2日目起床したのは午前4:30ぐらいだったと思う。
けだるい体を起こし少し時間を置く。
調子がいくらか上がって来てから部屋に盛大に広げていた荷物をしまった。
部屋を出るとばあさんがいた。何となく物腰が柔らかくなっているような気がした。
「それじゃ、行くのかい?頑張っていきな」
そんな感じである。1日目の感じも好きであるが2日目の感じも良いな。
しかし、ギャップが大きすぎる。
「寝起きだから元気がないのか?それとも実は双子か?」
色々と考えながら(失礼な事なども頭をめぐらす)走り出した。
まず、腹が減っては戦は出来ぬというところで腹ごしらえ。
ある意味、自転車旅行は戦である。サドルに跨ると尻は痛いが、ペダル漕ぐ足に異常は無い。
やはり、コールドスプレーの効果はあったようだ。
走り始めて国道を少し間違えたが、すぐに戻る事が出来た。
それから丁度、その日に閉店になると言うコンビニで弁当を購入して、食べてから出発。
奇妙な偶然である。だからと言って別に店員に話しかけたりはしなかった。
そんな事をしたからと言ってお店側に得はないものな。
所詮、髭人などチャリバカの一般人である。
渋川を越えるとやはり山らしくなってくる。三国峠は近い。
順調に沼田を過ぎて走りだしたわけだがそれからアホみたいに坂がきつくなってきた。
遂に三国越えである。ずっと坂ばかりで本当に嫌になった。
きつかったり緩かったりするのだが、長い時間そんな調子だと今は知っているのが
平坦な道なのかさえも判断がつかなくなってくる。
自転車はずっと押していく。ロード用ではなくマウンテンバイクだしな…
って、今さまさにマウンテンなんだけど(笑)
しかし、長時間、自転車に乗れず自転車を押しているばかりだと頭がおかしくなってくる。
道路の整備が非常に悪いと言う事も手伝って…
歩道が進行方向に対して左側にあったりなかったり、下水道の凸凹が酷く、乗ったらこけるというような段差があったり、
道がひび割れていたり、無意味と思えるような所にガードレールがあるせいで、
歩道で自転車を押す自分がめちゃくちゃ窮屈な思いをしたりなどなど…
沢山の自転車利用者に苦を強いるような要素が多い。だからこそ・・・
「ふざけてんのか!国土交通省!自転車利用者や歩行者を舐めんなよ!天下りなんかやっている場合じゃねぇぞ!!馬鹿ぁぁぁぁ!」
と、勝手にキレ始めました。
坂道がキツイという事もあってそのキレ方もどんどんエスカレートしていきます。
「山が悪い!」
「坂が悪い!」
「天候が悪い!」
「自然が悪い!」
自分の悪い所が一気に噴出しました。多少、昨日の疲れが残っていると言う事もその状態に拍車をかけたのでしょう。
でも、ここまで読んでいただければ分かるとおり、では、一体誰が一番悪いのか?
「自転車旅行を敢行したお前が悪い」
である。そんな見苦しい状態でも自転車を押しつづける自分、悲しい所です。
他人がいたら引くよなぁ…
一人だからこそ許される怒りだね。
誰か友人など一緒にいたら押し殺しますよ。
で、そんな悪い膿を全て出し切ったところで髭人の感覚が変わってきました。
「こうなりゃ!髭人の底力見せてやる!」
文句を垂れた所でしょうがないので、色んな障害が待ち受けようとそれを乗り越えようと言う感覚になりました。
例えるのなら体内にある毒を吐ききって清い体になったって所でしょうかね。
そんな事になって、汗がボタボタ垂れようとも、目の前の坂が延々と続いていても歯を食いしばって歩いていきました。
工事の人がいて色々と迷惑をかけたねぇ…
片側通行で
作業員「ハイ!今、行って!」
反対車線の車を通して自分を呼びかける。
髭人「分かりました!」
そう言って、一気に道を駆け上がっていく。
作業員「自転車行くよぉ!」
向こう側で車を誘導している現場の同僚に声をかけていた。本当、申し訳ないところです。
それから、じっくり歩いていると、一つの標識にぶち当たった。「1/55」
1/55始め見た時は何とも思わなかったが…この数字はやがて絶望となる…
髭人「何だ?」
と、思いつつ、道を曲がっていくと今度は「2/55」どうやらカーブの数らしい。
髭人「うへぇ・・・結構登ってきたのにこれから55個もカーブを越えないといけないのかよ!」
既に2時間以上、坂を登ってきたのだ。にもかかわらずこれから55個もあるのか?想像を絶する事態である。
しかし先ほど自分の中で見につけた境地
髭人「髭人の底力見せてやる!」
で、気合で登り始めた。はぁはぁと荒い息を吐きながら登って行く。どんどんと数が増えていく数「17/55」
髭人「ようし!後10個!やってやるぜ!」
後少しで半分である。そうすれば下りになるとそれだけを頭に思い浮かべ頑張っていた。
つまり、峠全体に55個のカーブがある。だから残りは反対側にあるのだろうと…
しかしである。「27/55」を越えたが次の坂がある。
髭人「まぁ、四捨五入すれば半分は28だもんな」
なんて事を考えていたが28。29と越えるが坂は延々と続いている。
髭人「まぁ。カーブの数が素直に坂の半分にあるなんて訳はないわな」
しかし既に30を越えたが未だ、くだりは訪れず…そして俺は一つの考えに至った。
髭人「まさか!55個全部こちら側にとか?いや!そんなまさか!?」
否定したい気持ちはあったがこの状況である。そのまさかもありうる事態であった。ガックリと肩を落として歩きつづけていた。
それにしても山というだけあってコンビニなどのお店は殆ど無い。それどころか自販機さえもない。
髭人「ヤバイ。水が尽きる」
500mlのペットボトル2本のお茶系飲料が尽きようと言う時であった。
そんな所にタイミングよく、水場があった。湧き水を汲み上げているようでドバドバドバと、パイプを絶える事無く流れていた。
髭人「ようし!水の補充だ!」
と、水を汲み、自分も飲む、冷たくて旨い。頭に被ったりして暑くなった体温も下げる。
それから再び、出発である。水って結構良いんですよ。Tシャツにぶっ掛けるだけで打ち水効果を得られるようでかなり体温を下げてくれる。
これがお茶系だと勿体無いし、Tシャツにお茶の色が移る。これは避けたい所だ。
持ってきたボトルキャップから出る水は決して多くなく丁度いいぐらいだ。
にしてもとある標識を見かけた。そこには標高800mの文字
髭人「何時の間にそんなに登ったの?」
という気にさせてくれます。
髭人「うわ!俺、実家の近くの山で一番高い山よりも登っているし!」
その山は結構、人が訪れる山で、高校の時に自分は学校行事として登らされた事があった。
現在地点はその山の頂上よりも高いと言う事になる。自分自身に感動する。
そして、そのまま歩く事1時間ぐらい。時間としては11時を回っていただろうか?
