佐々木俊尚の「ITジャーナル」

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GripBlogの泉あいさんにインタビューした

2005-09-27 | Weblog
 先の総選挙が「ブログ選挙」と呼ぶのにふさわしいものだったのかどうか。実のところその議論はかなり拡散してしまっており、焦点は自民党圧勝による今後の政局に移りつつある。

 とはいえ、今回の選挙ではきわめて面白い状況がいくつもあった。自民党の世耕参院議員が仕掛けたブロガー懇談会はそのひとつであるし、そしてもうひとつ大きな動向は、「取材するブロガー」が出現し、精力的に各政党に実際にインタビューして回ったことだった。

 そのブロガーは、すでにブロゴスフィアの中ではかなり有名になっているGripBlogの泉あいさん。「ルポライターになる」とOLを退職し、ブログ上でジャーナリスト活動を今年初めに開始した女性である。

 私は彼女にインタビューし、その記事を書いた。私が彼女にインタビューしようと思った理由は、簡単だ。

 マスメディアの側からは最近、ブログに対して「しょせんはわれわれの一次情報を利用して、うだうだ言ってるだけじゃないか」という批判が出ている。その批判はまったくもってその通りで、ブログの側から出ている「一次情報はマスコミで、分析・論評はブログの役割」という反論には若干のパワー不足は否めないように思う。一次情報を集めてくる取材と、分析・論評というのは決して簡単に切り離せるものではないと私は思うからだ。

 しかしここに来て、ある種の突破口とも思える状況が生まれてきた。それがGripBlogという「取材するブロガー」の登場である。これが本当に突破口となりうるのか、それとも実験的な試みで終わるのか――それを私は知りたいと思った。

 ついでに言えば、私もフリーランスで活動していて、インターネット上のジャーナリズムというのが本当に「メシの種」になるのかどうかも、非常に気になる。ボランティアのジャーナリズムなんて言うきれい事はどうにも信用する気が起きないし、しかし現実にはインターネットという拡散するメディアは、メシの種としては非常に心許ない。「取材するブロガー」は、その当たりをどう決着させようとしているのか。そんなことも知りたかった。

 泉さんへのインタビュー取材は、選挙の投票日のしばらく前に行った。発言は、その時点の内容であることをお断りしておきたい。

ネット上で小泉改革を熱烈に支持している人たち

2005-09-14 | Weblog
 gooの衆院選特集に『ブログは選挙に影響を与えたか』という原稿を書いた。この中で、日経ビジネス今週号の記事のこんなくだりを引用した。

 <ネット世論が実際の選挙結果にどの程度影響を及ぼすかは、未知数だ。2004年の参議院選挙でもネット世論は盛り上がった。だがその内容は実際の投票結果と乖離していた。「2ちゃんねるなどに頻繁に意見を書き込む人々は、もともと反民主党の傾向が強い。今回の選挙は新聞やテレビが早くから自民優勢を予見したため、彼らにとって(民主党たたきの書き込みが)絶好の遊び場となった」と北田(暁大・東大大学院)助教授は分析する。
 政治談義が好きな2ちゃんねらーたちは自民党に投票する可能性が高いが、特定の人が複数の名前で書き込んでいるためネット世論は実際より大きく見える。「選挙権を持たない若年層の書き込みも少なくない」(若者の社会文化を研究する国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの鈴木謙介研究員)ため、ネット世論は投票結果に直結しにくいのだ>

 この日経ビジネスの予測は外れて、ネット世論とリアルな世論がほとんどイコールになってしまったのが、今回の総選挙の結果だった。ふたつの世論の関係性についてはgooに書いたので読んでいただければと思う。

 気になるのは、いったいどのような人たちが小泉改革を支持しているのかということだ。そもそもネット上で小泉改革を熱烈に支持している人たちは、どのようなセグメントに属しているのだろうか?

 小泉首相の構造改革が押し進めようとしているのは、小さな政府と競争促進政策である。もとをただせば、橋本龍太郎政権が1990年代半ばにスタートさせた金融ビッグバンなど、一連の構造改革路線を継承していると言っていいだろう。民間にできることは民間に委譲し、政府の権限はできるだけ小さくして財政赤字を解消させる。その一方で累進課税の累進率を緩和し、消費税率をアップし、富の集中を進めることによって民間の活力を高め、日本経済を復活させる。そしてこうした方策のもとに生まれてきたのが、ライブドアをはじめとする新興ネット企業の一群であり、ライブドアの堀江貴文社長や三木谷浩史・楽天社長といった新富裕層なのである。この話は、6月に出した「ライブドア資本論」という本に書いた。

 要するに小泉改革は、日本の構造をドラスティックに根底からひっくり返し、アメリカやイギリスのような二極化社会にしようとしている。

 ではこのような社会になったとき、損をするのはだれなのか。かつての「一億総中流」の時代だったら、みんなが「いや、オレは損はしない」と胸を張って言えただろうが、いまはもうそんな時代ではない。90年代末以降、音を立てて社会の二極化は進みつつあり、「損をするのはオレだ!」と自覚を持っているであろう人々は増えている。

 山本一郎氏は、ブログの「修正主義者とでも言おうか」というエントリーで、次のように書いている。

<就労の機会を与えられず、一方で決して馬鹿でも無能でもない人たちの一部はネットに流れてきている。彼らはヒマであるがゆえに、社会に偏在する欺瞞に対する洞察が鋭い。それは右派とか左派とかいう次元の問題ではなく、本質的に偽善や欺瞞を嫌うのであろうと思う。なぜなら、彼らは本質的にまったく悪いことはしていないのに割を喰っているのだから、その不満を自分以外の第三者に向ける傾向はあるだろう。おそらく本質はヒマであることと無能ではないこと、そして彼らが自発的に糾合しうる「場」が用意されているからにほかならない>

 もし山本氏の推測が当たっているのであれば、ネット上で小泉支持を打ち出し、民主党を批判している人たちの多くは、小泉改革によって打撃を受ける側のセグメントに属していることになる。本当にそうだろうか?

