合衆国の片隅で新館 2006~

5人と4頭プラスαと2羽と1匹とその他大勢だったアメリカ暮らしは2人と1頭と1匹になりました。

日本語 私の今週の宿題

2017-10-26 | 日本語教師の日々
日本語の謎、なんて前フリしましたけど、ちょっと違うかな。大まかに言うと、英語ってなんでも名詞にしちゃうよね!ってことが言いたいのかもしれません、私。


初めての生徒さんが日本語を習い始める最初の時間は大抵自己紹介から入ります。名前、国籍(どこから来たか)、職種、好きなもの…etc. 

「私は日本人です」
「私はアメリカ人です」
「私はメキシコ人です」
「私はネパール人です」
「私は中国人です」
「私は韓国人です」
「私はコロンビア人です」
「私はエルサルバドル人です」
「私はアルンゼンチン人です」
「私はリヒテンシュタイン人です。」長くなってくるとと言いづらい。
「私はアメリカと日本のハーフです。」←突然「人」がつかなくなる。しかも「と」なんか入ってる。

まあ、それでも国籍に関しては日本語はまだ簡単な方なのかもしれません。とにかく「人」つけちゃえばとりあえずなんとかなるから。でもね、世界には国籍が一つじゃない人ってたっくさんいるんですよね。そうなると「◯◯人」という言い方そのものがすでに危ういです。「国籍」という考え方自体も「籍」というものが存在する日本ならではの概念のような気もする。日本という国は言語も日本語、国民も日本人、単一民族とは言えない、ってことになってるけれど、実情はかなり単一民族に近いメンタリティだと思います。あまり例外を考えていないというか、例外が多すぎるのに気付いていないというか、そもそも日本という国の方が世界的には例外なのだということが完全に抜けているというか。


職種は更にややこしい。

「私はresearcherです」→「私は研究者です」…学者みたいだな
「私はchemistです」→「私は化学者です」…さらにオタク度が増している
「私はproject managerです」→「私はぷろじぇくと まねえじゃあです」…こんなんでいいのか。

ええ、みんなまとめて会社員にしてしまえ!

…でももちろんいいんですけど、せっかくの少人数クラスですから、言いたいことを言えるようにするお手伝いがしたい!


しかし、一生懸命考えたのですが、どうも企業の中にいる研究職の人とか、その中で化学分野を扱っている人とか、そういうスペシャリストを日本でどう呼んでいるのか私はよく知らない。ちょこっと考えた限りでは、
日本では専門職・技術職とか間接職とか、化学系エンジニアとか、そんな言葉でその類のいわゆるホワイトカラー職種を表しているような気がします。一方、技術職をそのままtechnician と英語訳してしまうと、日本語とは正反対の直接職つまりfactory workerのようなブルーカラーになってしまう。
今回私が自分の宿題として持ち帰ったのは、生徒さんからの質問
「factory workerは日本語でなんですか」というものだったのですが、これが難問です。今どき「工員」なんて言葉は使いませんよね?ポリティカリー・インコレクトかな?


場合によっては「I'm retired. How do you say that?」(退職してるんだけど、何て言えばいい?)なんて聞かれるときもあります。「私は退職者です」「隠居です」うーむ。
そもそも
「私は教師です」
これでさえ、日本語ネイティブ同士の会話だとちょっとモヤモヤする。「教師」というコトバを教えるために「先生」というのは尊敬表現なので、自分に対しては使えないから、先生ではなく教師、と言います…なんてことを最初の授業で教えるのは酷な気がします(必須なので教えますけどね。)


で。上記のあれこれを普通に日本語ネイティブの会話だったらどういうかというと、

「私はアメリカから来ました」
「企業で研究をしています」
「化学系の仕事をしています」
「プロジェクトを管理しています」
「工場のラインで働いています」
「退職しています」
「日本語を教えています」

