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男性不妊症専門医が学術活動ならびに雑感を徒然と綴ります。

閉塞性無精子症

2010-05-25 22:01:12 | 日記
精液検査で射出精液中に精子が一匹も見当たらない場合、これを無精子症といいます。説明の通り、精巣で造られていても射出された精液中に精子がいなければ無精子症となるのです。「無精子症」=「精子ができていない」ということではありません。種々の検査より、精巣では精子が正常に形成されているのに、精巣上体や精管などの異常で、精子が射出精液中に出てこない場合を「閉塞性無精子症」といいます。また、精巣の異常である場合を「非閉塞性無精子症」と呼びます。この2つに大別することができ、治療法はずいぶんと異なってきます。診察ならびに検査でほぼどちらか判断することができます。中でも重要なのが、採血でのFSH値、精巣容量と閉塞起点の有無です。血清FSH値はその時点での造精機能の指標となることが多いですので、単純にいうと、無精子症の場合でFSHが正常値の範囲内であれば、精子は造られているのに射出精液に出てこない、「閉塞性無精子症」のことが多いのです。逆に言うと、FSHが非常に低い場合や非常に高い場合は、まず非閉塞性無精子症とみて差し支えありません。これに精巣の大きさ、閉塞起点の有無を考え合わせると9割程度は診断がつきます。しかしながら我々にとっても非常に困ることがあります。FSH値が正常値、精巣容量も正常、閉塞起点も見当たらない症例の中に、精子形成の途中の段階で完全に止まってしまう精子形成障害を認めることが少なからずあり、例えば精子形成が精母細胞などで分化が停止するmaturation arrestがあります(ただし、よくみなさん誤解されているようですが、精子細胞で止まることはほとんどありません)。「閉塞性無精子症」と診断しても約10%にこのmaturation arrestが含まれます。もちろんこのmaturation arrestは「非閉塞性無精子症」となります。 無精子症全体でみると、15-20%が「閉塞性無精子症」、80-85%が「非閉塞性無精子症」となります。
「閉塞性無精子症」の場合の治療法は詰まっている場所をバイパスするいわゆる「精路再建術」です。これにより射出精子の出現が期待でき、自然妊娠へとつながる可能性があります。閉塞性無精子症に対する精路再建術は、自然妊娠が望めること、さらに複数回の妊娠を望む場合でも有利であることなどの利点があり積極的に行われるべきだといえます。しかしながら簡単に精巣や精巣上体から精子が抽出できますので、その精巣精子や精巣上体精子を用いて顕微授精を行う施設が非常に多いのです。患者さまがきちんと説明を受けて、納得した上でその方法を選択されるのなら問題はありませんが、多くの婦人科クリニックでは精路再建術の説明をしないまま、精巣精子を用いた顕微授精へとナビゲートしている感は否めません。
 この「精路再建術」は技術的になかなか難しい手術なのです。よくある「精路再建術」は、もう子どもはいらないという方が精管結紮(簡単な言葉でいうと「パイプカット」)の手術を受けた後に、再婚などで再度挙児を希望され、「繋ぎ直してほしい」と来られる精管精管吻合術ですが、これは再開通率80%-90%、自然妊娠率は50-60%と比較的良好な成績が得られます。切断部位は触診にて容易に確認でき、吻合可能か術前に判断できます。しかしながら、精子が確認できない場合や閉塞期間が長い場合は開通率、自然妊娠率は低下してしまいます。また確実な吻合をするためには顕微鏡下での手術が必要となり、高い技術が要求されます。精管切断後の長期間の精管閉塞に伴う二次性の精巣上体閉塞や破裂が生じることも稀ではなく、精管精管吻合術に加えて精管精巣上体吻合術を施行せざるを得ない場合もあります。こうなれば成績は非常に悪くなりますが、通常、精管切断後の精路閉塞である場合、再建後の成績は良好ですので、まず精管精管吻合術を試み自然妊娠を待つべきだといえるでしょう。

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9 コメント

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こんにちは。 (Nato)
2011-04-21 23:19:16
こんにちは。こちらで質問させて頂く事をお許し下さい。

