kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

裏切りのサーカス

2012年07月28日 | 洋画(良かった、面白かった、気に入った)
日時:7月21日
映画館:シネツイン新天地
パンフレット:B5版700円。

20年ほど前、今にして思えば冷戦が晩年を迎えた頃、原作「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」は晩秋の課題図書だったように思う。

でも、正直、あまり面白かった覚えがない。派手な場面やどんでん返しがある訳ではなく、主人公にも感情移入しにくかった。同じル・カレでも「寒い国から帰ったスパイ」の方が好きだった。

冷戦が終結し、「無神論者のコミュニストの露助ども」というフレーズを口走ること自体がギャグになる2012年、何を思ったかの映画化である。舞台設定からして現代風アレンジのしようがない分、「永遠の古典文学、遂に映像化」みたいな響きがある。(笑)

冷戦を知らない若い世代むけに、簡単にストーリーを説明しておくと、1960年代のロンドン、英国諜報部、通称サーカス上層部の中にソ連に通じる二重スパイ、俗称もぐらの存在が秘かに報告される。英国政府はそのもぐら探しを故あって引退中の老スパイ、スマイリーに依頼するが、
複数の事件が複雑に絡み合い・・・というお話。

映画公開にあわせて、原作小説を再読してみたが、自分が年を取った分、面白いと感じることができるようになっていた。組織内の権力争いや愛情関係のもつれなどヒューマン・ファクターが実感できるようになったからだと思う。

映画も小説も時間軸を解体しているので、
ウィッチクラフト作戦の発足→もぐらの存在の疑惑→ハンガリーでの作戦失敗→コントロールの失脚とスマイリーの辞職→ジム・プリドーの就職→リッキー・ターの報告→内部調査の開始・・・という一連の流れがわかっている方が理解しやすい。

ここにスマイリーとアンの不仲、カーラの尋問、サーカスのクリスマスパーティーといったエピソードも挿入されるし、映画の語り口も説明過多でなく、くどくもないので、原作を先読みしておくほうがベスト。

しかし、複雑に入り組んだ原作を映画的にうまく、まとめていると思う。原作で少しだけ触れられ、映画では重要なパートになったクリスマス・パーティーもキャラクターの関係性を説明するうえで効果的だ。

配役的にはみんな原作小説通りに見える。オッサンくさい顔ぶれがものすごく魅力的。「ワールド・オブ・ライズ」のカッコよさからうって変わって見た目冴えないマーク・ストロングも魅力的だし、セリフがほとんどないキアラン・ハインズも好きな俳優だ。そんな中、ひとり違和感があるのが、実はゲイリー・オールドマン。原作を読み返すと、他のキャラクターはたいがい、俳優の顔と一致する(特にコントロールとパーシー・アレリン)のだが、スマイリーだけはかなり違う。

ワタシにとって、一番イメージに近いのはいしいひさいちが4コママンガで描くスマイリー。もぐら探しに掃除婦のおばちゃんを大量に雇用し、ほこりだらけの保管文書の中から「二重スパイ フィルビー」と書かれた文書を発見する。(笑)

逆にゲイリー・オールドマンといえば、シド・ヴィシャスの頃から知っている訳だから、違和感があるのはまあ仕方がない。(笑)

あと、魅力的なのが画面作り。暗く陰鬱で絶えず頭痛に悩まされるような原作の空気感を醸し出している。サーカスの事務所も今までのスパイ映画とは一線を画している。

ブタペストやイスタンブールでもロケしており、それはそれで信じられないような思いなのだが、ワールドワイドな割に全体にこじんまりしているのは、いささか残念。演出とはいえ、ニューデリーの尋問は見たかったよな。

映画の性格上、年配の夫婦づれが多かった映画館、いたるところで「難しい」「わからない」との声が聞こえたが、せっかく面白い映画なので、このまま続編「スクールボーイ閣下」と「スマイリーと仲間たち」も映画化してほしい。ワタシも原作を読むから。(実はまだ読んでいない。)







題名:裏切りのサーカス
原題:Tinker,Tailor,Soldier,Spy
監督:トーマス・アルフレッドソン
出演:ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズ、マーク・ストロング


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