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「派閥」批判はどこへ行ったのか?

2014年06月04日 16時08分18秒 | 雑記帳



自民党の「派閥」に対して投げつけられてきたあの凄まじい批判はどこに行ったのでしょうか。内閣改造のたびに「派閥均衡重視の人事」「不適材不適所」「派閥と族議員による、運輸・建設を始めとする利権の継承」等々の文字が躍り、あたかも、日本の戦後政治の非近代性の象徴のように「派閥」を難詰してきたリベラル派の言説に最近とんとお目にかかれなくなったように思います。

というか、状況は寧ろ逆なのかもしれません。安倍総理が集団的自衛権の政府解釈の見直しを推し進め、更には、占領憲法の改正を期して着々と歩を進めているのを見て、朝日新聞や毎日新聞を始めとするリベラル派の言説は、「あの、かって、軽武装経済優先の立場から党内で大きな影響力を保った、宏池会を始め保守本流の党内中道リベラル勢力が沈黙しているのは情けない」とかとか、いらぬお世話を展開しているようだから。

あのー、保守本流、中道リベラル勢力とは、要は、旧田中派と旧大平派(宏池会)こそ、派閥の弊害の最たるものであった「不適材不適所」の閣僚人事と「派閥と族議員集団による利権の継承」を動力源であり、党内最大勢力として首相をさえ実質指名してきた--実際、1991年11月の宮沢内閣の成立時、現在の生活の党の党首は自民党幹事長のとき、旧田中派の<若頭>として首相候補を面接さえしたではないですか--隠然たる影響力を誇った派閥政治の中核だったのですけれどもね。

蓋し、次のような朝日新聞の記事に目を通すとき、リベラル派のマスメディアにとっては、派閥政治批判よりも安倍政権批判の方が優先順位が高く、取りあえず、後者に使えるなら前者も--期間限定なり争点限定にしても--許容しようということなのかしら。と、そう私には思えてなりません。そして、もしそう言えるなら、それこそご都合主義というもの、鴨。

尚、「派閥」なるものを巡る私の基本的な理解については下記拙稿をご一読いただければ嬉しいです。あの暗黒の民主党政権下に、他日の保守政権の再起を念じて--世の派閥批判の大合唱の中で--派閥を一定程度擁護したものです。


・派閥擁護論-派閥は政党政治の癌細胞か?
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/029c23e8e256b1b8b8c4b1e3268b620c





▼(集団的自衛権 政党はいま)自民、党内異論腰砕け 多様性失い硬直化
安倍晋三首相が安全保障政策を大転換しようとする中、自民党内から議論が聞こえてこない。自衛隊の武力を使って他国を守る集団的自衛権について、これまで自民党政権自らが「使えない」としてきた憲法解釈を変更するにもかかわらずだ。かつて持ち味だった多様性を失いつつある巨大な政権政党の現実がある。・・・

2カ月ほど前まで、党内に集団的自衛権行使への慎重論は確かに存在した。脇雅史参院幹事長は「憲法9条と本質的に相いれない」と指摘。自民党リベラル派を代表する派閥「宏池会」を率いた古賀誠元幹事長も「議員が『ポチ』になっているから首相にものが言えない」と議論を促した。・・・

■人事で揺さぶり
だが、こうした慎重論はあっさり消え去った。安倍晋三首相は3月28日夜、参院幹部との会食で「通常国会後、ただちに内閣改造をやるか悩んでいる」とささやいた。党内の改造待望論を見越し、慎重派に人事で揺さぶりをかけた。さらに、慎重派が矛を収めやすいよう大義名分も用意。首相に近い高村正彦副総裁が、集団的自衛権の行使を必要最小限度に絞るとする「限定容認論」を打ち出すと、「憲法改正が筋」と主張していた勢力も「ストンと納得できた」(中谷氏)と受け入れる空気が広がった。・・・

■「公明党に託す」
集団的自衛権をめぐる議論が活発化しないのは、400人を超える議員を抱えながら政策の多様性を失いつつある自民党の硬直化が背景にある。朝日新聞が2012年の衆院選と13年の参院選直前に行った調査によると、自民党議員のうち92%が集団的自衛権の行使容認に「賛成」「どちらかと言えば賛成」と答えた。

中選挙区時代は、選挙区内で同じ自民党の議員が派閥に分かれて争った。このため、政策論争が置き去りにされるなど弊害は指摘されたが、さまざまな意見を持つ議員が集まることで多様性が生まれ、党の柔軟性や活力にもつながった。

