かつて「プッシュ」ということばがインターネットの世界で流行したことがあった。1990年代後半のことである。
「プル」というのは、ユーザーが要求を送信して初めて、情報が送られてくる情報配信の仕組み。「プッシュ」はその逆で、サーバの側が一方的に情報を送り出し、端末に表示してくれる仕組みのことだ。プル型のメディアであるウェブブラウザに対して、当時、「これからは情報がユーザーに自動的に送りつけられてくるプッシュの時代が来る」とさかんに言われた。
プッシュの代表的なサービスだったのが、PointCastである。サービスインは1996年。無料配布されていたプログラムをパソコンにインストールすると、デスクトップ画面下部にニュースや天気予報、株価などのコンテンツが自動的に電光掲示板的に表示される。まだアナログモデムやISDNの回線が当たり前で、ネットのコンテンツも乏しかった当時、PointCast経由で流れてくるテキストデータには、多くの人が感動したものだった。PointCastは翌97年に日本法人も設立され、日本語サービスもスタートした。
だがプッシュは、まもなく廃れた。最大の理由は、当時はブロードバンドが普及しておらず、ネットが常時接続じゃなかったからだ。ダイヤルアップで回線をいちいちつないだり切ったりするような使い方では、プッシュは現実的ではなかったのである。PointCastも2000年にはサービスを終了してしまい、プッシュという言葉は人びとの記憶から薄れていった。
しかし2002年ごろからはブロードバンドが急激に普及するようになり、どこの家も常時接続になり、ふたたびプッシュが脚光を浴びるようになってきた。思い出したようにニュース記事で「プッシュ復権か?」なんていう観測記事が現れるようになった。
そしていまや、プッシュは再びネット業界の表舞台へと踏み出しつつある。もちろんプッシュ的なサービスは、ここ数年いくつも現れていた。たとえばスクリーンセーバーやブラウザのツールバーにニュースを表示するソフトなんかがそうだ。しかしここに来て、プッシュにとってのあらたなパラダイム転換が起きようとしているように見える。
それはプッシュと検索エンジンの接近から生まれてきている。つまり検索エンジンが情報のシンディケーション(配信システム)との融合を強め、プッシュ型メディアを取り込もうと試みつつある状況が生まれているのである。それはもう少し具体的に言えば、たとえば検索エンジンとブログとの連携であり、典型的なケースとしては、検索エンジンがRSS(Rich Site Summery)を取り込んでいこうとしている動きである。
すっかりおなじみになったRSSだが、歴史はかなり古い。もともとはNetscape社がポータルサイトでパーソナライズサービスを行うための手段として、1999年にリリースしたものである。当時はRDFベースで見出しを配信する仕組みを持っており、要するに当時流行していたプッシュ型配信システムのひとつだったのである。RSSはプッシュのDNAを持っていたのである。
そしてご存じのようにブログの大ブームとともに、RSSはコンテンツの配信システムとして大きな注目を集めるようになった。更新情報をRSSで公開するニュースサイトやブログが増え、RSSリーダーはブログの読者たちの日用品的なツールとして愛用されるようになっていった。
そしてこのRSSが普及していけば、インターネットにおける情報の流れは、大きく変わっていく可能性がある。これは「第三の波」とも言える大きな変動になるかもしれない。
・ポータルサイトからのプル型閲覧
・検索エンジンを使ったプル型閲覧
というこれまでの二つの潮流に加えて、「RSSリーダーを使ったプッシュ型閲覧」というあらたな潮流が加わりつつあるのである。そしてRSSの登場によって、検索エンジンはさまざまな影響を受けつつある。検索エンジンが、みずからの存在意義(もしくは定義)をあらためて問い直さなければならなくなってきているようにも思える。単なるプル型のメディアとしての検索エンジンではなく、プッシュをも取り込んだかたちでシンディケーション(情報配信)システムの一環としての検索エンジンという考え方が浮上してきているのである。これはYahoo!が2004年12月に提唱した規格で、RSS2.0を拡張し、ファイル形式や再生時間、出演者、スタッフ、著作権情報などのコンテンツ情報を制作側が記述できるフォーマットとなっている。同社はこのMedia RSSを、自社の動画検索サービスであるビデオサーチに活用し、シンディケーションと検索エンジンの融合を図ろうとしている。
こうした状況が進んだ先にどのような青写真が待っているのかはまだわからないが、相当にスリリングな世界が出現してくることは間違いないだろう。
