前回の記事では,「金融実務上あり得ない契約を認定」したことについて説明しました。
今回は,「代表者と直接契約しないとあとで契約内容を勝手に変更されてしまう?」ということについて見ていきます。
まず,判決から見ていきましょう。
大阪高裁13民判決は,
「被控訴人東山支店と控訴人らとの間の金利に関する前記協議は,本部決裁による変更があり得ることを前提として行われていたもの」
と判断しています。
例えば,不動産の購入資金とするために,金融機関からの融資を受けようとしている場合を考えてみましょう。
そして,支店において融資の契約内容に関する合意が調いました。
契約書に署名押印を行いました。
印鑑証明書を添付して,金融機関に差し入れました。
ただ,まだ決済だけは行われていませんでした。
そのような段階まで進んだとしましょう。
このような段階になると,次の段階である不動産の売買契約を進めますよね。
決済はまだだとしても,契約どおりの決済は確実に行わると信じることになりますから。
逆に,もともとの融資契約が合意されていないのに,そして,金利もまだ決まっていないのに,次の不動産売買契約だけを進めるということは,ありえませんよね。
決済当日まで金利が決まっていない。決済当日になるまでその金利が分からない。
そんな状況だと,いったいいくらの金利になるのか心配になるのではないでしょうか?
ましてや,HさんやSさんは,金利のことについてとても厳しく考えていました。
そんなHさんやSさんが,決済日当日が過ぎても,契約金利の合意がないことを心配することもなく,その後も問い合わせすらしなかったということはあり得るでしょうか?
実際に融資取引が行われる現場では,本部の決裁を得ていないまだ確定されていない条件が,契約者に提案されることはありません。ましてや,そのような不確定な段階で契約書が作成されることはありえません。裁判では,中信職員のIさんも,同じような状況では,融資が決定してから売買契約を行う旨証言していました。
実際,Hさんらも中信東山支店も,金銭消費貸借証書作成の際は,事前に本店の了解(決裁)を得た上で契約手続を行っていました。
それゆえ,Hさんらは,金銭消費貸借証書に署名して実印を押印し,印鑑登録証明書も交付したのです。本部の決裁が得られていないからまだ不確定な状態であるとは,考えたことすらありえませんでした。
このように,契約者側としては,金融機関から融資を受けようとする際,たとえ新入行員からの提案であろうと,その提案は「その金融機関からの提案」と信頼して契約を進めるのが通常です。
企業を相手に契約をする際は,毎回毎回,代表者と直接契約をするわけではないですよね。相手の企業が大企業であれば,それぞれの担当者レベルで契約締結をすることの方が多いのは当たり前です。
しかし,大阪高裁13民判決は,本部決裁を受けないままに契約条件が提示されていた,という実際の現場ではあり得ないということを認定したのです。
このような判断がまかりとおるのであれば,直接代表者同士が契約を締結したという場合でない限り,契約締結後(契約書類に署名押印後)であっても,代表者が同席していなかった側は,いつでも契約内容を一方的に変更することが許されることになるのです。
代表者と直接契約しないと,あとで契約内容を勝手に変更されてしまうということが許されることになってしまうのです。
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