900mの標識も超えた。900mと言うと、ハイキングというよりは軽い登山の部類に入るんじゃないでしょうか?
そんな時、体の異変に気付いた。
髭人「やべぇ!パワーダウンだ!」
以前の自転車旅行でも経験したパワーダウン。簡単に言えばエネルギー切れである。
全く同じことをやらかしてしまった。
○んざい監督「まるで成長していない」
シャ○「同じか…」
○ムロ「人は同じ過ちを繰り返す…全く」
と言われても仕方ない状況である。
その日に摂取したエネルギーは朝食べたコンビニ弁当と9時ごろに飲んだカロリーオフのポカリスエット。
後は、水ぐらいである。ずっと坂を登っていればエネルギーを使い果たすだろう…
1つ断っておくがこれは空腹ではない。水をがぶ飲みしている為に、空腹感はしないのだ。気力もある。
疲労感も無い。しかし、前に踏み出す一歩が容易ではないのである。
足が前に出ない。引きずるようにずるずると一歩前踏み出す。
ぜぇぜぇと荒い息を吐きながらちょっとしたスペースの場所で呼吸を整える。
髭人は登る前にこう考えていた。
髭人「パワーダウンを起こしてもコンビニでパンでも買えばいいや」
と、高をくくっていたのがその判断はあまりにも甘すぎた。
山の中でコンビニが無ェ!!
ついでにコールドスプレーも使用する。ジーパンだったからパンツ姿になってシューシューと足に吹き掛ける。
車どおりも多いとはいえないから別に気にすることもないだろうというところだ。
そして、再び歩き出す。「47/55」ぐらい。
髭人「これが55になったら終わりだ…」
その気力だけで歩く。とは言っても、これはカーブの数を表示した物だけなので坂の終着点が「55」という訳ではないのだが…
パワーダウン。最悪、進めなくなったら登ってきた道を降りて、コンビニやドライブインかなんかで何か食べる必要がある。
それだけは絶対に考えたくない事である。ここで降りたら1~2時間は水の泡だ。
水を飲みながら誤魔化しつつ歩く。すると、後ろから自転車に乗った人が・・・
オッサン「がんばってくださ~い」
と言う40代ぐらいのオッサン。指の第一関節ぐらいの長さしかない幅の細いタイヤを持つ相当高そうな自転車で走っている。
普通にスゲェと思う。俺も言われているだけでは嫌だったので
髭人「そちらも頑張ってくださ~い」
とか言っておいた。ただの負け惜しみである(笑)。
明らかに頑張るべきなのは俺なのだが、
しかし、そのオッサン半ズボンだったんだが、その半ズボンから見える脹脛(ふくらはぎ)や太ももの締まり具合。
自転車に限らず相当、運動をしているのだろうと思った。
オッサンに追い抜かれ、俺は必死こいて歩く。本当、精神的には本当必死。
「クララ」といい勝負かもしれない。
すると…「54」に辿り着いた時点で道がいきなり平坦になる。
「遂に来たのか!?」
その先を少し進むと、「55」という標識と共にトンネルを発見。
ようやく来ました55/55。目にはうっすらと涙が(嘘)
坂を越えたのだ。
ホント、この時点で肉体的限界が近かった。
この時点で
「頂上まで後30分」
と言われたら髭人は迷うことなく2~3時間、再び坂を上がって来なければならなくても坂を下っていただろう。
それぐらいに肉体的にも精神的にも追いつめられているというギリッギリの状態だった。
まぁ人の手を借りるというのなら、道路で親指立てて車を止めて
「すみません!食べ物ありませんか!お金は払います!」
と、行き倒れみたいな事をしなければならなかっただろう。
さて、トンネル前、そこは工事中であり、片側通行らしい。
髭人「やべぇ…自転車通れるのか?」
そんな事を思ってトンネルの方に行こうとすると、工事の人がやってきて
作業員「ちょっと待って!」
と、呼び止められた。自分が行く方向の車をまず行かせてから、走れと言う事らしい。トランシーバーで
作業員「今から自転車行くよ」
というような会話を向こう側と連絡しあっているようだ。物凄く申し訳ないと思う。
まぁ仕事だわな。
それで、行ってという合図で走り出した。
トンネル内は長く排ガスが充満しているので口にタオルを巻く。
頭をタオルで巻き、サングラスもしている様はまるで昔のマンガに出てくるような強盗のようになっていた。
(にしても今、盗賊が出てきても強盗をするマンガってのも見ないがな)
なんと標高1000mを超えていた。すげぇ…
それから走り出したわけだが、
トンネル内は微妙な下り坂である。嬉しかったねぇ…
気持ち的には手放しして両腕を挙げたかったが(「アタッ○25」のコロンビアのポーズ)
トンネル内には微妙な段差がありガタガタと揺れるので調子に乗って
そんな事をしたら盛大に転倒するなんて無様な事になるので気持ちを抑えた。
というか、そんなトンネル内でこけたら後続の車に轢かれかねない。
かなり暗かったし…
ようやく待ち侘びた下り坂だと思うがそこで同時に怖い事も考える。
髭人『帰りはここを登ってこなければならないのか…まぁ、でも今は下りだから帰りの事を考えるのはやめよう。今を楽しめ!この下りの時を!!』
と、下り坂を楽しんでいた。トンネルを出ると、「新潟県」の文字
髭人「遂に来たぁぁぁぁぁ!新潟入国!!」
気合を入れつつ、下りを駆け下りる。
肉体的に足は上がらないがテンションだけは上がりまくるという良くわからん状態である。
そのまま行くと、お店が並んでいる。
そこは苗場という場所で、冬場はスキーヤーでにぎわう所である。
定食屋を見つけて一安心。マジ安心。
これで坂の途中にちょっとした坂があるとかいう特殊な地形だったら俺はきっと泣いていた。
「周替わり定食」を頼みました。特に、何か言われる事はなかった。
心の中で、店員に何か言われるのを期待していたね。
(今考えればただの自意識過剰。というか、さっきのロードバイクに乗っていた人など
峠越えしている自転車乗りは日に数人は通るだろう。
髭人が別段珍しいという訳ではなかろう)
既にペットボトルの水も飲み干していたような状態だった。本当危なかったね…
ドラクエで言えば序盤、次の町に行く時とか洞窟越えをしなければならないときに、
「ルーラ」や「リレミト」を覚えてない時に、「キメラの翼」は無く、「薬草」とMPが尽きたような状態か?
