今まで以下の記述については何人かに説明してきた。理解出来る人は詳しく言わなくても判る。
“要は定電流で測るってことだろ”
全くその通りだ。
だが、理解しない人は図を書いても分からない。というより避けようとする。
「難しいことは分からんけども、、、、、」
そんなわけで説明では図を省略した。
原理については後述
真空管のgm測定方法
方法その1/現在のメインの方法
1、真空管ハンドブックに拠り規定のプレート電圧、スクリーン電圧、グリッド電圧を印加する。
ただし、出力管においては、バイアスを加減し規定の電流を流す。即ちこの場合はバイアス電圧ではなく、プレート電流を基準とする。
2、真空管のグリッド・カソード間に10KHz/1Vを入力する。信号の大きさは真空管出力が歪まない大きさであればよく、電圧増幅管では10KHz/100mVを入れる。
3、プレートに現れる交流電流をHP456Aで測る。HP456Aは回路を切らないで測れるAC専用の高感度クリップオン電流計で1mAで1mVを出力する。この電圧をミリバルで測る。
通常gmは単位がミリモーであるが、これはmA/Vのことである。例えば10ミリモーならば入力が100mVなら1mVの出力しかない。2ミリモーなら0.2mVしか無い。gmが低くバイアスの浅いタマ、例えば12AX7や5879、6267は入力を多くできず測定する電圧が低すぎてしまうため正確な測定が難しい。
私自身はHP456Aによる測定がラクなのでこれ以外の方法は現在やってないが、456Aの入手は米国からでないと難しい。送料込みで最低3万円になりそうなので追試される人は456Aの使用ではなく以下の方法その2またはその3を推奨する。
上記の方法で測定したgmの値は標準の80%程度でもTV7の廃棄値より明らかに多い。管種にもよるがTV7の廃棄値は標準の70%未満くらいと推定される。
方法その2/私が考案した方法
1、プレートに一次と二次を逆にしたシングル用トランスを接続する。たとえば8Ω:7KΩとし、二次側に6.8KΩをターミネートすれば真空管は8Ωに近いインピーダンスを負荷することになる。8Ω側なので小型のトランスでも6GB8を試験するような大電流でも限界を心配せず流せる。
2、各電圧は その1 と同じようにする。
3、真空管に適当な電圧を入力し、トランス二次側の電圧を測り、一次と二次のレシオを換算してgmを求める。
4、一次側に現れるインピーダンスや一次対二次のレシオは計算で得られるものとの違いが無視出来ない。或る程度のレヴェルの知識と少な過ぎない測定器が必要となる。8Ω側に発生する電圧は小さいがトランス二次側にはステップアップされた小さくない電圧が発生し、かつ片方がアースされているので測定が楽になる。この場合のトランスは安物で良い。優れた方法なのだが較正のハードルが高いのは認めざるを得ない。
方法その3/海外のアマチュアの文献で見た方法
1、プレートに10Ωを負荷し、その抵抗に並列に1:1のトランスを接続する。トランス一次側は直流が分流しないようキャパシター(以後Cと表記)で切る。Cはインピーダンスが無視出来る様な大容量にする。ただし低圧で良い。
2、各電圧は その1 と同じようにし、真空管に10KHz/100mVを入力する。この周波数はCのインピーダンスを小さくする目的でもある。
3、トランス二次側の電圧を測り、gmを求める。
4、これは上述を併せた三通りの方法で諸兄が採用するのに一番再現性が高い。gmが低いタマではノイズの影響で測定値が実際の値より大きく出易い。そこで電圧を測るのに歪み率計を使ってローカットすれば良い。(歪率計にはローカットフィルターが付いている)。内部抵抗が非常に低いタマ(例:レギュレーター管)では10Ωより1Ωが更に正確に測れるが、選択電圧計かスペアナが必要になり一般性を失う。私はHPの3582Aを使っていたが、小鳥を撃つのに大砲を用いるような気がしていた。(鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん!)。
上記三例において、このような場合の通常使用される1KHzではなく10KHzの信号を入れる訳は、信号レヴェルを測定するのにスペアナを用いる場合が有るからだ。その場合掃引型スペアナでは1KHzより10KHzのほうが測定時間を短縮出来る。
測定原理/実技
端的に言えば三定数のうち一番重要なのはgmなのだが、測定の勘所は、測定値に誤差を与える真空管の内部抵抗の影響からどうやって逃れるかに尽きる。測りにくいのは内部抵抗の低い球、またはgmの低い球であり、この二つを押さえると測定が可能だ。初歩の交流理論を理解していることが必だが、さほど高度ではない。
真空管の増幅度を導来する式はA=gm×(タマの内部抵抗rpと負荷抵抗RLの並列合成抵抗)で与えられる。即ち A=gm×(rpRL)/(rp+RL)。3極管の場合はA=μRL/(rp+RL)として知られているが、μ=gm×rpなので同じことである。
