旅に出よう(国内・自転車旅行)「北海道を後にして」
北海道の最後の目的地の函館まで下ると、フェリーを利用して青森県の大間に渡っている。そこから海岸線を南下して「恐山」を目指した。
「恐山」と聞くと、最近は良く分からないが、私くらいの年齢だと、小学生から高校生くらいの時に、テレビの「心霊番組」などで良く出てくる地名であった。ここには「イタコ」と呼ばれる霊媒師がいて、死んだ人の霊を自分の身体に乗り移らせる(「乗り移る」という表現が正しいかどうかは不明)ことができるということだ。番組では、よく芸能人の亡くなった父親や祖父などの霊がイタコの身体に乗り移る場面があった。
芸能人:「おじいちゃん、あなたは私のおじいちゃんなの?」
イタコ:「お~、そうじゃよ」
芸能人:「おじいちゃん、元気なの?」
イタコ:「ワシは元気じゃよ。そっちはどうじゃ?」
芸能人:「私は元気よ。お父さん、お母さんもみんな元気よ!」
イタコ:「そうか、それは良かった!」
芸能人:「それで、おばあちゃんも元気なの?」
イタコ:「えっ、ばあちゃんか…?え~と、まあ、ばあちゃんとはいろいろとあって…」
芸能人:「いろいろ、って?」
イタコ:「いろいろと言うのはいろいろで…」
芸能人:「えっ、別れちゃったの?」
イタコ:「まあ、そっちの世界ではそういうふうに言うのかもしれないが…」
芸能人:「え~、そっちでは違うの?」
イタコ:「え~と、まあ、同じっちゃ同じかな…」
芸能人:「つまり、バツ1ね…」
イタコ:「まあ、そうと言えないこともないが…」
という会話が成立していたかどうかは定かでないのだが…。
「現在はどうなっているのだろう?」とネットで調べてみると、相変わらず健在のようで、「男の放課後別館」というサイトで以下のような文章を見つけた。ちなみに、イタコが霊を自分の身体に乗り移らせることを「口寄せ」というようだ。
「寺の横には、イタコのいる小屋が・・・・。なんと、捨て看板!!料金は10分3000円。なんと、3時間半待ちとのことで、あきらめて地獄めぐりをします。」
さて、私は、別にイタコに会いに恐山を訪れたわけではない。ただ、「テレビでは見たことがあるが、どういうところなのだろう?」とその雰囲気を味わいに行っただけである。
記憶違いでなければ、恐らく恐山を訪れた日だと思うのだが、ユースホステルに宿泊している。それが、伊豆で利用したときのようにお寺のユースホステルであった。ただ、規模的には伊豆のよりはかなり大きく、利用した部屋には2段ベッドがいくつか置かれていた。私以外にも、その日はけっこう宿泊客がいて、ベッドはほとんど埋まっていたように記憶している。
さて、そこで夕食を提供していたかどうかまでは記憶にないのだが、夜、部屋に戻ると小じんまりながらも「酒盛り」が始まった。なぜかその日の私は、好物のビールではなくウイスキーを所持していて、それをチビリチビリやっていたのだが、途中から記憶がプッツンとなった。
気が付いてみると、床の中に入っていて朝になっていたのだが、辺りから酸っぱい匂いが漂ってくるのである。最初は訳が分からなかったが、置き上がって状況がつかめた。「あ~、何て言うことをしてしまったのであろう…」と思った。しかし、こんな経験初めてである。旅の疲れを言い訳にしたくないが、かなり疲労がたまっていたのだと思う。
他の宿泊客からは「冷たい視線」を浴びせかけられたが、そんなのは当然である。みんな、「関わりたくない」と逃げるようにして部屋を後にしたが、私は、しばらく起きることができなかった。午後になってようやく置き上がることができるようになったが、とても、本来なら飲酒が禁止されているところで「済みません。飲み過ぎてしまって…」などととても言い出せるものではなかった。
受付に行ってみると、誰もいなく、デスクの片隅には私の会員証が置いてあったので、それを手に取り部屋に戻った。そして、汚してしまった布団は押し入れの一番下に押し込み、逃げるようにしてユースホステルを後にした次第である。
「後で、匿名の手紙を書き、その中に布団代を入れますから…」と自分に言い聞かせながら、お寺を後にしたが、未だに手紙は書いていない。いや~、我ながら「最低な人間」である。「今でもユースホステルはあるのであろうか?」と恐る恐る調べてみたが、どうも現在はユースホステルとしては存在していないようだ。かといって、それだから私の悪行が消えたわけでない。
どう考えても、私は「極楽浄土」への切符は手に入れることができないと思う。そうすると「じゃあ、地獄なのか?」となってしまうが、地獄だけは勘弁してほしい。とりあえず、これからはしっかりと功徳を積んでいこうと思う。もしかしたらお迎えが来た時に、「よかったら極楽浄土の方にします?」と言われたりすることを少しは期待しているからである…。