ようやくエネルギー回復が出来ると昼食を取る。勿論、ご飯は大盛りである。コップ1杯の水をすぐに飲み干す。
冷たい水はやはり旨い。もっと飲みたいがあまり水だけを頼むと言う訳にもいかないので店員には黙っていた。
水差しを置いといてくれれば最高なんだが…
(遠慮しすぎだな。当時の俺)
昼食を食べ終えて、帰り際
店員「頑張ってください」
なんていわれたな。やっぱり俺が自転車野郎って事は分かるようだ。
(そりゃわかるわな。)
髭人「これからALL下りか!やった!」
なんて喜びながら自転車に乗っていたら、しかしそれは甘かった。何故か新潟側では坂がある。
髭人「ええ~登ったり降りたりせにゃならんのかよ!」
まぁ、昼食ってからで良かった。飯抜きで出くわしていたら前門の坂、後門の坂。
差かに囲まれ途方に暮れていたことだろう。間違いなく
「食べ物を恵んでくだせ―――」
と、言うような状態に陥っていた…
坂だから再び自転車押す羽目となる。
それからトンネルを幾つか超えていくのだが、また工事で片側通行のトンネルに出くわした。
髭人「ああ~だりぃなぁ・・・」
工事の人の指示に従う事になるのだが、何か片手に持っている。
作業員「コレ付けていって」
工事の人から受け取ったそれは反射板が着いた上着みたいなものだ。
髭人「でも、後ろから見えないですよねぇ?」
そうである。背中はリュックで隠れてしまうので、前方からしか意味が無い。
まぁ、規則らしいので身に付けることとなる。
それで事故ってもいいのかと思いつつ・・・(リュックに付ければ問題ないのだが…)
トンネルの中に入ると、後ろから何やら気配が・・・
髭人「うお!何か着いてきている!」
自分の背後を工事の安全を確認する為の車両が走ってきていたのだ。
髭人「俺の為に走ってくれているのか!」
そんな事がプレシャーになり、ガタガタ道をしっかり行く。こける事など許されない。
ま、こけたらその安全の車に轢かれる羽目になるんだけど(どこが安全なんじゃい)
下りということもあってトンネルを何とか抜けると上着を返す事になる。
髭人「これ、帰り辛いですよね」
作業員「そうなんだよね・・・」
髭人「じゃ、お仕事頑張ってください」
と、声をかけて走る。
下りばかりでたまに登りがある。登りがあるたびに少し舌打ちしながら走る。
下りなら全てOKかっていったらそう言う訳でもなかった。少し前に雨が降っていたので路面が少しぬれている。
下り坂を猛スピードで駆け下りると泥はねするのだ。一応自転車に泥除けは付いているがそれだけでは不十分らしく髭人の顔に襲い掛かる。
髭人「プップップ!汚ねぇなぁ!」
と、唾を吐きながら激走する。
登りは死ぬほど辛かったのに下りはアッと言う間に駆け下り遂に新潟の町に入っていった。
コンビニでお茶などを補充し、地図を見ながら今日はどこまでいけるか検討する。
髭人「長岡までいければ上々だが…無理だが…手前の町にするか?」
午前中は山越えで費やした。その時の時間は午後2時過ぎと言った所だったか?
宿を予約している旅ではないので行ける所まで行こうという事で進んでいた。天気は晴れ。
2時間毎に日焼け止めを塗るがピリピリとした感覚があった。風は追い風だったな。
ビュンビュン飛ばせたから走っていて気持ちが良かった。ただ、じわじわと尻に痛みがある。
タオルだけではやはり限界があると言う所か?それで疲れてきたので座って
お茶でも飲むかとウエストバッグにくっつけられているお茶を飲もうとすると…
髭人「あれ?蓋がねぇ・・・」
ペットボトルはあるのだが、ちゃぷちゃぷとお茶が揺れているだけで蓋が無い。
昨日、取り付けた食器用洗剤の蓋の機能を持つボトルキャップだ。
髭人「嘘ぉぉぉぉぉ!!」
周囲を探してみるが自転車を降りた瞬間に落としたなんてことはないようだ。
髭人「ええ~!!」
ガックリ来た。
髭人「ええい!ちょっと戻って探してみるか!」
と、1kmぐらい戻ってまで、地面の上にボトルキャップがないか自転車でゆっくり走行しながら探していたが、
小さなボトルキャップである見つける事は容易ではなく、結局その範囲内では見つける事が出来なかった。
再び、落とした所に気付いた地点に戻りため息をついていた。
無論、そのボトルキャップには大した価値はない。
稀少な素材で出来ている友人がくれたとかアイドルの使用後とかという物ではない。
極普通のボトルキャップだ(そんな物を買う奴はいないだろうからあまり売っては無いだろうけど)。
価格としては10円20円も行かないかもしれない。
しかし、この2日間お世話になったというのもあるし、前の旅行前に買ったが使われる事無く眠っていた物である。
そこでようやく目覚めたというのになくなったというのはあまりにも辛い事であった。
ある意味、戦友と言っても差し支えないかもしれない。
貧乏性髭人としてはちょっと使っているとすぐに愛着を持ってしまう。
あまりにもつまらないものであったとしても…
そのまま落ち込んでいると、近くで工事をやっていたので電光掲示板がピカピカと輝いていた。
「頑張っていこう中越!」
俺に言っているようでちょっと、元気を貰いました。
そうだ。言うのを忘れていたがこの時は2005年の8月。
ちなみに中越大地震があったのは前年の2004年10月23日である。
「元気出していこ~中越」
近くは小千谷市がある地点であった。復興の為の道路工事をしているのだろう。
髭人「元気出して行こう?俺に言っているみたいだな・・・蓋が仕向けた事か?」
と、勝手に都合のいいように考えて、自転車に跨った。
走り出した。時間は6時半ぐらいで徐々に暗くなり始めてきた。
髭人「しょうがない。今日は小千谷止まりだな」
そう思って、小千谷市街の標識を見つけてそちらに向かった。駅の交番に入った。
髭人「すみません。ビジネスホテルを探しているんですが・・・」
警官に言うと、周辺の宿泊施設が書かれた紙を見せてくれたのでそれで電話してみた。
髭人「すみません。生憎今日は、満室なんです」
2軒目、電話に出ない。どういうことか?3軒目、電話に出ない。どうなってんの?