先日米国籍の婚約者が無精子症だということがわかりました。歳の差が23あり、24年前に前妻との間に二人(一人は流産)子供が出来ています。3年ほど前からアメリカに戻っています。

なかなか子供が出来なくて2年前に精液検査し、精子ゼロと言われました。また一年ほど前から精巣が痛いと言って病院で診て貰った際に精巣上体炎といわれ、それ以来何度も炎症を繰り返していた為、アメリカの病院でその炎症部分を切ってしまったほうが良いといわれ手術しました。いわゆるパイプカットした状態だと思います。
その時に中に精子がいるか診てあげるといわれお願いしたのですが、精子ゼロという検査結果が返って来ました。

私自身そのアメリカの医師と話したわけではないので詳しくはわからないのですが、炎症部分を取る手術のついでで出来る範囲の精巣の検査はどの程度なのでしょうか。
また24年前には子供が出来たのに、今ではまったく精巣内で造られていないということはあるのでしょうか。

どちらで質問できるのかわからずこちらでさせて頂いたうえに長くなってしまいすみません。
Natoさんへ (本人)
2011-04-22 12:25:52
おそらく精巣上体摘除をされたのではいかと予想しますが、その際に精巣生検をされたのではないでしょうか。24年前には精子形成していたけれども、現在精巣内で全く精子形成していないということも可能性としてはあり得ます。ホルモン検査をすればある程度の予測はつくと思いますよ。
ありがとうございます。 (Nato)
2011-04-22 15:58:49
ありがとうございます。そしてすみません、今回精巣内精子ゼロという結果にショックを受け、年数を間違っていました。
二年前の精液検査ではほぼゼロに等しい数(0.1%ぐらい)と言われ、去年精巣上体炎で病院に言った際に受けた精液検査でゼロ、痛みがある時しか病院に言っておらずその度の精液検査でゼロと言われていたそうです。
アメリカで受けた血液検査ではホルモン値が少しひっかかっているが歳も48だし気にするほどではないと言われました。

ホルモン値が精子出現率の有無に関係する重要な値と知らなかったのでそのまま気にとめていませんでしたが、せめて先日受けた手術の時の血液検査結果をもう一度詳しく聞いてみます。
生物学上、後天性非閉塞性無精子症になることはあるのですか。
Natoさんへ (本人)
2011-04-22 17:19:32
後天的に非閉塞無精子症となることは十分にあり得ます。ただしこの場合Micro-TESEにて精子回収できることも多いです。
ホルモン値判明すればまたご連絡ください。
Unknown (Nato)
2011-04-27 23:43:08
ありがとうございます!
本人に数値を確認したのですが、覚えてなく検査結果の紙も貰って来ていないそうです。 折角先生が数値を診て下さると言ってくださったのにスミマセン。
今は彼が単身でアメリカ在住ですので、先生の所に直接お伺いして診て頂くことができず悲しく悔しい状態です。
もし、今のまま放置(約2~3年)しなければならなくなった場合、精巣内容にいるかもしれない精子の数・質は悪くなっていくのですか?また精巣自体萎縮していくということもあるのですか?
今すぐに行動に移すことができないので気になる事か多く、再度質問になってしまいスミマセン。
Natoさんへ (本人)
2011-04-28 09:42:19
現在の状況であれば、造精機能は悪化する可能性は十分にあると思われます。委縮まではいかないかもしれませんが、、。
非閉塞性無精子症 (han)
2011-05-16 14:18:03
はじめまして。
早速ですが、主人が非閉塞性無精子症と診断され、精巣精検の後、通っていた大学病院にて、これ以上こちらではできることがありませんとなり終了しました。
血液検査の結果FSH値が高いです。
主人とAIDまでいこうと話をしていますが、私たちにできることは何もありませんか?
先生のおられる病院へいってみようかと思っていますがいかがでしょうか?
ご返答をお待ちしております。
hanさんへ (本人)
2011-05-16 14:47:53
精巣生検の内容(どのように行われたか)に拠るところが大きいと思います。検査結果をすべてお持ちになって受診してみてください。可能性の有無についてお話しできると思います。
非閉塞性無精子症 (han)
2011-05-19 13:17:26
ご返答ありがとうございました。

主人と相談してみます。

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