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新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 須磨 なき影や

御墓は道の草茂く成りて、分け入り給ふ程、いとど露けきに、月も雲隠れて、森の木立、
木深く心すごし。帰り出でん方も無き心地して、拝み給ふに、有りし御面影、さやかに
見え給へる、そぞろ寒き程なり。
 
 
ける。よろづのことをなく/\申給て
もそのことはりをあらはにえうけ
給はり給はねば、さばかりおぼし
の給はせし。さま/"\の御ゆいごんは、
いづちへかきえうせにけんといふ
かひなし。御はかは道の草しげく
なりて、分いり給ほどいとゞ露
けきに、月も雲がくれて、森の
木だちこぶかく心すごし。かへり出ん
かたもなき心ちして、おがみ給に、
ありし御面かげさやかに見え給へる、
そゞろさむきほどなり。
 源
  なきかげやいかゞ見るらんよそへ
つゝながむる月も雲がくれぬる。
 源
あけはつるほどにかへり給ひて、春
宮゙にも御せうそこ聞えぬ。
     藤の
王命婦を御かはりとてさぶらはせ
               文詞
給へば、そのつぼねにとてけふなん
都はなれ侍る。又まいり侍らず成
ぬるなん。あまたのうれへにまさり
て思ふ給へられ侍る。よろづをし
はかりてけいしたまへ。
 源
  いつかまた春の都の花を見ん
ときうしなへる山がつにして。桜の
ちりすぎたる枝につけ給へり。かく
               はる宮
なんと御らんぜさすれば、おさなき
御心ちにも、まめだちておはし
   命婦
ます。御返いかゞものし侍らんと
けいすれば、しばしみぬだに恋し
きものを、とをくはましていかにと
いへかしとの給はす。物はかなの御か
    命婦
へりやと、哀に見奉る。あぢきなき
のことに御心をくだき給ひし
昔のことおり/\の御有さま、思ひ
つゞけらるゝにも物思ひなくて我も
人もすぐし給つべかりける世を、
心と覚しなげきけるをくやしう
我心ひとつにかゝらんことのやうに
           文詞
ぞおぼゆる。御返はさらに聞え
させやり侍らず。おまへにはけいし
侍ぬ。心ぼそげにおぼしめしたる
               地
御氣色もいみじうなんと、そこは
かとなく心のみだれける成べし。
 命
  √さきてとくちるはうけれど行
春は花の都をたちかへり見よ。
ときしあらばと聞えて、名残も
哀なる物がたりをしつゝ、ひと宮の
              地
うち忍びてなきあへり。ひとめも
 
 

ける。万づの事を泣く泣く申し給ひても、その理をあらはにえ承り
給はねば、さばかりおぼし宣はせし。樣々の御遺言は、何処(いづ
ち)か消え失せにけんと言ふ甲斐無し。
御墓は道の草茂く成りて、分け入り給ふ程、いとど露けきに、月も
雲隠れて、森の木立、木深く心すごし。帰り出でん方も無き心地し
て、拝み給ふに、有りし御面影、さやかに見え給へる、そぞろ寒き
程なり。
 源
  なき影や如何見るらんよそへつつ眺むる月も雲隠れぬる
明け果つる程に帰り給ひて、春宮にも御消息聞えぬ。
王命婦を御代はりとて、侍はせ給へば、その局にとて、
今日なん都はなれ侍る。又參り侍らずなりぬるなん。数多の
憂へに勝りて思ふ給へられ侍る。万づ推し量りて啓し給へ。
 源
  何時か又春の都の花を見ん時失へる山賤にして
桜の散り過ぎたる枝に付け給へり。かくなんと御覧ぜさすれば、幼
き御心地にも、まめだちて御座します。
「御返り、如何物し侍らん」と啓すれば、
「暫し見ぬだに恋しき物を、遠くは増して如何に、と言へかし」と
宣はす。物はかなの御返りやと、哀れに見奉る。味気無きの事に御
心をくだき給ひし昔の事、折々の御有樣、思ひ続けらるるにも、物
思ひなくて我も人も過ぐし給ひつべかりける世を、心と覚し歎きけ
るを、悔しう我が心一つに、かからん事のやうにぞ覚ゆる。
御返しは、
更に聞こえさせやり侍らず。御前には啓し侍ぬ。心細げにお
ぼし召したる御気色もいみじうなん
と、そこはかと無く心の乱れけるなるべし。
 命
  √咲きて疾く散るは憂けれど行く春は花の都を立ち返り見よ
時しあらば
と聞こえて、名残も哀れなる物語りをしつつ、一宮(ひとみや)の
うち、忍びて泣き合へり。
一目も
  
 
和歌
源氏
なき影や如何見るらんよそへつつ眺むる月も雲隠れぬる
 
よみ:なきかげやいかがみるらんよそへつつながむるつきもくもがくれぬる
 
意味:崩御された父君は、今の私をどう見るのであろうか?父君の代わりと思って見ている月まで雲に隠れてしまった。
 
備考:貴人の死を雲隠と言う。
 
 
源氏
何時か又春の都の花を見ん時失へる山賤にして
 
よみ:いつかまたはるのみやこのはなをみんときうしなへるやまがつにして
 
意味:いつか又春の都で、春宮樣の晴れの姿を見る事もあるでしょう。時勢を失った身分の低い山賤の身として。
 
備考:皇太子を、春宮又は東宮と言う。
 
 
王命婦
咲きて疾く散るは憂けれど行く春は花の都を立ちかへり見よ
 
よみ:さきてとくちるはうけれどゆくはるははなのみやこをたちかへりみよ
 
意味:咲いて早く散ると同じように、時勢がなくなった光君との別れるのは辛いけれど、道々振り返って都の花咲く暮春を見て、早く帰って来て又春を見て下さい。
 
備考:本歌
古今和歌集 雑歌下
 時なりける人の、にはかに時なくな
 りて嘆くを見て、みづからの嘆きも
 なく喜びもなきことを思ひてよめる
                 清原深養父
光なき谷には春もよそなれば咲きて疾く散る物思ひもなし
 
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