4軒目
髭人「すみません。今日は、満室です」
他にも数軒あったが、警官はこう言った。
警官「地震があったからねぇ…長岡に行けばビジネスホテルは沢山あると思うが…」
髭人「分かりました。長岡に行きます」
昨年の地震の影響はまだ出ていた。
その頃、地元のテレビでは地震のニュースなどやってないから殆ど忘れていたのだが…
もう7時前になっていたのでもうそろそろ真っ暗になると言う所であったが宿が無いから仕方ない。
長岡に行く事にした。そうやって小千谷の町を通ると中越地震からまだ1年経ってないということもあって地震の爪あとは深く残っていた。
瓦が崩れている家。陥没している歩道。ブルーシートがかけられたまま手付かずの家…
まだ10km以上あったのでじっくり見ている暇など無く、疲れた体に鞭打って進む。
すると、極め付きのものを見た。
髭人「あれが…それ…か?」
土砂崩れがあって、車に乗っていた親子が生き埋めになり、母親、姉、弟の中で弟だけが救出された現場である。見た目に広がるのはテレビの時とまるっきり同じだ。
思わず鳥肌が立った。
救出している所をリアルタイムで見ていたのでそれは感慨深い物であった。
全くと言って良いほど現場はそのままであった。
標識には山古志村の文字があり、心が痛くなった。
じっくり見ている訳にもいかず、そのまま走り去った。
それから長岡市に入ったようであったが、長岡市は広いらしくなかなか市街に辿り着けない。
髭人「まだか!まだか!まだか!」
線路はあるのだが新幹線の線路が見当たらない。
長岡は新幹線の停車駅なので新幹線の線路が合流しなければ市街に到達した事にはならない。
ライトはついていたものの雨にぬれたせいか転倒しないようになっていた。
段差に気をつけながらそのまま走りつづけ、小千谷を出て1時間後ようやくアーケードが見えてきた。
髭人「ようやく来たか!」
前に2~3週間ぐらい、長岡の宿にいた事があったので、その宿に行こうと思っていってみるが昔という事もあったし、
真っ暗だと言う事もあって、場所がわからない。近くの酒屋で聞いてみてどうにか辿り着いたのだが看板が無かった。
どうやら、店はやってないようだ。がっかりしながら別の所を探そうと長岡駅の交番に行く。警官に尋ねた。
警官「ビジネスホテル?色々あるけど行ってみるか?」
髭人「ここで電話させて欲しいんですが…」
警官「おかしな事を言うんだねぇ…」
良く分かってない警官だと思った。人が良さそうなおじさんであるが、
ビジネスホテルに直接聞きに行って部屋が空いてなかったら戻ってこなければならないし、
部屋に空きがあっても料金が高かった場合、変えにくいというのもある。
移動している間に満室になったらどうすんだよ…
まぁ、一刻も早く立ち去ってほしかったのだろう。
それで警官に周辺の宿泊施設の地図を見せてもらい何軒か電話をかける。
2軒目まで満室。3軒目、空いているしかも4000円以下。
安い!素晴らしい。そこに決めた。
警官「行き方は分かるか?今、ここにいるだろ?それからここを曲がってだな・・・その裏に右に曲がってだな…」
髭人「『わ、わかんねぇ…説明下手だぞ。このおっさん』地図書いても良いですか?」
警官「今ので分からなかったのか?だからここを道に曲がってだな…」
地図を書こうとしているのだが何となく俺をすぐに追い払いたいような意思が見えた。
だからと言ってこのオッサンの説明は自分が長岡の町を知っている前提で語っているので
知らない人間に対しては下手としか言いようがない。
説明していたおっさんには悪いが、面倒くさいから見切りをつけて近くについてから、通行人に聞こうという事にして、分かった顔をしてありがとうございましたと
ちゃんとお礼を言って交番を出た。
髭人「取り敢えず、そこの裏に行ってみるか?」
大きなデパートの裏に行き、通行人に聞く。
一人目は分からず、二人目のオバちゃんは知っていたようで
オバちゃん「そこの十字路を3ついった右」
というので、言ってみるとようやく目的の宿を見つけた。
ホテルに入り、料金を払い、明日早いからどうするかなんて事を言うと、
自動ドアは開けておくおから気にしないでいいと言ってくれた。部屋に入る。
もう午後の9時前である。
まぁ特に変わったものもありません。ただ洗った服をどこに干そうか悩んだ。
壁に出っ張りがあるんですがそれでは濡れた服が壁に当たる。それはまずかろうと悪戦苦闘。
結局、椅子にかけたりしてました。
次の日もある。のんびりしている訳にも行かない。
夕飯はまだ食べていない。食べて寝て体力を回復させなければ!!
サッサと夕食を食べに出て行く事にしたのだが鍵が閉まらない。
鍵を幾ら右に回しても左に回しても鍵が閉まらないのだ。
髭人「どうなってんねんボケェ!」
一人悪戦苦闘する。あまり強く回しすぎると鍵が曲がったり折れたりする事も考えられる。
強く押し込みながらとか軽く入れて回したりするが結局、鍵は閉まらない。
髭人「飯を食いに行きたいんだよ俺は!」
店員に聞きに行こうと思ったが一つ考えた。鍵は開けることは出来てもしまらないのではないのかと・・・
それで、中から鍵を閉めてドアを閉めた。閉まった・・・開けてみると鍵は開く。どうやらこれが正しい鍵の閉め方らしい。
髭人「ややこし!」
髭人が世間知らずで頭が悪いだけである。鍵を閉めて外に出て定食屋に行った。
豚汁定食を食べました。昔の自転車旅行では吉野家の豚汁が旨すぎて泣きそうになった事がある。
ただ、その事が頭に合って意識しすぎた為かあの時ほど旨く感じなかった。
邪な気持ちがあると感動ってのは味わえない物ですわ。
昔、1度だけ行った定食屋である。
それで入ると常連と思われる人が1人いて店の人が陽気に話していた。俺は、一気に水を飲み干した。
リュックは置いてきたがそんな自分の水のいい飲みっぷりの良さなどから気になったのか声をかけてきた。
店員「どこから来たんだい?」
髭人「東京からですが…」
店員「新潟祭りにでも行くのか?」
丁度、新潟祭りが次の日、開かれると言う話である。
髭人「いえ…昔、新潟に住んでいた事があったので自転車で来てみようかなと思いまして」
店員「ええ!?自転車で来たのかい?何時から?」
髭人「昨日からですが・・・」
物凄く盛り上がっていたね。自分を差し置いて周りと話し合っていた。
絡まれなかったおかげで料理をじっくり食べられたからそれでよかったんだけどね。
店員「何の目的で?女でもいるのか?」
髭人「ハハハ…そんな事は無いですよ」
そこそこ楽しい一時でしたわ。
店員「帰りは寄ってくれよ」
髭人「残念ですが、帰りここに来るのは早朝だと思いますので寄る事はないですねぇ…」
店員「そうか・・・」
常連の客はFM新潟だかFM長岡だかどちらか忘れたがラジオに携わっているらしく、
紹介してやろうとかやらんとか言っていたような気がした。その真偽は定かではないが俺は分からない話だ。
帰りコンビニでアイスを買って、宿に戻って風呂に入った。鏡を見ると尻にボツボツが出来ていて赤くなっていた。普段も汚いがより汚い!!
