醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   1045号   白井一道

2019-04-03 12:59:02 | 随筆・小説



  中高年の引きこもり


侘助 内閣府が初めて中高年者の引きこもりを調査した。「自宅に半年以上閉じこもっている「ひきこもり」の40~64歳が、全国で推計61万3千人いる。7割以上が男性で、ひきこもりの期間は7年以上が半数を占めた」と発表した。
呑助 40歳から64歳といったら働き盛りの人たちですね。
侘助 そうした働き盛りの人々が家に引きこもり何もできない状態にある。それらの人々が61万3千人もいる。本当に悲しい現実だ。
呑助 働かなくとも生活が成り立つというのは、日本がそれだけ豊かだということでしようかね。
侘助 何も働かずに家に引きこもり毎日快適に過ごしているのかというと決してそうではないように思うよ。
呑助 まぁー、そうでしようね。食事の支度、洗濯、掃除それらの仕事はしているのでしようかね。
侘助 内閣府の調査によると大半は親が面倒をみているという。親も年老いていくから大変だ。しかし60代の引きこもりの中には定年退職後仕事を通じた社会との接触をなくし、家に引きこもってしまった人もいるようだ。
呑助 引きこもるのはなぜ男が多いのですかね。
侘助 男は女と違って友だちを持つのが下手なようだからね。街のスポーツジムに行くと元気な高齢の女性がたくさん来ていると聞くよ。そのような女性に対して男は趣味の用事や近所のコンビニ以外に外出しない人がいる。そのような状態が6カ月以上も続く。専業主婦・主夫は過去の同種調査では含めなかったようだがが、今回は家族以外との接触が少ない人はひきこもりに含めたようだ。最低限の家庭内の仕事はしているのではないかと思う。
呑助 男女の差とは、何ですかね。
侘助 男性は女性に比べて人に受け入れてもらえない不安感もしくは恐怖感が強いのかもしれない。男は子供の時から「男なんでしょ。しっかりしなさい」と母親などから言われた男の子は多いのではないかと思う。
呑助 男は強く、逞しく、しっかりしていることが社会から強く求められているからね。
侘助 そうだよ。弱く優しい男だって数多くいるのが現実だからね。私が高校生だった頃、「俺、女に生まれれば良かった」と言った友人がいたよ。そんな成績でこれからどうするんだ。男は一家を養っていかなきゃならないんだぞと脅されていたからね。「男はつらいよ」。この映画題名は男の厳しさを表現して、多くの人々に受け入れられたのではないかと思うな。女になりたい男がいる一つの理由に男の厳しさがあるのではないかと考えている。
呑助 男女平等が進むということはいいことですよね。しかし男女平等が進めば進むほど、女性も男性と同じような厳しさに直面すると思いますね。
侘助 問題は家に引きこもるということが人間本来の在り方なのかどうかということにあると思う。
呑助 家の中に一人でいることがもっとも安心していられるから引きこもっているのでしようね。
侘助 人の中に、社会の中に入っていくことが怖い、不安だから出て行かない。社会に出ていくと自分が自分のままでいることが難しくなる。このような不安感、恐怖感があるから家の中に閉じこもる。このようなことを疎外というのだと思う。
呑助 疎外ですか。最近聞かなくなった言葉ですね。若かった頃、よく聞いた言葉ですね。
侘助 「人間は類的存在だ」とマルクスは述べている。この考え方はドイツ古典哲学の成果の一つだ。自分は自分であると同時に他者でもあることを述べている。資本主義社会は人間が自分自身であることを外化し、他者にしてしまう。このことを疎外と言った。自分が自分であることができなることが資本主義社会に出ることになる。人間が類的存在であり続けることを不可能にする資本主義社会の仕組みを解明したのがマルクスだった。引きこもりとは人間疎外の現実態として発現したものである。豊かな人間性の発現としてではなく、人間性の否定の発現として引きこもりがあるというのが私の認識かな。
呑助 引きこもりが人間疎外の発現したものだと言われても現実はなんら変わりませんね。
侘助 ただ哀しみがあるだけ。