
トランプ米大統領と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は27日、貿易交渉で合意したと発表した。28日の東京市場で大きく材料視されなかったものの、事前には「決裂」の可能性も意識されていただけに、米欧合意は世界経済の不透明感を大幅に低下させる役割を果たすことになるとみられる。
このことは日米関税交渉の合意を受けてリスク要因の低下を政策判断に織り込もうとしている日銀にとっても、大きな出来事として映ったはずだ。政策対応力を強める要因として日銀が強く意識するなら、利上げの時期が前倒しされる可能性も相応に上がることになり、31日に行われる植田和男日銀総裁の会見への注目度が一段と高まることになる。
<政局混迷と年金筋の売り、日経平均は4万1000円割れ>
28日の東京市場では、日経平均株価が4万1000円を割り込んで取引を終えた。同日に開催された自民党の両院議員懇談会で石破茂首相への辞任要求が強まり、これに対して石破首相が辞任を拒否すれば、政局の混迷が深まるとの懸念が売り材料の1つとして意識されたようだ。また、月末を控えて年金筋のリバランスを目的にした株売りにも注目が集まっていたという。
こうした中で米欧の関税をめぐる貿易協議での合意は、この日の東京市場で注目される材料にはならなかった。
<米欧が関税引き上げと報復の応酬を回避、世界と日本経済に大きなプラス>
だが、今回の米欧合意は世界経済に対するインパクトが各段に大きく、米欧決裂で互いに報復関税をかけ合うことになった場合と比較すれば、世界経済全体へのマイナスインパクトだけでなく、日本経済にとっても大きな「朗報」になったのは間違いない。
トランプ大統領のSNSによると、EUは米国から7500億ドル(約110兆円)のエネルギー購入や6000億ドル超の対米投資を約束。その見返りに米国は対EUの相互関税と自動車関税を15%に引き下げることにした。
米国は8月1日から対EUの相互関税を30%に引き上げると通告、EU側も報復として930億ユーロ(約16兆円)規模の米国産品に報復関税をかけたり、米国のデジタルサービスへの制裁を検討していたが、この関税賦課と報復の応酬は回避された。
<米欧協議注視していた日銀、日銀の政策変更の許容度高まる可能性>
ここで注目されるのは、30-31日に金融政策決定会合を開催する日銀の政策判断に対し、今回の米欧合意がどのような影響を与えることになるかだ。
そのヒントは、23日に行われた日銀の内田眞一副総裁の会見での発言にあると指摘したい。
内田副総裁は会見の直前に公表された日米関税交渉の合意について「大変大きな前進であるというふうに思います。日本経済にとって関税政策を巡る不確実性の低下につながるというふうに考えております」と述べていた。
その際に「各国の交渉、米中とか米欧とか、こういったものは残っている」と米欧協議にも言及。合意までにどの程度の期間がかかるかはっきりしないことなどを挙げて「そういう意味で当然ながら不確実性は残っているということだろうと思います」と述べていた。
日銀から見れば、日米関税交渉に続いて米欧間でも貿易協議が決着したことは、世界と日本の経済にとって不確実性の大幅な低下とみなす可能性が高いのではないか。
言い換えれば、トランプ関税の導入によって一時的な中断を強いられてきた次の利上げへの本格的な検討は、不透明感の大幅な低下によって再開することが可能になってきたということだろう。
筆者は、今回の米欧合意の世界経済に対するインパクトは相当に大きいと指摘したい。したがってそのことによる不確実性の低下も大きく、日銀の政策変更に対する許容度は格段に増したと考える。
<米中も関税措置停止を90日間延長か>
米欧協議とともに内田副総裁が言及した米中協議に関しては、 香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが関税一時停止措置を3カ月延長する見通しだと27日に報じた。同紙は、90日の延長期間中に新たな関税の導入や、貿易摩擦を激化させる可能性のある措置を取らないことで合意する見込みと伝えている。
最終的な着地のイメージはまだわからないものの、こちらの協議についても以前と比較して決裂の可能性は相当に低下しているのではないか。
<林官房長官は日本と世界経済の「下押しリスクを低下させる」と発言>
林芳正官房長官は28日の記者会見で、米欧合意に言及し「米国の通商政策が日本経済や世界経済を下押しするリスクを低下させるものと考えている」と指摘。米国の通商政策に関する不確実性が低くなると説明した。
内田副総裁は23日の会見で、米欧、米中の協議が未決着である前提で「世界経済全体、日本経済全体にとっての不確実性は引き続き高いというふうに思います」と述べていた。
31日に公表される日銀の声明文や植田総裁の会見で、不確実性は引き続き高いと指摘されるのか、それとも別の表現に修正されているのか。その点も含めて日銀の情勢判断がどのように変化しているのか、市場の関心は相当に高まることになるとみられ、仮に不確実性の低下が指摘されれば、最短でいつが利上げ時期となるのか、会見で質問が集中することになると予想する。
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