髭人「こりゃ痛いはずだ」
それから部屋に戻ってアイスを食べたのだがこれが旨い事旨い事…
髭人「染み入る旨さだ…」
レモンのカキ氷アイスだったか?久しぶりに食べたアイスという事もあって旨さは凄い・・・
それからやる事も無かったので歯磨きをして寝た。
つづく…
NEXT >>>> 自転車旅行日記 ~新潟編 3日目~
自転車旅行リスト
けだるい体を起こし少し時間を置く。
調子がいくらか上がって来てから部屋に盛大に広げていた荷物をしまった。
部屋を出るとばあさんがいた。何となく物腰が柔らかくなっているような気がした。
「それじゃ、行くのかい?頑張っていきな」
そんな感じである。1日目の感じも好きであるが2日目の感じも良いな。
しかし、ギャップが大きすぎる。
「寝起きだから元気がないのか?それとも実は双子か?」
色々と考えながら(失礼な事なども頭をめぐらす)走り出した。
まず、腹が減っては戦は出来ぬというところで腹ごしらえ。
ある意味、自転車旅行は戦である。サドルに跨ると尻は痛いが、ペダル漕ぐ足に異常は無い。
やはり、コールドスプレーの効果はあったようだ。
走り始めて国道を少し間違えたが、すぐに戻る事が出来た。
それから丁度、その日に閉店になると言うコンビニで弁当を購入して、食べてから出発。
奇妙な偶然である。だからと言って別に店員に話しかけたりはしなかった。
そんな事をしたからと言ってお店側に得はないものな。
所詮、髭人などチャリバカの一般人である。
渋川を越えるとやはり山らしくなってくる。三国峠は近い。
順調に沼田を過ぎて走りだしたわけだがそれからアホみたいに坂がきつくなってきた。
遂に三国越えである。ずっと坂ばかりで本当に嫌になった。
きつかったり緩かったりするのだが、長い時間そんな調子だと今は知っているのが
平坦な道なのかさえも判断がつかなくなってくる。
自転車はずっと押していく。ロード用ではなくマウンテンバイクだしな…
って、今さまさにマウンテンなんだけど(笑)
しかし、長時間、自転車に乗れず自転車を押しているばかりだと頭がおかしくなってくる。
道路の整備が非常に悪いと言う事も手伝って…
歩道が進行方向に対して左側にあったりなかったり、下水道の凸凹が酷く、乗ったらこけるというような段差があったり、
道がひび割れていたり、無意味と思えるような所にガードレールがあるせいで、
歩道で自転車を押す自分がめちゃくちゃ窮屈な思いをしたりなどなど…
沢山の自転車利用者に苦を強いるような要素が多い。だからこそ・・・
「ふざけてんのか!国土交通省!自転車利用者や歩行者を舐めんなよ!天下りなんかやっている場合じゃねぇぞ!!馬鹿ぁぁぁぁ!」
と、勝手にキレ始めました。
坂道がキツイという事もあってそのキレ方もどんどんエスカレートしていきます。
「山が悪い!」
「坂が悪い!」
「天候が悪い!」
「自然が悪い!」
自分の悪い所が一気に噴出しました。多少、昨日の疲れが残っていると言う事もその状態に拍車をかけたのでしょう。
でも、ここまで読んでいただければ分かるとおり、では、一体誰が一番悪いのか?
「自転車旅行を敢行したお前が悪い」
である。そんな見苦しい状態でも自転車を押しつづける自分、悲しい所です。
他人がいたら引くよなぁ…
一人だからこそ許される怒りだね。
誰か友人など一緒にいたら押し殺しますよ。
で、そんな悪い膿を全て出し切ったところで髭人の感覚が変わってきました。
「こうなりゃ!髭人の底力見せてやる!」
文句を垂れた所でしょうがないので、色んな障害が待ち受けようとそれを乗り越えようと言う感覚になりました。
例えるのなら体内にある毒を吐ききって清い体になったって所でしょうかね。
そんな事になって、汗がボタボタ垂れようとも、目の前の坂が延々と続いていても歯を食いしばって歩いていきました。
工事の人がいて色々と迷惑をかけたねぇ…
片側通行で
作業員「ハイ!今、行って!」
反対車線の車を通して自分を呼びかける。
髭人「分かりました!」
そう言って、一気に道を駆け上がっていく。
作業員「自転車行くよぉ!」
向こう側で車を誘導している現場の同僚に声をかけていた。本当、申し訳ないところです。
それから、じっくり歩いていると、一つの標識にぶち当たった。「1/55」
1/55始め見た時は何とも思わなかったが…この数字はやがて絶望となる…
髭人「何だ?」
と、思いつつ、道を曲がっていくと今度は「2/55」どうやらカーブの数らしい。
髭人「うへぇ・・・結構登ってきたのにこれから55個もカーブを越えないといけないのかよ!」
既に2時間以上、坂を登ってきたのだ。にもかかわらずこれから55個もあるのか?想像を絶する事態である。
しかし先ほど自分の中で見につけた境地
髭人「髭人の底力見せてやる!」
で、気合で登り始めた。はぁはぁと荒い息を吐きながら登って行く。どんどんと数が増えていく数「17/55」
髭人「ようし!後10個!やってやるぜ!」
後少しで半分である。そうすれば下りになるとそれだけを頭に思い浮かべ頑張っていた。
つまり、峠全体に55個のカーブがある。だから残りは反対側にあるのだろうと…
しかしである。「27/55」を越えたが次の坂がある。
髭人「まぁ、四捨五入すれば半分は28だもんな」
なんて事を考えていたが28。29と越えるが坂は延々と続いている。
髭人「まぁ。カーブの数が素直に坂の半分にあるなんて訳はないわな」
しかし既に30を越えたが未だ、くだりは訪れず…そして俺は一つの考えに至った。
髭人「まさか!55個全部こちら側にとか?いや!そんなまさか!?」
否定したい気持ちはあったがこの状況である。そのまさかもありうる事態であった。ガックリと肩を落として歩きつづけていた。
それにしても山というだけあってコンビニなどのお店は殆ど無い。それどころか自販機さえもない。
髭人「ヤバイ。水が尽きる」
500mlのペットボトル2本のお茶系飲料が尽きようと言う時であった。
そんな所にタイミングよく、水場があった。湧き水を汲み上げているようでドバドバドバと、パイプを絶える事無く流れていた。
髭人「ようし!水の補充だ!」
と、水を汲み、自分も飲む、冷たくて旨い。頭に被ったりして暑くなった体温も下げる。
それから再び、出発である。水って結構良いんですよ。Tシャツにぶっ掛けるだけで打ち水効果を得られるようでかなり体温を下げてくれる。
これがお茶系だと勿体無いし、Tシャツにお茶の色が移る。これは避けたい所だ。
持ってきたボトルキャップから出る水は決して多くなく丁度いいぐらいだ。
にしてもとある標識を見かけた。そこには標高800mの文字
髭人「何時の間にそんなに登ったの?」
という気にさせてくれます。
髭人「うわ!俺、実家の近くの山で一番高い山よりも登っているし!」
その山は結構、人が訪れる山で、高校の時に自分は学校行事として登らされた事があった。
現在地点はその山の頂上よりも高いと言う事になる。自分自身に感動する。
そして、そのまま歩く事1時間ぐらい。時間としては11時を回っていただろうか?
