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インテグラな日々

本、音楽、そしてスポーツ…!

やぶれ弥五兵衛

2007-09-17 02:28:53 | 池波正太郎


本日も、池波さんの「忍者群像」収録作を紹介します。

主人公は、昨日紹介した真田忍び・奥村弥五兵衛です。この作品は「闇の中の声」の続編にあたる作品で、前作から4年後に発表されています。

<内容>
徳川家康が天下を統一し、秀頼を屈服させようと躍起になっていたころ。家康は加藤清正の存在を疎ましく感じるようになっていた。

一方、清正は豊家安泰のために淀殿を消すしかないと考える。そこで、九度山に蟄居中の真田昌幸に密書を送る。密書を運んだのは、真田の忍び・奥村弥五兵衛だった。

そこには

「真田の忍び・弥五兵衛を貸していただきたい。折を見て、淀殿を暗殺したい」

そう書かれていた。

弥五兵衛は昌幸の返事を清正に伝えるため、九度山を抜け出した。

そんな弥五兵衛の前に忍びが現れる。

「おれが九度山へ行ったことがどうしてばれたのだ…」

なんとか、敵を撃退した弥五兵衛は力尽きる。そこへ、小たまという女性が現れる。彼女は、弥五兵衛が仁兵衛という名前で京に住む家の隣家の女だった…。

<評価>☆☆
映画で見るスパイ合戦同様、忍者の戦いは油断もすきもない。そう感じさせる話です。忍びには、つくづく平穏な時間はなかったのだろうなと感じてしまいます。

この作品の恐ろしさ(面白さ?)は、まさに弥五兵衛というスーパー忍者の心のスキをついた相手方の忍びの暗躍にあると思います。油断大敵ですね!

池波さんはこの作品がよっぽど気にいったのでしょうね。手を変え、品を変え、いろんなところで書いています。ちょっと手を変えすぎかな…と。

<梅春>
この「やぶれ弥五兵衛」のエピソードには必ず登場します。加藤清正のお抱え料理人で、この話のキーマンです。長編「火の国の城」「真田太平記」にも登場します。梅春の設定は変わらないのですが、そのほかは変わっています。

<小たま>
まずはこの人ですね。本作、長編「火の国の城」「忍びの女」で微妙に設定が違います。しかも、3作を並べると微妙なんですが、2作(どの作品だったかは忘れました)を比べるとまったく設定が変わります。さらに、「真田太平記」に梅春は登場するのに、小たまは出てこない、なんてことも。

<弥五兵衛のラスト&京の隣の家&襲撃>
この作品は弥五兵衛のラストがクライマックスですが、「真田太平記」「火の国の城」「忍びの女」でそれぞれ違っています。

さらに弥五兵衛の京の潜伏先の隣家に敵の忍びが潜伏しています。この辺のエピソードも作品によって微妙&まったく違っています。

さらに…弥五兵衛が清正の家来になる&ならない。もしくは、その辺のエピソードも微妙&まったく作品によって異なります。

ま、正しい読み方は、オレのようにあら探しみたいなさもしいことをせず、どのエピソードが面白いかを読み比べることでしょうね。

でも…、オレみたいなひねくれ者にはつじつまがあってる方が楽しめます。

だって、歴史小説のファンなので。本能寺の変で、殺された人間が小説によって違っていたらイヤじゃないですか…。

飛躍しすぎかな。








闇の中の声

2007-09-16 01:10:56 | 池波正太郎


本作も池波さんの「忍者群像」の収録作です。

この作品の主人公は、池波作品の真田ものにほとんど登場する忍び・奥村弥五兵衛が主人公です。

甲賀出身とか、いろいろ設定はありますが、幸村配下の真田忍びで、短編「やぶれ弥五兵衛」では加藤清正の配下になっていることもあります。

<フィクション?>
個人的には、池波さんが創作した忍者だと思うのですが、PHP文庫から出ている「霧に消えた影」という短編集に「戦国無頼・真田ゲリラ隊」で取り上げています。この作品は、弥五兵衛の話以外は確実に実在した人物の話なので、もしかしたら、弥五兵衛は実在している人物なのかもしれません。

<評価>☆☆
この作品集の中では、いちばん面白かった気がします。弥五兵衛という常人から見たら化け物のような忍びが主人公で、彼の奇奇怪怪な術というのは「やはり、忍者はこうでなきゃ」という個人的な嗜好に合うものです。しかも、池波さんの忍者ものは今作が始めてだったので、猿飛佐助とダブらせて読みました。

