クラシック音楽のピッチを統一しようという動きは1859年のロンドンの会議に始まるらしい。その後1885年にもウィーンで同様の会議が行われている。この時はいずれも A=435Hz に決まった。時は後期ロマン派時代。リヒャルト・ワーグナーが楽劇の作曲し、ジュゼッペ・ヴェルディのオペラが成熟期を迎え、ヨハネス・ブラームスが交響曲を作曲していた。その後1939年、ロンドンの国際会議で A=440Hz となり今日に至っている。
ピッチが統一される以前、ルネサンス、バロック、古典派時代のピッチは地域や楽器毎に異なっていたため、演奏家は演奏場所や他の楽器(主にオルガン)に合わせて自分の楽器を調整しなければならなかった。リコーダーやバロックオーボエのような木管楽器は数Hzしかピッチを調整できないので、ピッチの異なる楽器を複数持ち歩かねばならなかった。
バロック時代のピッチがどのくらいであったかを知る手掛かりはこの時代に作られたオルガンや楽器にある。ルイ十四世(1638~1715)の時代に作られたオルガンがベルサイユ宮殿に現存しており A=396 である。これは現在よりも1全音低くなる。つまり、フランスの宮廷音楽家であったラモ―やリュリの音楽を現代の楽器で演奏すると全音高く響くことになる。
一般論としては歴史的にピッチは高くなってきたと言える。
ところで、ピッチが変わると何が変わるのだろうか。一般的にはピッチが高くなると音の透明感が高まり、緊張感が増す。逆に低くなるとしっとりとして落ち着いた響きになると言われる。最近の古楽演奏では現代の国際標準よりも約半音低いバロック・ピッチ A=415 を使う事が多いが、同時に音律も快適音律(ベルクマイスター、キルンベルガー)と呼ばれる長三度が良く響く物を採用するので、ピッチだけの効果とは言い難い。
作曲家 黛敏郎氏が存命の頃、司会をしていた題名のない音楽会でシューベルトの交響曲8番(未完成交響曲)を全音高く嬰ハ短調(原調はロ短調)で演奏したことがあった。この時これに気付いたのは会場でたった一人だった。もっとも「次の演奏には何かおかしいところがあります」という前置きがあって演奏を開始したのであって、もし前置きが無かったら誰も気が付かなかったろう。つまり、ピッチが半音ないし全音上下しても我々は直ぐには気が付かないのだ。もちろん演奏会が終わってみると、なんか変だなぁという感想を持つ人は出てくるかもしれないが。
我々に与える印象としてはピッチの差よりも音律の差のほうが影響が大きいと思う。音律が変わると響きが変化するだけでなく、転調した時の響きが大きく変わって調性感が目立ってくる。平均律に慣れた我々の耳には古楽演奏の快適音律はとても心地よく響く。最近の古楽演奏の流行の背景にはこんな秘密も隠されていたのだ。
ピアニスト故ベネディッティ・ミケランジェリの演奏は透明感のある響きで評判が高かったが(気分が乗らないと演奏会をキャンセルする事でも有名だったが)、いつも演奏会にお抱えの調律師を同行していた。来日した時の彼の演奏を聴いて感じたのは長三度と完全五度の響きが特別にきれいだったことである。思うに、彼の調律師は演奏曲目に合わせてピアノの調律を調整していたのではあるまいか。作曲家の別宮貞夫氏も同様の指摘をされていた。
話を元に戻そう。古典派の時代のピッチはどうなっていたのだろうか。この時代にはまだ国際標準は無かったものの音叉が普及していた。Wikipedia 「音叉」の項によると「1711年、イギリスのジョン・ショア (John Shore) がリュートの調律のために発明したのが起源である。」と記されている。そして音叉は瞬く間に欧州に広がった。つまり、古典派の時代になり、ようやく楽器のピッチを統一しようという機運が盛り上がってきたと考えられるのだ。モーツアルト(1756~1791)が所持していた音叉は A=421.6 だった。自分の演奏会では奏者にこのピッチを指定していたのかもしれない。指揮者アーノンクールはウィーン・コンツェルトムジクスと演奏したモーツアルトの交響曲でこのピッチを使っている。
人間がどのように音高や同音をとらえているのか、科学的に解明されているとは言えない。440Hz の倍の 880Hz がどうして同じ音だと認識できるのだろうか。物理的には同音 440Hz(一点イ) や倍音 880 Hz(1オクターブ上のA=二点イ)は共鳴する。ピアノでオクターブ上の A 音(二点イ)のキーを音が出ないように押したままにし、中央の A(一点イ) をスタッカートで叩いてみるとオクターブ上の A 音が鳴っていることが確認できるだろう。これが共鳴である。A の隣の B, C, E...キーを押しておいても鳴らない(共鳴しない)。同音の認識には共鳴現象がかかわていることが予想される。しかし、なぜ共鳴する音が同音だと認識されるのだろうか。これは人間の脳の認識の問題であって、いまだに解明されていないのだ。
ところで、音高については無限音階(Shaperd Tone) とい面白い錯覚現象が知られており、音が無限に上昇又は下降するように聞こえる。