900mの標識も超えた。900mと言うと、ハイキングというよりは軽い登山の部類に入るんじゃないでしょうか?
そんな時、体の異変に気付いた。
髭人「やべぇ!パワーダウンだ!」
以前の自転車旅行でも経験したパワーダウン。簡単に言えばエネルギー切れである。
全く同じことをやらかしてしまった。
○んざい監督「まるで成長していない」
シャ○「同じか…」
○ムロ「人は同じ過ちを繰り返す…全く」
と言われても仕方ない状況である。
その日に摂取したエネルギーは朝食べたコンビニ弁当と9時ごろに飲んだカロリーオフのポカリスエット。
後は、水ぐらいである。ずっと坂を登っていればエネルギーを使い果たすだろう…
1つ断っておくがこれは空腹ではない。水をがぶ飲みしている為に、空腹感はしないのだ。気力もある。
疲労感も無い。しかし、前に踏み出す一歩が容易ではないのである。
足が前に出ない。引きずるようにずるずると一歩前踏み出す。
ぜぇぜぇと荒い息を吐きながらちょっとしたスペースの場所で呼吸を整える。
髭人は登る前にこう考えていた。
髭人「パワーダウンを起こしてもコンビニでパンでも買えばいいや」
と、高をくくっていたのがその判断はあまりにも甘すぎた。
山の中でコンビニが無ェ!!
ついでにコールドスプレーも使用する。ジーパンだったからパンツ姿になってシューシューと足に吹き掛ける。
車どおりも多いとはいえないから別に気にすることもないだろうというところだ。
そして、再び歩き出す。「47/55」ぐらい。
髭人「これが55になったら終わりだ…」
その気力だけで歩く。とは言っても、これはカーブの数を表示した物だけなので坂の終着点が「55」という訳ではないのだが…
パワーダウン。最悪、進めなくなったら登ってきた道を降りて、コンビニやドライブインかなんかで何か食べる必要がある。
それだけは絶対に考えたくない事である。ここで降りたら1~2時間は水の泡だ。
水を飲みながら誤魔化しつつ歩く。すると、後ろから自転車に乗った人が・・・
オッサン「がんばってくださ~い」
と言う40代ぐらいのオッサン。指の第一関節ぐらいの長さしかない幅の細いタイヤを持つ相当高そうな自転車で走っている。
普通にスゲェと思う。俺も言われているだけでは嫌だったので
髭人「そちらも頑張ってくださ~い」
とか言っておいた。ただの負け惜しみである(笑)。
明らかに頑張るべきなのは俺なのだが、
しかし、そのオッサン半ズボンだったんだが、その半ズボンから見える脹脛(ふくらはぎ)や太ももの締まり具合。
自転車に限らず相当、運動をしているのだろうと思った。
オッサンに追い抜かれ、俺は必死こいて歩く。本当、精神的には本当必死。
「クララ」といい勝負かもしれない。
すると…「54」に辿り着いた時点で道がいきなり平坦になる。
「遂に来たのか!?」
その先を少し進むと、「55」という標識と共にトンネルを発見。
ようやく来ました55/55。目にはうっすらと涙が(嘘)
坂を越えたのだ。
ホント、この時点で肉体的限界が近かった。
この時点で
「頂上まで後30分」
と言われたら髭人は迷うことなく2~3時間、再び坂を上がって来なければならなくても坂を下っていただろう。
それぐらいに肉体的にも精神的にも追いつめられているというギリッギリの状態だった。
まぁ人の手を借りるというのなら、道路で親指立てて車を止めて
「すみません!食べ物ありませんか!お金は払います!」
と、行き倒れみたいな事をしなければならなかっただろう。
さて、トンネル前、そこは工事中であり、片側通行らしい。
髭人「やべぇ…自転車通れるのか?」
そんな事を思ってトンネルの方に行こうとすると、工事の人がやってきて
作業員「ちょっと待って!」
と、呼び止められた。自分が行く方向の車をまず行かせてから、走れと言う事らしい。トランシーバーで
作業員「今から自転車行くよ」
というような会話を向こう側と連絡しあっているようだ。物凄く申し訳ないと思う。
まぁ仕事だわな。
それで、行ってという合図で走り出した。
トンネル内は長く排ガスが充満しているので口にタオルを巻く。
頭をタオルで巻き、サングラスもしている様はまるで昔のマンガに出てくるような強盗のようになっていた。
(にしても今、盗賊が出てきても強盗をするマンガってのも見ないがな)
なんと標高1000mを超えていた。すげぇ…
それから走り出したわけだが、
トンネル内は微妙な下り坂である。嬉しかったねぇ…
気持ち的には手放しして両腕を挙げたかったが(「アタッ○25」のコロンビアのポーズ)
トンネル内には微妙な段差がありガタガタと揺れるので調子に乗って
そんな事をしたら盛大に転倒するなんて無様な事になるので気持ちを抑えた。
というか、そんなトンネル内でこけたら後続の車に轢かれかねない。
かなり暗かったし…
ようやく待ち侘びた下り坂だと思うがそこで同時に怖い事も考える。
髭人『帰りはここを登ってこなければならないのか…まぁ、でも今は下りだから帰りの事を考えるのはやめよう。今を楽しめ!この下りの時を!!』
と、下り坂を楽しんでいた。トンネルを出ると、「新潟県」の文字
髭人「遂に来たぁぁぁぁぁ!新潟入国!!」
気合を入れつつ、下りを駆け下りる。
肉体的に足は上がらないがテンションだけは上がりまくるという良くわからん状態である。
そのまま行くと、お店が並んでいる。
そこは苗場という場所で、冬場はスキーヤーでにぎわう所である。
定食屋を見つけて一安心。マジ安心。
これで坂の途中にちょっとした坂があるとかいう特殊な地形だったら俺はきっと泣いていた。
「周替わり定食」を頼みました。特に、何か言われる事はなかった。
心の中で、店員に何か言われるのを期待していたね。
(今考えればただの自意識過剰。というか、さっきのロードバイクに乗っていた人など
峠越えしている自転車乗りは日に数人は通るだろう。
髭人が別段珍しいという訳ではなかろう)
既にペットボトルの水も飲み干していたような状態だった。本当危なかったね…
ドラクエで言えば序盤、次の町に行く時とか洞窟越えをしなければならないときに、
「ルーラ」や「リレミト」を覚えてない時に、「キメラの翼」は無く、「薬草」とMPが尽きたような状態か?