これですよ。そもそも名詞で会話してないな、と。


英語って何でも名詞にしちゃうイメージがあります。簡単便利。最初につまづいたのは[reminder」という言葉でした。ある生徒さんがメールに「思い出させるものをください」と書いてきたのでした。辞書を引いて出てきた、reminderの訳語が「思い出させるもの」 だったわけですね。英語はなんでもer付けちゃえば名詞になる! consumer(消費する人=消費者) tax payer(払う人(税金を払う人=納税者)あたりはなんとかしっくり日本語になってるけれど、claimer なんて、いちいち「文句を言う人」なんて言ってられないからそのまま日本語もクレイマーになっちゃった。userもそう、buyerもそう。いちいち「使う人(使用人、じゃ意味がぜんぜん違うけど使用者だととりあえず◯というのもトリッキーだ)」「買う人(購買者?それとももう一段階進んで消費者?)」なんて言ってたら不便だものね。そもそも日本語はすべてが「人」中心すぎるのだ。「人口」しかり「人生」しかり。シカの人口とか犬の人生とか、ああ、もやもやする。



そんなことを考え出すと時間がいくらあって足りなくなって、結局教案ハンパなまま授業に臨み、また生徒さんからの思いがけない質問に撃沈されることになるのでした。日本語と英語、違うなー、違いすぎるなー。





「あのね、ちなみにぼくは『licker』って言われてるんだよ。何でも舐めるから。日本語で何!?」


ホラ、困るでしょ?舐める人?犬だけどね。


久々にちょっとだけ真面目な記事を書いてみました。で、factory workerを(主にホワイトカラーの人たちが)何と呼ぶのか、についてはまだ解決してません(涙)クラスは明日。ああ。。。日本語教師とも日本語教授法とも関係なくてただの英語が苦手な日本人の愚痴になってる。。。




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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (シナモン)
2017-10-26 08:14:26
日本語で書く時には、工場労働者となっていましたけど、これは見下したような感じだというので、ブルーカラーとカタカナ表記にしてたりしましたね。
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Unknown (chie)
2017-11-03 18:41:54
読んでるうちに「えーいめんどくさい」になっちゃいます。
こりゃ一筋縄じゃいかないですね。

日本で日本語を聞いてても聞き直すときがあるのは人称代名詞。
「私」だけでなーんでこんなに・・・?
それと、
関西の人が「自分」ていうからその人の事かと思ったらこっちのことだったり!
「お父さんがね」というから彼女の父親かとおもったら彼女の夫の事だったり!
「嫁」なんて関東では嫁いできた「お嫁さん」だったのが今では関西風に「自分の奥さん」を指します。
もうね。これを外国人に解れというのが無理というもんです(笑)




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Unknown (TAMA)
2017-11-03 23:29:05
☆シナモンさん、

ブルーカラーっていうのはいわゆる形容詞で、結局何をしているのかは表してないですよねえ。やっぱりいちいち名詞にしないで「現場で働いている人」って言うしかないのかな、って気持ちに落ち着いています。でも日本語習い始めて4時間の生徒さんにはとてもそんなの覚えられないし、言えません。困ったもんです。
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Unknown (TAMA)
2017-11-03 23:33:47
☆chieさん、
そうそう、「私」に関しては日本語が一番多いとかいう研究があったようななかったような。「それがし」とか「妾」とか含めると数十になるんでしたっけ?
「お父さん」は英語人にはありえないみたいですよね。日本語のルールでは家族の中で一番小さい(若い)人の目線で呼ぶのだとか。ちゃんと知らず知らずルールがあるのね。5歳の男の子が「お兄ちゃん」になったりするのが混乱するみたいです。でも、こっちの人もおじいちゃんのことは家族みんな「グランパ」とか言ったりもするんです。でもよその人がその人をグランパって言っちゃうと気を悪くされるそうです。「おまえのじーちゃんじゃないわい!」って。だからいちいち名前を覚えなくちゃいけないの。めんどくさっ!
そう。結論。外国人というか、日本語学習者にすべてわかるわけがないめんどくさい言語なんです。
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Unknown (ナデシコ)
2017-11-04 09:38:09
こんにちは。「工場作業員」というのはどうでしょう?近頃は「作業員」という言葉がよく使われるような気がします―「鉄道作業員」、「清掃作業員」、「港湾作業員」など。(^^)
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Unknown (TAMA)
2017-11-10 01:44:40
☆ナデシコさん、
こんにちは!
そうですね。作業員「員」という言葉はニュートラルな立場で、例えばニュースの記事などではよく出てきますよね。ただ、人を紹介するときに、「彼は田中さんです。工場作業員です。」というのはやはりちょっと日本語話者としては気になるところです。
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