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自転車男 第六話 宿ババア

2008-07-11 22:09:42 | 小説、ストーリー、物語
「風のようになって~果て無き道~を走り続ける男~それが男のロマン~♪」
気持ち良い風が吹いているのでオリジナルの自分のテーマソングを口ずさみながら走り続ける彼。
かなりご機嫌である。
「あれ?前、歌ったときは『果て無き道』じゃなくて『果てしなき道』じゃなかったか?」
暫しの沈黙
「まぁ、いいや。何でも・・・走り続ける男~それが男のロマン~♪雨が降ろうが坂がきつくても俺は走り続ける~♪」
いい加減な物である。

彼は、久しぶりに遠出をしていた。大抵、彼は1日で往復出来る距離で自転車を走らせる。
彼はテントを所持していないので、夜を明かすときは素泊まりできる宿に泊まる。
その為、旅館に泊まると費用がかかりすぎるという事で1日で往復出来る所までしか行かないのである。
何故、遠出する事に決めたのか?それは、次の第7話で明らかにするとしよう。

「明日の午前中には着くかな?そこで事情を話したりして1日潰れるかな?そう考えると3泊4日か・・・」

急に辺りが暗くなってきた。夕暮れにはちょっと早すぎる。

「雨が降りそうだな。急がないと・・・」

その予感は見事に的中し直後にポツポツと降り始め、やがて大雨になっていった。
カッパを持っているので面倒であるが着用する。先日洗っておいたのでそれほど匂いはない。

「もうちょっとでデカイ街がある」

しかし彼にとってもうちょっと10kmもの距離はあった。だが、彼にとっては問題ない距離なのだろう。
だが、彼の勢いを止める出来事があった。

ピカッ!!

「ひぇぇっ!!」

彼は雷が大の苦手であった。大雨で雷が鳴る中、ペダルをこぎ続ける事は困難である。
ひょっとしたら驚いた拍子で転倒する事も考えられる。

「仕方ない。今日はこの辺の宿で泊まろう。結構、疲れたからな。これ以上、体をいじめても良い事はない」

自分に言い聞かせた。しかし、ここはそれほど大きな街ではない。どちらかと言えば村という言葉の方が似合っている。
周囲を見回すと宿どころか家すら疎らであった。

「こういう所で宿を探すのは大変だな」

見つけるので手っ取り早い方法と言ったら、自力で探す事よりも土地の人に聞く事である。
雨宿り出来るような物置に移動して地図を広げて現在地を確認し、近くの交番を探す。

「ここだな」

一番近い交番は駅前の交番であった。そこにすぐに移動した。
そこに細身で初老の警官がいた。皺や彫りが深く、雷の光で浮き彫りになるとかなり怖い。

「すいません。この辺で宿ってありますか?素泊まりが出来るような安いところなんですけど」
「この辺で安い所と言ったら・・・ここしかないな・・・」

地元の大きな地図なので凄くわかりやすかった。

「しかしな・・・ここはちょっと訳ありでな・・・」
「何かあるんですか?」
「聞きたいか?」
「ハイ『ってアンタが振ってきたんじゃん』」
「色々奇妙な話を聞くんだよ。お化けが出ただの風呂が血に染まったとか・・・」
「まさかぁ?」

冗談っぽく笑って彼は言うが

「フフッ・・・」
『そこでなんで笑う?それにしても、安いお化け屋敷か高い所か・・・』

少々の思案。そして

「そこにします」
「分かった。客が1人行くって私が電話しておこう」
「ありがとうございます。では」
「本当に、気をつけてな・・・」

再び不気味な笑顔を見せる警官。お化けの事などを考えるが頭の中で否定した。
自転車で数分の所にあったのだが、

「何かマジで出そうじゃん」

ボロい木製の家で後ろには山、家の周りには木々が覆い茂り、しかも雷が遠くで鳴っているため不気味さを浮き立たせていた。
周りに家もないのでここしかない。仕方ないので玄関の引き戸を軽く開けて声を出した。

「ごめんくださ~い。先ほど、電話してもらったものですがぁ~」

物音一つしない。奥は真っ暗で、人気が無いように思えた。再び同じように呼んで見るが無反応である。

「留守なのか?ごめんくだ」
「何だい?」
「うおおおおおおお!!出たぁッ!!」

背後から急に老婆が声をかけて来たので驚いた。しかもその手には鎌が握られていた。
いきなり出てこられれば切りかかりかねないような雰囲気を持った老婆であるため、声を上げてしまったのだ。

「さっき交番から電話してもらって泊まろうと思ったんですが・・・」
「アンタかい・・・ヒッヒッヒ・・・案内するからこっちにおいで・・・」

家に上がり、音も立てずに歩いていく。老婆は電気のスイッチを入れた。
パッパパパッパ・・・
蛍光灯の明かりは消えかかりそうで暗く、点滅して今にも消えそうな状態であった。

