kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

ミサイル

2020年08月30日 | ★★★★☆
広島市映像文化ライブラリーのフレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー特集、今回も軍モノ「ミサイル」が入ってます。

米戦略空軍ヴァンデンバーグミサイル基地の日常を取材したものかと思いきや、ミニッツマンミサイル発射管制担当に向けた14週間の研修と訓練が素材となっている。
「米軍:エリートへの道(Cutting the edge)とか「ONE SHOT ONE KILL 兵士になるということ」など米軍の訓練ドキュメンタリーは訓練のシステマチックさやそこに到る思考過程など興味深くて参考になることが多い。

本作も初日のオリエンテーションから核抑止力のあり方や命令と規則、職業倫理を軽くディスカッションするという厳しさ。広島在住としては、この理屈とディスカッションで鍛えられた核抑止力への信仰はなかなか手強いぞと実感したり。

その後、命令系統や発射手順だけでなく、基地防衛、ミサイルの仕組み、管制システムなど多くのカリキュラムを教え込んでいく。誤発射防止と迅速な発射を両立させるシステムなど興味深い。(もちろん「博士の異常な愛情」の抑止力議論を思い起こさせる。)

いつものワイズマン作品同様、この様子に淡々とカメラを回し、関係者へのインタビューも行わない。研修訓練過程を説明するのではなく、その日々を切り取っていく。

その中で監査部門から借金を抱えている訓練生の指摘があったり、教官と訓練生が恋愛感情を持っていると誤解されることがないようにと情報共有があったりと、なかなか人間くさい。

基準をクリアできない訓練生への手厚いサポートも興味深い。兵に対する信用もさることながら、手間隙かけて育成しているだけにつまらないことで落第させたくない実情も垣間見えたりする。
「4択問題は文字数が多い選択肢を選べ。心理学的に出題者はそういう傾向にある」なんて「指導」もあったり(笑)

発射手順の最終試験はなかなかスリリングだが、映画はそこでは終わらない。最後は米空軍空中司令部に長年搭乗していた将軍の「待機という仕事があるからソ連も手を出せない」の演説となる。
長年に渡って構築されてきた米軍のシステムと思考は強固で、根底から違うと考えさせられる。

日本のテレビでも職業リサーチのバラエティが増えてきて、それはそれで面白いのだが、視聴者がその背景やあり方を考える余地を残してない。
面白さ優先や声高に主張を訴えるだけでなく、自分なりの見方ができる余地のあるドキュメンタリーも面白い。







題名:ミサイル
原題:MISILE
監督:フレデリック・ワイズマン
出演:戦略航空軍第4315訓練隊のみなさん



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