佐々木俊尚の「ITジャーナル」

佐々木俊尚の「ITジャーナル」

トヨタ製高速道路とJALホテルの関係

2005-01-31 | Weblog
 インターネットバブルのころには、ニューエコノミーの名のもとに奇妙な経済論理がたくさん現れ、それぞれに大流行した。

 たとえばネットワーク経済の法則なんていうのがそうだ。ネットビジネスでは最大のシェアを奪った企業だけが唯一勝ち残れるという考え方で、多くのドットコム企業が利益を出すことを考えず、ひたすら無料や低価格でシェア獲得に走った。結果的にはどの企業も、多額のカネを広告に費やした挙げ句に、売上がほとんど出ないまま破たんしていった。

 垂直統合というのもあった。
 これはネットビジネスだけではなく、たとえば自動車産業などでは古くから使われている。車メーカーが部品メーカーや販売店を系列化し、川上から川下までのバリューチェーンをすべて押さえてしまうというものだ。

 これをネットに応用しようという動きがあった。たとえば携帯電話会社が通信回線だけでなく、電話機やアプリ、コンテンツも提供する。ADSL企業が、ADSL回線とプロバイダサービス、映画などのコンテンツをすべて提供する。入り口(上流)でたくさんのお客さんを集め、そして下流でさまざまなサービスを使ってもらってカネを回収するという考え方である。要するにインフラやプラットフォーム、コンテンツなどを統合して、顧客を囲い込むということだ。

 しかしこれも、あまりうまくいかなかった。日本では著作権の扱いが複雑で、テレビなどの手軽なコンテンツをネットに流用できなかったことや、ネットバブルのころはまだ回線速度の遅いナローバンドで、コンテンツを十分に楽しめる環境が整っていなかったこともある。

 さらに加えて、インターネットという通信インフラがその後、加速度的にコモディティ(日用品)化していったこともある。あまりに日用品になってしまって、囲い込みの道具にはならなくなってしまったのだろう。

 かつてネットインフラの垂直統合化を行おうとしたことのある企業の経営者は、当時の状況について反省も込め、こう話した。

 「高速道路と車の関係みたいなものですね。もしトヨタが高速道路を作ったとしても、『この高速はトヨタ車しか入れません』なんていう制限は加えないでしょう? 高速道路トヨタ製でも、走る車はトヨタでも日産でもフォードでも構わない。インターネットも同じで、素晴らしい映画をブロードバンドで提供する時に、『わが社の通信インフラを使った人にしか見せません』というのはあり得ないと思う」

 しかしこの企業は最近、再びコンテンツビジネスの買収に乗り出している。垂直統合型は捨てたんじゃなかったっけ?――そう思って聞き直してみると、こんな返事が返ってきた。

 「かつての垂直統合型とは異なり、たとえばJALやANAなどの航空会社がホテルを所有するようなものですね。そのホテルは別に親会社の旅客だけを泊めさせるわけじゃないんだけど、航空会社とホテルが同じ経営になっていれば、いろんなシナジー(相乗)効果が期待できるから」