【無限音階の例1】
【無限音階の例2】
不思議なことに運動する音高の感覚は周波数だけで決まるわけではないらしい。
ピッチが統一される以前、ルネサンス、バロック、古典派時代のピッチは地域や楽器毎に異なっていたため、演奏家は演奏場所や他の楽器(主にオルガン)に合わせて自分の楽器を調整しなければならなかった。リコーダーやバロックオーボエのような木管楽器は数Hzしかピッチを調整できないので、ピッチの異なる楽器を複数持ち歩かねばならなかった。
バロック時代のピッチがどのくらいであったかを知る手掛かりはこの時代に作られたオルガンや楽器にある。ルイ十四世(1638~1715)の時代に作られたオルガンがベルサイユ宮殿に現存しており A=396 である。これは現在よりも1全音低くなる。つまり、フランスの宮廷音楽家であったラモ―やリュリの音楽を現代の楽器で演奏すると全音高く響くことになる。
一般論としては歴史的にピッチは高くなってきたと言える。
ところで、ピッチが変わると何が変わるのだろうか。一般的にはピッチが高くなると音の透明感が高まり、緊張感が増す。逆に低くなるとしっとりとして落ち着いた響きになると言われる。最近の古楽演奏では現代の国際標準よりも約半音低いバロック・ピッチ A=415 を使う事が多いが、同時に音律も快適音律(ベルクマイスター、キルンベルガー)と呼ばれる長三度が良く響く物を採用するので、ピッチだけの効果とは言い難い。
作曲家 黛敏郎氏が存命の頃、司会をしていた題名のない音楽会でシューベルトの交響曲8番(未完成交響曲)を全音高く嬰ハ短調(原調はロ短調)で演奏したことがあった。この時これに気付いたのは会場でたった一人だった。もっとも「次の演奏には何かおかしいところがあります」という前置きがあって演奏を開始したのであって、もし前置きが無かったら誰も気が付かなかったろう。つまり、ピッチが半音ないし全音上下しても我々は直ぐには気が付かないのだ。もちろん演奏会が終わってみると、なんか変だなぁという感想を持つ人は出てくるかもしれないが。
我々に与える印象としてはピッチの差よりも音律の差のほうが影響が大きいと思う。音律が変わると響きが変化するだけでなく、転調した時の響きが大きく変わって調性感が目立ってくる。平均律に慣れた我々の耳には古楽演奏の快適音律はとても心地よく響く。最近の古楽演奏の流行の背景にはこんな秘密も隠されていたのだ。
ピアニスト故ベネディッティ・ミケランジェリの演奏は透明感のある響きで評判が高かったが(気分が乗らないと演奏会をキャンセルする事でも有名だったが)、いつも演奏会にお抱えの調律師を同行していた。来日した時の彼の演奏を聴いて感じたのは長三度と完全五度の響きが特別にきれいだったことである。思うに、彼の調律師は演奏曲目に合わせてピアノの調律を調整していたのではあるまいか。作曲家の別宮貞夫氏も同様の指摘をされていた。
話を元に戻そう。古典派の時代のピッチはどうなっていたのだろうか。この時代にはまだ国際標準は無かったものの音叉が普及していた。Wikipedia 「音叉」の項によると「1711年、イギリスのジョン・ショア (John Shore) がリュートの調律のために発明したのが起源である。」と記されている。そして音叉は瞬く間に欧州に広がった。つまり、古典派の時代になり、ようやく楽器のピッチを統一しようという機運が盛り上がってきたと考えられるのだ。モーツアルト(1756~1791)が所持していた音叉は A=421.6 だった。自分の演奏会では奏者にこのピッチを指定していたのかもしれない。指揮者アーノンクールはウィーン・コンツェルトムジクスと演奏したモーツアルトの交響曲でこのピッチを使っている。
人間がどのように音高や同音をとらえているのか、科学的に解明されているとは言えない。440Hz の倍の 880Hz がどうして同じ音だと認識できるのだろうか。物理的には同音 440Hz(一点イ) や倍音 880 Hz(1オクターブ上のA=二点イ)は共鳴する。ピアノでオクターブ上の A 音(二点イ)のキーを音が出ないように押したままにし、中央の A(一点イ) をスタッカートで叩いてみるとオクターブ上の A 音が鳴っていることが確認できるだろう。これが共鳴である。A の隣の B, C, E...キーを押しておいても鳴らない(共鳴しない)。同音の認識には共鳴現象がかかわていることが予想される。しかし、なぜ共鳴する音が同音だと認識されるのだろうか。これは人間の脳の認識の問題であって、いまだに解明されていないのだ。
ところで、音高については無限音階(Shaperd Tone) とい面白い錯覚現象が知られており、音が無限に上昇又は下降するように聞こえる。
【無限音階の例1】
【無限音階の例2】
不思議なことに運動する音高の感覚は周波数だけで決まるわけではないらしい。
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