英語と書評 de 海馬之玄関

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続・錯覚よくない、よく見るよろし

2005年11月11日 16時04分18秒 | 街は英語教育の素材の宝庫

 

私は悪い習慣(a bad habit)を持っています。そう喫煙です。英語教育関係者の中には「タバコが数学より嫌い」という方が少なくないから、私はかなりなマイノリティーグループに属していることになるでしょう。そして、喫煙は飲酒と同じくらい前頭葉にも悪いとか。それであれば、私の乏しい英語の知識は(流石に通勤車中は別ですが)ほとんど紫煙の中で身につけたものですから、この悪習がなければもう少しは英語もまともになっていたかもしれません。と、仮定法の話しはここまでにして本編行きます。前回に引き続いて「錯覚よくない、よく見るよろし」です。

通勤電車の中吊りを眺めていたら、JT(日本たばこ産業株式会社)の広告が目に入りました。緑と白でスッキリとまとめたこれです。



A cigarette butt tossed in a puddle absorbs water and becomes hundreds of pieces of trash.(水たまりの吸いがらは、ふやけて百のゴミになる)

詳しくはこちらのURLを参照してください。
http://www.jti.co.jp/JTI/manner_kokoku/kizuki/graphic/index.html

感動しました。「なんて英語らしい表現だろう」、と。どこが? この記事自体二番煎じなのでサクサク種を明かします。後段の ”( A cigarette butt) becomes hundreds of pieces of trash.”は何も問題はない。「1本のタバコ吸いがらは数百片のゴミになる」、と。そうだよな、タバコのポイ捨てはいかんよ(私は誓ってそんなことはしません。多分、できるだけ、可能な限り・・・)、で終わりですよね。問題というか錯覚は前段で起こりました。

私は前段を ” A cigarette butt tossed in+名詞句.” と錯覚したのです。「タバコの吸がらが名詞句にポイ捨てされた」→「名詞句にポイ捨てされたタバコの吸がら」、というように。つまり、後から思えばその時、” a puddle absorbs water” は全体でなんとなく「水たまり」と思ったのです。もしそうだとして、「absorbsの「s」は何なんですかとか、水たまりが水を吸ってどうするの?」なんて気にしません(そこが錯覚の錯覚たるゆえんですよね)。それくらい私は” tossed”の用法に目が眩んでいたのです。おいおい、これ大発見じゃないか、と。

もうお分かりの方もおられると思いますが、私は” tossed”を「能動受動態」と勘違いしたのです。『ロイヤル英文法』から例文を借用すれば、「能動受動態」とは述語動詞は能動態なのに意味は受身を表すあれです。

This book sells well.(この書籍はよく売れる)
This knife cuts well.(このナイフは良く切れる)
This cloth won’t wash well.(この布は洗濯があまりきかない)


なるほど、、” This method does not apply to beginners.”(この(学習)方法は初心者には適用されません)と同じように ”A cigarette butt tossed in~.”は「~にタバコの吸いがらがポイ捨てられた」なのか。英語らしい表現だな。これはいつかセミナーで使える話題だよな。ブログにもさっそく書こう。油断してたらハイジ先生が先に書いちゃうかもしれないかんね。愛煙家代表の自分が先に書かなきゃ日頃売り上げに貢献させてもらっているJTに申しわけたたないじゃないか。とかとか、悦に入りながらオフィスに到着。ちょうどそこにいあわせたアイルランド人の同僚にすぐ確認しました。

この” tossed +副詞句.”は始めて見たし(tossの能動受動の用法は)辞書に載っていないのだけれど(あたり前!)、英語のネーティブスピーカーから見たら普通の用法なのかな、と。この時、私は辞書にも載っていない用法を見つけたと思い込んで質問にも心なしか力が入っていたと思います。

またその親切な同僚も(後でわかったことですが)、私が”throw something to ~”と”toss”のニュアンスの違いを確認していると勘違いして、「Mr. KABU これはいい質問だ」となぜか上機嫌。話しが盛りあがるにつれ、彼は身振り手振りを交えて永延15分以上「投げ捨てる」という意味を表す幾つもの単語のニュアンスの違いを説明してくれました。

“toss” は ”throw”とかに比べれば、何かを何かに向けて正確に投げる感じではなく「関西弁でいう「ほる」「このゴミほってきれくれへんか」の「ほる」というニュアンスがある」、「野球やクリケットの”toss”は「あいつは馬鹿じゃないよ」とかと同じ感じで、反対の意味を表す表現を使って逆に「ボールを正確に投げてみかたに渡す」ということを強調した表現用法ではなかろうか」等々・・・。しかし、そうこうするうちに終幕は突然やってきました。

“A cigarette butt tossed” is not a sentence but a fragment.


えっ! 「N, NOT, NOT A SENTENCE」だって? 
その瞬間に闇に潜んでいた(最初から隠れてなんかいないの!)” absorbs” の「s」が目に入りました。そうだよな、辞書にも載っていない能動受動の用法なんかJR中央線の車輌の中にそう落ちてることはないよな。ぐっすん。ここで思い浮かんだ言葉が表題の「錯覚よくないよく見るよろし」です。

「錯覚よくないよく見るよろし」は、大東亜戦争後長らく日本の将棋界を席巻した二人の巨匠:後の大山康晴永世名人と升田幸三実力制第4代名人という若き関西の俊英が名人挑戦権をかけて闘ったいわゆる「高野山の決戦」で有名になった、升田語録の中の一つです。


時に昭和23年(1948年)の第7期名人挑戦者決定三番勝負第三局、升田八段対大山七段戦で升田先生は圧倒的優勢で最終盤を迎え詰みがあった局面で、簡単な見落としから大山名人に逆転を許したのですが、その際に、升田先生の口から漏れたのが「錯覚よくないよく見るよろし」でした。これは戦後の街頭で見世物というか景品を賭けて手品をやっていた中国系(あるいは、手品にエキゾチックな彩を与えるべく中国系を装った日本人)の手品師の定型句だといいます。

KABU先生、「錯覚よくないよく見るよろし」でしたな。悔しい!



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1 コメント

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ごきげんで? (ハイジ)
2005-11-11 17:54:03
PCの前で声を出して笑ってしまいました。

今日のKABU先生はいつもに増して絶好調でいらっしゃるような?

手品師まで登場するとはさすがです!!

ホント楽しませていただきました。



電車の中もネタがあふれているんですね。

私はいつも新聞か雑誌かを読んでしまっていて絶好のブログネタをのがしてしまっているかも・・・これからはKABU先生を見習って?負けずに?キョロキョロとしていようかしら(笑)



そんなで昨日もTIMEを読んでいたら、ドクターがinfectionに対して抗生剤を投与するという表現に"throw at"を使っていました。

めがけて!!なんですね
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