ようやくエネルギー回復が出来ると昼食を取る。勿論、ご飯は大盛りである。コップ1杯の水をすぐに飲み干す。
冷たい水はやはり旨い。もっと飲みたいがあまり水だけを頼むと言う訳にもいかないので店員には黙っていた。
水差しを置いといてくれれば最高なんだが…
(遠慮しすぎだな。当時の俺)
昼食を食べ終えて、帰り際
店員「頑張ってください」
なんていわれたな。やっぱり俺が自転車野郎って事は分かるようだ。
(そりゃわかるわな。)
髭人「これからALL下りか!やった!」
なんて喜びながら自転車に乗っていたら、しかしそれは甘かった。何故か新潟側では坂がある。
髭人「ええ~登ったり降りたりせにゃならんのかよ!」
まぁ、昼食ってからで良かった。飯抜きで出くわしていたら前門の坂、後門の坂。
差かに囲まれ途方に暮れていたことだろう。間違いなく
「食べ物を恵んでくだせ―――」
と、言うような状態に陥っていた…
坂だから再び自転車押す羽目となる。
それからトンネルを幾つか超えていくのだが、また工事で片側通行のトンネルに出くわした。
髭人「ああ~だりぃなぁ・・・」
工事の人の指示に従う事になるのだが、何か片手に持っている。
作業員「コレ付けていって」
工事の人から受け取ったそれは反射板が着いた上着みたいなものだ。
髭人「でも、後ろから見えないですよねぇ?」
そうである。背中はリュックで隠れてしまうので、前方からしか意味が無い。
まぁ、規則らしいので身に付けることとなる。
それで事故ってもいいのかと思いつつ・・・(リュックに付ければ問題ないのだが…)
トンネルの中に入ると、後ろから何やら気配が・・・
髭人「うお!何か着いてきている!」
自分の背後を工事の安全を確認する為の車両が走ってきていたのだ。
髭人「俺の為に走ってくれているのか!」
そんな事がプレシャーになり、ガタガタ道をしっかり行く。こける事など許されない。
ま、こけたらその安全の車に轢かれる羽目になるんだけど(どこが安全なんじゃい)
下りということもあってトンネルを何とか抜けると上着を返す事になる。
髭人「これ、帰り辛いですよね」
作業員「そうなんだよね・・・」
髭人「じゃ、お仕事頑張ってください」
と、声をかけて走る。
下りばかりでたまに登りがある。登りがあるたびに少し舌打ちしながら走る。
下りなら全てOKかっていったらそう言う訳でもなかった。少し前に雨が降っていたので路面が少しぬれている。
下り坂を猛スピードで駆け下りると泥はねするのだ。一応自転車に泥除けは付いているがそれだけでは不十分らしく髭人の顔に襲い掛かる。
髭人「プップップ!汚ねぇなぁ!」
と、唾を吐きながら激走する。
登りは死ぬほど辛かったのに下りはアッと言う間に駆け下り遂に新潟の町に入っていった。
コンビニでお茶などを補充し、地図を見ながら今日はどこまでいけるか検討する。
髭人「長岡までいければ上々だが…無理だが…手前の町にするか?」
午前中は山越えで費やした。その時の時間は午後2時過ぎと言った所だったか?
宿を予約している旅ではないので行ける所まで行こうという事で進んでいた。天気は晴れ。
2時間毎に日焼け止めを塗るがピリピリとした感覚があった。風は追い風だったな。
ビュンビュン飛ばせたから走っていて気持ちが良かった。ただ、じわじわと尻に痛みがある。
タオルだけではやはり限界があると言う所か?それで疲れてきたので座って
お茶でも飲むかとウエストバッグにくっつけられているお茶を飲もうとすると…
髭人「あれ?蓋がねぇ・・・」
ペットボトルはあるのだが、ちゃぷちゃぷとお茶が揺れているだけで蓋が無い。
昨日、取り付けた食器用洗剤の蓋の機能を持つボトルキャップだ。
髭人「嘘ぉぉぉぉぉ!!」
周囲を探してみるが自転車を降りた瞬間に落としたなんてことはないようだ。
髭人「ええ~!!」
ガックリ来た。
髭人「ええい!ちょっと戻って探してみるか!」
と、1kmぐらい戻ってまで、地面の上にボトルキャップがないか自転車でゆっくり走行しながら探していたが、
小さなボトルキャップである見つける事は容易ではなく、結局その範囲内では見つける事が出来なかった。
再び、落とした所に気付いた地点に戻りため息をついていた。
無論、そのボトルキャップには大した価値はない。
稀少な素材で出来ている友人がくれたとかアイドルの使用後とかという物ではない。
極普通のボトルキャップだ(そんな物を買う奴はいないだろうからあまり売っては無いだろうけど)。
価格としては10円20円も行かないかもしれない。
しかし、この2日間お世話になったというのもあるし、前の旅行前に買ったが使われる事無く眠っていた物である。
そこでようやく目覚めたというのになくなったというのはあまりにも辛い事であった。
ある意味、戦友と言っても差し支えないかもしれない。
貧乏性髭人としてはちょっと使っているとすぐに愛着を持ってしまう。
あまりにもつまらないものであったとしても…
そのまま落ち込んでいると、近くで工事をやっていたので電光掲示板がピカピカと輝いていた。
「頑張っていこう中越!」
俺に言っているようでちょっと、元気を貰いました。
そうだ。言うのを忘れていたがこの時は2005年の8月。
ちなみに中越大地震があったのは前年の2004年10月23日である。
「元気出していこ~中越」
近くは小千谷市がある地点であった。復興の為の道路工事をしているのだろう。
髭人「元気出して行こう?俺に言っているみたいだな・・・蓋が仕向けた事か?」
と、勝手に都合のいいように考えて、自転車に跨った。
走り出した。時間は6時半ぐらいで徐々に暗くなり始めてきた。
髭人「しょうがない。今日は小千谷止まりだな」
そう思って、小千谷市街の標識を見つけてそちらに向かった。駅の交番に入った。
髭人「すみません。ビジネスホテルを探しているんですが・・・」
警官に言うと、周辺の宿泊施設が書かれた紙を見せてくれたのでそれで電話してみた。
髭人「すみません。生憎今日は、満室なんです」
2軒目、電話に出ない。どういうことか?3軒目、電話に出ない。どうなってんの?
