南海泡沫の後で

貨幣収集を時代背景とともに記述してゆきます。

メキシコ・8レアル銀貨

2011年07月03日 23時30分44秒 | 投資
前回銀について触れたので思い入れのある銀貨を取り上げたい。

今夜はメキシコの8レアル銀貨。実を言うと、ある掲示板で昔このコインについて拙い文章を投稿したことがあった。そのころと比べると銀も悲しき下り坂であるが、その時は銀ロングは楽しかった。今一度この文を載せたい。もしかしたらどなたかご覧になったこともあるかも??駄文で恐縮だがご覧くださればと思う…


=======================================================


銀も30ドル超えて今年は終わりそう。閑話休題ということで銀に関するコラムのようなことを書かせていただきたい。相場とは関係ない話であるが休息ということで願いたい。

銀貨の話である。
私の手元に古びた幾枚かの銀貨がある。

そのうちのある一枚は、コの字型の打刻が打たれ中央部がややへこんでいる。蛇をつかむ鷲がサボテンに乗っている絵柄。
これはメキシコの8レアル銀貨。私が持っているのは1893年。直径38mm、重量27g。品位900/1000。この銀貨は19世紀、貿易決済用として世界中に出回り流通していた。メキシコが発行した銀本位制下の本位貨幣である。打刻はおそらく中国両替商が入荷後打ったと推測される。(荘印と呼ばれ、1円銀貨などこれがあるとコレクション価値は下がると言うが私はこれがあるほうが好みである、歴史を感じるから)
この銀貨はアジアでも人気がありひろく使用されていた。額面は8レアルであるが、スペインドル、メキシコドルと呼ばれていた。
詩人・金子光晴の自伝小説「西ひがし」の文中にも短いながらも登場する。下記引用。

・・・・予定通りピナンに着いたのは、七日目の日ぐれ刻であった。彼女は、中華街に行って友人を訪ね、僕は、むかし女衒をしていた老人夫婦の知り合いがあって、そこに泊った。老妻は、もとからゆきであった。関天廟でのなれそめから、今日の成り行きまでを語り、むかし、山賊のいた岩穴を通った話をすると、老女は、「そこならば、むかし、やっぱり牛車で通ったことある」と言った。羞かしゅうて言えぬと言うのを問いただしてみると、その時は、娼婦であちこちあるいた頃で、国ちがいの男からは、一発一メキシコ弗と相場はきまっていた。山賊は、オラン・チナで、なかには、若い兄さんもいたが、十人ほどいた。車の中に積んだものは、一つのこらずとられ、じぶんは岩屋にはこばれて、頭領からはじまって、十三になる走り使いの小僧まで、まんべんなく伽をさせられた。しかし、彼らは、しょうばいには義理がたくまもってくれて、一発一弗は、ちゃんとわたして、土産のものまでもたせてくれたと、すこしもわるいおもいではないらしい。・・・・

金子光晴がこの本にあるように東南アジアを放浪したのが1931年末頃。とするとこの老女の話は19世紀末ころかと思われる。この貨幣で支払われたか…?
さて、このメキシコ銀貨はもとはスペインがメキシコ産の銀を用いて発行した8レアル銀貨が原型。
以前よりオーストリアの大型銀貨であるテーラー銀貨があったがこれが新大陸に流入、スペイン人により同等サイズで8レアル銀貨が作られた。ちなみにドルの語源はこのテーラーのスペイン人による呼称ドレラである。

スペイン、ポルトガルは大航海時代以後、中南米諸国で銀山開発をおこない大量の銀を採掘、本国に送りこんだ。その銀は周辺諸国に返済、決済用にばらまかれ、欧州のインフレを推し進める結果となった。それが今は欧米の紙幣が大量に印刷され銀価格を押し上げているが…

当時より銀が大量に欧州に流入した結果、銀食器、銀の装飾品などが作られ、広まり、欧州には豊富にアンティークの銀製品が残っていたとか。それが例のハント兄弟事件の時に鋳つぶされハント兄弟没落の一因にもなったことは諸氏もご存じであろう。

さて、銀貨の話であるが、コイン商に話を聞くと、アンティークなコインはこの20年間全く値上がりしていないという。地金としての価値は貴金属高騰につられて上がっているが、コレクション的なコインは20年前と変わっていないという。しかも古い外国銀貨は国内でも人気が薄く、海外から仕入れてもそれなりの値段で売れないので仕入れず、コレクターたちが手放したときにスポット的に入荷するのみだとか。だから、銀が高騰しているからアンティークな銀貨を値上がりを狙って買っておくのはうまくいかないかもしれない。それよりむしろ現物主義ならば純銀インゴットを買うほうがいいだろう。これからまだなおも値段が上がると仮定しての話であるが。
アメリカのオークションサイトのebayを見ると、アメリカのほうがコインの収集は熱心なファンが多く取扱いもはるかに多いようだ。欧米人のコレクションという趣味の奥の深さ、分野の広さと熱心さには驚かされる、彼らは趣味を通して人生を楽しむことを重要視していると思う。

私の地元の店の店主も今が金貨は一番安いとぼやいていた。地金とは関係ない話なのだろう。趣味としてのコイン収集は斜陽なのだろう。嘗てはもっとコイン収集は趣味としてそれなりの人気があったと思う。(ヤフオクでは人気はあるようだ)
それともまだまだ不況でコイン収集などに金をかける風潮ではないのかもしれない。


=======================================================

といった具合で投稿したのだが、メキシコの8レアル銀貨はいずれUPしたかったしそうなると当然この金子光晴のことも載せたかった。よって再度駄文承知で再使用した次第である。コインについて何か書いたのもこれが初めてだったし…
8レアル銀貨については例のおかねの情報室というサイトで詳述されているのでご覧になると参考になると思う。テーラー銀貨云々というのもネットで見て知っただけなので正確ではなかろう。もとは16世紀にコブタイプと呼ばれる破片のような重さをはかって切った銀の小さな塊に刻印を押して銀貨として造られたのがスタートでその後18世紀から大型銀貨が始まる。しかしこのころの大型銀貨は写真のものとは全く異なるデザインだった。(ピラータイプと呼ばれる)

しかし先週金曜夜にはさらに銀も、金も下げた。特に銀は2.27%も下げている。ファンダメンタル的にもQE3発動が決まらない限り銀へのマネー流入は期待できないと思う。金はソブリンリスクのヘッジで買いが入るだろうが銀はそうはならない。
これまでの経緯とチャート見る限り、ハント兄弟以来の30年ぶりの銀の夢は終わったのではないかと思われる。また前のように復活して上がれば楽しいのだが。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