kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

オッペンハイマー

2024年04月11日 | ★★★★★
日時:4月5日
映画館:八丁座
パンフレット:A4 1,200円情報いっぱい



昨年の全米公開時からいろいろと話題になり、アカデミー賞受賞でさらに注目が高まった本作。広島では大学生向けの試写会が開催されたり、劇場公開時にはBBCが取材に来るほど。
ワタシの方は3時間の上映時間や年度末年度初めの慌ただしさもあり、1週間遅れでの鑑賞となった。

いきなり結論から言えば、見ごたえのある作品であり、クリストファー・ノーランがよく取り上げる「人間の善と悪」「贖罪」が全面に打ち出された作品だと思った。
オッペンハイマーは傑出した科学者であり、また有能なプロジェクト・マネージャーとして原爆製造の責任者を任され、ナチスを壊滅させるために原爆製造にまい進する。しかし、原爆完成前にナチスが崩壊。国家プロジェクトの行く末も見据えながら原爆を実用化させ、終戦とともに一躍時の人となるが、やがて冷戦と政治に翻弄されていく。

さて、あの論点だが、劇中、広島長崎の惨状は描かれることもなければ、記録写真・映像も画面には出てこない。被爆の実情から目をそらしているという指摘もある。
オッペンハイマーは核兵器を開発したことへの自責の念に苛まれるのだが、それは「世界を滅亡させる核の時代を開いたことに対して」として描かれている。
劇中「1度核兵器を爆発させたら、大気中の核分裂の連鎖反応が途切れなく繰り返されて地球が燃え尽きる」説が何度も言及され、その破滅が理論上の可能性であった連鎖反応ではなく、核兵器の開発と保有国による相互破壊として現実になったことに焦点が当てられ物語が進む。
なので描写への批判も当然のこととはいえ、広島長崎の惨状を真正面から取り上げていたら、映画の論点がぼやけたものになったのではないかと思う。
また、クリストファー・ノーランは映像へのこだわりが異常なので、自分が撮っていない記録写真・映像を使う気は最初からなかったのかも知れない。(←邪推)

以前、フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画「ミサイル」を観た時、基地のスタッフがミサイルの発射ボタンを押すことを逡巡しないようにシステマチックに構築された理論と教育に打ち勝つのはなかなか大変だと思ったことがある。
それぞれの歴史観についても同じことが言えると感じた。
自身の日々の仕事を顧みて、やっている仕事が長期的には社会や地球の将来に悪影響を及ぼすのかも知れないと自問することがある。さすがに兵器を作っているという自覚はないが、オッペンハイマーと議論した科学者が発する「物理学300年の英知の到達点が大量破壊兵器なのか」というセリフには涙する。

映画後半ではかっての組合活動や共産主義者との付き合いなどから、赤狩り真っ只中の政府委員会で吊るし上げられ、公職から追放されていく様が描かれる。そのプロセスの恐怖は公正ではない社会になっていくことへの危機感の表れではないか。
マンハッタン計画を描いた映画は過去にもあり、オッペンハイマーをデビッド・ストラザーン、グローブス将軍をポール・ニューマンが演じた映画をうっすらと覚えている。(後で調べたら、前者は「デイワン/最終兵器の覚醒」、後者は「シャドウメーカー」という別の映画だった。)

今回、オッペンハイマーを演じたのは、悪人顔のキリアン・マーフィー。その顔立ちからエキセントリックな役どころが多いが、彼がいたから成立した映画とさえ言えるくらいのハマリ役。
妻役のエミリー・ブラントやグローブス将軍のマット・デイモンなどキャスティングもオールスター映画を思わせる顔ぶれなのだが、ほとんど見せ場がない。
むしろ魅力的に描かれるのは物語として悪人側にいる人間で、映画後半をかっさらうロバート・ダウニーJrのオスカーもさもありなん。他にもエドワード・テラーやロッブ検事、トルーマン大統領(1シーンだが演じるのはチャーチル首相も演じたゲイリー・オールドマン)も強い印象を残す。「バットマン」シリーズ同様、そういった人物描写もノーラン的だ。
時代背景を知っているとはいえ、時の流れが複雑に交錯した映画なので登場人物の心理の変化も意識してもう一度観たいし、大きな問題提起という

評価は★★★★★。

さて、期せずして米のホームコメディ「ヤング・シェルドン」を観ていたら、1984年のテキサスで天才少年が「共産主義を支持する」とインタビューに答え、街中から危険視されるというエピソードだった。笑い話にしているとは言え、アメリカの共産主義恐怖症はなかなか根深い。







題名:オッペンハイマー
原題:OPPENHEIMER
監督:クリストファー・ノーラン
出演:キリアン・マーフィー、ロバート・ダウニーJr、エミリー・ブラント、マット・デイモン

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