『暗ッ』

歩くと、ギシッと床がきしんだ。老婆が歩くと音はしない。体重に関係あるのだろうか?
それとも、歩き方にコツがあるのだろうか?
それにしても老婆の手には鎌が握られたままだ。しかもその鎌は水が滴っていた。洗った直後なのだろう。
だが、何故か生々しい。何をその鎌で一体何を刈ったのだろう?考えると怖くなるのでやめた。
2階に上がり、一番の奥の部屋行く。

『他の部屋は空いているのに何でわざわざ奥の部屋にするんだ?』
「ここだよ。好きにお使いに・・・」

こざっぱりとした部屋であった。無駄なものは一切ない。
布団が敷いてありテーブルと後はテレビが置いてある。それだけならいいのだが一番気になったのは
『絶対に開けるな』という文字がデカデカと書かれている押入れであった。

「開けるなってここに何か入っているんですか?」
「知りたいのかい?それは知りたいわねぇ~。でも、いいのかい?本当に知りたいのかい?ヒッヒッヒッヒ・・・」

不気味に笑う老婆。

「やめときます」

即答した。手には鎌が握られているのだ。何か警察沙汰になるようなものが入っているような気がした。

「風呂は1階の奥。そろそろ沸くと思うから早めに入っちゃってねぇ・・・
便所はさっき見たと思うけど、階段から歩いた突き当たりの所だからね・・・
何かあったら言ってちょうだいねぇ~。ヒッヒッヒッヒ・・・」

老婆は去っていった。とりあえず、座布団に腰掛けた。

「確かに、何か出そうだな・・・それにしても押入れがやっぱり気になる」

お笑い芸人ならば間違いなく開ける所だろうが、やめておく。

「ただいま~」
「ただいま~」

玄関の方から2人の子供らしき声がした。

「子供がいるのか・・・良かった。あの婆さんが宿に1人だけだったらどうなる事かと思った」

少しホッとしてテレビを見ていた。天気予報を確認して、明日の天気を見る。

「天気が悪いのは明日、未明まででしょう。朝からは晴れま~す」
『良かった。このまま雨ってんじゃ走るのも影響が出てくるからな』

まだ夕方なので面白いテレビ番組はやっていない。他のニュースを見ていた。すると

「アァァァァァァァ!!」

突然、悲鳴に似た高い声が聞こえて、ビクッとして立ち上がり、大慌てで部屋の外に出た。

「な!何だ!何だ!うわぁ!」

すると、老婆が床を雑巾で拭いていた。あまりにも近くにいたので驚いた。

「うるさいよ!あんた達!今度こそ、アンタ達ぶん殴るよ!お客さん、どうしたんですかぁ?」
「今、悲鳴が・・・」
「あれは、うちの孫達がね・・・時々、意味も無く叫ぶんですよ。気にしないで下さいね。ヒッヒッヒ」
「意味も無くですか・・・」
「そうだ・・・お風呂が湧いたので先に入っちゃってください。ヒッヒッヒ・・・」

『風呂・・・血に染まるとか言っていたっけ?何か入りたくないけどな・・・
断る訳にもいかないよな。汗まみれでベタベタだし・・・』

「分かりました。入ります」

部屋に戻って、タオルを取って、風呂場に向かう。
お風呂は一般的などこの家庭にもあるタイプで蓋を取るとお湯も赤く染まっているわけでもなかった。

「なぁ~んだ・・・何にもないじゃん。あのじいさん嘘ついたな」

まずは体を洗ってから風呂に入る。お湯に浸かると疲れが一気に癒える。

「ああぁぁぁぁぁぁ~」

まさに親父のような声をあげた。それから風呂から出て、新しい服に着替える。気持ちいい。
それから着替えを済ませて脱衣所から出た所だった。

「うおおおおおおお!!」

思わず飛び上がる彼。
なんと、床で人型に張られたビニールテープであった。その声を聞きつけて戻ってきた。

「どうしたんだい?あ!アキオー!やめなさいって言ったでしょうが!もう終わった事でしょうが!」
「終わった?」

婆さんはテープを剥がして持っていった。
「終わったって?ここでこうなる事件があったとか?やっぱとんでもない所なんだな・・・ココは・・・」

身震いをしながら部屋に戻る。出来れば出たい所であったがもう夜である。
今から宿を見つけられるかどうか分からないし、出るというのはあまりにも不自然である。

「飯を食べたらサッサと寝よう」

部屋に戻って、近くのレストランで食事に行く。この時だけが彼にとって休息であった。

「戻りたくない・・・この後、何があるのか・・・」

内心思うものの、荷物があるのだから戻るしかなかった。

「お帰りなさい」
「あ、ただいまです」

玄関で出迎えてくれる老婆。彼は、全神経を研ぎ澄ませ、何が起きてもいいようにする。
壁、床、天井をしっかりと見ながら歩く。それから部屋に入った。
すると、今日1日の肉体的疲れと宿についてからの精神的疲れがドッと彼の体を襲い布団に入ると魔を置かずして熟睡してしまった。
時間はまだ7時過ぎというもの凄く早い時間である。老人や子供であってもこんな時間に眠らないだろう。

