白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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Master対棋士 第37局

2017年05月05日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日は関東リーグの最終戦が行われました。
母校の中央大学はレギュラーの抜けた穴を埋められず、残念ながら目標を達成できませんでした。
しかし、新世代の頑張りには将来性を感じました。
秋までにレベルアップを果たし、良い結果を出してくれると信じています。

さて、本日はMasterと朴永訓九段の対局をご紹介します。
朴九段は1985年生まれの32歳、富士通杯や中環杯での世界戦優勝経験があります。

Masterは従来の常識では考えられない手を数多く繰り出しました。
その中には棋士を感動させる素晴らしい手もあり、多くの棋士が真似をしています。
しかし、それはMasterの打つ手と棋士の感性が噛み合った場合です。
本局の序盤でMasterが見せた打ち方は、棋士の感性と遠くかけ離れたものでした。



1図(実戦)
黒1、3を打ってから、黒5の打ち込みという手順には驚きました。
黒5自体は右辺の白模様化を防ぎつつ、白〇を攻める狙いと理解できます。
しかし、その前に黒1、3を打つ理由は何でしょうか?
黒Aで白△を取る手を残していますが、どう見てもカス石です。
むしろ白2、4と白石が増えたことで、この後白Bからの競り合いが不利になるように感じるのです。





2図(変化図1)
右辺を割りたいのならば、最初から黒1と打つのが常識です。
大半のプロが同じ考え方をするでしょう。
黒3までを想定して、この後白△間の薄みを衝く手段は黒Aだけではなく、BやCなども考えられます。
色々な手段を見ておくことで、白の打ち方に制約が加わり、右辺黒の捌きが楽になるように感じます。





3図(変化図2)
何故Masterが1図のような打ち方をしたかは定かではありません。
一つ考えられるとすれば、前図の後白4、6と手を入れられることを避けたものでしょうか?
次に白Aを狙われて不気味な形ですし、ここで黒が1手かけて守るようでは、外側の白が全く傷の無い姿になります。





4図(変化図3)
例えばこのような図なら、黒Aの切りが残り、これが白の弱点になると主張しているのかもしれません。
しかし、黒7の後白Bあたりから先制攻撃されて良いとも思えないので、黒7では違う手を打つのでしょうか?

Masterは全人類より強く、基本的には打つ手は人類より碁の真理に近いと考えられます。
しかし、全ての手がそうであるとは限りません。
また、碁の真理に近い手であったとしても、人類が真似して上手く行くとは限りません。
意味の分からない手を形だけ真似しても、その後活用できなければ意味が無いのです。

恐らく今回Masterが見せた打ち方は、真似しても棋力アップにはつながらないでしょう。
Masterが打ったからといってその手を妄信せず、上手く活用したいものですね。