だが、1994年に小選挙区比例代表並立制が導入され、候補者は党が掲げた政策・公約に賛同する人が公認され、選挙資金ももらえるようになった。12年衆院選では、党総裁の安倍氏が経済政策に加えて集団的自衛権の行使容認も主張。さらに民主党政権を安保政策で「弱腰」などと批判して大勝しただけに、賛成派はもちろん、慎重派であっても安倍首相の主張を追認することになってしまう。

「安倍内閣は宏池会によって支えられている」。安倍首相は4月23日、宏池会のパーティーでこうあいさつした。同派会長の岸田文雄外相や小野寺五典防衛相、かつて同会に属していた谷垣禎一法相も含めると宏池会系の計5人が入閣するが、リベラル派は集団的自衛権の行使容認へ突き進む安倍首相にのみ込まれ、いまや補完勢力だ。・・・党内のリベラル派がやせ細り、党がモノトーン化する中、ある党幹部は嘆く。「かつての自民党リベラルの役目は、公明党に託すしかない」

(朝日新聞・2014年5月27日)



万物は流転する(panta rhei)。ヘラクレイトス(前535頃~前475頃)が2500年前に喝破したこの世の理を、蓋し、朝日新聞の記者は理解できていないの、鴨です。簡単な話、軽武装経済優先などは、日本を取り巻く国際政治の環境が東西冷戦期のかなり特殊な枠組みの中でのみ最適解の一つであったものでしょう。それは、文字通り「55年体制」であった。

ならば、逆に、人類史における社会主義の失敗が露呈した1989年-1991年の旧ソ連を含む東側の崩壊も今や四半世紀前のことになった現在、その「55年体制」がなしくずし的に解体したのと轍を一にして、所謂「タカ派の旧福田派とハト派の宏池会を軸とした自民党内の力の均衡と自民党政権の抑制」などの自民党内の現象もまた、その機能を終えたか、大幅に縮小していくことは当然ではないでしょうか。

例えば、日本の書店数激減の傾向にとどめを刺した<AMAZON>を想起すれば誰しも思い半ばに過ぎるように、インターネットが普及する前と後では「流通と販売」のやり方が変わったのであり、ならば、それを担う組織もまた生き残るためには業務遂行のルールのみならず企業文化さえも変化させなければならなかった。そう、文字通り、自己変化かさもなくば死か、なのです。

而して、それを、暗に「55年体制」の頃と比べて、「集団的自衛権をめぐる議論が活発化しないのは、400人を超える議員を抱えながら政策の多様性を失いつつある自民党の硬直化」「リベラル派は集団的自衛権の行使容認へ突き進む安倍首相にのみ込まれ、いまや補完勢力だ」「党内のリベラル派がやせ細り、党がモノトーン化する」などと記すのは、政治状況が変われば政党内の意志決定に関するゲームのルールも変容することを理解していないか、あるいは、集団的自衛権の政府解釈変更と安倍政権の批判のためにする議論、もしくはその両方にすぎない。と、そう私は考えます。

これは何の根拠もない想像ですけれど、例えば、「自民党議員のうち92%が外国人への地方参政権付与に「賛成」「どちらかと言えば賛成」と答える」ような状況に関しても、上に引用した記事と同様に朝日新聞が「地方参政権付与をめぐる議論が活発化しないのは、400人を超える議員を抱えながら政策の多様性を失いつつある自民党の硬直化が背景にある」などとは書かないだろうことは確実と私には思えるのです。

畢竟、いずれにせよ、安全保障政策やエネルギー政策という国家の根幹にかかわるイシューについて政権与党の内部がほぼ一枚岩であるということは、それがどんな結果になるにしても国民にとっては安心感を感じさせるものではないか。蓋し、あの民主党政権時の凄まじい与党内の支離滅裂ぶりを想起するにそう切に思います。実際、朝日新聞も集団的自衛権について安倍政権がその基本方針を微動だにしないからこそ、安心して--安倍政権の繰り出す手筋に予測可能性を感じながら--批判できていることだけは確かでしょうから。

尚、2014年現在の「自民党」のあり方についての私の基本的認識については下記拙稿をご一読いただければ本当に嬉しいです。保守とリベラルの政策の違いを幾つかのグラフで説明しています。



・自民党に入党しませんか--支持政党の選び方に関する覚書
 http://blog.goo.ne.jp/kabu2kaiba/e/0c21f2ddd743a508f8fe741c5b5ba92a




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