ただ、池波忍者ものには佐助が登場します。向井佐助という、猿飛佐助を連想させる真田忍びですが。

<内容>
主人公は、家康の家来・西尾仁左衛門。幸村と年がほとんど変わらない仁左衛門は豪傑で、家康の上田城攻略の際、あと一歩というところまで幸村を追い詰めた。しかし、弥五兵衛にやられ、散々な目に合う。

仁左衛門は弥五兵衛に敗れたことは誰にも語らず、幸村を追い詰めたことは自慢げに語り続けた。いつか弥五兵衛に復讐することを誓って。

月日は流れ、秀吉が天下を統一した。そんななか、京の遊里へと急ぐ仁左衛門の前に再び弥五兵衛が現れる…。仁左衛門はこのあと2回、弥五兵衛と出会うことになる…。

<奥村弥五兵衛>
個人的に、短編に登場する弥五兵衛の話は好きです。ほとんど天才的な忍びとして描かれています。短編「やぶれ弥五兵衛」では、相手の忍びに敗れますが、これは相手の技が勝っていたと思えるので。

ただ、長編はあんまり印象がないですね。「忍者丹波大介」しかり、「真田太平記」も主要キャラですが、ほかの忍びの方が優れている感じで描かれています。

<弥五兵衛の最期>
本作によると、天寿を全うしている感じですね。幸村死後も登場しますし。ただ「やぶれ弥五兵衛」を読むと、その後に殺されます。しかし「真田太平記」によると、大阪の陣前にとっくに死んでいますが…。そうなると「やぶれ弥五兵衛」などで語られる、あの有名なエピソードが生まれなくなりますが…。

個人的に、池波さんの忍者もの&真田ものを片っ端から呼んでいるので、池波作品のあら探しにはまっております・・・。


寝返り寅松

2007-09-14 01:03:23 | 池波正太郎


短編ばっかり紹介していますね。

ここらで長編を紹介しようと思ってはいるのですが、池波さんの「忍者群像」から「寝返り寅松」を取り上げます。ま、短編は楽なので…。

<評価>☆☆
この「忍者群像」に収められている作品は、どれも面白く、外れはありません。「寝返り寅松」は非常に現実的な忍者の話で、ラストのくだりを読むと「え! 本当の話なの?」と思ってしまいます。池波さん特有のテクニックなんでしょうね。

こんな感じです。

「その後の、小出寅松の<忍びはたらき>については、まだ面白い話があるが、どうやらちょうどゆるされた原稿の枚数もつきた。

忍びの中にも、彼のように妻子と家庭を得て長生きをしたものがまだかなりいるようである。」

と。

<内容>
豊臣秀吉の小田原攻めが始まろうとしていた。

甲賀忍びの頭領・山中長俊は、秀吉のため、二人の忍びを北条家の鉢形城下に潜入させていた。

その一人・小出寅松が裏切ったという。それを伝えたのが、もう一人の忍び・飯道弥平次。

山中長俊は、事の真偽を確かめるため、女忍び・お万喜を調査に向かわせる。

北条家の勇将・山岸主膳之助の家来となっていた寅松は数日前、主膳之助に風呂へ誘われていた。

そのとき…

主膳之助は寅松に「寅松は忍びであろう。実はわしは元忍びで、お前の父を殺したのはわしだ」と告げていた。


<忍び>
忍びというのは、敵情を視察したり、要人暗殺という優れた体技を持った者もいたのかもしれませんが、寅松のように敵側に何食わぬ顔をして忠義を尽くしつつ、機密情報を調べるというのが本来の仕事だったような気がします。

このような忍者の話は初めて読んだのでとても新鮮でした。

<忍びの旗>
やはり、触れないわけにはいきませんね。基本的には、今作と同じ内容です。「忍びの旗」の主人公は甲賀者・上田源五郎ですが、別名は小出寅松というくだりがあったはずです。ま、それ以外の登場人物が違ったり、ラストが違ったりというのはありますが。(ラストは同じだ! という人もいると思いますが)

