牧師の読書日記 

読んだ本の感想を中心に書いています。

4月2日(火) 「三国志 (三)」 吉川英治著  新潮文庫

2013-04-02 07:42:43 | 日記

 第3巻も第2巻同様淡々と物語が進んでいっているよう気がする。時々驚くような出来事が起こるのだが。

 本の最後にある解説者の言葉からの引用。「曹操への高い評価は、吉川「三国志」の大きな特徴の一つである。例えば、諸葛亮が現れなくても、中国史の枠組みそのものが大きく変わることはない。しかし、曹操がいなければ、今の中国のかたちは変わっていたかもしれない。そうした曹操の重要性に、吉川は気づいていたのであろう。曹操の覇権の支柱となった三つの政策は、軍事的基盤として青州兵を編成し、経済的基盤として屯田性を始め、政治的正統性として献帝を擁立したことである。いずれも後漢末において革新的な政策であった。」

 「 「三国志」は、「滅びの美学」を描いた文学である。漢の正統を引く劉備が建国し、神となった関羽、庶民に大人気の張飛、知識人がその忠義を仰ぐ諸葛亮が支えた蜀漢の敗北を描く物語なのである。正義の陣営がこれだけ整うと、敵役がしっかりしなければ、物語に締まりがなくなる。敵役として存分の悪知恵を働かせるだけでなく、その革新性で中国史の流れを変えるほどの力を持ち、かつ人間としての魅力を溢れさせる稀代の悪役、それが曹操なのである。 」

 三巻には兵士への食料が少なくなり曹操の指示で小桝を用いて兵に食糧を与えると兵たちに不満が募り「これでは出征の時の宣言と約束が違う、こんなもので戦えるか」と曹操に怨みが集まる場面がある。

 そこで曹操は、糧米総官の王垢を呼びこのように言う。「予は、おまえから一物を借りて、取り鎮めようと思う」 彼は答える。「わたくし如きから者から、何を借りたいと仰せられますか」 曹操は言う。「王垢。おまえの首だ」 「げっ・・・?」 「すまいないが貸してくれい。もし汝が死なぬとせば、三十万の兵が動乱を起こす。三十万の兵と一つの首だ。その代わりそちの妻子は心にかけるな。曹操が生涯保証してやる」 「あっ。それはあんまりです。助けてください。」 王垢は泣き出したが、曹操は平然と、かねて言い含ませてある武士に眼くばせした。武士は飛びかかって、王垢の首を斬り落とした。 「すぐ陣中にかけろ」 曹操は命じた。王垢の首は竿にかけられて陣中に曝された。それに添える立札まで先に用意されてあった。立札には、『王垢、糧米を盗み。小桝を用いて私腹をこやす。罪状歴然。軍法に依ってここに正す。』と、書いてあった。 「さては、小桝を用いたのは、丞相(曹操)の命令ではなかったと見える。ひどい奴だ」と兵は、王垢を怨んで、曹操に抱いていた不平は忘れてしまった。 という内容である。

 何ともこのようなことを平然とやってのける曹操は確かに存在感がある。