「プル」というのは、ユーザーが要求を送信して初めて、情報が送られてくる情報配信の仕組み。「プッシュ」はその逆で、サーバの側が一方的に情報を送り出し、端末に表示してくれる仕組みのことだ。プル型のメディアであるウェブブラウザに対して、当時、「これからは情報がユーザーに自動的に送りつけられてくるプッシュの時代が来る」とさかんに言われた。
プッシュの代表的なサービスだったのが、PointCastである。サービスインは1996年。無料配布されていたプログラムをパソコンにインストールすると、デスクトップ画面下部にニュースや天気予報、株価などのコンテンツが自動的に電光掲示板的に表示される。まだアナログモデムやISDNの回線が当たり前で、ネットのコンテンツも乏しかった当時、PointCast経由で流れてくるテキストデータには、多くの人が感動したものだった。PointCastは翌97年に日本法人も設立され、日本語サービスもスタートした。
だがプッシュは、まもなく廃れた。最大の理由は、当時はブロードバンドが普及しておらず、ネットが常時接続じゃなかったからだ。ダイヤルアップで回線をいちいちつないだり切ったりするような使い方では、プッシュは現実的ではなかったのである。PointCastも2000年にはサービスを終了してしまい、プッシュという言葉は人びとの記憶から薄れていった。
しかし2002年ごろからはブロードバンドが急激に普及するようになり、どこの家も常時接続になり、ふたたびプッシュが脚光を浴びるようになってきた。思い出したようにニュース記事で「プッシュ復権か?」なんていう観測記事が現れるようになった。
そしていまや、プッシュは再びネット業界の表舞台へと踏み出しつつある。もちろんプッシュ的なサービスは、ここ数年いくつも現れていた。たとえばスクリーンセーバーやブラウザのツールバーにニュースを表示するソフトなんかがそうだ。しかしここに来て、プッシュにとってのあらたなパラダイム転換が起きようとしているように見える。
それはプッシュと検索エンジンの接近から生まれてきている。つまり検索エンジンが情報のシンディケーション(配信システム)との融合を強め、プッシュ型メディアを取り込もうと試みつつある状況が生まれているのである。それはもう少し具体的に言えば、たとえば検索エンジンとブログとの連携であり、典型的なケースとしては、検索エンジンがRSS(Rich Site Summery)を取り込んでいこうとしている動きである。
すっかりおなじみになったRSSだが、歴史はかなり古い。もともとはNetscape社がポータルサイトでパーソナライズサービスを行うための手段として、1999年にリリースしたものである。当時はRDFベースで見出しを配信する仕組みを持っており、要するに当時流行していたプッシュ型配信システムのひとつだったのである。RSSはプッシュのDNAを持っていたのである。
そしてご存じのようにブログの大ブームとともに、RSSはコンテンツの配信システムとして大きな注目を集めるようになった。更新情報をRSSで公開するニュースサイトやブログが増え、RSSリーダーはブログの読者たちの日用品的なツールとして愛用されるようになっていった。
そしてこのRSSが普及していけば、インターネットにおける情報の流れは、大きく変わっていく可能性がある。これは「第三の波」とも言える大きな変動になるかもしれない。
・ポータルサイトからのプル型閲覧
・検索エンジンを使ったプル型閲覧
というこれまでの二つの潮流に加えて、「RSSリーダーを使ったプッシュ型閲覧」というあらたな潮流が加わりつつあるのである。そしてRSSの登場によって、検索エンジンはさまざまな影響を受けつつある。検索エンジンが、みずからの存在意義(もしくは定義)をあらためて問い直さなければならなくなってきているようにも思える。単なるプル型のメディアとしての検索エンジンではなく、プッシュをも取り込んだかたちでシンディケーション(情報配信)システムの一環としての検索エンジンという考え方が浮上してきているのである。これはYahoo!が2004年12月に提唱した規格で、RSS2.0を拡張し、ファイル形式や再生時間、出演者、スタッフ、著作権情報などのコンテンツ情報を制作側が記述できるフォーマットとなっている。同社はこのMedia RSSを、自社の動画検索サービスであるビデオサーチに活用し、シンディケーションと検索エンジンの融合を図ろうとしている。
こうした状況が進んだ先にどのような青写真が待っているのかはまだわからないが、相当にスリリングな世界が出現してくることは間違いないだろう。