4軒目
髭人「すみません。今日は、満室です」
他にも数軒あったが、警官はこう言った。
警官「地震があったからねぇ…長岡に行けばビジネスホテルは沢山あると思うが…」
髭人「分かりました。長岡に行きます」
昨年の地震の影響はまだ出ていた。
その頃、地元のテレビでは地震のニュースなどやってないから殆ど忘れていたのだが…
もう7時前になっていたのでもうそろそろ真っ暗になると言う所であったが宿が無いから仕方ない。
長岡に行く事にした。そうやって小千谷の町を通ると中越地震からまだ1年経ってないということもあって地震の爪あとは深く残っていた。
瓦が崩れている家。陥没している歩道。ブルーシートがかけられたまま手付かずの家…
まだ10km以上あったのでじっくり見ている暇など無く、疲れた体に鞭打って進む。
すると、極め付きのものを見た。
髭人「あれが…それ…か?」
土砂崩れがあって、車に乗っていた親子が生き埋めになり、母親、姉、弟の中で弟だけが救出された現場である。見た目に広がるのはテレビの時とまるっきり同じだ。
思わず鳥肌が立った。
救出している所をリアルタイムで見ていたのでそれは感慨深い物であった。
全くと言って良いほど現場はそのままであった。
標識には山古志村の文字があり、心が痛くなった。
じっくり見ている訳にもいかず、そのまま走り去った。
それから長岡市に入ったようであったが、長岡市は広いらしくなかなか市街に辿り着けない。
髭人「まだか!まだか!まだか!」
線路はあるのだが新幹線の線路が見当たらない。
長岡は新幹線の停車駅なので新幹線の線路が合流しなければ市街に到達した事にはならない。
ライトはついていたものの雨にぬれたせいか転倒しないようになっていた。
段差に気をつけながらそのまま走りつづけ、小千谷を出て1時間後ようやくアーケードが見えてきた。
髭人「ようやく来たか!」
前に2~3週間ぐらい、長岡の宿にいた事があったので、その宿に行こうと思っていってみるが昔という事もあったし、
真っ暗だと言う事もあって、場所がわからない。近くの酒屋で聞いてみてどうにか辿り着いたのだが看板が無かった。
どうやら、店はやってないようだ。がっかりしながら別の所を探そうと長岡駅の交番に行く。警官に尋ねた。
警官「ビジネスホテル?色々あるけど行ってみるか?」
髭人「ここで電話させて欲しいんですが…」
警官「おかしな事を言うんだねぇ…」
良く分かってない警官だと思った。人が良さそうなおじさんであるが、
ビジネスホテルに直接聞きに行って部屋が空いてなかったら戻ってこなければならないし、
部屋に空きがあっても料金が高かった場合、変えにくいというのもある。
移動している間に満室になったらどうすんだよ…
まぁ、一刻も早く立ち去ってほしかったのだろう。
それで警官に周辺の宿泊施設の地図を見せてもらい何軒か電話をかける。
2軒目まで満室。3軒目、空いているしかも4000円以下。
安い!素晴らしい。そこに決めた。
警官「行き方は分かるか?今、ここにいるだろ?それからここを曲がってだな・・・その裏に右に曲がってだな…」
髭人「『わ、わかんねぇ…説明下手だぞ。このおっさん』地図書いても良いですか?」
警官「今ので分からなかったのか?だからここを道に曲がってだな…」
地図を書こうとしているのだが何となく俺をすぐに追い払いたいような意思が見えた。
だからと言ってこのオッサンの説明は自分が長岡の町を知っている前提で語っているので
知らない人間に対しては下手としか言いようがない。
説明していたおっさんには悪いが、面倒くさいから見切りをつけて近くについてから、通行人に聞こうという事にして、分かった顔をしてありがとうございましたと
ちゃんとお礼を言って交番を出た。
髭人「取り敢えず、そこの裏に行ってみるか?」
大きなデパートの裏に行き、通行人に聞く。
一人目は分からず、二人目のオバちゃんは知っていたようで
オバちゃん「そこの十字路を3ついった右」
というので、言ってみるとようやく目的の宿を見つけた。
ホテルに入り、料金を払い、明日早いからどうするかなんて事を言うと、
自動ドアは開けておくおから気にしないでいいと言ってくれた。部屋に入る。
もう午後の9時前である。
まぁ特に変わったものもありません。ただ洗った服をどこに干そうか悩んだ。
壁に出っ張りがあるんですがそれでは濡れた服が壁に当たる。それはまずかろうと悪戦苦闘。
結局、椅子にかけたりしてました。
次の日もある。のんびりしている訳にも行かない。
夕飯はまだ食べていない。食べて寝て体力を回復させなければ!!
サッサと夕食を食べに出て行く事にしたのだが鍵が閉まらない。
鍵を幾ら右に回しても左に回しても鍵が閉まらないのだ。
髭人「どうなってんねんボケェ!」
一人悪戦苦闘する。あまり強く回しすぎると鍵が曲がったり折れたりする事も考えられる。
強く押し込みながらとか軽く入れて回したりするが結局、鍵は閉まらない。
髭人「飯を食いに行きたいんだよ俺は!」
店員に聞きに行こうと思ったが一つ考えた。鍵は開けることは出来てもしまらないのではないのかと・・・
それで、中から鍵を閉めてドアを閉めた。閉まった・・・開けてみると鍵は開く。どうやらこれが正しい鍵の閉め方らしい。
髭人「ややこし!」
髭人が世間知らずで頭が悪いだけである。鍵を閉めて外に出て定食屋に行った。
豚汁定食を食べました。昔の自転車旅行では吉野家の豚汁が旨すぎて泣きそうになった事がある。
ただ、その事が頭に合って意識しすぎた為かあの時ほど旨く感じなかった。
邪な気持ちがあると感動ってのは味わえない物ですわ。
昔、1度だけ行った定食屋である。
それで入ると常連と思われる人が1人いて店の人が陽気に話していた。俺は、一気に水を飲み干した。
リュックは置いてきたがそんな自分の水のいい飲みっぷりの良さなどから気になったのか声をかけてきた。
店員「どこから来たんだい?」
髭人「東京からですが…」
店員「新潟祭りにでも行くのか?」
丁度、新潟祭りが次の日、開かれると言う話である。
髭人「いえ…昔、新潟に住んでいた事があったので自転車で来てみようかなと思いまして」
店員「ええ!?自転車で来たのかい?何時から?」
髭人「昨日からですが・・・」
物凄く盛り上がっていたね。自分を差し置いて周りと話し合っていた。
絡まれなかったおかげで料理をじっくり食べられたからそれでよかったんだけどね。
店員「何の目的で?女でもいるのか?」
髭人「ハハハ…そんな事は無いですよ」
そこそこ楽しい一時でしたわ。
店員「帰りは寄ってくれよ」
髭人「残念ですが、帰りここに来るのは早朝だと思いますので寄る事はないですねぇ…」
店員「そうか・・・」
常連の客はFM新潟だかFM長岡だかどちらか忘れたがラジオに携わっているらしく、
紹介してやろうとかやらんとか言っていたような気がした。その真偽は定かではないが俺は分からない話だ。
帰りコンビニでアイスを買って、宿に戻って風呂に入った。鏡を見ると尻にボツボツが出来ていて赤くなっていた。普段も汚いがより汚い!!
髭人「こりゃ痛いはずだ」
それから部屋に戻ってアイスを食べたのだがこれが旨い事旨い事…
髭人「染み入る旨さだ…」
レモンのカキ氷アイスだったか?久しぶりに食べたアイスという事もあって旨さは凄い・・・
それからやる事も無かったので歯磨きをして寝た。
つづく…
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自転車旅行リスト
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