佐々木俊尚の「ITジャーナル」

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ネットビジネス「勝ち組」たちは、カネをこう使う

2005-01-22 | Weblog
 「カネ? そんなのは自宅の暖房みたいなもんですよ。暖房がないと寒いし侘びしい。暖房が初めてついた時は、『何て幸せなんだ』と嬉しいけど、そんなのは一瞬で終わっちゃう。いざ暖房のある生活になれてしまうと、もうどうでも良くなっちゃうんです」

 あるネットベンチャー企業の社長は、淡々とそう言った。

 ネットベンチャーで大成し、「勝ち組」と呼ばれている起業家たちの取材を続けている。彼らに、「金持ちになるのはどういう気持ちか」というかなり下世話な質問を投げかけてみた。答はさまざまだったが、おおむね共通しているのは、「カネがあるから生活が豊かになるわけでもないし、人生が充実するわけでもない」という考え方だ。多くの起業家がそう答えているところを見ると、取材に対してひねくれて答えているわけではないのだろう。たぶん彼らは、本気でそう思っているようなのである。

 先の社長は、こうも言った。「会社を成功させて、超高層ビルの眺めの良いフロアに入居して、窓の広い社長室を作れたら、何て素敵なんだと昔は思ってました。でもいざ自分がその立場になると、もうすぐに慣れてしまって、景色なんか興味はなくなってしまう。今や窓の外なんか、ほとんど見ないですね」

 そう彼が話している社長室の窓には、ブラインドが下りたままなのだった。

 別の起業家。数十億円の個人資産を作り上げている。彼は金持ちになる以前、六本木ヒルズレジデンスに住んでいる知人の家に遊びに行ったことがあったという。六本木ヒルズレジデンスは超高級賃貸マンションと知られ、1平方メートルの家賃が月額1万円もする。100平方メートルなら100万円、200平方メートルなら200万円だ。

 知人の豪壮な自室に招かれ、「ここは150万円ぐらいするんだよ」と聞かされ、彼は「なんだか馬鹿馬鹿しい」と思ったという。

 「もし月額150万円も余計な資金があるんだったら、僕ならもっと意味のある投資を考える。150万円も家賃に使うという神経は、まったく理解できないと思った」と、彼はその時に感じたことを振り返った。

 そして彼は、「でもね、今なら知人の気持ちがよおくわかるんですよね」と続けた。私は「何がわかったんですか?」と問い返した。

 そうすると彼はにやりと笑って、「それは佐々木さんも、大金持ちになってみたらわかりますよ。逆に言うとね、それは金持ちになってみないとわからないことかもしれない」と答えた。まるで謎かけのような会話である。

 そして彼は、真顔でこう言った。「要するにね、月額100万だ200万だなんていうはした金は、もうどうでもいいんです。毎年億の単位でカネが入ってくるようになると、生活のためにどんなにカネを使ったって、これっぽっちも減らないんです」

 「金持ちになるってのはこういうことなんだって、金持ちになってみて初めてわかりました」

 そうして彼はいま、六本木ヒルズレジデンスの一室に住んでいるのである。