
蔓餃苑へ初めて行った方は、そのべつにせまくもないスペースにぎっしりと蓄えられたパラダイス山元さんゆかりのアイテム──ラテンパーカッション、サンタクロース、マン盆栽、入浴剤その他もろもろ──のディスプレイに、次々と見入ってしまうに違いない。ちなみに車も一台いて、その中にいた雪だるまが、なんともどことはなしにパラダイスさんに似ている。
そのぎっしりと集積されたもてなしの装置のなかで、さ、いざ餃子を食べるのでありますが、その餃子を作るのが、パラダイス山元さんなのであります。客の目当ては餃子なのかパラダイス山元さんなのか、やや微妙なところなんだけれども、パラダイス山元さん目当てに来るのが、だんだん食べるほうに専念してしまうという感じだろうか。パラダイスさんも実は餃子作りに忙しいので、ふと奥の台所を見やると、黙々と餃子の餡を詰めていたりする。
しかしどういうわけか、私は家族で来ていたし、家が近所のこともあって、ここはあまり非日常という感じがしない。かえって今はもう滅多にお目にかかれないような「隣近所」とか「ふだんぎ」とか「網戸の立て付け」みたいな感じがして、店へ来るまでひどかったぜんそく系のせきまで収まってしまった。非常になごやかな時が流れているのは、ひとつには天井2箇所に備え付けられたスピーカーの解像度の高い音楽のせいでもあるだろう。それを含めたポスピタリティの微細な電波を、パラダイス山元さんが発している。

しめとなったモツアン餃子は、餡といっても、まさしくあずきの入った甘いお菓子。
いろいろ食べ歩いてみると、案外、家の餃子がいちばんおいしかったりするでしょう──
そんなことをパラダイスさんは言われていた。いやあ私は自分へのダメだしが甘いタイプなんで、そうでもないんだけどなあと思いつつ、ただ家で食べている餃子が世間的にはかなりいけるものだったんだ、と気づくきっかけになっていた。ちゃんと作りさえすればいいものなのに、というのはよくわかる。
蔓餃苑の空間は体験できなくとも、味にトライすることはできる。この本、私も持ってるけど、ほんとにオススメでございます。
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