gm値はこの式から導くが、邪魔なrpの項を消さねばならない。RLをrpに対して非常に小さくすれば並列抵抗はほぼRLと見做せるようになりrpを無視出来る。測定誤差を1%未満にするためには、RLはrpに対し1%未満でなくてはならない。レギュレーター管等は200~300Ωくらいしかないのもあり、それを考えるとRLは相当に低い必要がある。然し、RLが小さいと、測定電圧も小さくなり、直流電源の電源インピーダンスの影響を無視出来なくなるなど、gm測定がいろいろと困難になる。
誰でも思いつくDC的な方法では、動員する測定器は少なくて済むが、バイアス電圧を変え電流の変化を測るのは、実技上は面倒だ。高性能ディジボルで差分だけをカウントし、バイアス電圧はプログラマブルの電圧ジェネレータで設定出来れば安直になるが、これは誰にでも出来るわけではない。やはり交流式が便利だ。
また、低抵抗を負荷しそこに発生する電圧を直接測る方法は、抵抗と直列になる電源インピーダンスの影響を排除出来なくて面倒だ。従ってトランスを使う。 面倒と言う言葉を多用するが、要するにめんどくさいことは続けられないものだ。
グリッド抵抗にシリーズにセンター指示のマイクロアンペアメーター(アキバで2000円~2500円)を入れる。グリッド電流が流れたり、リークが有ったりすると針がいずれかに振れる。これが存外の威力を発揮し、機械的不良の大半が分かる。目に見えるほど振れる場合はタマを廃棄する。即ち、機械的不良は、グリッドかカソードの絡んでるものが多いので、上述の電流計を入れることで殆ど捕捉出来る。これまでのところ、私の方法で機械的不良を捕捉出来ず、TV7Dで見つかったという事例は無い。むしろ私の方法で機械的不良が捕捉出来ながら、TV7Dで見つからないという場合が有る。
尚、マイクロアンペアメーターは寄生振動が有っても振れる。この場合は不規則に振れるのでそれと判る。TV7D/Uには寄生振動を防ぐビーズが入っているが、同じものを入手は出来ないので、こういう場合はグリッドに直列に1Kオームを入れる。タマ毎に配線しなければならないので結構面倒だが、寄生振動のあるタマはあまり無い。また、タマの作りにも因るようで必ずしもgmが高いから寄生振動が多いとも言えない。
ここでセンターメーター式のマイクロアンメーターをやめて横河の3201など内部抵抗の高い(電流感度の高い)テスターのアンメーターを使っても良い。3201は12マイクロAのレンジがあり、極性の切り替えスイッチも有るのでマイナスに振り切れたらスイッチを切り替えれば良い。
実際にgm測定器を製作する上での問題点としては電源を用意する方が困難かも知れない。これは自作しようとするから面倒なのでオークションで求めれば良い。A電源、B電源二台、C電源と都合四台も必要だ。しかし自作より使いやすく短期間に用意できる。コストも心配するほどではない。昔売られていた真空管用電源のバイアス電源は負電圧が高すぎるために、10回転のポテンショメータで調整してもIb調整がかなり面倒だ。そこで実用の為に小さいバイアス電圧を微細に加減できるような機構にしておかないと後で困る。むしろバイアス電源だけ別に用意したほうが良い。其のほうがずっと便利だ。
近頃の電源は出力がワンタッチでオンオフ出来る機構になってるものがあり、そのほうが便利だ。デジタルメーターの付いているものはそのタイプが多い。
プレートの電流計はデジタルでも良いがアナログだと元気の良い真空管の場合は電流計の振れる速度が早いので視覚的に真空管の良さが分かる利点がある。一般的に言えば電流計が元気よく立ち上がってくる場合はgmも規定値をクリアーしてるので特別な要求がない限り電流とgmの双方を測る必要は実用的には無い。
gm測定では内外の有名なチェッカーは試した。EbやIbを真空管マニュアルに拠って設定出来るタイプ(大型になりやすい)が便利だ。その中には双三極管がワンタッチで切り替えテスト出来るものもあり、その快適さはたいしたものだ。EbやEsgが固定のタイプのもの(TV7シリーズ等、現在流通するものの大半)は真空管マニュアルではなく、チェッカー付属のマニュアルによって操作する(それが無いと操作できない)が、その原理と限界を予め承知で求める人には良いが、知らないで買う人は困るだろう。
真空管販売業者が売るいわゆる“ペアチューブ”がどの様な測り方で選別されているかは知らないが、たとえそれが真正のペアチューブであるとしても、プッシュプルの出力段ではACバランスDCバランスの調整は不可欠だ。私は ペア というものにあまり重きを置かないが、仮に 揃っている として選別したものでもそれは同様だ。これをやらずに良否を云々しても始まらない。
ちょっと横道にそれるが、DCバランスは10Hzより下の周波数を入れて出力段の出力が最大になるように調整する。つまり交流で測る。周波数が低いのでストレージならラクだが普通のオシロだとチラチラする。だがそこはまぁ我慢する。原理的に正しい方法なので精神衛生上は良い!!