「うう~」

彼は、起き上がった。尿意を催したからだ。

「出来れば行きたくない所だが・・・」

廊下はは薄明かりが付いており、真っ暗ではない為、歩くのに不自由ではない。
しかし、そのぼんやりとした明かりは不気味さを漂わせていた。
老婆達も寝ているだろうからと足元には気をつけて、床をきしませないように注意して歩く。
どうにかトイレにたどり着いて、ドアを開けて、近くの壁を手探りでスイッチを探す。

「あった・・・」

パチッ
蛍光灯がパッと付くが、彼は外の方を見ていた。
そこに何か恐ろしいものがあった時、電気が付いたと同時に驚く事になるからだ。
ゆっくりと、便所の方に視線を向けていく。掃除は行き届いているようで特に問題は無いようだ。

「良かった・・・何もないようだな」

小便器で用を足す。体から疲れが抜けていくようであった。それから手を洗おうと、手洗い場に行く。
鏡があるがそれを見ないようにする。何か怖いものが映っていたの為にだ。そして蛇口をひねり手を洗おうとした時であった。

「うお!ぉう」

なんと、手が真っ赤だったのだ。まるで手から出血したのかと思わせるほど鮮やかな赤であった。

「え?いつ怪我をしたんだ?痛みなんてなかったぞ!」

水で洗い流し、体中を触ってみるが何も異常はない。何か赤いものでも触ったのだろうかとトイレ中を見てみるが見つからなかった。

「何が?」

良く分からないがこのまま止まっていても良い事はないだろうと戻ろうと思った時、流しでポタポタと液体が垂れているのを見つけた。

「これか!?」

どうやら、液体石鹸を入れる容器からポタポタと赤い液体が滴っている。どうやらここに赤い液体が入れられていたようだ。

「全く、何を考えているんだ・・・」

トイレから出て、自分の部屋に戻っていこうとしたとき、窓から月明かりが覗いていた。
夕方までは雷が鳴っていたというのに、月明かりをぼーっと見ていた。
それから、部屋に戻ろうかと思うと、廊下に紙が落ちていた。

「何だ?」

拾い上げて、部屋の電気をつけて見てみた。恐ろしいものかも知れないと思ったのだが

「何だコレはぁぁぁぁ!」

その紙はリストになっていた。ただ、その内容に問題であったのだ。

「①鎌を持った私、『○』。②空かずの間、『 』。③・・・これって俺をビビらせようというリストか?」

まさにその通りであった。彼が驚いたものには○が付けられていた。
そして、まだ気付いて無くまだ発見する可能性があるものには空白。
全く気が付かなかったものには×が付けられていた。

「⑨夜、草刈をしている私、『×』あの婆さん。夜に草刈をしていたのか?そりゃ怖いなぁ~」

考えるだけで怖いがこのリストを見つけた瞬間楽しくなってきた。
どうやらこの宿は客を怖がらせることを楽しんでいるようである。
彼は部屋に戻り、そのまま眠った。

朝、遅く起きた。本来なら早朝、涼しい時間に起きて、目的地に向かうものだが、今日は遅めであった。

「ここまでやられてそのまま何もしないで出るのは悔しい・・・ん?駄菓子屋がもう空いているな」


駄菓子屋で何やら購入し、旅館に戻っていってコンビニで買った弁当を食べた。

「1日ありがとうございました」

「また来るといいよ。ヒッヒッヒッヒ・・・」

宿を出て色々と考える。

「インパクトが弱かったかな?でも、まぁ・・・あんなもんか?」

老婆は彼が出て行った部屋を掃除しに入った。

「今回のお客は、結構、驚いてくれたけど、気付かないものが多かったねぇ・・・」

壁に寄せて畳まれていた布団を干そうとしていた。

「よっこい・・・ヒィ!!」

布団を広げた瞬間に老婆は一瞬硬直した。そこには蛇がうずくまっていたのだ。

「な・・・なんだい・・・ただのヘビのおもちゃじゃないかい?」

それから、沸々と感情が湧き上がって来た。
散々、客を脅かしてきたのに、自分はこんな些細な事で驚くとは・・・

「く、悔しい・・・」

黙々と、布団を片付ける老婆

「今度、あのお客が来たらもっと凄いのでおもてなししてやらないとねぇ・・・ヒッヒッヒッヒ・・・」

そんな事を考えながら、布団を干そうと窓を開ける老婆
既に、ベランダにヘビがスタンバイされていた。

「後ちょっとだから、昼ぐらいには着くだろう」

気持ちを新たに彼は目的地へと急いだ。


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