
本書、石田健『1日1分! 英字新聞』『1日1分! 英字新聞プレミアム』(祥伝社黄金文庫・2003年7月シリーズ出版開始、2009年3月の段階で合計7冊)は、英字新聞の様々のジャンルの記事を、原則、①一冊に120記事、②1記事平均35ワード程度、③記事全体の内容が凝縮されている冒頭のセンテンスを収録したものです。各々記事には見開きの右ページには語彙と語法・文法に関する著者のコメントが簡潔にまとめられていて読みやすい。実際、忙しいビジネスマンでも通勤車中で学習可能で、私は本書を専ら小田急線で新百合ヶ丘から新宿までの通勤している車中で読みました。
本書の弱点は、語彙・語法の解説には工夫が見られるものの、文法事項への解説が手薄であること。その逆に、本書の長所は、英字新聞を読めるようになるための必須のボキャブラリーやイデオムを効率よく身につけることができることでしょうか。ただ、著者の石田さんが文法を軽視しているわけではない。例えば、本シリーズ第1巻のこれまた最初の英語学習方法論のコラム「読むだけで英語力アップ!」でこう書いておられますから。基本的に私も異論はありませんが、石田さん曰く、
英語力を飛躍的に伸ばすための基礎学習
英語学習の初期段階でしっかり固めなくてはいけないのが、文法です。文法というのは、簡単に言ってしまえば文の構造を掴むことです。これが基本です。どれが主語で、どれが述語(動詞)か? とりわけ、分詞構文、不定詞、関係代名詞、動名詞の4つについては、しっかり学習してください。(同書, p.26)
ただ、一石二鳥じゃなかった。虻蜂取らずになることを避けて、本書は「英字新聞を読めるようになるためのボキャブラリー増強」を第一の目的に据えた書籍である。この点、同じくシリーズ第1巻の2番目のコラムで著者はこう述べておられる。
英字新聞を読むコツ
新聞記事ではまず、タイトルおよび最初の1~2センテンスに全ての要約が載っています。この部分をリードといいます。まずリードをしっかり理解しましょう。次にボディと呼ばれる部分です。これは記事の肉付けで、リードの部分をもう一度、丁寧に解説します。最後にバックグラウンド。インタビューや事件の背景について説明します。・・・
読み方としては、最後までゆっくり読むよりも、タイトルとリードだけ読んで、できるだけ多くの記事に触れるようこころがけてください。何が起こっているのか、さっと把握するだけで良いのです。初心者は・・・新聞全体を読むのに3日かかってしまいます。これではいけません。さまざまな時事英語を吸収し、より多くの事件に触れるためにも、最初のパラグラフを読んだら次の記事に移るようにしましょう。(同書, p.44)
これはボキャブラリービルディングのためには極めて合理的なアドバイスであり、逆に言えば、英字新聞のこの読み方を効率よくできるようにしたのが本シリーズなの、鴨。と、そう私は考えています。ただ、注文をつけるとすれば、
(1)ボキャブラリービルディングにプライオリティーを置いてこのアドバイスに従うとしても、翌日か二日後に、最低でも1週間後には、同じ記事を読み返すこと。加えて、できれば、分からない語彙はカードか何かにメモしておき、定期的に復習すること。
(2)文法力・読解力をも増強する場合には、「最初のパラグラフ」だけでなく記事全体の流れというか構成を踏まえるトレーニングが有効ということ。要は、その時々の学習目的と獲得目標によって英字新聞の合理的な読み方も変わってくるということです。
書評から離れて、最後のポイントを敷衍すれば、英語学習といえども能力開発プロジェクトであり、よって、その時点での最適な学習方法は以下の3軸(私は「KABU版フレーミングの右手の法則」と呼んでいますが)の均衡点に求められる。すなわち、
(X)学習目的-到達度のイメージ
(Y)現在の実力、および、納期
(Z)投資可能な時間的と費用的の<予算>
而して、ボキャブラリービルディングに関しては、一般論として、
【甲】単語集
【乙】読解もしくはリスニング
の二つの作業を、【甲】→【乙】→【甲】→【乙】→【甲】→【乙】→・・・とどこまでも交互に行なうこと。就中、単語カードでの復習と音読・暗唱・ディクテーションを併用してどこまでも【甲⇔乙】のプロセスをスパイラル状に繰り返すのが王道なのですが、本書は、(X)英字新聞の記事の概略の意味を辞書なしに3-4分で読み取れるように、(Y)現在TOEICで680点の私に半年くらいでなりたい。(Z)使える時間は通勤の車中の往復1時間半とお昼休みの45分しかないけれどという読者には、加之、【乙】モードにある読者には最適の一書、鴨。
ちなみに、私は7冊とも各4回通り目を通しました。そして、【乙】モードにあるとき時間があれば、再度といわず何度も読んでみたいと思っています。蓋し、多くの方にお薦めしたい一書です。