真空管チェック雑感
多くのタマのテストをやって感じるのは
●開発時期の後期のタマのほうが、そうでないタマより
●三極管より五極管が
●べース接続よりトッププレートのタマが
いずれも素子として安定のようだ。
尚、寄生発振は必ずしもgmの高さと密接な関係はなく、開発時期が早期のタマはgmがさほど高くなくとも発振しやすいと見ている。
真空管メーカーの技術者は無駄飯を喰っていたのではなく、日々改良に励んだのだろう。
真空管の選別について
真空管を出品していると特性の揃ったものをと頼まれることが有る。だいたい、要望というものは1人が言う場合はその100倍以上の黙して言わない人がいると考えてよいので(日本人はとてもおとなしい)、潜在的にはその要望は多いと考えて良い。
さて、その真空管なるものはJIS規格では特性の違いがかなり大幅に許されているが、現実には高い製造技術の為か、それほど違いが無い。双三極管にしてもユニットの違いはあまり大きくはない。その大きくない違いを大きいという人もいる。
真空管販売業者の中には特性の似たものを選別する基準や過程の厳格さを宣伝する業者もある。選別の基準は同じバイアス電圧でプレート電流が接近しているということのようだ。つまりDC的な選別方法のようだ。真空管の出品で特性の揃ったものをと頼まれるのは、業者がこういう販売方法をしているからだろう。
販売業者が特性の違いが大きいと言う場合は、それによって自分達の選別作業の重要性を強調出来るからだろう。そしてまたそれによって付加価値を大きく出来る(高く売れる)からだろう。
ところで、揃ってるモノを、と言ってくる人は殆ど例外なく測定器を持っていない。この場合、選別されたと称するものをそのまま挿すだけとするならば、即ち挿した結果がどうなるかを調べる術が無いとするならばあまり意味は無いだろう。逆に測定し調整が出来る人は特性を指定することなど無いのが現実だ。
仮に揃っていると称するものを使ったとしても、その前段或いは後段の出力は揃っているのか?。
回路というのは能動素子の特性の違いは或る範囲で許容しながら設計し、出来上がったら調整するのが普通の筈だ。揃っているからと言って挿してそのままというのは通常考えらない。
結局、何を作ってもその結果を測定して検証するのでなければ、客観的な完成度を上げることは出来ない。タマの選別を他人に依存するより、自分で測れる状態になるのを目指すべきだ。
こんなふうに考えているから、選別の要望が有っても、まともに取り組む気にはなれない。ただ、パワー管においては二本受注した場合はだいたい近似した(交流的に)特性のものを送るようにしている。
厳格に揃ってるのが欲しい人はそういうものを提供すると称する店から買えばよい。
これはタマの寿命についてのことなので全くの余談だが、私は趣味仲間が測定して渡して呉れるタマなら中古で十分で、新品ということだけの為に大金を投じる気にはなれない。
第一、タマをやってる人では私の場合も含め歳の行った人が多いが、タマの寿命より本人の寿命のほうが短いかも知れないのだ。
朝には紅顔夕には白骨となれる身也
蓮如(浄土真宗中興の祖)