俺は灰色の空間にいた。
上も下も無い。前も後ろも無い。右も左も無い。ただ、同じ灰色だけが限りなく続いている。
天国に入ることは当然許されず、だが地獄にも入ることを拒まれた。それで俺は今ここにこうしてぽつんと一人浮かんでいる。
静かだ。
137億年生きて、色んなことがあった。俺は俺なりにするべきことをやりとげたと思う。そのこたえがこれだ。…いや、案外これが俺の望んだ世界なのかもしれない。誰にも邪魔されず、ただひたすら眠ろう。割と幸せじゃないか、好きなだけ寝ていいんだ。…うん、眠くなってきた。寝よう。俺はひざを抱えて目を閉じた。…意識が深く落ちてゆく。
…俺は夢を見た。
春の土手を川沿いに自転車をこいでいた。俺の肩に両手がかけられている。あいつが、立ち乗りで後輪の軸に両足をかけている。
「海まで行こう?」
陳腐だ、と俺は思う。…だが、恋に落ちると陳腐がこれまたなかなか快感なのである。それは落ちないとわからない。そういうことの出来ないお洒落一辺倒な奴らは人生の楽しみを知らずに終わるわけでそれはそれで哀れよのう、と俺は心の中で笑った。俺は吉祥寺で見かけた「stop make sense」というCDのタイトルをまだ忘れていない。
「…今日は海でいいけど、いずれ山も行こうな?」
「えー、山は疲れるからやだよう」
「それがいいんじゃないか」
…海に着いた。
自転車を俺達は降りる。空の青と海の青が水平線で溶け合う。砂は一歩一歩を慎ましく受けいれる。
「…やろっか」
「…青姦?」
「あほかんな。靴を脱ぎなさい」
言うとお前は裸足になって波打ち際へ走っていく。
「…ま、まさか、あれですかぁ?」
俺は不安にかられて呼ぶ。…流石の俺も、海辺でそれをやるのは…
「やるの!」
「エー」
「恋人の神聖な儀式だと思いたまえ」
「………」
「早くしないとぉ、おいてきぼりだゾぅ?」
…俺も腹を決めた。お洒落な奴らを笑ったばかりじゃないか。毒を食らわば皿まで。靴と靴下を脱ぐ。
「さぁ、つかまえてごらん!」
「こいつう!」
…うふふふふ。ばかってすごいね。さあ、近づいたから水のかけあいっこ…
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
「?」
上も下も無い。前も後ろも無い。右も左も無い。ただ、同じ灰色だけが限りなく続いている。
天国に入ることは当然許されず、だが地獄にも入ることを拒まれた。それで俺は今ここにこうしてぽつんと一人浮かんでいる。
静かだ。
137億年生きて、色んなことがあった。俺は俺なりにするべきことをやりとげたと思う。そのこたえがこれだ。…いや、案外これが俺の望んだ世界なのかもしれない。誰にも邪魔されず、ただひたすら眠ろう。割と幸せじゃないか、好きなだけ寝ていいんだ。…うん、眠くなってきた。寝よう。俺はひざを抱えて目を閉じた。…意識が深く落ちてゆく。
…俺は夢を見た。
春の土手を川沿いに自転車をこいでいた。俺の肩に両手がかけられている。あいつが、立ち乗りで後輪の軸に両足をかけている。
「海まで行こう?」
陳腐だ、と俺は思う。…だが、恋に落ちると陳腐がこれまたなかなか快感なのである。それは落ちないとわからない。そういうことの出来ないお洒落一辺倒な奴らは人生の楽しみを知らずに終わるわけでそれはそれで哀れよのう、と俺は心の中で笑った。俺は吉祥寺で見かけた「stop make sense」というCDのタイトルをまだ忘れていない。
「…今日は海でいいけど、いずれ山も行こうな?」
「えー、山は疲れるからやだよう」
「それがいいんじゃないか」
…海に着いた。
自転車を俺達は降りる。空の青と海の青が水平線で溶け合う。砂は一歩一歩を慎ましく受けいれる。
「…やろっか」
「…青姦?」
「あほかんな。靴を脱ぎなさい」
言うとお前は裸足になって波打ち際へ走っていく。
「…ま、まさか、あれですかぁ?」
俺は不安にかられて呼ぶ。…流石の俺も、海辺でそれをやるのは…
「やるの!」
「エー」
「恋人の神聖な儀式だと思いたまえ」
「………」
「早くしないとぉ、おいてきぼりだゾぅ?」
…俺も腹を決めた。お洒落な奴らを笑ったばかりじゃないか。毒を食らわば皿まで。靴と靴下を脱ぐ。
「さぁ、つかまえてごらん!」
「こいつう!」
…うふふふふ。ばかってすごいね。さあ、近づいたから水のかけあいっこ…
ゆさゆさ。
ゆさゆさ。
「?」