kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

オデッセイ

2016年02月12日 | ★★★★★
日時:2月11日(火星建国記念日)
映画館:八丁座
パンフレット:A4版720円。

ワタシが死ぬまでに見たい宇宙のニュースと言えば、「ベテルギウスの超新星爆発」「地球外生命体の確認」そして「有人火星探査の実現」なのだ。(その後、行きつけのバーで「木星の大赤斑の消滅」と「太陽フレアによる大打撃」が加わった。)

火星が舞台の映画は昔から、それこそ「火星年代記」から「トータル・リコール」「ミッション・トゥ・マーズ」「ゴースト・オブ・マーズ」「ウォッチメン」まで多種多様な映画を観たし、ここ数年は科学ドキュメンタリー番組で現実味のあるストーリーとして描かれている。

今や、火星でのサバイバル・リアリティ・ショウだ。映画に期待するあまり、珍しく先行して原作小説まで読んでしまった。

【以下ネタばれあり】

映画は原作をほぼ忠実になぞっている。だから原作を読んでいない人は多少、基礎知識が無いと話が混乱するか、字幕を追いかけるので大変になるかもしれない。(化学燃料ヒドラジンから水を生成するくだりは原作ではもっとスリリング。)科学的なディテールが省略されている部分もあるし、映画的なメリハリを優先するため、後半のトラブルはほぼカット。

それで映画がつまらないかと言えば、そんなことはなく、リドリー・スコットの圧倒的な創造力とNASAの全面協力で、全編鳥肌がたつような映像が展開し、原作の雰囲気は見事に再現されている。

面白いのは、いかにもリドリー・スコット好みと思えるこの映画が彼主導の企画ではなく、彼はスケジュールが空いたことで監督する機会が巡ってきたということ。「プロメテウス」から数年で、役者の顔触れは「インターステラー」とモロかぶり。それでも演出を手掛けようという、尽きることのない映像作家としてのエネルギーが凄い。

さて、ワタシが好きな宇宙ネタの1つが「マーズ・スピリットとマーズ・オポチュニティ」なのだが、以前から有人火星探査が実現した暁には、「南極物語」のタロとジロのように人類を待ち続けた2台のローバーと出会えることを期待していた。人間誰しも同じようなことを考えるらしく、マーズ・パスファインダーを発見するくだりは原作、映画ともに涙なしには観ることができない。

こういった遭難ものでは主人公の寂しさを紛らわす相方が必要なのだが、この物語にはそんなものは登場しない。とにかく科学的に最終期限が決められているので、感傷に浸っておしゃべりする暇があるなら、どんどん次の手立てを打たなくてはならない。原作ではそのあたりが詳細に記され、科学者やエンジニアのプロジェクト・マネージャーぶりを読み取ることができる。文系の行き当たりばったりの人間にはその思考プロセスが新鮮で、何かと役に立ちそう。

火星でのサバイバルだけでなく、NASAと火星探査船「ヘルメス」の活動も同時進行で描かれるが、見せ方の手際が良く、そこはやはりリドリー・スコット。「プロメテウス」のストーリー展開の不可解さがウソのよう。また、居住スペース用回転モジュールを持ったヘルメスのデザインはなかなかカッコいい。

救出劇のクライマックスはいかにも映画的になり、原作ではあまり意識しなかったが、さすがに映像で見せられると興奮する一方でウソくささも気になってしまうのは止むえないところか。

劇場は年配客が多い一方、中高生のグループも多かった。この映画に興奮した学生が将来、NASAを目指すようになったら、まさにNASAの面目躍如だろう。

ところで、映画には原作にはない「その後」が描かれる。そのマット・デイモンのファーストショットが「プライベート・ライアン」にそっくりなのだ。「プライベート・ライアン」の映像表現に驚愕したリドリー・スコットは、後年「ブラック・ホーク・ダウン」を撮ったというが、このシーンを観ていると「君はフランスの戦場からマット・デイモンを救ったが、ワシは火星から救出したぞ。」というリドリー・スコットの心の声が聞こえるかのようであった。(妄想)







題名:オデッセイ
原題:THE MARTIAN
監督:リドリー・スコット
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャスティン、ジェフ・ダニエルズ、キウェテル・イジョフォー


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