どうでもいいこと

M野の日々と52文字以上

暴力団・変な思い出

2011-12-01 02:41:07 | インポート
暴力団への締め付けが厳しくなっている。それはそれで結構な事だ。
昔、貸間のアパートに住んでいた事がある。風呂なし・台所・トイレ共同。ドアはふすまだし隣の音はジャジャ漏れだ。隣の4畳半に今から思えば50歳ぐらいのおじさんが引っ越してきた。
恐ろしく静かな人だった。普段は。
しかし酒を飲んでしまえば恐ろしいほどわめき散らして、部屋の前を通る事もできないほどだった。
呼び止められて、部屋に引きずり込まれるからだ。
隣の部屋だったもので、最初はそれなりに愛想をしていたのが間違いの元だった。足音で解るのだろうか、絶対呼び止められた。
あるとき私の部屋に友人が遊びにきていたのだが、酔っぱらった彼が帰ってきた。これはマズイと思って彼を返そうとしていたのだが、やっぱり友人とともに引きづり込まれて訳の分からない話しを延々に聞かされて(家康が来ているとか、秀吉は俺だとか)、突然「おまえら童貞だろう!女をだかせてやる!」とか言いはじめて、その勢いでムリヤリタクシーを捕まえて、車に放り込まれて夕顔瀬についた。
思えばあの時のタクシー代は友人が払ったような気がする。
で連れて行かれた家が、どうも彼の親分の家だった。あまり立派な家ではなかったが、ピンと来た。ここまでは友人は何か楽しんでいたようなのだが、すこし背中が緊張していた。
その親分は?威厳は崩さないようにしていたが、とっても困惑していた。
こちらもどう逃げるか必死で、それでいながら隣人のメンツを潰さないようにどうするのか、記憶があやふやだ。ただ、友人と二人で帰ったと覚えているから、きっと彼は親分から叱られたのだろう。
その後隣人はすごくおとなしかった。隣が空き部屋だと勘違いするほど静かだった。息も聞こえなかった。
それから二ヶ月経って、テスト期間に入った。丁度提出の図面なんかもあったのでバタバタしていた。その彼が紙がこすれる音がうるさいとか言いはじめた。確かにA0をめくる音はうるさい。なので極力静かにしていたとき、突然彼が現れ、私に匕首をプレゼントしてくれた。どうも記念の匕首らしい。押し付けられて呆然としていた。
さすがにこれは不味いと思って、テストやら提出の図面がこじれているやら(個性を出しすぎていたのが原因。全部JIS規格に準拠したらあっさり通った)、匕首をどうしようかとか相当悩んだ。
たまたま会った先輩が、「俺、今週中に引っ越すからお前どうか」と言われた。仏様にあったとはこうゆう事かと思った。
とりあえずけじめを付けるために、隣人に「来週引っ越します」とキッチリした。その晩がすごかった。引っ越しの準備をしている最中、下帯姿でのこぎりとあとなんか刃物みたいなものを持って部屋に押し掛けてきた。
そういえば匕首を押し付けられた時も、そうだったような気がする。
ただこのとき、この異形なのに彼がなにか寂しそうだったのは覚えている。
次の日なのだが、もう彼はいなかった。部屋には何も無かった。その前に以前彼の部屋に入った時も、三着ほどの服が吊るして、布団と柳行李一つであった。布団ももしかすると無かったかもしれない。

彼のようなはじかれものを救ってくれる暴力団はもう無いだろう。暴力団も高度に多機能になっている。彼の生き方は彼で最後なのかもしれない。
でも、彼を救ったのは暴力団だったのは間違いが無い。


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