 まあ仮にその推測が当たっていたとしても、山本氏の書くように、彼らの多くはバカではないと思うし、小泉改革の行く末を認識していないわけではないと思う。しかしもしそうした層に属する彼らが小泉支持を鮮明にしているのだとすれば、いったいどのような考えに基づいているのだろうか。

 「R30::マーケティング社会時評」は、「都市型リベラルとか反対の反対とかメタゲームとか」というエントリーで、そうした層は「サブターゲット」ではないかと指摘している。非常に興味深い考察だと思う。

 しかしブロゴスフィアの外側――特にマスメディアでの有識者たちの発言には、有権者を愚弄しているとしか思えないような内容のものも目立っている。たとえば投開票日の翌朝の朝日新聞の社会面には、何人かの有識者がコメントを寄せていて、本田由紀・東大助教授は<経済的弱者が、政策的に手を差し伸べてもらうことよりも、「ぶっ壊す」ことを訴える小泉首相に、希望を見いだした可能性はある。現状が厳しいほど、単純なカリスマに自分を同一化して、「この人だったら何かをやってくれるかもしれない」と>と指摘した。相当に辛辣というか、弱者に厳しい意見ではないか。朝日新聞とは思えない。

 同じ紙面で、左派論客として知られる辛淑玉氏は、こう言っている。<キーワードは「憎悪」だ。無党派層の多くは不況でもっとも打撃を受けている都市部の若者。高学歴もかかわらず不安定な状況に置かれている彼らの中にはバーチャルなナショナリズムに酔いしれ、ネット上でマイノリティーを攻撃する者も少なくない。小泉さんは彼らの憎しみを、不況でも身分が保障された公務員に向けさせた>。これもきわめて辛辣な意見としか言いようがない。

 いずれも、まるで弱者の愚民がファシズムを支持している――といわんばかりの意見である。こうした意見にネット世論は、真っ向から立ち向かっていかなければならないのではないか。

東京でテロが起きたら・・

2005-09-03 | Weblog
 六本木ヒルズにオフィスのある外資系企業幹部は、羽田空港からヒルズまでの距離を計算し、旅客機の飛行速度を計算したという。そして「羽田で飛行機がハイジャックされたら、わずか2分でヒルズに着いちゃうな」と慨嘆したというのである。

 いったい何の話かと言えば、セプテンバー・イレブン(同時多発テロ)4周年を迎える9月11日の話である。この日にイスラム系のテロ組織「アルカイーダ」が何らかの行動を起こすのではないかという予測が、世界各地で語られている。ロンドンでは7月に地下鉄を狙った同時多発テロが起きたばかりで、いまも記憶に生々しい。日本では郵政解散から続く総選挙で話題は持ちきりだが、投開票日の9月11日が同時多発テロの日であることを忘れている人は多い。しかしスペインでは昨年3月、総選挙の3日前にマドリードの駅で同時爆破テロが発生し、有権者の意識を大きく揺り動かした結果、与党が敗北。イラクから軍を撤退するという結末へとつながった。要するに、テロ組織側の大勝利だったのだ。

 日本では自民党のヤマタクこと山崎拓自民党副総裁が「投票日は9月11日がいい。なにしろ同時多発テロの記念日だ。(われわれも)参院議員の反対派の同時多発に我々は巻き込まれて、ビルから転げ落ちたような格好でございますから」などと講演でコメントし、失笑を買っている。しかしこういう低次元の話題で盛り上がっている場合ではない。危機はいつの間にか近づいている可能性もある。

 もし東京で、アメリカと同じような航空機を使った同時多発テロが起きた場合、どこを狙うのか。セプテンバー・イレブンでニューヨークの世界貿易センタービルが標的となったのは、同ビルがアメリカの富の象徴だったからに他ならない。

 では日本の富の象徴はどこか。

 ネット業界や新富裕層の動向に関心のある人なら、多くは「六本木ヒルズ森タワー」と答えるだろう。何しろこのビルにはリーマンブラザーズやゴールドマンサックスといった外資系金融機関のほか、ヤフーや楽天、ライブドアなどの花形ネットベンチャーが数多く入居している。

 おまけにこの六本木ヒルズという場所は、きわめてセキュリティが低い。観光地とオフィスビルが一体化しているためだ。オフィス階に上がるエレベーターだけはさすがに警備員によってガードされているが、センターループと呼ばれる地階部分の巨大な回廊や駐車場にはどんな車でも入れるし、森タワーを取り巻くショッピングモールも歩行者であればだれでも通行可能だ。警備員の数も少ない。

 では警備当局は六本木ヒルズの危険性に対してどう対処しようとしているのかと言えば、実のところ積極的にヒルズを守ろうとしている姿勢はあまりないようだ。何でも警備当局は、もし東京でハイジャックテロが行われた場合、標的となるのは、

「霞ヶ関ビル」

 だと考えているのだそうである。地上36階、地下3階、1968年に立った日本初の超高層ビルである。たしかに政府系機関や財閥系企業が数多く入居しているし、完成したころには東京の富のシンボルであったのは事実だが、しかしそれにしても霞ヶ関ビルとは……。

 アルカイーダが歴史的位置づけや政治経済的意味を考慮に入れて、霞ヶ関ビルを狙うというのはちょっと考えにくいようにも思うのだが、どうだろうか。