気の向くままに junne

不本意な時代の流れに迎合せず、
都合に合わせて阿らない生き方を善しとし
その様な人生を追及しています

(‘76) 5月8日(土) どんでん返し

2023年05月17日 | 日記・エッセイ・コラム
目覚めの午後。二人にとっては「朝」の珈琲を飲みにサテンドールへ行った。そこで洋子が全く以って意外な事を言い始めた。
「ねェ、本当に今夜の船で帰っちゃうの?」
「うん」
「出来る事なら一緒に廻って欲しかったなァ」
「バカな事言わないで。今夜の船で帰る為に、もうちゃんと乗船券は買ってあるの知ってるじゃない」
「う〜ん、でもさぁ…ジュンとだつたらいい旅になるだろうなぁ…って思ったから…」
「そりゃ、まぁねェ、波照間と与那国でしよ。行きたくないって言ったら嘘になるねぇ」
「なら、そうしてよ」
「でもさあ、お金が無いもの。今回は長逗留するつもりが無かったから、それ程持ってきてないし」
少しの間だけ私を見つめていたと思ったら急に
「お金の事ならいいわ」
「えっ?」
「私が出してあげる。その代り贅沢な旅は期待しないでね」
「ちょ、ちょっと待ってよ。本気なの、本気で言ってるの? 自分で何を言ってるのか解っているの」
「うん」
ここで私は考えた。ちょっと待て…って。確かに洋子の言う通りになればこれこそ『棚から牡丹餅』…願ってもない事だけど、『うまい話しにゃ裏が有る』の喩えも有る。私は迷った。まさに束の間の混迷状態に陥ってしまった。しかし、洋子を見ているうちに、それが気の回し過ぎであると云う結論に達した。ここではっきりしておきたいのは、私が欲に負けたというのではない…と云う事だ。決して。私は洋子を信じても良いと判断したのだ。だからこそ、素晴らしき八重山を洋子に見せてやりたくなつたから、ガイドを引き受けたのだ。洋子にしても同様であろう。

そうと決まれば急がねばならないのは、今夕の「飛龍」の乗船券をキャンセルする事である。サテンドールから港へ電話をしてキャンセルの意向を伝えておいてから、手続きと払い戻しの為港へ向かった。
つい二十四時間前迄、今回の旅に関して日程など無かったものの全ては何事も無く、すんなりと日々は轍を残していた。しかしY.H.で洋子に出逢って以来行動パターンは目茶苦茶に崩れ、とうとうU・ターンと云う結果が引き出された。そう言えば昨日、何か引っ掛かるものを感じていた。私の旅がこのまますんなりと終ってしまうなんて、ちょっと変かな…って。やはり、『どんでん返し』の落とし穴は用意されていた。

まさかこれが私の、私自身内在させている旅の正体であるなんて、信じたくはない。しかしその要素は、完全には隠し切れないものの様に思える。今回のこの『どんで
ん返し』は、他方ではこれから先に私が始めるであろう旅の方向性を占う前兆…と言えるのかも知れない。明日は取り敢えず「守礼の門」を始めとする簡単な那覇の観光をして、明後日の夕刻、再度石垣へ向け出航する予定となった。
これが今日の出来事。とうとう起こったY.H.春海荘での『どんでん返し』である。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