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サッカーあれこれ(9)

◎男女逆転の時代
 サッカーの最も古典的なジョークは、「イタリアのサッカーが、なぜ強いか知っているかい?」「そりゃ、国が靴の形をしているからさ」と言うのだそうです。面白くも何ともない。自分で自分の脇の下をくすぐって「ワハハ・・・」と笑うしかありません。
 これもかなり古いジョークです。「あるチームが、前半ひどい無気力試合をやった。怒り心頭の監督はハーフタイムに散々説教をしたあげく、最後にこう言った。『さあ、後半だ。お嬢さん方、気合を入れてがんばろうぜ』。お嬢さん呼ばわりされた選手たちはナニクソと奮起一番。後半みごとに立ち直って逆転勝ちした」。
 古る過ぎますね。このジョークも。いまは「お嬢さん方」は通用しません。これだけ女子サッカーが盛んになったのですから。逆に「お坊っちゃん方」と呼ばれて女性がナニクソと奮起するかもしれません。
 1988年ソウル五輪のアルゼンチン代表監督だったパチャメさんに「貴国のサッカー人口は何万人くらいですか」と聞いたところ、こう答えました。「わが国でサッカーをやっている人間は全人口の半分、つまりオトコは全部やっている……」。いまは女性もやっているから、人口の半分以上でしょう。
 かつてクラマーさんは「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にする」とおっしゃった。50年前、これを聞いて「やはりドイツ人はちがう。哲学がある」などと大いに感激したものですが、いまは「少女を淑女にする」時代です。
 私の友人で、むかし卓球をやっていて世界選手権の日本代表になった男がいます。彼が「孫が2人いるんだ。卓球をやらせようと思っているのだが、一人は卓球をやることになったのだが、もう一人がどうしてもサッカーをやると言って聞いてくれない。どこかサッカーがやれるいいクラブを知らないかね」。
 さらにくわしく話を聞いていると、どうやら卓球をやるのは男の子で、サッカーをやりたがっているのは女の子らしい。時代は変わったものです。

◎男性陣、がんばれ
 私の個人的な感想です(反論があれば、どんどん反論してください)。『いまは歴史上、女性がいちばんハッピーな時代ではないでしょうか』。テレビの食べ物番組を見ていると、高級レストランあたりで食事しているのは、ほとんど女性ばかり。歌舞伎や芝居、音楽会なども昼の間から着飾った女性が多い。
 私はタモリの「笑っていいとも」を一度は見たいと思っているのですが、昼間からヒマな女性ばかりで行けたものではない。ファッションも美容も買い物も女性中心。お笑いも、コビを売る男の芸人を見て大きな口を開けて笑っているのは若い女性ばかり。外国へのツアーはほとんど女性。男がいたとしても年寄りだけで、若い男はいません。
 若い男は給料を稼ぐため朝から晩まで仕事、おまけに家事や育児、家庭サービスまで強制されるような雰囲気、まるで女性のためにあくせく生きている。これがいまの風物詩です。
 スポーツ界でも、女性の進出がすざましい。男のスポーツとされていたボクシング、ラグビー、アメフット、トライアスロン、近代五種など平気でこなしています。陸上競技では水郷を飛び越える3000メートル障害までやっています。人見絹枝が銀メダルを獲った1928年アムステルダム五輪の陸上競技800メートルで、ゴール後全員がバタバタ倒れたため、女性にとって苛酷過ぎるといわれた時代からみると、まったく驚くべき進化といえるでしょう。
 東洋の魔女といわれた女子バレーボールが金メダルをとったのは1964年東京五輪ですが、それ以後日本女性のメダル獲得数は男性をしのぐ勢いです。いまや『男性陣、がんばれ』といいたいところですが、がんばった男性陣がいます。バレーボールの松平康隆監督率いる男子チームです。魔女に刺激されて大いに発奮。東京五輪の2大会後の1972年ミュンヘン五輪で見事金メダルを獲りました。
 そこで、私は大きな夢を描きます。昨年『なでしこ』がワールドカップで優勝したのですから、男性陣も大いに発奮して、2014年のブラジル大会の次の次ぎあたり、バレーボールにならって2022年ワールドカップ(あるいは再び日本で開催されているかもしれない)で、ひよっとして男子が優勝しないかと。いま私は86歳ですから、その時は96歳になっている。こりゃ長生きせなあかんナ。

◎2022年への夢
 こんな話(夢)を岡野俊一郎くんに話したところ、個人的にも松平康隆監督をよく知っていた岡野くんは
 「あまり知られていないけど、男子バレーボールは東京五輪で銅メダルを獲っているんです。それなのに、マスコミで女子ばっかりが騒がれるので、松平は悔しがっていました。よーし、いまに見ていろオレたちだって、金メダルを獲ってみせる、という気持ちだったのでしょう。それからの8年間の彼の執念はたいしたものでした。生活のすべてをバレーボールに捧げた。奥さんの協力もたいへんなものだった」
 「これだ、という選手を見つけ徹底的に鍛えた。次の1968年メキシコ五輪では銀メダルを獲った。そして1972年の金メダルでしょう。銅、銀、金と三段跳びです。サッカー男子が女子に刺激されて2022年ワールドカップで優勝するには、目前のブラジル・ワールドカップでベスト4に入るくらいでないと三段跳びできない……」
 当時、バレーボール担当の私から見て、日本的な古い精神主義と思われがちですが、松平監督と選手たちはまさに一心同体。精神的なつながり、信頼関係はすごいものでした。技だけではない何かがありました。その何かは指導者が捨て身でないと作れない。理屈ではないからです。
 10年後の2022年ワールドカップで活躍する選手は、いま十代半ばです。香川真司や本田圭佑のような選手や、それ以上の力量の選手をどうやって育て、まとめていくのか。地についた長期計画は立てられるのでしょうか。松平監督のような強烈なリーダーがいるのだろうか。外国人監督がいいとか、いけないというのではなく、監督をコロコロ変えていく、いまのような形でいいのでしょうか。
 金欠がかさんで、やや衰退ぎみのJリーグから、目がさめるようなすごい選手が生まれる可能性があるのでしょうか。エリートアカデミーのような育成組織は果たして有効に機能しているのでしょうか。正直のところ、私にはきちんとした選手強化の道筋が一向に見えてきません。南ア大会で補欠にも入れなかった香川の実力を、早々と見抜いていたドルトムントの眼力は恐れ入ったものです。
 老ライターの夢はひろがるばかりです。が、心配の方も絶えません。いまさら私ごときが心配しても始まりませんが……。
(以下次号)

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