかっていると思われる)が押してあるのみ。なにかの役場でなにかが進行していることだけが分かるという仕掛け。チリの現代詩や現代アートを見てきた身としてはもはや驚くことはありませんが、ふつうこういうものを小説と称して差し出してくる人間が世界文学という名の華やかな劇場に入れるはずもない。ふつーに小説を書いて運よく世界文学化することを待つという道から敢えて離脱したということであり、私はいつもの仲間とペルー料理屋で飯を食ったときに見た彼の憂鬱そうな顔(といってもたいていの物書きは特に昼間は憂鬱そうな顔をしているが)に秘められたパッションを理解したように思う。

 このあと2014年に発表したこの『ネズミ花火』という小説を私は彼から直接もらった。偶然の出会いに感謝しつつ、とサインを書いてくれている。

これは見たところ文字数も多く、ふつーの小説に見えるが、やはり絵や変な写真がコラージュしてあるあたりはフアン・ホセ・マルティネスの後継路線を外れてはいない。そして版元はウエデルス。彼にもっとも似つかわしい会社だと思う。私はこれからこの『ネズミ花火』を読み、そして去年出たこの『ブラニフ一族』を読む予定。こちらもウエデルス。今年の後半に予定している仕事とも関係があるので、今度サンティアゴに行ったらこのウエデルスを訪問してみたい。

Matías Celedón, Trama y urdimbre.2007, Mondadori, pp.142. / La filial. 3ra ed. 2016, Alquimia Ediciones, pp.202.


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