う~ん。ま、気にしない、気にしない。

鬼火

2007-09-12 01:37:08 | 池波正太郎


池波さんの「忍者群像」から「鬼火」を紹介します。本作は「忍者群像」最初の作品です。ちなみに「鬼火」を辞書で繰ると

(1)夜間、墓地や沼地などで、青白く燃え上がる不気味な火。人骨などのリンが自然発火したもの。人魂(ひとだま)。火の玉。あおび。

(2)「おにびたき」に同じ。
九州地方で、正月七日に行う火祭り。おねび焼き。おねび。おにび。

(3)葬式の出棺時に門口でたく火。

とあります。

<内容>
明智光秀が突然、信長を裏切った。信長は本能寺で襲われ、窮地に立つ。

信長を護衛する甲賀忍びの頭領・伴太郎左衛門は驚く。

「こんなことが起こるかと思い、光秀には配下の松尾九十郎を潜り込ませていたのに…。無念だ…」

一方、松尾九十郎は焦燥感にさいなまれていた。光秀にそばにいるよう厳命され、伴太郎左衛門に連絡することができなかったのだ。

そんな中、光秀は家来・坂巻伝蔵に毛利に密書を届けるよう告げる。九十郎は、せめてその密書を奪いとろうと光秀のそばを抜け出すが…。

<評価>☆☆
この作品は、本書を含め「えぐい」内容のストーリーが多いです。知人は「えぐすぎる」と言って、本書の評価は低いようですが、個人的に「忍者ものはえぐくないとダメ」という、オレのストライクゾーンに入ってくる作品です。あと、池波作品には珍しく、伊賀と甲賀の戦いがあるのもうれしいです。

それと…。池波さんの「首」でも同じようなことを書きましたが、この作品も池波さんらしい目の付け所がさすがと思わせるところがあります。

信長が本能寺で討たれたころ、秀吉は中国で毛利攻めをしていたのは有名な話です。この時、光秀の毛利への密使が秀吉の陣に間違えて入ったのも広く知られるところです。池波さんは、その密使が忍びだったという設定で話を進めています。これは読んでて「さも、ありなん」と思えたところです。

<伴太郎左衛門>
調べてみると、伴太郎左衛門は実在した人物で、本当に信長とともに本能寺で討ち死にした忍びでした。池波さんの忍者ものは、フィクション色が強いのですが(司馬さんも同じですが)、伴太郎左衛門や杉谷善住坊など実在した忍びも出てきます。

<忍びの風>
これから、オレの「池波さんへのイチャモン・コーナー」が始まります。この作品は単純に面白かったです。

じゃ、なにが…。

それは、長編「忍びの風」を読んでいた時です。この作品は、甲賀忍び・井笠半四郎の物語で「蝶の戦記」の主人公・お蝶に誘われるまま、甲賀を裏切り、反信長にまわる忍者の話です。で、最後の3巻を読んでいる時に愕然としました。

そう、この作品は突然「鬼火」になります。完全に裏切られました。だって「鬼火」の松尾九十郎と「忍びの風」の井笠半四郎に共通点がまったくなかったので。しかも、光秀の密書を運ぶ「鬼火」の坂巻伝蔵(伊賀者)と「忍びの風」の林彦蔵(ただの武士)にもまったく共通点がないので。

池波作品で、最初に戸惑ったのは、この「鬼火」「忍びの風」ですね。

ま、たかが小説ですが…。でも、一言言いたい。同じ人物でも良かったのでは…。なぜ、別人にしたのでしょうか。







忍者群像  首

2007-09-10 02:33:05 | 池波正太郎


本日から、池波正太郎さんの忍者ものを紹介します。

まずは、短編集「忍者群像」に収められている「首」を紹介します。

<内容>
明智光秀を討った甲賀忍び・岩根小五郎は驚くべき情報を得る。

「明智光秀は生きている」

甲賀忍びの中でも第1人者といわれ、現在は石田三成に仕える忍び・小五郎はあせる。オレは違う人間を殺したのか…。情報が世間に広まる前に、光秀を殺そうと小五郎は躍起になるが…。

<評価>☆☆☆☆
この作品の面白さは、山崎の合戦で敗れた光秀を討ったのは忍びだったという大胆な説(設定)と、一方で明智光秀は生きていたという説(設定)にあると思う。光秀生存説はけっこう語られているが、光秀を殺害したのは忍者というのは池波さんオリジナルといってもいいのではないでしょうか。ま、その真偽は本書を読んで考えていただきましょう。

<岩根小五郎>
この人は、池波さんの忍者小説にはけっこう登場します。「忍者丹波大介」でも主要キャラとして描かれています。有名な理由は、明智光秀を討った男ということ。短編、長編を問わず、池波作品においては光秀を討ったことは半ば事実(小説ですが)になっています。

ま、例外はあります。「蝶の戦記」の中で、主人公の女忍び・お蝶は自分が光秀を殺したと言っています。

<首>
これは明智光秀の首を差しています。この話の面白いところは、世の中にこんな事象がいっぱいありそうだということです。本人は、自分が行った行動に自信を持っている。しかし、周りが余計なことを言う。不安になった本人は心配して、大きなミスをおかしてしまう。うわさなど捨てておけば良かったのに…。

しかも、小五郎に情報を告げた人間は親切心から教えている。それが間違った情報とも知らないで…。

こういうことって、たまにあったりしないですか…?