耳を洗う

世俗の汚れたことを聞いた耳を洗い清める。~『史記索隠』

“郵政民営化”の本質は何か~二つの記録から何が見えるか?

2009-02-13 09:56:10 | Weblog
 「郵政民営化」問題が改めて政治の表舞台に登場しているが、今話題は「かんぽの宿」など施設譲渡をめぐるキナ臭い話ばかりで、問題の本質が覆い隠されている。次に掲げる二つの記事を読み比べれば、背景が鮮やかに浮かんできはしないだろうか。一つは2005年8月2日の参議院「特別委員会議事録」、もう一つが2005年8月9日付郵政公社総裁宛の「ラルフ・ネーダー書簡」である。


 ◆2005年8月2日、参議院「郵政民営化に関する特別委員会」で、民主党の櫻井充議員の質問から。

 <ここに、日本とアメリカの対日要望書、対米要望書というのがございます。これはアメリカの大使館のホームページ、それから日本の外務省のホームページに掲載されていて、お互いにこういうことを基に話し合いをされているようです。本年の要望書は日本における民営化の動きに特段の関心を寄せた、これは郵政公社の話ですが、……>

 と前置きして、竹中大臣(当時)にこの「要望書」を知っているかどうかを問いただした。「知らない」と白を切る竹中大臣を執拗に問い詰めていたが、「関知しない」と言い張ったため、櫻井議員は次のような事実を突きつけた。

 <それでは、ここにアメリカの通商代表、代表の、まあこの間まで、前ですね、ゼーリックさんから竹中大臣にあてた手紙がございます。現在は国務副長官でございます。その方から竹中大臣にあてた手紙の写しがございます。…
 ここには、要するにこれはどういう手紙なのかといいますと、これは竹中大臣が郵政担当大臣、経済財政担当大臣に再任されたときのお祝いの手紙でございます。 そこの中に、そこの中に、貴殿の業務の成功に対する報償がより多くの仕事を得たということを見て喜ばしく思いますと。そのあとるる書いてありますが、そこのところから後半の方ですが、保険、銀行業務、速配業務の条件を完全に平等にすることを生み出し実行することは私たちにとって根本的に重要です。郵便保険それから郵便貯金を民間セクターとイコールフッティングにするためにも、私たちは経済財政諮問会議からの連絡を歓迎しております。そしてまた、現在民間企業に適用されている郵便保険と郵便貯金への税制、セーフティーネット上の義務の義務化、それから郵便保険商品に対する政府保証を廃止することを諮問したことに私たちは勇気づけられました。

 私はまた、以下の点で丁重に貴殿を後押しいたしますと。2007年の民営化開始時から、郵便保険と郵便貯金業務に対する保険業法、銀行法の下で同様の規制、義務、監督、完全な競争、競争条件の平等が実現するまで新商品、商品見直しは郵便保険、郵便貯金に認めてはならず、平等が実現された場合にはバランスある形で商品が導入されること。新しい郵便保険と郵便貯金は相互補助により利益を得てはならないこと。民営化過程においていかなる新たな特典も郵便局に対して与えてはならないこと。民営化の過程は常に透明で、関係団体に自分たちの意見を表明する意義ある機会を与え、決定要素となることとする。今日まで私たちの政府がこの問題について行った対話を高く評価するものですし、貴殿が郵政民営化での野心的で市場志向的な目標を実現しようとしていることに密接な協力を続けて行くことを楽しみにしております。貴殿がこの新たな挑戦に取り掛かるときに私が助けになるのであれば、遠慮なくおっしゃってください。

 しかもです、これはタイプで打たれたものですが、ここにです、ここに自筆の文章もございます。自筆の文章です。そこの中で、わざわざここに竹中さんとまで書いてあります、竹中さんと。貴殿は大変すばらしい仕事をされ、数少ない困難な挑戦の中で進歩を実現しました。あなたの新たな責務における達成と幸運をお祝いいたしますと。これは去年の10月4日の時点ですので、貴殿と仕事をすることを楽しみにしておりますという形で手紙も来ております。>

 竹中大臣の答弁。

 <ですから、今までそういうようなことに対しての要望がなかったということでは僕はないんだろうと、そういうふうに思っています。>

 櫻井議員。

 <ですから、ここは本当に大事なことなんですね。まあ今日はテレビが入っていますから委員会は止めませんけれどね。ですが、ですが大事な点は、総理が先ほどアメリカ、アメリカと言うなとおっしゃっていますが、こういう形で送られてきて、事実を私は申し上げているだけでございます。>


 (上の記事は“植草一秀”氏のブログ『知られざる真実』(最後にリンク)より採録させてもらった)

 
 ◆この質疑の一週間後、アメリカの消費者運動のリーダー・“ラルフ・ネーダー”が、郵政公社の生田正治総裁宛に次の書簡を送っている(その写しは小泉純一郎首相へも送られた)。

<「日本の郵政民営化についての書簡」 (ラルフ・ネーダー)

 2005年8月9日

東京都千代田区霞ヶ関1-3-2 

郵政公社   生田正治様

 長年にわたり、小生は日本の郵便局が提供している郵便と金融サービスの高い水準を承知しております。郵便は正確かつ効率的で、郵便局は最も小さな村にまで配置されています。

 日本の郵便貯金制度は、単に便利というだけでないことに留意すべきです。郵便貯金制度は、金融業務の広範な提供を推進し、また公共事業プロジェクトを通し、経済を安定化させ、刺激するという努力を、長らく支援してきました。さらに、郵便職員は共同体の面倒見がよいことで有名で、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は、日本の郵便局長の方々は“共同体の柱石”だと正しくも報道しています。

 ところが、こうした成功の実績にもかかわらず、小泉純一郎首相は郵政民営化推進を主張し続けています。明らかに、イデオロギー的なものと、私利を画するという営利的な動機の組み合わせから民営化を狙う組織である、アメリカ合衆国通商代表部と、アメリカ商工会議所に、彼が支援されているのは困ったことだと、アメリカの一国民として思っております。小泉首相の要求は日本人のわずか24パーセントに支持されているにすぎません。日本国民は、民営化が、郵便サービスの低下を招くであろうこと、そして局の閉鎖となる可能性もあることを理解しているのです。スウェーデンやニュージーランドのような国々における郵政の独占廃止は、これらの国々で、郵便局のうち半数の閉鎖をもたらし、アルゼンチンでの郵政民営化という冒険的企ては、目も当てられぬ失敗となったため、最近、再度国有化されるに至りました。

 アメリカの為政者達は、無謀な民営化を押しつけるのではなく、銀行サービスを受ける余裕がなかったり、拒否されたりしている何百万人ものアメリカ人達のために、郵便貯金制度を確立することを含め、郵便サービスを成功裏に運用している指標として、日本を範とすべきなのです。

敬具

 ラルフ・ネーダー

 写し:小泉純一郎首相 >

 (本文は『マスコミに載らない海外記事』より収録させてもらった。)

 植草一秀の『知られざる真実』:http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-e00a.html

 『マスコミに載らない海外記事』:http://eigokiji.justblog.jp/blog/2009/02/post-e8c5.html


 「小泉劇場」で演じられた芝居『郵政民営化』の脚本はアメリカ国家が作成したもので、小泉純一郎監督、竹中平蔵主演で上演されたというわけだ。明治以来、日本国民が営々として築いてきた公的資産が、“ハゲタカ”に食い荒らされようとしているというのに、あきれたことに、いまもってこの芝居を懐かしむ「国民」が少なくないらしい。
 
 (なお、植草一秀氏のその後の記事には「郵政民営化」に関する注目すべき指摘が連載されています)


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